北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

札幌国際芸術祭シンポジウムで見えてきた「札幌、北海道という場所」

2013年11月06日 01時23分45秒 | 札幌国際芸術祭
(画像と文章は無関係です)

 きのうの11月4日、札幌国際芸術祭2014プレフェスティバルイベント 第2弾「札幌の未来へ向けたビジョンを聴こう! ゲストディレクター坂本龍一氏が、市民に「語る・奏でる」2日間。」の「シンポジウム 札幌国際芸術祭が目指すもの」を受けて、おもに、パネリストで、同芸術祭企画アドバイザーの浅田彰氏の発言を中心にまとめた記事を書いたところ、Facebook で「いいね!」が、アップから24時間で129件にも達し、われながら驚いている。
 最近ではアクセスの多かった、10月30日深夜の「日展の書部門の特殊性と、朝日新聞のスクープの意味」でも「いいね!」が47件だったことを思うと、大変な反響である。

 せっかく、得るところの多かったシンポジウムだったので、ここで、あらためて、札幌、北海道で芸術をやること、国際芸術祭をすることの意味を考えてみたい。

 というか、坂本龍一ゲストディレクターを肇とするキュレーター、ディレクター陣の基本的な認識は、とてもシンプルなものだと思うのだ。
 もちろん、以下に示すテキストは、シンポジウムの対論を受けた、筆者の個人的な考えである。


1. 北海道は日本で最も後から開発された地域であり、その分、欧米を範とした近代化が、上から、大規模に行われた地域でもある。

2. したがって、北海道は、日本の急激な近代化が、最も集約的になされた地であり、その成果(「光」の部分)として豊かな穀倉地帯があり、影の部分もまた炭鉱や各種鉱山の閉山、鉄路の廃止、北洋漁業の衰微といったかたちで露出している。いわば、北海道と札幌は、日本の近代化の象徴である。

3. さらに、アイヌ民族とその文化があり、日本とは異なる位相の文化が存立する地として、多様性のモデルになる可能性も秘めている。

4. 開発の歴史が浅いことから、原始の自然も、国内の他地域に比べるとまだ残っている。とりわけ、札幌は、190万都市でありながら、毎年たくさんの雪が降り、市域に野生のクマが出没するという、世界的にもまれな大都市。まさに「都市と自然」というテーマで芸術祭を繰り広げるにふさわしい。

5. 21世紀、近代化や経済成長至上主義は行き詰まりを見せている。オルタナティブ(もうひとつの道)を呈示するのは、アートにとって重要な役割のひとつだ。近代化の集約された土地であり、また、はるか前近代の自然が多く残された地で、「近代の次」の可能性を指し示すこと、それが、北海道と札幌でアートを展開する意味だ。

6. 「健康な成人男性(同性愛者、外国人、先住民族、障碍者、病気の人を排除した)」を所与とした近代の制度をもう一度考え直し、いろいろな層、いろいろな人たちに開かれた、オープンで可能性にみちたアートの祭典をつくらなくてはいけない。


 ざっと、こんなふうにまとめられるだろうか。



 北海道の年配の人は、いまでも道外のことを「内地」という。

 近代の日本が獲得した「外地」、すなわち、北海道、サハリン、千島、沖縄、朝鮮、南洋諸島、それに形式的には海外だが、ほとんど国内の「外地」として扱われていた満洲国などのうち、戦後も日本国内として扱われたのは、北海道だけだ。

 日本は、非欧米では、早くから近代化に成功した唯一の国だ。
 そして、東アジアの中華秩序に入っていない国でもある。
 そういう意味では、独自の、ねじれた歴史を持っている国といってもいい。
 その中で北海道は、「いち早く近代化した唯一の非欧米国家の中の外国」として、二重にねじれた位置にある。

 その特殊性こそが、札幌、北海道の背負うものであるのだ。



 ちょっとだけ気をつけたいのは、「欧米型近代化を乗り越える」という言説が、ともすれば「近代の超克」的な見方にからめとられてしまう危険性だ。
 坂本・浅田組の「近代」観は1980年代にポストモダン思想が一斉を風靡してから基本的にはさほど変わっていないような気がする。それは、乗り越えられるべき「近代」が、いっこうに姿かたちを変えていないことの証左であるともいえる。
 「近代の超克」を叫んだ時代の日本は、超克も何も、近代には到達していなかった。
 もしかしたら、いまも前近代のままかもしれない。
 ふたりとも、「近代を徹底すること」の困難さを知っているから、安易な「近代の超克」路線=ファシズムには、近づかないと思うのだが。

 そして
「こんなに、ニューアカの頃から変わってなくていいのかよ!」
ともチラッと思うのだが、思想は流行でも意匠でもないわけで、30年たって進歩も変化もないこと自体はべつにいいんじゃないかと思う。
(Yahoo! リアルタイム検索をかけると、坂本や浅田が出てきたことに対して嘲笑しているツイートが時々あるが、彼らのどこがダメなのかを具体的につぶやいているアカウントは一つもない)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。