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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 595 契約更改 ➌

2019年08月07日 | 1985 年 



スタート時は大荒れが予想された日本一・タイガースの契約更改劇だったが意外や意外、僅か2人の保留者を残すのみ(12月13日現在)でスンナリと幕を下ろした。球団に " 実弾 " が豊富だったこともあるが選手別に緻密な作戦を練り上げそれを遂行。次々に選手を納得させていった球団の手際の良さが目立った更改だった。名物のお家騒動を期待する向きには肩透かしだったが・・

" 4時間の日本一 " でも十分満足
テレビカメラがなんと8台。比較的ゆとりを持って作られた球団事務所も身動き出来ない程の混雑。12月13日、ハワイへの優勝旅行を翌日に控えて大トリとなる掛布選手の契約更改交渉が行われた。ミスタータイガース、不動の四番打者として全試合・全イニングに出場し大阪だけでなく全国にトラフィーバーを巻き起こした阪神の優勝に多大なる貢献をした掛布の契約更改に日本中が注目していた。「判を押しました」・・掛布が事務所奥の社長室に消えてから1時間後のことだった。会見場にはどこかホッとした空気が流れた。だが席に着いた掛布の表情は晴れやかなものとは違っていた。どこか子供が拗ねたようにも見えたが、実はこうした表情こそ掛布らしい最大限の喜びの表情であることはトラ番記者達は分かっていた。

本塁打を放ちベースを一周する時もまるで何事もなかったかのように淡々と走る。見逃し三振した後も悔しそうな表情はせず、一部のファンに「三振してヘラヘラするな」と誤解されたこともあった。「なんだか照れくさいんだよね。気持ちを表情で表すのが。プロとして恥ずかしいというか…(掛布)」だからあの時のむっつり顔は実は会心の笑顔だったのだ。だが会見が進むうちにハッキリと喜びを語り始めた。「浩二さん(広島・山本浩二選手)を超えました。大台?そこまでは届いてません。来年頑張れば届くかな(笑)。あとどのくらい?まぁそれは…」今季の6100万円から2700万円アップの8800万円で更改した。

実は球団とは事前に何度か話し合いをしていた。これは阪神に限らずどこの球団でもトップクラスの選手とは事前協議を行っている。掛布はその話し合いで提示額は8500万円くらいとの感触を得ていて、その額なら保留も考えていた。だが実際には予想を上回る8800万円だったので判を押した。「自分で言うのもおかしいがこれくらいの金額になると税金も多くなり手取りはそんなに変わらない。むしろ査定額じゃなくて査定ポイント、つまり球団の僕に対する評価の方が意味が大きくなるんだ。今年は阪神の四番じゃなくて日本一のチームの四番。いわば球界の四番打者に対する評価を知りたかった(掛布)」と。

この時点では山本浩選手(広島)の8500万円を抜いて日本一の高給プレーヤーに登りつめた。ところが数時間後に東尾投手(西武)が9100万円で更改し抜かれてしまった。「4時間?まぁ仕方ないよ。僕は判を押した時点で日本一だった事に満足しているよ」と笑顔を見せた。打率.300・40本塁打・108打点の結果に相応しい金額を球団が提示し本人も納得している。「これで気持ち良く来年もプレー出来る。提示額に納得できたかどうかが次の年に気分良く野球に専念できるか、のキーなんだ。これで来年は目標の年俸1億円にチャレンジできる。今回は大きなジャンプの一歩手前。それもちょっと飛べば届く所まで来た。2年連続日本一と1億円目指して頑張るよ」


真弓は六千万円を狙ったが…
大フィーバーの末に21年ぶりの優勝、そして日本一。フィーバーが一段落すると世間の注目は阪神が幾ら出すのか?それに関心が集まった。選手が優勝の対価を求める中で保留者は佐野選手と工藤投手の2人だけ。球団として今回の査定は大成功だったと言える。「スポーツ紙には大盤振る舞いと書かれているけどそれは違う。ウチは仕事をした選手にはきちんと評価している。それだけの事」とひとまず大役を終えた岡崎球団社長は余裕たっぷりに答えた。一連のフィーバーと並行して球団も儲かった。俗に阪神商法と揶揄されるほど儲かった。入場料収入は言うに及ばずトラマークを使ったキャラクターグッズも売れに売れてウハウハ状態だった。

ケチ球団などと言われたのは遠い昔の話。「お金はどんどん貰うべきでっせ、プロなんですから。優勝したんやし選手は胸を張って要求したらよろしいとちゃいますか」とシーズン終了直後から吉田監督は何度も口にしていた。それが選手達への強力な後押しになったのは言うまでもない。吉田監督の口癖でもあるプロ球団としての " 土台作り " は球団フロントにまで及んだ。その結果が今回の波乱なき契約更改交渉に表れている。ちなみにハワイ旅行の後に行われる自身の契約については「球団が提示した額でサインしまっせ」と親しい知人には漏らしている。阪神にはビッグ3と呼ばれる男たちがいる。掛布、真弓、岡田。掛布以外の2人も一発でサインした。

先ず真弓・・1800万円アップの5700万円を提示されたが「希望額?そうだねぇ、もうちょっと上だった。お互い歩み寄った感じかな。得点に関しての評価が低いと思いました。打点じゃなくて得点ね」と渋々サインした。突っ張ろうと思えばもう少し粘れただろう。今季は二塁手から右翼手へコンバートされ負担も増え、「プロ13年間で最高(真弓)」と自負する成績を残したのだから。また真弓がこだわった108得点は今季セ・リーグ最高だ。本塁打や打点のようなタイトルには設定されていないが、一番打者として誇れる数字なのだ。「クリーンアップがいくら打とうが僕らが塁にいなければ点は入らない。本塁打を放とうがソロ。僕らクリーンアップ以外の選手の働きも認めて欲しいね(真弓)」と語る。

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