「現行の年金では孫のオモチャ代にもならない」「選手会を法人化して共済会制度を設置する以外に退団後の保障はありえない」とプロ野球選手会が遂に立ち上がった。
月額5万円では女房・子供を養えない
OH砲(王・張本)2人合わせた年俸が1億円を超えたとかサッシー(酒井投手)の契約金が5千万円だのトップクラスのプロ野球選手の話題は確かに華やかだ。一方で今時そんな馬鹿な!と思える話も多い。野球協約では「参加報酬の最低保障」は年額60万円と定められている。月額5万円だ。もちろん実際には年俸60万円の選手は存在しない。しかし年俸120万円の選手はセ・パ両リーグに10人近くいる。昨年から年俸360万円以下の選手が一軍で出場した場合には差額を補填するシステムを採用したが、二軍の選手だけでなくレギュラークラスの働きをする中にも該当する360万円以下の選手がいたのが驚きだ。
「ウチの選手に聞いた話ですがプロ入り1年目は一般のサラリーマンより給料は上だが、二軍に埋もれたままだと3年目で抜かれてしまうそうです」と話す巨人・柴田選手会副会長。巨人選手の年俸は両リーグの頂点にあるが、中には低年俸の選手はいる。今季から一軍の試合に出場するようになったS捕手は入団9年目だが、今年の年俸は260万円(推定)。田淵選手(阪神)の控えだったF捕手は嘗て契約交渉で球団から年俸200万円を提示されたが「自分は女房子供を食わせていかなきゃならない。これじゃとてもじゃないが養っていけない」とタンカを切って任意引退の道を選んだケースもあった。
そんな時、球団フロントのお偉方から出る台詞は決まって「大リーグと違って日本の二軍は入場料金も取れないし本当の意味でプロとは言えない。二軍の選手が低年俸なのは当たり前ですよ」と言う。毎年ドラフト会議が開催されるが上位で指名されてもプロ入りを拒否して社会人野球の道を選ぶ高校生や大学生がいる。一流企業に就職すれば好きな野球をやって55歳の定年まで働いた方が生活は安定するし、まとまった退職金も手にできる。仮に年金受給資格の「10年選手」になっても月額2万4千円が貰えるだけだ。なるほど「孫のオモチャも買えない」というのも頷ける。
経営者任せでは夢も希望もない
選手会は毎年オールスター戦期間中にセ・パ両リーグ会長や経営者側代表4人が出席して開かれる特別委員会で年金の大幅アップを要求し続けてきた。プロ野球年金基金は財団法人日本プロ野球機構が委託者になり東洋信託銀行および三菱信託銀行が管理しているが、約8億円余りがプールされているという。オールスター戦や日本シリーズの収益と選手個人の拠出金で毎年8千万円が積み立てられるが、現在の受給者200人に加え毎年10人近くが受給者に加わる。「このまま経営者側に年金を任せていたら引退後に老後を安心して送れない。選手会を法人化して選手会独自に共済資金を作り不安を一掃しよう」と立ち上がった。
法人化が認可されれば税金は無税になる。選手会は昨年暮れ東京・九段の武道館で「プロ野球・歌の球宴」を文化放送と共催して成功させ、この時に選手たちが得た報酬300万円をプールし選手会の資金とした。言うなれば「歌の球宴」が選手会をパワーアップさせる文字通りの旗揚げ興行となったわけだ。しかし法人化が実現しなければ選手会がいくら資金を稼いでも莫大な税金を課せられることから選手会は顧問弁護士として依頼した下飯坂常世弁護士に相談したところ、法人格獲得の勝算ありとの報告を受けた。そうなればまさに画期的な事となる。7月24日に大阪で開催された特別委員会で正式に法人化申請の件が報告された。
選手会主催でゲームがやれるか?
選手会は将来、枯渇するであろう年金資金補充の為に選手会主催の試合開催を考えている。特別委員会終了後に会見に応じた岡野パ・リーグ会長は「選手会から改めて法人化して共済制度を作りたい旨の提案がありました。我々も異議はないので一緒に研究しようということで一致しましたが、選手会主催の公式戦開催の件は統一契約書に抵触する案件なので却下しました」と述べた。統一契約書第19条の【試合参稼制限】で「選手は本契約期間中、球団以外の如何なる個人、又は団体の為にも野球試合に参稼してはならない」と明記されている。勿論、選手会はそれを承知しているが但書の「コミッショナーが許可した場合はこの限りではない」を拠り所としている。
福島パ・リーグ事務局長は「試合開催は難しいでしょうね。そもそも選手会の法人化は簡単ではない。認可は文部省の管轄で公益社団法人の適格性を持たせなくてはならない。例えば青少年の体育向上とか育成に協力を呼びかけなければ共鳴されないでしょう。選手ら個人の共済制が第一目的では認可されるか疑問です」と法人化の難しさを話す。たとえ法人化が認可されたとしても大リーグの選手会並みにタカ派的にはなれないだろう。選手会の顧問弁護士の下飯坂常世氏は鈴木セ・リーグ会長とは長年付き合いのある温厚なハト派弁護士で、鈴木会長自らが選手会に顧問弁護士就任の推薦をしたのだから機構側に弓を引くとは思えない。
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