こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

へたれたち・2

2016年05月24日 23時52分33秒 | 文芸
表情もはっきりしない距離だが、何かしゃべくりあっている。休憩は確かだ。

「こっちも休もか」

「そやな。わしらだけ働いてるのんも、なんやもんな」

損得をはっきり口にしなくても、向こうが休めばこちらも休むのが当然だと打算が働く。まして仕事じゃない奉仕活動なのだ。いったん尻を降ろすと、だらだら半時間以上休むのが常である。

「○○はん。お宅の娘はん、いっつも朝早いのう」

「遠いとこの学校やで、しゃーないねん」

 すぐおしゃべりが始まる。村の男たちはよくしゃべる。もともと無口で付き合いの悪い僕も、ここは無理して話し相手になる。

「みんな年寄りばっかりになってもうた」

「若い子ら外に出たら帰って来よらんさかいなあ」

「そんな時代やからのう」

 僕の息子らも遠くで就職して戻らなくなった。大学時代は、盆正月や祭りには必ず帰郷したのに。彼らは巣立ってしまった。

「△△はん、入院したらしいやん。癌やと」

 深刻な話題に飛ぶ。話の種は多岐にわたる。男たちの話を耳に入れて、いっぱしの消息通になるって勘定だ。

そんな中、役員は忙しい。草刈り機の燃料を軽トラの荷台に積み、各部署をくまなく走り回る。燃料切れは仕事の遅滞につながる。

計画通りに作業を済ませないと「後は役員はんに任せたわ」だ。たまったものじゃない。

「役員は仕事したらあかん。みんなに仕事さすんや。楽して元取るんが役員や。覚えとき」

 何年か前に僕が役員に着いたとき、前任者に念押しされた。(役員は仕事をしたらあかんのや)何度も復唱したものだ。

「ご苦労さんです。ガソリンあるやろか?」

 正確にはガソリンではなく、混合ガソリンだ。草刈り機のタンクは小さい。燃料はすぐなくなる。「シュポシュポ」と手動ポンプでタンクを満たす。ちょうど満タンは難しい。多少こぼしてしまうのは、いつも通りだ。

「よその村は、来週作業するらしいですわ」

「そらそうや。ゴールデンウィーク中に、若いもんも出にくいやろさけ」

「うちも、変更したらええ思うんやけど」

 役員も立ち話を始めた。こうしてとりとめもなく話は続く。結論は出ない。

「ほなら、あともう少しだけでっさかい、よろしゅう頼んます」

 頭を下げて役員は次に向かった。普段あんな低姿勢はめったに見せまい。役員はつらいものだ。体験者として、同情を禁じ得ない。

「よっしゃ。ほな気張りまっか」

「あと二時間ほどや。すぐ終わりますわな」

 作業を頑張ろうという気はない。とりあえず予定時間まで程らいでいいと思っている。帳尻さえ合えば文句はないだろう。それが共同作業のやり方だ。
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へたれたち

2016年05月24日 01時14分19秒 | 文芸
「おかしいな?点火プラグは火花が出とるんやけどなあ……?」

 JAの職員が頭をひねっている。専門家でない僕がわからなくて当然だ。

五月一日(日)、ゴールデンウィークに地区で道普請が予定されている。その日のために草刈り機(刈払い器)を物置から出す。冬場には出番がない。さて使うとなると、だいたい動かない。うんともすんともいわない。まあ手入れが悪いせいだ。あちこちいじってみるが駄目だ。急いでJAに駆け込んだ。とにかく間に合わせなくてはと焦りが募る。

草刈り機の保管には、まず燃料を空っぽにしておく。始動させてエンジンを停めずにおく。燃料を使い切るのだ。ずぼらな僕には、それが待ちきれない。

結果、中途半端な状態で納屋に放り込んでしまう。それで動かなくなる。血液どろどろの人間みたいなものだ。わかっちゃいるけど、こればかりは無精者には、どうしようもない。

「新しいのんつけたら、動くわ。古いプラグ、パワーが落ちてるのう。替えとくで」

 プラグを新しくすると、あっさり解決した。それで千円ちょっとの出費。痛い!でも、これで間に合う。

「ブルルルル、バリリバリバリ……!」

(なんや?)

朝五時。草刈り機の爆音で目が覚めた。なんとお隣が事前の試運転をやっている。いや~!迷惑この上ない。試運転は前の日までにやっておくべきだ。無精者の僕でさえ、前日にちゃんと動かしてみた。

八時に営農倉庫前へ集合する。農会(町内会のことをわが田舎ではそう称している)の総勢二十数名。かなりの頭数だが、顔ぶれは年々老けていく。中には車いす生活になって、参加がままならなくなったものもいる。わが身もいつまでもつのか保証の限りではない。それでも田舎暮らしを支えるのは、住人の助け合いである。

「作業は事故に気を付けてください。早く終わった班は遅れてるとこへ助っ人に……」

いつも通り役員からの注意指示。役員は、いまや僕の孫世代。顔も名前も、まずピンと来ない連中だ。頼りなさを感じるのも致し方がない。打ち合わせが終わり、ぞろぞろと担当部署へ散る。肩に担いだ草刈り機が重い。

あちこちでエンジン音が上がる。草刈りの始まりだ。機械は無情だ。操作する人間の都合などお構いなし。エンジンを止めない限り、草を刈り続ける。無駄話など論外だ。

(……!)

普段おしゃべりな男たちも、黙々と作業に没頭する。

「あっち、はやへたってるやん」

 村道の路肩を右と左に分かれ、草刈りを進めていた相棒が、ジェスチャーでエンジンを停めさせた。彼が指さす方を見やると、土手の上に座り込んでいる男たちが数人。のんびりとした光景だ。
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