はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

(16)ぐるりのこと

2008年06月24日 | 映画(2007-08年公開)


人は人によって傷つけられ、人によって救われる

私たち夫婦とほぼ同時期に結婚生活をスタートさせた一組の夫婦の、10年間に渡る絆の物語。それは必ずしも順風満帆なものではない。新たな家庭を築く過程での心を通じ合えないもどかしさや(それはそうだ。元々異なった環境で生まれ育った他人同士なのだから)、埋めようのない喪失感に心を病む苦しさや、その苦しみや哀しみを分かち合う優しさ、そして固い絆によって立ち直る人間の心のしなやかさが、丁寧に、繊細に描かれている。ひとつひとつのエピソードが、二人の台詞が、その表情が心に染み入るようだった。思わず自分たちの10年と重ねて見入ってしまった。見終わった後、自分自身の”平凡な日常”に愛おしささえ感じた。

被告の罵詈雑言に思わず絵筆が止まるカナオ… 

映画は、法廷画家を生業とする夫の目を通して、その10年の間に起きた様々な凶悪事件の公判の様子も伝える。すべてフィクションの体裁を取りながら、実際に起きた事件を容易に連想させる描写になっていて、改めてそれぞれの事件の不条理に愕然とさせられた。

並行して描かれる、ある夫婦の10年と凶悪事件が次々と起こる世相の10年。原作・脚本・編集・監督を一手に担った橋口亮輔監督の意図するところは、世の中でどんなことが起ころうとも、どんなに荒んだ状況にあろうとも、個人のささやかな営みはそれらに影響されることなく連綿と続くものであって欲しい、と言う願いなのだろうか?

人は弱くて強い…一見矛盾するようで、実は人の在りようを言い得ているような気がする。その弾力性に富む心は、たとえ人に傷つけられ一度は閉ざしたとしても、再び人を受け入れ、再生する。その力を信じたい。そうした希望を託したこの作品は、世の荒みに恐怖する人々を癒し、励ます存在になると思う。6年間のブランクを経て(この間、監督の身にはさまざまなことが起きたようですが、それが血肉となった結果の本作ですね。人間転んでもタダでは起き上がりません(笑)。監督自身にとっても本作の制作は「再生の物語」だったのでしょう) 、橋口監督はとても素敵な贈り物を世の人々に届けたものだと思う。感謝。

 再び絵筆を取る翔子

【ぐるり】自分の身のまわり、自分をとりまくさまざまな環境

【俳優陣のこと】
これが映画初主演と言う木村多江とリリー・フランキー。二人の演技とは思えない自然体が、普通っぽさが、作品を我がことに引き寄せて見られる効果を生み出しているように思う。この二人を主演に起用した時点で、この映画は8割方(って数値には根拠はないです)成功したと言って良いのかもしれない。木村多江の清楚な、”和”な美しさ(特に二の腕が美しい)は得難いものだよなあ…最近の報道によれば、2月に第一子を出産した彼女は、切迫流産の為に8カ月もの間入院したのだとか。プライベートでは大変な思いをされていたのだね。どうぞ、お大事に。またリリー・フランキーの近年の活躍には眼を見張るものがある。「ココリコ・ミラクル」では下ネタ、エロ・ジョーク連発で、どう見てもヘンなオヤジだったが、その実、撮影中監督を最も励まし、支えた人物と橋口監督が告白したこともあって、私の中でリリー株は上昇中(笑)。脇を固める倍賞美津子や寺島進、榎本明、寺田農らベテラン勢もいぶし銀の演技で、映画の質を高めてくれたように思う。

【自分に引き寄せて考えると…】
生真面目さ、几帳面さは、周りの人間に圧迫感を与えるだけでなく、時として自らを必要以上に縛り、行き過ぎると自らの首を絞め、自らを追いこんでしまう。「もっとゆる~く生きようよ」「もっと大らかに生きようよ」と、リリー・フランキーの存在自体(それはあくまでもコチラが勝手に抱いているイメージなんだけれども)が、演技を超えて語りかけて来るような気がした。ねぇ、聞いてる?Yちゃん。

何があっても壊れない絆… 

「ぐるりのこと」公式サイト
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