
以前も述べたように、この秋、札幌時計台ギャラリーでは充実した個展が毎週のように開かれている。
ただ、筆者が多忙で、土曜日になるまで足を運べないことが多く、このブログでの紹介もベタ遅れになっており、画家や読者の皆さまには申し訳ありません。
羽山雅愉さんは、小樽在住の全道展会員。
ほとんどが風景画である。大半は小樽運河周辺を題材にしており、釧路や札幌の中心部を描いた作もある。
したがって、羽山さんの絵は一見、観光客に受けそうな、よくあるタイプの風景画に見える。しかし、足を止めてよく眺めればわかるように、そこに描かれているのは、現実の小樽や釧路ではない。
冒頭画像の左は、「黄昏の釧路」である。
左側に流れているのは釧路川。その岸辺に立つ、特徴のある建物は、フィッシュマンズワーフMOOであろう。おそらく、川に近いホテルの高層階からスケッチしたに違いない。
しかし、現実の釧路市街は、これほど建物は密集しておらず、駐車場ばかりが目立つ。明かりもこれほど輝いてはいないだろう。
「でも、建物を描かないと、絵にならないんですよ」
と羽山さんは言う。
羽山さんの描く小樽運河沿いの道は、全面が水でぬれて建物を反射し、まるで街全体が海中にあるかのようにきらきら光っている。
人も車も少ない代わりに、街灯はいかにもきらびやかだ。
つまり、これは、幻想の中の小樽であり、釧路なのだ。

小樽や釧路はいまでも「絵になる」マチだろう。
少なくても札幌や東京に比べると、はるかに美しい。
しかし、いちばん「絵になる」時代だったのは、ちょっと昔のことで、それは記録写真に一部残っているほかは、わたしたちの記憶の中にしかない。
人間の記憶は、よからぬことを消し去り、美しいことだけを残していく、いささか都合の良い装置である。
だとしたら、「写真のようにリアルな絵」よりも、「追想の中でレモンイエローに輝く幻想的な絵」のほうが、じつはわたしたちにとって「リアル」な絵画であると、いえなくはないだろうか。
羽山さんはそういう世界を描いているのだと思う。
出品作は次の通り。かっこ内はサイズ。複数あるものは、同題で複数の作品がある。
運河通り(F100)
青い月 (F0)(F8、水彩)(P20)
雨の街角(F3)
水の音 (M6)
夜のホテル・ノルド(F3)(F10)
海の音 (SM)
夜の音 (M6)(F8)(F8、水彩)
黄昏I (SM)
北のホテル(SM)
白い塔 (SM)
冬色運河(F3)
朝光・小樽2(M10)
黄昏の小樽(F120)(F20)
黄昏の工芸館(F10)
黄昏・小樽5(P20)
冬色 (F100)
朝光・小樽(F120)
黄昏の釧路(F120)
黄昏・小樽3(F15)
黄昏・小樽5(F10,水彩)
赤い壁 (SM)
2013年9月9日(月)~14日(土)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
9月16日(月)~29日(日)午前10時~午後6時、17、24日休み
アートホール東洲館(深川市1の9。JR深川駅前)
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