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# 594 契約更改 ➋

2019年07月31日 | 1985 年 



阪神の査定システムは完璧に近い
史上最強のクリーンアップと恐れられた阪神ビッグ3(バース・掛布・岡田)は〆て3億円。3人以外の真弓選手も25%アップを最低限に5千万円台の攻防を繰り広げそうだ。また平田選手・木戸選手・中西投手ら若手選手も大幅アップを虎視眈々と待ち構えていて、あちらこちらで火の手が上がりそうだ。ここでキーとなるのが阪神球団の査定方法である。球団は200項目を越える査定ポイントを5年以上前から採用しており、球界に古くからあるドンブリ勘定とは無縁だ。今では更なる改良を加えて球界トップクラスの査定方法だと自負している。査定ポイントは全て同じではなく、歴代監督が掲げる野球スタイルによって項目毎にポイントが変わるシステムになっている。

例えば無死二塁の場面で従来は右方向への凡打でも走者を三塁へ進められればポイントが加点されたが、吉田政権では右方向へ打つよりも強い打球を打つ事を奨励しているので右打ちばかりに気を取られて強い打球を打てず凡退した場合は減点となる。逆に強振して三ゴロや遊ゴロで走者を進められなくても減点とはならない。このあたりが攻めて攻めて点を取る野球を目指した吉田イズムの象徴と言える。「契約更改は現場の人間は関知しません。ただ現場としては毎日行ってきたスタッフ会議の中で球団の査定ポイントについて確認してきました。更改交渉で球団が選手に提示する内容は我々現場の意見と相違ないと思ってもらって構わない。それくらい査定には自信があります」と吉田監督。

もしも選手と球団の折り合いがつかない場合があったら現場の最高責任者として吉田監督が調停役として出て来る可能性もゼロではない。どこの球団にもよくあるパターンだが、シーズン中に働け、働けと尻を叩いておきながらシーズンが終わった途端に知らん顔をすると監督と選手の信頼関係にヒビが入るのはプロ野球の世界だけに限らない。信頼関係の崩壊は来季以降の吉田阪神にも影響が及びかねないだけに、ある意味では吉田監督の言動はシーズン中以上に慎重で一貫したものを求められる。例えばシーズン中にこんな場面があった。福間投手が中継ぎで登板しあと1イニング投げればセーブポイントが付くシーンで吉田監督は中西投手にスイッチした。

中西のセーブ稼ぎが明らかだったのだが面白くないのは福間だ。ピッチングコーチから事前に福間に対して中西への交代は告げられていた。選手が監督の采配に口出しは出来ない。そんなことをしたら首脳陣批判としてペナルティを課せられてしまう。福間は文句ひとつせずマウンドを降りた。この時に吉田監督は福間に「セーブと同等の査定をする」と言ったが実際にどれくらい年俸に反映されるかは不透明。福間はこれまでも過去に幾度も同じような目に遭っている。「考慮している」という球団側に対して「では金額は幾らなのか?」との疑問に球団は明確に回答せず、最後には選手が諦めて判を押してしまうのがこれまでの阪神だった。その悪しき習慣を吉田阪神は変えられるのか注目だ。


吉田監督の " 介入 " がポイントに?

今季は吉田監督の「チーム一丸で」を合言葉に戦ってきた阪神。しかしオフになれば選手はそれぞれが個人事業主で各自が自分の技術を球団に買ってもらう訳で全くの個人プレーとなる。ましてやグラウンドを離れ家に帰れば妻子を抱える一家の主としての責任があるだけに、チーム一丸のフォアザチームより先立つお金の方が大事になる。契約更改交渉はプロ野球選手として生活していく為に一年で一番大切な行事だけに監督は第三者と言いきれない。時には球団に対して良く働いた選手には見合った年俸を出すように助言するのも大事な仕事となる。ましてや日本一になった吉田監督の発言力は俄然影響力を増しており、大荒れの更改交渉となれば吉田監督の出馬がポイントとなりそうだ。

そこで気になるのが阪神球団の懐具合だ。商売上手の小津球団社長が就任してからは営業的には充分に採算がとれていた。観客動員数が200万人を超えてから毎年のように増え続け、キャラクター商品の売り上げもウナギ昇り。あくまでも概算だが入場料だけで30億円、キャラクター商品の売り上げが100億円とも200億円ともいわれており球団には使用料として売り上げの5%分の5億円~10億円が転がり込んだ。この他にもテレビ・ラジオの放映権料も相当な額を得ている。一説には株式会社阪神タイガースとしての売り上げは70~80億円に及ぶと言われている。阪神球団は選手・フロントを含めて約150人の企業だからいかに優良企業であるか分かる。例え選手の人件費が10億円を超えても大した事ではないのだ。


攻め手も守り手も勝手を知らない
11月5日付で中埜前社長の後任に昇格した岡崎球団社長(代表兼務)も選手達の勢いを肌で感じたのかドンと受けて立つ構えで「とにかく21年ぶりに優勝したんだからそれなりの事はするつもりでいる。日本シリーズは別物という考え方もあることは承知しているが、我々としては日本一になった功績としてシリーズの6試合も査定に含めたいと思っている。ただ全てを年俸に反映させるとは限らない。ボーナスや一時金という形になるかもしれない。とにかく選手とはとことん話し合い納得してサインしてもらうつもりだ」と語る岡崎社長。ただし日本シリーズまで査定に含めると資料を整理する時間が足りない。

限られた時間で選手全員が納得してサインするのは難しく越年組が続出することも考えられ、岡崎社長にとってはいきなり " 銭闘 " の矢面に立たされることになる。選手は秋季キャンプ、ハワイへの優勝旅行、オフのテレビ番組出演など今後の日程はギッシリ詰まっており、球団との交渉にさける時間は思っているほど余裕はない。なにしろ勝ち慣れていない球団だけに攻める選手も守る球団も手探り状態。果たして選手達の強気な要求が通るのか、はたまた球団が時間切れのドローに持ち込むのか注目だ。大荒れの契約更改を期待しているのはペナント奪回に向けてスタートしたセ・リーグの5球団かもしれない。「阪神が来年も優勝できるかどうかは契約更改の出来にかかっている」と某阪神OB。

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