安全問題研究会(旧・人生チャレンジ20000km)~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

公共交通と原発を中心に社会を幅広く考える。連帯を求めて孤立を恐れず、理想に近づくため毎日をより良く生きる。

当ブログのご案内

当サイトは列車の旅と温泉をメインに鉄道・旅行を楽しみ、また社会を考えるサイトです。

「あなたがすることのほとんどは無意味でも、あなたはそれをしなくてはなりません。それは世界を変えるためではなく、あなたが世界によって変えられないようにするためです」(マハトマ・ガンジーの言葉)を活動上の支えにしています。

<利用上のご注意>

当ブログの基本的な運営方針

●当ブログまたは当ブログ付属サイトのコンテンツの利用については、こちらをご覧ください。

●その他、当サイトにおける個人情報保護方針をご覧ください。

●当ブログ管理人に原稿執筆依頼をする場合は、masa710224*goo.jp(*を@に変えて送信してください)までお願いします。

●当ブログに記載している公共交通機関や観光・宿泊施設等のメニュー・料金等は、当ブログ管理人が利用した時点でのものです。ご利用の際は必ず運営事業者のサイト等でご確認ください。当ブログ記載の情報が元で損害を被った場合でも、当ブログはその責を負いかねます。

●管理人の著作(いずれも共著)
次世代へつなぐ地域の鉄道——国交省検討会提言を批判する(緑風出版)
地域における鉄道の復権─持続可能な社会への展望(緑風出版)
原発を止める55の方法(宝島社)

●管理人の寄稿
規制緩和が生んだJR事故(国鉄闘争共闘会議パンフレット「国鉄分割民営化20年の検証」掲載)
ローカル鉄道に国・自治体・住民はどう向き合うべきか(月刊『住民と自治』 2022年8月号掲載)
核のない未来を願って 松井英介遺稿・追悼集(緑風出版)

●安全問題研究会が、JRグループ再国有化をめざし日本鉄道公団法案を決定!

●安全問題研究会政策ビラ・パンフレット
こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

東電刑事訴訟、東京高裁での控訴審開始が11月2日に決定

2021-06-30 21:35:30 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
東電旧経営陣の強制起訴 2審は11月から(NHK福島ニュース)

-------------------------------------------------------------------------------
福島第一原発の事故をめぐり、強制的に起訴され1審で無罪を言い渡された東京電力の旧経営陣3人の2審の裁判が、ことし11月から始まることになりました。

東京電力の▽勝俣恒久元会長(81)、▽武黒一郎元副社長(75)、▽武藤栄元副社長(71)の3人は、原発事故をめぐって検察審査会の議決によって業務上過失致死の罪で強制的に起訴され、無罪を主張しています。

1審の東京地方裁判所はおととし9月、「巨大な津波の発生を予測できる可能性があったとは認められない」などとして3人全員に無罪を言い渡し、検察官役の指定弁護士が控訴しました。

東京高等裁判所は2審の裁判について、ことし11月2日に1回目の審理を開くことを決めました。

指定弁護士はすでに控訴の理由をまとめた書面を提出していて、「1審判決は、万が一にも事故を起こしてはならないという社会通念にも著しく反する」などと主張しています。

1審判決から2年余りの準備期間を経て、改めて旧経営陣の責任を問う裁判が開かれることになります。
-------------------------------------------------------------------------------
東電強制起訴、11月に控訴審 福島原発事故巡り、旧経営陣3人(共同)

 東京高裁は28日、福島第1原発事故を巡り業務上過失致死傷罪で強制起訴され、一審で無罪となった東京電力の勝俣恒久元会長(81)ら旧経営陣3人の控訴審初公判を11月2日に開くと明らかにした。他の2人は武黒一郎元副社長(75)と武藤栄元副社長(71)。刑事責任の有無が改めて審理される。

 2019年9月の一審東京地裁判決は、国が02年に公表した国の地震予測「長期評価」の信頼性を否定。「津波を具体的に予見し、対策工事終了まで運転停止すべき法律上の義務はなかった」として、3人を無罪とした。

 検察官役の指定弁護士は控訴趣意書で、一審判決の判断は誤りだと主張している。
-------------------------------------------------------------------------------

東京第1検察審査会の起訴相当議決による強制起訴を受け、始まった東京電力旧経営陣3人の刑事訴訟は、2019年9月、東京地裁が全員無罪の判決。検察官役の指定弁護士が東京高裁に控訴した後はしばらく動きがなかったが、このたび、控訴審(第1回公判)が11月2日に行われることが決まった。

