納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
小料理店 " みやこ " 臨時休業
掛布選手の父親・泰治さんは千葉市高品で小料理店「みやこ」を経営しているが、7月末の5日間は臨時休業した。理由は一家総出で掛布選手の応援に行く為。神宮球場でのオールスター第3戦の観戦をスタートに7月29日からの甲子園球場の対巨人3連戦を一塁側スタンドから泰治さん、母親・テイ子さん、姉・優子さん、妹・道代さんは声援を送った。「店が忙しくて雅之の試合もゆっくり見ることが出来ない。そこで今年は家族で夏休みを取って皆で応援に行こうということになりました。甲子園球場は雅之が高校2年生の夏に応援に来て以来です。懐かしいですね」と泰治さんらはスタンドから応援した。
周りは阪神ファン一色。掛布選手に打席が回る度に掛布コールが起こり、泰治さんは「ありがたいです」と感激していた。当の掛布選手は身内の声援に固くなるかと思われたが意外とリラックスして後半戦スタートの巨人戦では4打数3安打と爆発し、家族に何よりの " みやげ話 " をプレゼントした。3日間、甲子園球場に通った泰治さんは「いい夏休みでした。たまには仕事を休んで出かけるのも悪くないですね。雅之の第1戦は出来過ぎ。次戦は四番でしたが打てず、まだ四番は荷が重い気がします」と手厳しい感想を息子に突きつけて千葉への帰路に就いた。規定打席到達まであと僅かの掛布選手は間もなく打撃10傑に名を連ねるだろう。
" 水を得た魚 " ラインバック
ファイターのラインバック選手がやっと活き活きし始めた。前半戦の途中から右手指のつけ根を負傷したり、ヒジを痛めたりと回復に時間を要した。少しの間でもジッとしているのが嫌いなラインバック選手だけにプレー出来ない間は歯ぎしりの連続だった。球宴明けからゴーサインが出て水を得た魚の如くハッスルした。29日の対巨人18回戦(甲子園)では六番で先発し二度のタイムリーを放った。守っても右中間への大飛球を追って回転レシーブ並みのダイビングキャッチで喝采を浴びた。
「試合に出られるって楽しいね。やはり試合に出てこそのベースボールだよ。久しぶりの先発出場で少し緊張したけど、チャンスの場面で打つことが出来てハッピーだ。これからも今まで以上にハッスルするよ!」とニンマリのラインバック選手はハッスルプレーが身上のファイター。全力でプレーする姿が阪神ファンの共感を呼ぶ。
オレはゴルフをやりてぇんだ
今シーズンはこれ迄おとなしかったライト投手がとうとう暴れた。8月3日に無断夏休み。「先発した翌日はアガリなんだけど球場に来てランニングをしてから休むことになっている。しょうがない奴だ」と神宮球場でライト投手が来るのを待っていた杉下投手コーチは呆れ顔。前日にライト投手がKO降板後に苦情を聞いた佐伯球団常務は「無断欠席を許してはチームの規律が乱れる。厳重注意をして罰金を取ります」とカンカンだ。" 苦情 " とは2日のヤクルト戦で2回KO後にライト投手が佐伯常務に「ゴルフでもして野球のことを忘れたい。明日から2日間休みをくれ」と訴えていたことだ。
佐伯常務はそれ以上詳しいことは言わなかったが、球団関係者によるとライト投手は杉下投手コーチと野手陣への不満を爆発させていたという。どんな理由があれ無断欠席は一種の首脳陣批判であり処罰は必至。だが長嶋監督は「困ったことだねぇ」と言いながらもニヤリニヤリ。「決して褒められたことではないが不甲斐ない自分に腹を立てて発奮してくれればいいけどね」とさほど怒りはないようだ。というのもアメリカではKOされた投手のストレス解消用にベンチ裏にアルミ缶などが置かれている。それを蹴り上げたりするのだ。「日本だとマナーが悪いと批判されるけど外人選手は不満を発散させないとダメなんだよ」と長嶋監督。
とはいえそれと無断欠席は別の話。謹慎中のライト投手の代わりに右目を負傷していた新浦投手が急遽一軍に合流した。「もう違和感はない。視力も落ちてない。良い休みとなって球が速くなったんじゃないの」と新浦投手は元気いっぱい。また消化器官を患っていた加藤投手も先発ローテーションに復帰し完全復調をアピールした。「1人が出てくれば1人がおかしくなる。なかなか全員の足並みが揃わんねぇ」と杉下投手コーチは喜んだり嘆いたり忙しい。長嶋監督は「どこのチームも夏場は苦しいんだ。その苦しさに勝たなきゃプロじゃない」とライト投手の無断サボリを機にチーム全員の奮起を促した。
