四十年前。田舎を離れ姫路に就職。ひとりアパートを借りて暮らし始めた。
田舎は家の内風呂だったが、安いアパートに風呂などない。それまでドラマや噂でしか知らなかった銭湯が必要になった。
高い煙突と暖簾を目当てに探した。姫路駅の裏手に見つけたが、田舎者が初めて暖簾をくぐるのだ。かなり勇気を要した。
番台におばさんがいた。別に「いらっしゃい」などと迎えてくれないのに戸惑った。
「すみません。初めてなんですが……?」
おどおどした若者に、おばさんは急に相好を崩した。銭湯の利用方法を丁寧に優しく教えて貰い、田舎の母親を思い出した。
「どうだった?気持ちよかったでしょ」
帰りがけに声をかけてくれたおばさんに、笑顔を返せた。人怖じしがちな田舎者が、銭湯のおばさんに心を開いた瞬間だった。
駅の再開発で、あの銭湯は跡形もなくなった。でも記憶にちゃんと残っている。
田舎は家の内風呂だったが、安いアパートに風呂などない。それまでドラマや噂でしか知らなかった銭湯が必要になった。
高い煙突と暖簾を目当てに探した。姫路駅の裏手に見つけたが、田舎者が初めて暖簾をくぐるのだ。かなり勇気を要した。
番台におばさんがいた。別に「いらっしゃい」などと迎えてくれないのに戸惑った。
「すみません。初めてなんですが……?」
おどおどした若者に、おばさんは急に相好を崩した。銭湯の利用方法を丁寧に優しく教えて貰い、田舎の母親を思い出した。
「どうだった?気持ちよかったでしょ」
帰りがけに声をかけてくれたおばさんに、笑顔を返せた。人怖じしがちな田舎者が、銭湯のおばさんに心を開いた瞬間だった。
駅の再開発で、あの銭湯は跡形もなくなった。でも記憶にちゃんと残っている。