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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 616 ニュー・ジャイアンツを担う ➊

2020年01月01日 | 1976 年 



一見やさ男の奥にある巨人イチの心臓男、小林繁・・1㍍77㌢、体重62㌔ 決して大きく見えない。背広を着ればむしろ華奢に見える。そんな男が優勝へ邁進する長島巨人投手陣の大黒柱である。目下16勝と堂々たるエースだが何故か巨人ナインの中で目立たない。小林繁とはどんな男なのだろうか?

カモの田淵に打たれるなんて
小林は9月15日の対阪神20回戦(甲子園)に先発した。小林はもともと阪神戦は相性が悪く苦手にしていて阪神戦は先発ローテーションを飛ばされていた。しかし9月13日からの甲子園3連戦に長島監督は堀内、加藤、小林の先発を決めていた。悪くても2勝1敗。あわよくば3タテを目論んでいたが堀内、加藤が揃ってKOされて小林が最後の砦となった。エースに昇りつめた小林だがライバル阪神戦に必要とされなかった悔しさを胸にマウンドへ上がった。しかし結果は単調な投球に陥り、田淵に3ランを浴びて負けた。試合後に取材を受けた小林は「一番のカモと思っていたのに打たれた」と発言。阪神のスターで大先輩の田淵をカモ呼ばわりした事に記者達は驚いた。しかしこの発言は田淵を卑下したものではない。小林の投球スタイルは大振りする打者は御しやすいカモである。田淵はまさに『大振りする打者なのに・・』を思わず省略してしまった為に「カモ」と言ってしまったのだ。そう、小林は意外と短気なのである。

裏日本育ち、小林の負けん気
小林は「自分の取り柄は人一倍の負けん気」と言ってはばからない。負けん気が無ければ裏日本の町に生まれ、由良育英高という中央球界で無名の高校からノンプロの大丸を経て、決して有望視されていたとは言い難いドラフト6位で指名された巨人軍のエースに昇りつめることは出来なかったであろう。「僕の投球スタイルは全て自己流です。誰からも教わっていません」と言い切る。普通は憧れの選手とか自分の体型と似た先輩を参考にするものだ。しかし小林にはそれが無い。だから変則投法と言われても「今の投げ方が一番しっくりしている」と反論する。巨人イチの強心臓男はさすがに自尊心も高い。

だが負けん気も自尊心も限界がある。自分の能力を正しく評価する必要がある。「入団した時、藤田コーチ(当時)にお前は自分では速いと思っているようだがそのスピードじゃプロでは通用しないよ、と言われて大ショックでした。でもすぐに変化球に磨きをかけなければと気持ちを切り替えました(小林)」と当時を振り返るが、こんなクレバーなところも小林の長所でもある。「ノンプロ時代の変化球はカーブ、シュートくらい。今はスライダー、シンカー、ナックル、フォークと増えました」と胸を張る。縦の変化も加えたことで投球の幅が増して勝ち星につながった。「今年勝てているのはバックが点をたくさん取ってくれたお蔭。相手は打たなくてはと力んで大振りしてくれる」と自己分析をする。


目指す20勝を狙うが故の焦り
投手として大成する過程での負けん気は結構なのだが、試合中にそれが頭をもたげると良い結果が出るばかりではない。夏場にちょっとしたスランプに陥った。「僕みたいな痩せている選手は相手にスタミナがないと思われるのを嫌う。それで敢えて力勝負を挑む事がある。力で捻じ伏せてやろうとムキになって一本調子になって打ち込まれてしまったと反省している」と。現在16勝であと6試合くらい先発する機会がありそう。「こんなチャンスは滅多にないので20勝を狙いたい」と意欲を見せるが焦りは禁物。つい抑えようと本来の投球パターンを忘れて自滅してしまう投手は多い。「タイトルや数字は狙うものではない。ベストを尽くした結果に転がり込んでものなのだ」と語った王選手の言葉を小林に贈りたい。
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