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新宿・損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の『ベルト・モリゾ』展(原題:Berthe
Morisot A Retrospective;直訳すると「ベルト・モリゾ回顧展」ですね)を見て来ました。この展覧会は本邦初の本格的なベルト・モリゾの回顧展であり、個人蔵の作品を中心に約60点を展示と言いますから、この機会を逃すともうなかなか見られない作品が多数あることでしょう。その意味で、印象派を代表する女流画家でありながら、これまで巨匠らの陰に隠れて顧みられることの少なかった彼女の画業を展観する貴重な機会と言えます。
エドゥアール・マネ作《ベルト・モリゾ像》
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ベルト・モリゾはエドゥアール・マネの弟ウジェーヌの妻で、マネが描いた彼女の肖像画は有名ですが、"上流階級の女性"が職業を持つことなど許されなかった時代、ましてや職業画家として活躍することなど夢のまた夢だった近代フランスにおいて、理解ある家族のサポートもあって結婚後も画業を続けることが出来た(同じく絵を学んでいた姉は軍人との結婚を機に筆を折っている)希有な印象派の画家なのです(ベルト・モリゾに先立つ18世紀に活躍した女流画家の一人マリー=ガブリエル・カペは非上流出身者だからこそ許されたのでしょう)。
実際に彼女の作品を見てみると、彼女ほど印象派の画家らしい画家はいないのではないかと思えるほど、一時期、彼女の軽快で伸びやかな筆致は印象派の特徴を明晰に備えていました。展覧会では家族を描いた作品が多く、その明るい色彩の幸福感に溢れた世界がカンヴァスに広がっている。しかも彼女は第一回印象派展から、愛娘出産の翌年を除き、全ての印象派展に都合7回参加しているんですよね。モネ(5回)やルノワール(4回)よりずっと多い。
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展覧会場に入って最初の部屋には姉エドマが描いた、ベルト・モリゾ像があります。その作品を見る限り、姉も才能豊かな女性だったようです。にも関わらず、彼女は軍人の夫との結婚を機に絵を描くことを断念。それは映画『ミス・ポター』でも描かれていたように、当時英仏を問わず、上流階級の女性を取り巻く環境は前近代的で、キャリアを築くことが困難であった時代を象徴するものでした。この作品を見ると切ない思いがこみ上げて来ます。一方妹のベルト・モリゾは夫亡き後も友人達の支援を受け絵を描き続けることができたらしく、その幸せな画家としての人生が、展覧会会場の作品のひとつひとつに感じられました。
この美術館では以前から図録の他に、安価(350円)のジュニア版ブックレットを販売しており、今回のブックレットも図版が豊富で、その内容はスクール・ギャラリー・トークの参考になりそうなものでした。「図録はちょっと」とその購入を躊躇う人にも、このブックレットはオススメ。コンパクトで子供向けながら、内容はけっして妥協していません。今回は(?)一般の女性をターゲットにしたと思しきA4サイズ大の数ページからなる冊子(500円)もあったのですが、その中に”ベルト・モリゾが描いた風景画に見るセレブな生活”というような見出しで彼女が描いた風景画が数枚紹介されたページがありました。こういう作品へのアプローチの仕方ってどうなんでしょう?何だかいかにもミーハーな感じで、私はあまり魅力を感じないなあ。もし作り手に”女性はセレブが好き”という思いこみがあるのだとすれば、それは誤りだと言いたい。鑑賞者はもっと純粋に(素直に?ストレートに?)ベルト・モリゾの作品世界を楽しんでいると想像するから。もし図録とブックレットの中間を目指すものなら、もっと内容に深みを持たせた方が、大人の鑑賞に耐え得るものになると思います。現状の内容では、コストパフォーマンスの点から見てもブックレットを選ぶ人が多いのでは?これは同行していた夫も同意見でした。
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会期は11月25日(日)まで。一般観覧料1000円です。
因みに常設展示はゴッホの《ひまわり》、ゴーギャン《アリスカンの並木道、アルル》、セザンヌ《りんごとナプキン》でした。