WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

タイニー・バブルス

2010年11月27日 | 今日の一枚(S-T)

●今日の一枚 292●

Southern All Stars.

Tiny Bubbles

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 先日、金子晴美の『SPECIAL MENU』を聴いてから、何だか急に懐かしくなり、サザンオールスターズの古いアルバムをいくつか聴いてみた。私は、サザンの良い聴き手ではない。ずっとフォローしてきたわけではないからだ。1980年代後半以降、テレビやラジオから流れてくる以外はほとんど聴いたことがない。興味がなくなってしまったのだ。確かに、桑田佳祐の作曲能力は確かに向上していると思うし、サウンドも洗練されていった。けれども、何というか、きれいすぎるのだ。予定調和的といってもいいかもしれない。何か新しいことをやってやろうという気概が伝わってこず、初期の作品がもっていたワクワク感やドキドキ感を感じることができなくなったのだ。

 さて、サザンオールスターズの3枚目のアルバム、1980年作品の『タイニー・バブルス』である。よくできたアルバムだ。荒削りではあるが、革新的で清新な気風に満ちている。何か新しいことをやってやろうという爽やかな遊び心が充溢している。当時、サザンは、“FIVE ROCK SHOW”と銘打った企画をおこなっていた。テレビなどには一切出ず、楽曲製作やレコーディングに集中し、5ヶ月の中で毎月1枚ずつシングルを出すというものだった。メディアへの露出がなくなったためヒット曲はなくなったが、当時桑田佳祐がラジオで「オールナイトニッポン」のパーソナリティーをつとめており、その中で、アルバムの制作状況や音楽への思いを語り、時には新曲の発表も行っていた。当時の私は、それを聴くのが楽しみだった。

 ⑤涙のアベニュー。不思議な曲だ。先の「オールナイトニッポン」で桑田が4コードブルースといってこの曲を紹介したのを今でも憶えている。その時にはさほどいい曲だとは思わなかったが、年齢を重ねるごとにこの曲が心にしみてきた。サビの部分か何ともいえずいい。今では、サザンの中でも最も好きな曲のひとつである。⑨C調言葉に御用心。最高にゴキゲンな曲である。ああ最高だ。低い声で歌う出だしの部分がいい。そのトーンが身体の何かに共鳴し、アップテンポの曲なのに心が落ち着く。⑪働けロックバンド。テレビ出演に追われていた彼らの苦悩と哀しみが表出されており、ある意味コミカルだが、不思議な哀しみを湛えている。歌詞に聴き入ってしまう。

 アルバム全体に、あの1980年代初頭の空気が充溢している。荒削りではあるが、「快作」いや「傑作」というべきだと思う。たまには、昔の曲を振り返って聴くのも悪くない。