最近新しいデジカメを購入した。いつもはフィルムで写真を撮る私は、普通のデジカメでは面白くないので、ちょっと変わったカメラを購入することにした。カシオから販売されているそのカメラは、撮影をするレンズ部分と、イメージを見るディスプレー部分が分離する構造になっている。二つのユニットは無線通信ができるようになっているので、少し離れたところにあるレンズユニットに写っている映像を、手元で確認しながら撮影することができる。山登りなどのフィールドでの写真やムービーの撮影で活躍しそうなデジカメである。
そのカメラのもう一つの機能が、タイムラプス撮影である。要するに決められらた時間間隔、例えば5秒とか1分とかの時間ごとにパチリと写真を撮っていく機能だ。定点観測的な撮影や移動しているときの様子を後から時間を縮めてみることができる。これも楽しそうである。
今日は、出張で新幹線に乗って郡山まで行った。ふと思いついて、新幹線の窓からの景色をコマ撮り撮影してみることにした。時間にして2時間にもいかないくらいの時間だから5秒間隔で写真を撮り続けてもメモリは十分足りるはず。小さなレンズユニットを窓際においても殆ど気が付く人はいない。時々撮影中を示す赤いLEDが点灯するだけで、郡山に到着するちょっと前まで撮影を行うことができた。
写った数百枚の写真を、パラパラ漫画のような映像に変換してみると、停車駅で止まる映像を挟んで東京から郡山までの景色がすごい勢いで流れていく。当たり前といえば当たり前の映像である。でも、もうちょっと詳しく見てみると面白いことに気が付いた。つまり、新幹線のすぐ外の電線や近くの家のような景色は、それぞれのコマ間に関連がなく意味のある映像としては認知されないのに対して、例えば空に浮かぶ雲は、コマをまたがって撮影されるので、パラパラ漫画で見ても徐々に動いていく映像として見える。更に遠くの雪をかぶった山々は、パラパラ漫画の中でもあまり動いていないように同じ場所に映っていた。まあ、当たり前といえば当たり前の話である。
パラパラ漫画のように写真をたくさん撮影すると、目の前で起こっていることが単純に時間を圧縮して見えると普通は思うのだが、実際はそうではない。自分と対象との相対的な速度と、サンプリングをする間隔にによって、ある特定のスピードで動く対象しか知覚されないのだ。新幹線の窓から意味のある変化として見えたのは、近くの雲のような(多分数キロメートルから10キロメートルくらいの距離にある)対象であり、それより近いものはランダムな映像ににしかならず、逆に数十キロメートル以上離れた山々は動かない対象としてしか見えなかった。
まあ、新幹線の窓から撮った景色のパラパラ漫画くらいで、そんなにごちゃごちゃ言わなくてもいいのだが、物事というものは、どのように見るかということによって案外いろんな見え方をするということに注意をした方が良いと思うのだ。例えば最近はやりのビックデータ、とにかくたくさんデータを集めれば、今まで見えなかったいろんなことが見えてくるという。それはそれで間違いはないのだけれど、データのとり方や、処理の仕方によって、見えてくる意味というのは必ずしも一つではないと思う。新幹線の窓から見える景色も、もっと早くサンプリングをすれば、もっと近いところの景色がパラパラ漫画で見える様になるし、逆にゆっくりサンプリングをすると、遠くの山が徐々に動いていくように見えるようになるに違いない。もちろん、私たちは本当は景色の中を新幹線が疾走していることを知っているので、どのパラパラ漫画を見ても誤解をすることはないだろう。でも、未知の対象相手のデータを分析している時に、こういうことが起きたらどうだろうか。話はそれほど簡単ではないかもしれない。