こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

え?

2016年05月23日 00時25分08秒 | 文芸
ふと油断してしまった。

振り返ると、

モモはとことこと

家の庭先を突っ切っている。

飼って十三年、

かなり高年齢だ。

とんと生気がない。

散歩もかなり時間がかかる。

「モモの体汚れてるから、

手入れお願いよ」

 言われなくてもその気だった。

妻はいつも指示するだけ。

だったら任せておけよと思う。

そんな軽い反発が、

気のゆるみにつながった。

 伸びて見苦しい体毛を刈り揃えて、

洗ってやろう。

潤んだ目で

キョトンとするモモ。

「じっとしてろよ。

綺麗にしてやるから」

 鎖を外す。

座ったまま見上げるのに軽く頷いてやった。

通じているとの思い込み……?

 バケツに水をくみ、

ハサミとクシを取り出す。

タオルも用意。

さあ、

お待たせ。

それが!

「え!」

 意表を突かれて、

頭が働かない。

「おい、

モモ!

待てよ」

 追いかけた。

もうかなり遠くに、

どんどん茶褐色の塊が離れていく。

あんなに元気なんだ。

余計な喜びを感じる。

老犬だ。

すぐに追いつけるとの思い込み……?

それが禍した。

「犬は寿命の終わりを

敏感に察しよるんよ。

静かに誰もおらん場所へ

姿を消しよる」

 小さいころ祖母に教わった。

遠い記憶がよみがえる。

そんなことないよな、

モモ。

まだ俺とお前の時間は

残っているんだ……?

ひとりで行っちまうなよ!

モモ!

 立ちすくんだ。

……(?)

視界に入るもの。

あいつだ!

とことこ歩いて来る。

バカ!
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