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北海道美術ネット別館

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■大友良英アーカイブ お月さままで飛んでいく音 + 三岸好太郎ワークス 飛ビ出ス事ハ自由ダ (2017年9月2日~10月1日)

2017年10月17日 22時22分22秒 | 札幌国際芸術祭
 札幌国際芸術祭について、まだ書き足りないことが山ほど残っているので、折を見て記事をアップしていきます。

 正式名称は
「[mima 北海道立三岸好太郎美術館 開館50周年記念 特別展] 大友良英アーカイブ お月さままで飛んでいく音 + 三岸好太郎ワークス 飛ビ出ス事ハ自由ダ」。

 札幌国際芸術祭のなかでは珍しく、会期の後半から始まった展覧会です。

1.概要
2.権威主義的?
3.旅する音楽家
4.何を聴いてきたのか
5.終わりに
の5部構成で、3.以降は、長くなったため、次の記事に書いてあります。

 結論からいえば、大友さんと音楽の趣味は異なっているものの、楽しい展覧会でした。
 個人差はありそうですが…。

 札幌市資料館の「NMA ライブ・ビデオアーカイブ」などと同様、これも大友さんの、そして今回の国際芸術祭の、原点を示す展覧会になっていたと思います。


 1.概要

 三岸好太郎美術館のうち、1階では、同芸術祭のゲストプロデューサー大友良英さんのこれまでの歩みを、CDジャケットや映像資料などで紹介。
 2階では「オーケストラ」「のんびり貝」など三岸の代表作を展示しています。

 全館が大友さんの展示になっていないのは、会場が個人美術館である以上、三岸の作品を外すわけにはいかないためです。

 大友さんは画家ではないので、回顧展みたいな展示を行うにしても、旧作を並べるわけにはいきません。
 というか「その場一回限り」の表現を続けてきたことが音楽家・大友良英の立ち位置であり、今回の芸術祭を支える大きなバックボーンになっているということは、これまでにも何度か述べてきました。

 したがって会場にあるのは、古い写真、幼少時や長じてから聞いたレコードのジャケットや愛読書(これは読めない)、武満徹などから送られたはがき、明治大の学生時代に書いた論文の抜き刷り、自らがかかわった膨大なCD(一部は視聴可能)、自らが書いた楽譜(というより演奏指示書)、ノイズミュージック演奏の映像資料などもりだくさん。さらに自作のインスタレーションや、他の作家の手になる映像アート作品などもあります。
 多くのコーナーに、大友さんの手書きのメモが添えてあり、これがおもしろい。
 60年代後半に、ウルトラマンシリーズとならんで人気のあった特撮番組「ジャイアントロボ」のジャケットの横に「日本で最初のフリージャズの音源が入ってます」などの文面が書いてあります。

 ちなみに、先の画像の、黄色いポータブル・レコードプレーヤーと、その上に載ったソノシート「冒険ガボテン島」は、大友さんの所蔵品。ヘッドフォンで聴くことができます。




(ソノシートとは、素材のやわらかいレコード。裏には溝は刻まれていない。1960年代ごろ、子ども向け雑誌や絵本の付録などによく用いられ、子どもたちは、ソノシートで主題歌や登場人物の会話、効果音などを聞きながら、雑誌や絵本のページをめくっていた。カセットテープやビデオが普及する前の安価な音源だった)


 2. 権威主義的?

 ところで、この展覧会をめぐる言説でいちばん驚かされたのは、美術批評家の黒瀬陽平さんによるツイッターでした。

そして、大友アーカイブが刺激的、という意見には全く同意できません。ごく普通に考えて、あたかも歴史上の偉人であるかのような個人史の展示を、自らが監督する芸術祭で、しかも三岸好太郎のような偉人と並べて出す、という神経はどうかしていると思います。


 「並べて出す」
という事情は、会場が個人美術館であり、三岸好太郎の絵を引っ込めるわけにいかない―という理由があることはすでに説明しました。

 それよりなにより、筆者がいちばんびっくりしたのは
偉人
という語です。

 三岸好太郎は、郷土出身の有名な画家だという認識はありましたが、「偉人」というとらえ方については
その発想はなかった!
と言わざるを得ません。

 北海道出身やゆかりの人では、島義勇(初代開拓使判官)、松浦武四郎、新渡戸稲造、芸術関係では有島武郎や中原悌二郎などが歴史に名を残していますが、どうも「偉人」という呼び名はしっくりこないな~、というのが、少なくても筆者の印象です。
 さらに歴史をふりかえれば、アイヌ民族で抵抗運動を主導したコシャマインやシャクシャイン、お雇い外国人のケプロンやクラークの名前も思い出されますが、やはり「偉人」というのは、なんだか違うような気がします。スポーツ関連では例えば力士は、大鵬、北の湖、千代の富士がすべて北海道出身なので、偉人カテゴリーに入れてもいいのかもしれませんが、とくに芸術関係では、有島は情死しているし、小林多喜二は国家に虐殺された筋金入りの左翼だし、三岸や中原は若死にの天才肌で、偉人という表現は、違和感ありまくりです。

 黒瀬氏がなぜそんなことばを持ち出したのか。
 つまらない詮索になるかもしれませんが、彼が高知県出身であることと関係があるのかもしれません。
 高知県では、後藤象二郎や坂本龍馬は「偉人」カテゴリーに入れられ、小中学校でも習うのでしょう。

 北海道人が、郷土愛が薄いのか、郷土の歴史に興味がないのか―といえば、そんなことはないでしょう。
 ただ、個人崇拝の気風は薄いのだと思います。

 一般的には、50代半ばを過ぎた作家が公立美術館で回顧展を開くことじたいは、それほどおかしなことではありません。
 たまたま今回の会場が三岸好太郎の所蔵品を常設している美術館だったので、文化的背景が異なる人から見ると違和感が生じたのではないでしょうか。


2017年9月2日(土)~10月1日(日)午前9:30 ~午後5時(入場は午後4:30まで)、月曜、9月19日(火)休み ※ 9月18日 (月・祝) は開館
mima 北海道立三岸好太郎美術館(札幌市中央区北2西15)

□札幌国際芸術祭のページ http://siaf.jp/projects/otomo-migishi




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