札幌国際芸術祭のプログラムの一つとして開かれた「「[mima 北海道立三岸好太郎美術館 開館50周年記念 特別展] 大友良英アーカイブ お月さままで飛んでいく音 + 三岸好太郎ワークス 飛ビ出ス事ハ自由ダ」の続きです。
3.旅する音楽家
冒頭の画像は、大友良英さんのギターケースおよびトランクと、いちばん幼い頃に家族のだんらんのひとときを撮った写真をひきのばしたものです。
レコードや電子回路が買えていたのだから、大友家は裕福とまではいえないにせよ、貧乏でもなかったのだなと思いました。
ステッカーがびっしりと貼られたトランクからは、大友さんのメッセージが伝わってくるようです。
つまり「アートは旅だ」ということです。
今回の札幌国際芸術祭は、会場が分散して「行きづらい」という声が聞かれましたが、大友さんのとらえ方では、それぞれの会場に行くプロセスから芸術祭は始まっているんだよ―ということなんだろうと思います。だから、その旅程も、道に迷えば迷うことも含めて、楽しめばいいのだと感じます。
このへんは、いろんな考え方があるでしょうが…。
今回の会場のあり方は、たしかに不便ではありましたが、横浜トリエンナーレとは対照的だったと思うのです。
4.何を聴いてきたのだろう
ところで、以下はちょっと個人的な話になります。
今回、会場で視聴できた記録映像からもわかるように、大友良英さんはもともとノイズミュージックの演奏家です。
ターンテーブルを壊しかねない勢いでノイズを発し、レコードが割れないのだろうかと心配になってくるほどの過激な演奏のもようは、館内でも見ることができました。
ところが、映画音楽も手がけていますし、なにしろ有名になったのは「あまちゃん」の主題歌です。ドラマ「あまちゃん」の中でアイドルが歌う歌謡曲も、大友さんが作曲しているのです。
クラシックやジャズ、ロックのミュージシャンは日本に大勢いますが、大友さんのようなスタンスで音楽活動を続けている人はほかにほとんどいないでしょう。
こんなに幅広い音楽の素地は、いったいどのようにして作られたのか?
その疑問にこたえるという意味もある展覧会だったと思います。
ところで筆者は音楽が好きな方です。
自宅にCDやカセットテープがいくつあるのかを数えたことはありませんが、アルバムの数で数えると、千点には達しないにしても500は大きく超えているのは確実です。
しかしですね、阿部薫と高柳昌行の「解体的交感」など、見る人が見れば「おおーっ」と叫びそうなレア盤を含め、大友さんがこれまで聴いてきたレコードのジャケットが壁にこんなにたくさん並んでいるというのに、筆者が持っている音源が一つもないんですよ。
世代がそんなに離れているわけでもないし、1枚も重複がないのは、むしろ不思議な気がします。
(註 阿部薫は29歳で早世した伝説のフリージャズ奏者)
聴いている音楽の多さでプロにかなうはずもないのですが、幅の広さでは筆者も世間一般にくらべれば幅広いほうだと自任しています。
大友さんが、いわゆるクラシックや近年のJ-Pop を挙げていないのはなんとなくわかるのですが、筆者の家にたくさんあるビートルズもジョン・コルトレーンもここにはありません。アート・ベアーズや松田聖子など、筆者が持っている盤と違うというニアミスはありますが…。
大友さんの幅の広さがすごいのは、上の画像を見れば、小林麻美とジョン・ケージが並んでいるのでわかることでしょう。
会場で
「大友さんとオレって、音楽の好みがあわないのか。残念だなあ」
と思いながら、最初のほうのコーナーに戻り、中学生のときの日記をのぞいてみたら…。
なんだ~。
大友さんもプログレ(プログレッシブ・ロックの略)が好きだったんじゃないですか~。
エマーソン・レイク・アンド・パーマー(Emerson Lake and Parmar)は1970年代前半に人気のあった英国のロックバンド。
キーボードのキース・エマーソン、ボーカル・ベースのグレッグ・レイク、ドラムスのカール・パーマーの3人組で、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」を大胆にアレンジしたアルバムを出したり、派手なステージングと、わずか3人とは思えない音の重厚さが話題でした。