ヤジ将軍
4打数4安打とか猛打賞とか時たま出場しては固め打ちを披露していた上田選手に河埜選手の背筋痛欠場でスタメンのチャンスが巡ってきた。「急なことで緊張しちゃうよ」とベテラン選手ながら戸惑い気味。ベンチではヤジ将軍の異名をとるプロ14年生。「チョンボだけはしないようにしたい。本音を言えばヤジっているよりヤジられる方がやり甲斐がある」というのがスタメン出場の実感だそうだ。
" ガキ大将集団よ " と坂井代表
後期シーズンに吹き荒れるクラウン旋風はどうやら単純なフロックではないようだ。2つの異なる勝ちパターンを持っているからだ。オールスター戦までは投高、つまり投手陣が踏ん張って勝つというパターンが多かったのだが、後期シーズンに入ると打線が活気づき先発投手がKOされた後も着々と加点をし逆転勝ちすることが珍しくなくなった。無論、投打ともに好調なら申し分ないがそんな理想的な状態は日本一の阪急でも難しく、質量ともに格下のクラウンに望むのは無理筋な話だ。「とにかく勝てる試合は確実に取りにいく」と鬼頭監督。オールスター戦後は間違いなく打力上位の試合が続いている。
夏場に投手が疲れて調子を落とすのはクラウンだけの現象でなく打線がカバーして相手に打ち勝つ他に妙薬はない。そんな折りも折り、タイミング良くクラウン打線は調子を上げてきた。特に大田・竹之内選手の仲良しコンビのホームラン攻勢が効果的。吉岡選手とハンセン・ロザリオ両助っ人コンビもようやく日本の野球に慣れて実力を発揮し出した。前期シーズンのタイムリー欠乏症がウソのような変わりようだ。キャッチフレーズをつけるのがお得意の坂井代表は今のチームを「ガキ大将集団」と名付けた。一昨年は「山賊軍団」だったから少し小粒になったわけだがガキ大将の方が将来性を感じられ選手たちには好評のようだ。
大砲あり、機動攻撃あり、更に連打による集中攻撃ありと乗りに乗っているクラウン打線。前期シーズンは沈黙する打線に伊藤打撃コーチの表情も冴えなかったが今ではすっかり明るくなった。「前期シーズンの終盤から打線は上向いてきた。ようやく連打が出るようになりホッとしている。いい球を逃さず例え初球からでも打って出る積極性、思い切りの良いバッティングが好調の原因だろう」と笑顔で分析する。好調なチーム状況でも鬼頭監督は相変わらず「今の時期に首位とか順位を気にするのは早過ぎる。ただウチの野球をするだけだよ」と慎重すぎる姿勢は崩していない。
救世主
後期シーズン序盤戦のヤマ場と考えられていた球宴後の初ロードとなる近鉄3連戦を2勝1敗と勝ち越した。最も貢献度が高かった投手はベテランの山下投手だ。何しろ2勝とも山下投手が勝利投手だった。2日間の連投で計7回 2/3 を投げ1失点に抑えた。「連投は別にどうってことないよ。今は永射投手が少し疲れが溜まって休んでいるから彼の分も頑張らないと。この先ずっと救援役になるかどうかは決まっていない」とピッチング同様にひょうひょうとした話しぶりの山下投手。これで前期シーズンの6月26日の近鉄戦(日生)以来10試合負け知らずだ。「山下さんがブルペンにいると負ける気がしない」とナインの信頼も厚い救世主の誕生だ。
戻って来た " あの感じ "
リー選手のホームランパワーがやっと復活した。オールスター戦後の6試合で5発。スランプがウソのように再びホームランダービーを独走の勢いだ。20号を放ったのが梅雨入り前の5月29日。後楽園球場のバックスクリーンに叩き込んだ。その時点のロッテは45試合目で「2.25試合に1本」のハイペースで本塁打を量産していた。ところがそれ以降、オールスター戦までの32試合で僅か2本とペースダウンした。その間、猛追するミッチェル選手(日ハム)に追いつかれてしまった。そんなリー選手の復活の要因はオールスター戦にあった。試合前に王選手と会話する機会がありアドバイスを受けたのだ。
バッティングのタイミングが完全に狂っていた。各球団の徹底的なマークに遭い、持ち味のコンパクトで鋭いスイングはどこへやら。バットが遠回りをして打球に角度がつかなくなっていた。また王選手にはパワーヒッターと周囲から言われることを意識して一発を狙うようになり体が開いてしまう欠点を指摘された。「ミスター・オーと話をするうちにフィーリングが戻ってきたんだ」とほんの1秒の何十分の一のズレを修正するやいなや面白いように打球の飛距離が戻った。オールスター戦明けの7月29日、神宮球場での南海戦で復活を告げる2発を放った。そのうち1本は仏・パリ行きの懸賞がついたバックスクリーン直撃の一発で懐も潤いニコニコ。
