故郷の駅は小さな終着駅、
駅前は商店どころか民家も無い、草生して殺風景な休耕田が広がる
それでも駅を出て数分もすると遠浅の白い砂浜と太平洋に突き出た岬の先に
青い海が広がる
空にはピーピーヒョロ、風にまかせて優雅に空を舞うトビが鳴き
頬に暖かい湿った風が吹き付ける
錆びれた一両編成のディーゼル機関車の乗降客はほとんどいない
たまの乗客は88か所を巡るお遍路さんか鉄道マニアの若者
廃れた駅はそれでも盆暮れだけは数人の地元の帰省客が利用する
僕もそのうちの一人だ
この駅でいつも東京に戻るたびに母が見送りに来た
すっぱいおにぎりにお茶のペッドボトルをたせてくれて
そしていつも汽車が見えなくなるまでホームに立っていた
年に1度か2度たったこれだけの光景が繰り返された
学生だった僕
社会人になった僕
家族を持った僕
そのたび汽車の窓から故郷の駅が見えなくなるまで母はホームに立っていた
しかし、ここ数年ホームから僕を見送る人は誰もいなくなった
母はホームに立たなくなった
駅のホームに自分自身に過ぎ去った歴史と共に母にも老いが訪れた
故郷の終着駅を出た汽車は海岸線の線路を走る
トンネルを抜け山と山の間、広い海に視界が開けた時
海辺の高台に建つ母が入居する白い老人ホームが見える
あっと間に視界をよぎるその建物と
いつまでも駅で見送ってくれた母の姿が重なった
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