とくにキースは、発明されて間もないモーグ(ムーグ)シンセサイザーを初めてライブコンサートで使用しました。ステージ上では鍵盤にナイフを突き刺したり、オルガンを力任せに揺さぶって音をひずませたり、やりたい放題。
いまと違って、シンセがウイウイ~と妙な音を出せば、それだけで聴衆が「おおーっ」となった時代ではありますが、とにかくキース・エマーソンは目立つ存在でした。
大友さんがターンテーブルを壊しそうな勢いで演奏するのは、キース・エマーソンからの影響が、絶対にあると思います(笑)。
ちなみに「プログレッシブ・ロック」とは、1960年代末から70年代にかけて隆盛した分野です。
当時は英米のロックが多く聞かれていましたが、プログレではイタリア、フランス、ドイツ、オランダといった国々のバンドも活躍しました。
バンドによって音楽はかなり異なるのですが、ダイナミックな曲づくり、シンセサイザーや変拍子の多用、クラシックやジャズといった異分野の取り込みなどが特徴として挙げられ、代表的なバンドとしては、キング・クリムゾン、イエス、ELP、ジェネシスなどがあります。
(この3段落は18日に追記)
もし大友さんがあのままプログレ沼にはまって、キング・クリムゾンのライブセットを買い集めたり、オザンナやフィンチの海賊盤を探し回ったりするような人になっていれば、現在の音楽家・大友良英は存在せず、札幌国際芸術祭もまったく違った内容になっていたことでしょう。
5.終わりに
さて、ふだんとはまったく異なる雰囲気の1階から、階段を上って2階に行くと、そこにはいつもと同じように三岸好太郎の絵が飾ってあります。
ただ、あらためて代表作の「オーケストラ」を見ると、そういえば大友さんもこれとはぜんぜん違うけれどオーケストラを指揮しているよな~と思い至ります。
そして、三岸が「オーケストラ」を描いた当時は、西洋の交響楽は新しく日本にもたらされた最先端の音楽であって、その点では大友さんが心ひかれた欧洲の即興音楽と共通しているということに気がつくのです。
2017年9月2日(土)~10月1日(日)午前9:30 ~午後5時(入場は午後4:30まで)、月曜、9月19日(火)休み ※ 9月18日 (月・祝) は開館
mima 北海道立三岸好太郎美術館(札幌市中央区北2西15)
□札幌国際芸術祭のページ http://siaf.jp/projects/otomo-migishi
3.旅する音楽家
冒頭の画像は、大友良英さんのギターケースおよびトランクと、いちばん幼い頃に家族のだんらんのひとときを撮った写真をひきのばしたものです。
レコードや電子回路が買えていたのだから、大友家は裕福とまではいえないにせよ、貧乏でもなかったのだなと思いました。
ステッカーがびっしりと貼られたトランクからは、大友さんのメッセージが伝わってくるようです。
つまり「アートは旅だ」ということです。
今回の札幌国際芸術祭は、会場が分散して「行きづらい」という声が聞かれましたが、大友さんのとらえ方では、それぞれの会場に行くプロセスから芸術祭は始まっているんだよ―ということなんだろうと思います。だから、その旅程も、道に迷えば迷うことも含めて、楽しめばいいのだと感じます。
このへんは、いろんな考え方があるでしょうが…。
今回の会場のあり方は、たしかに不便ではありましたが、横浜トリエンナーレとは対照的だったと思うのです。
4.何を聴いてきたのだろう
ところで、以下はちょっと個人的な話になります。
今回、会場で視聴できた記録映像からもわかるように、大友良英さんはもともとノイズミュージックの演奏家です。
ターンテーブルを壊しかねない勢いでノイズを発し、レコードが割れないのだろうかと心配になってくるほどの過激な演奏のもようは、館内でも見ることができました。
ところが、映画音楽も手がけていますし、なにしろ有名になったのは「あまちゃん」の主題歌です。ドラマ「あまちゃん」の中でアイドルが歌う歌謡曲も、大友さんが作曲しているのです。
クラシックやジャズ、ロックのミュージシャンは日本に大勢いますが、大友さんのようなスタンスで音楽活動を続けている人はほかにほとんどいないでしょう。
こんなに幅広い音楽の素地は、いったいどのようにして作られたのか?
