こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

ギックシャック

2016年05月26日 23時47分04秒 | 文芸
 長女が昨年結婚した。

 式場は神戸の港近く。

チャペル形式で行うという。

朝早くから神戸入りして

その時を待った。

時間が来ると

係の女性に案内されて

着替え室へ。

モーニングに着替えて

控室へ移る。

 すぐに係の女性から

説明があった。

「結婚式で花嫁入場に

父親のエスコートを

お願いします」。

そんなことは

聞いていなかった。

心の準備はできていない。

晴れがましい厳粛な場で

失敗したらどうしよう。

焦りが生じる。

 リハーサルで会場に出向くと、

ウエディングドレス姿の娘がいた。

こちらを見返った彼女は

素敵な花嫁だ。

自分が知る娘は、

メークと衣装で

見事な変身を遂げている。

 バージンロードを一歩一歩、

花嫁に腕を貸して歩く。

緊張で動きはぎごちない。

どうにか

神父と新郎が待つ中央祭壇に

たどり着いた。

新郎に新婦をゆだねて、

やっとお役ご免だ。。

 席につき花嫁を見た。

幸せの第一歩を前にした花嫁は

華やかに輝いていた。
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へたれたち・完結

2016年05月26日 00時11分36秒 | 文芸
終了予定は十一時だが、三十分前には担当範囲を大体刈り終える。また尻をおろす。

「○○はんとこ、嫁はん出て行ったそやな」

「へえ。あない仲よかったんにけ?」

 噂に挙がったのは、同年輩の男。市役所に勤務し、部長まで上りつめている。定年退職した後も外郭団体に迎えられたと聞く。嫁さんは看護師である。

 夫婦二人で村の中のウォーキングにいそしんでいる姿を、よく拝見した。それが三か月ほど前から、男一人で歩いている。

「女遊びがバレたんよ。そら、そないなったら、もうしまいじゃ。嫁はん気ィー強いでの」

「そら、えらいこっちゃがな」

 相槌を打って、相手に機嫌よく喋らせる。それが田舎で暮らすための処世術だ。情報もスムーズに手に入る。

「もう終わってもうたらええです」

 さっきの役員だった。いつの間にか軽トラを脇に停めている。気づかなかった。

「他は段取りよう終わったんかい。遅れとるとこあるんやったら、手伝いに行くよって」

 口は重宝だ。自分の担当部署を済ませてげんなりしているから、その気は毛頭ない。本音と建て前を使い分ければ、田舎でつつがなく生き抜ける。

「ほなら、帰ろか。昼から溝浚えやでのう」

「しんどいこっちゃ」

「続けざまはきついわ」

 愚痴りながら帰途に着いた。

他の地区は道普請と溝普請を分けて、二週間がかりでやる。わが地区は一日でやっつける。ゴールデンウィークさ中に、二日も村の行事に休日をとられるのはかなわない。「いっぺんにまとめてやらんかい」と決めたのは僕らの世代。多数決だった。若かったから、目先のことだけ考えていた。

ところが年を取ると、一日ぶっ通しの作業はきつくなった。つらい!しんどい!朝八時から十一時過ぎまで道普請(草刈りが主)で、昼一時から四時まで溝普請(草刈りと溝さらえの作業)である。溝浚えはかなり大変だ。

「猪の奴、ミミズあさって、地面を掘り返すさかい、溝が土で埋まってしもとるわ」

「かなんのう。溝ん中の土上げるん、ちょっとやそっとで済むはずあらへんがい」

 誰もが憤懣やるかたなしだ。口々に猪を責める。その場にいないやつは悪者にされる。

現況が散々なのに、頼りにしたい若者が少ない。彼らは都会に出て帰らない。わが村は高齢化社会を先行している。限界集落への道も他人事でなくなる恐れは充分だ。

一時過ぎ。えらくいい天気になった。ちょっと暑いくらいだ。これが一番こたえる。半日の作業を終え、もうクタクタなのに、午後の作業は否応なしだ。それに暑さが加わる。考えるだけでやる気は失せてしまう。

「ボチボチ行ったろか。溝浚えがおっつかなんだら、助っ人よこしてくれるわいな」

 相棒は開き直っている。

 ボチボチ行くどころか、出来れば、そこらに寝転がってしまいたい。

やはり現実に応じた変更は絶対必要だ。

ただ誰かが言い出しっぺにならないと、事は始まらない。田舎の人間は何やかや言っても保守的だ。一度決まったものをひっくり返すのは並大抵じゃない。結局長いものに巻かれろとなってしまうのがオチなのだ。

「腰痛いわ。ちょっとひと休みしはらへん?」

 相棒が早くも音を上げている。まだ四十半ば、私より二十は若い。なのにだらしない。

「そないしょーか。ほんまに足腰がもたへん。誰も年には勝てんねんやから」

「うちの息子、就職決まりましてん……」

 あえて聞きたくもない身内話が始まる。このまま時間が過ぎれば御の字だが、そうはいかない。まだきつい作業が「早くせーよ!」と目の前でほくそ笑んでいる。

顔を手でゴシゴシと撫でこすった。……ああ…しんど~!。日差しがやけに強い。


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