打棒が復活し怖いモノなしのリー選手に悩み事が出現した。子供たちの学校の関係でウィレッタ夫人、長男ローン君、長女キムペリーちゃんが7月30日にアメリカに帰国してしまい孤独感に圧し潰されそうなのだ。「食事を摂るのも一苦労」と嘆き、ホームシックに陥ることが心配されている。日本での先生役でもあるラフィーバーコーチが公私にわたって手を回してくれているのが救いとなっている。「ジミーさん(ラフィーバーコーチ)と食事したり話し相手になってもらい助かります」と最悪の事態は避けられそうだが、ホームランを量産しても今一つ張り合いがないリー選手は寂しそうだ。
お客さん
久々に一軍に帰って来た選手の感想はだいたい決まっているようだ。約10ヶ月ぶりのマウンドを踏んだ三井投手も同様に「お客さんが見ていてくれるのがどんなに素晴らしいことか改めて知らされました。マウンドに立った時、ネット裏にお客さんが沢山いるのは何ともシビレルことなんですねぇ」と語った。春のキャンプで痛めた右肩の治療に長い時間を要してきただけに感慨もひとしおだったのだろう。「今日が僕の開幕戦。これからじゃんじゃん投げますよ」と本人は大いに張り切るが周りはハラハラするばかり。周囲の「無茶はしないでくれ。治ったばかりなんだから」の声は通じない?
アッといわせた " 三匹の侍 "
「札幌は " 北へ帰ろう " シリーズなんだ。縁起が良いからな」とフロント陣も大沢監督も大いに期待していた札幌シリーズ。オールスター戦明けの初戦は相性の良い阪急が相手。前期シーズンの快進撃は5月の八戸・青森の、みちのくシリーズでの3連勝から始まった。「阪急を倒して景気づけできれば快進撃が再び…」というわけだったが " 捕らぬ狸の皮算用 " になってしまった。初戦は山田投手に、次戦は稲葉投手に抑えられオールスター戦を挟み5連敗を喫した。3戦目を勝利し一矢報いるのが精一杯だった。
試合は負け越したが話題になっている日ハム3選手を紹介しよう。先ずミッチェル選手は下手投げの山田投手が大の苦手で30日の試合では4打数4三振でシーズン99三振で大台に王手となったが、ミッチェル選手は落ち込むことなく「サッポロは故郷のミルウォーキーと同じ緯度で気候も似ていてお気に入り」と遠征に同伴したリング夫人の従兄弟のジム・ジャクソン氏と札幌観光を楽しみ大好きなビールを堪能した。そのお陰なのか3戦目に勝利を呼ぶ23号本塁打を放ち、ホームランダービートップを快走するリー選手(ロッテ)を猛追する。
連敗を止めた試合の山下選手の一発も話題に。山下選手は4打数4安打と大暴れした富田選手に代わり守備固めとして途中出場した。「トミさんが4安打なら僕はホームランを打ってくる」と宣言して打席に向かった。「冗談もほどほどに」と富田選手や日ハムナインが一笑に付したのも無理はない。今シーズン巨人から移籍した山下選手はプロ10年で本塁打はゼロで11年目での初本塁打だった。巨人時代は代走や守備固めの出場がほとんどで打席に入る機会が少なかった。ベーブルース並みの予告ホームランに日ハムナインは驚いた。
一番デッカイ札幌みやげとなったのが杉田投手の好投だ。多摩川グラウンドでミニキャンプを張る高橋一投手に代わって2カ月ぶりに今回の札幌遠征から一軍に上がって来たばかりだった。「一軍に上がって直ぐに先発に起用されるなんて光栄だった。チームの信頼を裏切らない為にも頑張らないと」と3戦目に先発するとあわや完封の1失点の完投勝ちで2勝目を上げた。「立ち上がりに一死三塁で加藤秀さんを三振に抑えたのが大きかった」と試合を振り返る。「夏場の暑い時期に間に合って他の投手の負担を減らせる。杉田の復帰は大きいよ」と新山投手コーチもニッコリ。
中止のココロ
札幌シリーズにはつきもので選手らが楽しみにしていたのがビール園でのジンギスカン鍋の会食が中止に。選手らはさぞかしガッカリしているかと思ったら「仕方ないな」と諦め顔。というのも昨年は飲んで騒いでと大盛り上がりだったが、翌日の試合は二日酔いする選手が続出しダブルヘッダー2試合を連敗してしまった苦い経験があるからだ。練習開始が翌朝8時半なのに宴会は二次会、三次会と続き深夜遅くまで飲んでいたら勝てるわけがない。「去年を反省して中止になっても文句は言えないよ」と選手も心得て中止のココロを読んでいた。