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新聞店のチケット・プレゼントで「ジャコメッティ展」のチケットを2枚いただけたので、今日、夫とふたりで見て来ました。
先日、大盛況のうちに会期を終えたミュシャ展に続き、国立新美術館開館10周年を記念しての、20世紀を代表する彫刻家の大回顧展です。
アルベルト・ジャコメッティは、一目見て彼の作と分かる比類なき作風を確立したという意味で、美術史に名を残す偉大な作家のひとりと言えるでしょう。
ところで、一般鑑賞者にとっての現代美術の難しさは、ひとつには、作品の中に作家の思想も率直に投影されている点にあると私は思っています。
創作するにあたって、単純に対象をあるがままに造形したり、美しさやそれを見ることを通して得られる心地よさを追及するのではなく、時に作家の思索(または創作上の試行錯誤)のプロセスを赤裸々に曝け出した作品は、必ずしも一般で言うところの"美しい"ものではなく、また、"分かり易い"ものでもなく、見る者を困惑すらさせるものです。
これは、ひとつには時代的に、"表現者たち"がジャンルを超えて積極的に交流した結果なのでしょう(その萌芽は既に19世紀には出ていました )。芸術家も創作を通して"哲学する"のが当たり前の時代。特に当時、芸術文化の中心地であったパリには世界中から数多の才能が集まり、さぞや作家の感性を刺激し、思索を深める環境にあったことでしょう。
今回の回顧展では、ジャコメッティのごく初期の油彩画をはじめ、数多くの素描、またサイズは極小から2m近いものまで、スタイルはキュビズムからプリミティブ、シュルレアリスムを経て多くの人が認識する、いかにもジャコメッティ的な縦に引き伸ばされた独特の人物像までと、大小多彩なブロンズ作品を展示して、その全貌を余すことなく見せてくれています。
「本展は、日本で開催されるジャコメッティ展では11年ぶりの個展であり、初期から晩年まで、彫刻約50点、絵画約5点、素描と版画約80点が出品」(公式サイトより)
ひとりの作家の回顧展を見る度に思うのですが、個々の作品のキャプションに、その作品が作家が何歳の時に創作したものなのか明記してくれたら、その作品が作家の創作人生の中でどのように位置づけられるのかのヒントになるのではないでしょうか?
印象的だったのは、素描が単なる下絵ではなく、何度も荒々しく重ねられた線が、そのまま彫刻作品に反映されていたこと。彼の一連の彫刻作品の特徴的な表面の質感は、素描の中で既にはっきりと明示されている。これは面白いなあと思った。
彼は自身の目で見た対象を、ひとつのアート作品として昇華させるのに相当腐心したようですが(そのことは、素描における人物の顔に描かれた夥しい線からも感じられます)、本展覧会で彼の作品の変遷を辿ると、彼は一般の人間には想像もつかない特異な視点で、対象を見つめていたのかなと推量します(夫はほんの数センチの高さの極小のブロンズ像を見て「彼は頭がおかしかったんだよ」と言い切っていましたが…
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そもそも美術作品を見るということは、作家の目を通してこの世界を見直す、と言うことでもあるので、ジャコメッティが創り出す作品の特異性は、大変興味深いものでした。見る角度によって、作品の見え方と言うか、作品から得る印象が全く変わるのが本当に面白かった。特にジャコメッティ作品は真横から見るのが楽しい。
立体である彫刻をさまざまな角度から見る楽しみを存分に味あわせてくれるのが、ジャコメッティの作品の真骨頂だと思いました。
なお、この展覧会でも、一室のみ展示作品の写真撮影が可能となっています。しかし、解説パネルの撮影や、フラッシュ撮影は禁じられています。下記の写真はそこで撮ったものです。
会期は9月4日(水)まで。
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お土産に「クリアファイル」と(ジャコメッティが描いたポスター画の)「絵葉書」と(代表作である≪歩く男Ⅰ≫の)「しおり」を買いました。
展覧会が始まって最初の日曜日とあってか、まだそれほど混雑しておらず、客層は一般の美術ファンと言うより"自身がアーティスト"と思しき人が多く、作家としての視点で展示作品をじっくり鑑賞している姿が印象的でした。
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展覧会の後は1階のカフェでひと休み…ここでは美術館の建物も鑑賞の対象です(笑)。
こうして見ると、黒川紀章さんも"いい仕事"をされたのだなと思う。四角い大きな箱の展示室と、前面ガラス張りで開放感溢れる吹き抜け空間のホールとのギャップが面白い美術館です。
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下の写真は、近隣の六本木ヒルズの展望室から見た美術館の外観です。
外から俯瞰して見ると、後方の無機質な大きなコンクリートの箱を、ファザードの波打つような曲線のデザインで、柔らかく包み込んでいるような趣が良いですね。
建設から10年を経て、周囲の植栽も心地よい緑陰を作るようになり、漸く全体的に調和のとれた建物となったような気がします。
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