その疑問にこたえるという意味もある展覧会だったと思います。
ところで筆者は音楽が好きな方です。
自宅にCDやカセットテープがいくつあるのかを数えたことはありませんが、アルバムの数で数えると、千点には達しないにしても500は大きく超えているのは確実です。
しかしですね、阿部薫と高柳昌行の「解体的交感」など、見る人が見れば「おおーっ」と叫びそうなレア盤を含め、大友さんがこれまで聴いてきたレコードのジャケットが壁にこんなにたくさん並んでいるというのに、筆者が持っている音源が一つもないんですよ。
世代がそんなに離れているわけでもないし、1枚も重複がないのは、むしろ不思議な気がします。
(註 阿部薫は29歳で早世した伝説のフリージャズ奏者)
聴いている音楽の多さでプロにかなうはずもないのですが、幅の広さでは筆者も世間一般にくらべれば幅広いほうだと自任しています。
大友さんが、いわゆるクラシックや近年のJ-Pop を挙げていないのはなんとなくわかるのですが、筆者の家にたくさんあるビートルズもジョン・コルトレーンもここにはありません。アート・ベアーズや松田聖子など、筆者が持っている盤と違うというニアミスはありますが…。
大友さんの幅の広さがすごいのは、上の画像を見れば、小林麻美とジョン・ケージが並んでいるのでわかることでしょう。
会場で
「大友さんとオレって、音楽の好みがあわないのか。残念だなあ」
と思いながら、最初のほうのコーナーに戻り、中学生のときの日記をのぞいてみたら…。
なんだ~。
大友さんもプログレ(プログレッシブ・ロックの略)が好きだったんじゃないですか~。
エマーソン・レイク・アンド・パーマー(Emerson Lake and Parmar)は1970年代前半に人気のあった英国のロックバンド。
キーボードのキース・エマーソン、ボーカル・ベースのグレッグ・レイク、ドラムスのカール・パーマーの3人組で、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」を大胆にアレンジしたアルバムを出したり、派手なステージングと、わずか3人とは思えない音の重厚さが話題でした。
とくにキースは、発明されて間もないモーグ(ムーグ)シンセサイザーを初めてライブコンサートで使用しました。ステージ上では鍵盤にナイフを突き刺したり、オルガンを力任せに揺さぶって音をひずませたり、やりたい放題。
いまと違って、シンセがウイウイ~と妙な音を出せば、それだけで聴衆が「おおーっ」となった時代ではありますが、とにかくキース・エマーソンは目立つ存在でした。
大友さんがターンテーブルを壊しそうな勢いで演奏するのは、キース・エマーソンからの影響が、絶対にあると思います(笑)。
ちなみに「プログレッシブ・ロック」とは、1960年代末から70年代にかけて隆盛した分野です。
当時は英米のロックが多く聞かれていましたが、プログレではイタリア、フランス、ドイツ、オランダといった国々のバンドも活躍しました。
バンドによって音楽はかなり異なるのですが、ダイナミックな曲づくり、シンセサイザーや変拍子の多用、クラシックやジャズといった異分野の取り込みなどが特徴として挙げられ、代表的なバンドとしては、キング・クリムゾン、イエス、ELP、ジェネシスなどがあります。
(この3段落は18日に追記)
もし大友さんがあのままプログレ沼にはまって、キング・クリムゾンのライブセットを買い集めたり、オザンナやフィンチの海賊盤を探し回ったりするような人になっていれば、現在の音楽家・大友良英は存在せず、札幌国際芸術祭もまったく違った内容になっていたことでしょう。
5.終わりに
さて、ふだんとはまったく異なる雰囲気の1階から、階段を上って2階に行くと、そこにはいつもと同じように三岸好太郎の絵が飾ってあります。
ただ、あらためて代表作の「オーケストラ」を見ると、そういえば大友さんもこれとはぜんぜん違うけれどオーケストラを指揮しているよな~と思い至ります。
そして、三岸が「オーケストラ」を描いた当時は、西洋の交響楽は新しく日本にもたらされた最先端の音楽であって、その点では大友さんが心ひかれた欧洲の即興音楽と共通しているということに気がつくのです。
2017年9月2日(土)~10月1日(日)午前9:30 ~午後5時(入場は午後4:30まで)、月曜、9月19日(火)休み ※ 9月18日 (月・祝) は開館
mima 北海道立三岸好太郎美術館(札幌市中央区北2西15)
□札幌国際芸術祭のページ http://siaf.jp/projects/otomo-migishi