これを受け、福島原発告訴団・福島原発刑事訴訟支援団は7月上旬にも、現場検証を求める署名を第1次集約し、提出する方向とのこと。まだ署名していない人はできる限り早めに行ってほしい。

ネット署名……東電元会長らの強制起訴事件「福島原発刑事裁判」で 東京高裁の裁判官に現場検証を求めます。

しかし、当ブログ管理人が疑問に思うのは、福島県地元紙・福島民報、福島民友がこの控訴審決定をまったく報じていないことだ。自分の県で起こった事故なのに、東京の裁判所で行われる東京の企業の裁判だから関係ないと思っているとしたら、地元紙としての役割を放棄しているといわざるを得ない。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【管理人よりお知らせ】東京電力刑事訴訟;東京高裁に現場検証を求めるオンライン署名にご協力ください

2021-06-13 09:12:28 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
管理人よりお知らせです。

福島原発告訴団/福島原発刑事訴訟支援団では、このたび、東京高裁に現場検証を求めるオンライン署名を開始しました。

世界最悪レベルの原発事故を起こした東京電力の事故当時の経営陣(勝俣恒久元会長、武藤栄・元副社長、武黒一郎・元副社長)に対しては、東京第1検察審査会による2度の「起訴相当」議決を受けて強制起訴され、東京地裁で裁判が進められてきました。福島原発告訴団/福島原発刑事訴訟支援団に結集した被害者は、「多くの人が強制避難で故郷を失い、避難できなかった人が死亡し、放射能汚染で生業を失った大事故の責任を、誰一人取らないような日本社会であってはならない」との思いから有罪判決を繰り返し求めてきましたが、2019年9月、東京地裁は全員に無罪という信じがたい判決を下しました。日本の「無責任体質」は、司法をも大きく蝕んでいます。

検察官役の指定弁護士が控訴し、今後、東京高裁で控訴審が始まることになっています。控訴審の日程は現在、決まっていませんが、福島原発告訴団/福島原発刑事訴訟支援団では、東京高裁が福島被災地や福島原発敷地内などを現場検証するよう求めています。東京地裁は、指定弁護士側が行った現場検証の要求を却下しましたが、「事件が会議室で起こっているのではなく現場で起こっている」以上、刑事裁判で裁判官が現場を見ずしてどうして正しい判断が可能になるでしょうか。

東京電力の株主が会社の経営責任を問う「東電株主代表訴訟」では、東京地裁の裁判官らが福島第1原発の敷地内の現場検証を行うことを決めました。帰還困難区域など原発「周辺」の裁判所による現場検証は、避難者が起こした民事訴訟で前例がありますが、原発敷地内まで裁判官が立ち入るのは東電株主代表訴訟が初めてのことで、画期的意義があります。

東京電力の刑事裁判は、被害者への賠償を審理する民事訴訟とは異なり、事故そのものの刑事責任を問うものです。発生原因の精査が必要な刑事裁判でこそ原発敷地内の現場検証が必要と考えます。オンライン署名は、東京高裁にその現場検証を求めるためのものです。ぜひ多くの人の賛同、ご署名をお願いします。

東電元会長らの強制起訴事件「福島原発刑事裁判」で 東京高裁の裁判官に現場検証を求めます。--Change.org

-------------------------------------------------------------------------------------
<参考記事>福島第1原発、裁判長ら視察へ 東電株主代表訴訟(日経)

福島第1原発事故を巡る東京電力の株主代表訴訟で、東京地裁は1日、裁判長らが原発の敷地内を視察すると決めた。事故の責任が争われた刑事、民事の裁判ではこれまで、原発周辺を視察したことはあるが、裁判官が敷地内に入るのは初めて。

原告側によると、視察は10月を予定している。

1日に非公開で開かれた進行協議で、朝倉佳秀裁判長は「東電取締役の過失について判断するため現場を見たい」と理由を説明した。

原告側は訴訟で、福島第1原発の原子炉が海岸に近く、標高も低い場所にあり、立地条件に問題があったと主張。津波を防ぐ水密化の構造にも欠陥があったとして、現地視察を求めた。被告の東電経営陣側は、必要ないと反論していた。

原告側は協議終了後、東京都内で記者会見し「百聞は一見にしかずだ。立地状況や構造的欠陥を直接体感してもらうことは、非常に意味がある」と話した。

東電の旧経営陣3人が強制起訴された刑事裁判では、一審で検察官役の指定弁護士が裁判官による現場検証を求めたが、実現しなかった。〔共同〕

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【緊急呼びかけ】緊急のお願いです。10月2日が収集期限の短期間署名へ、取組みご参加を呼びかけます

2019-09-24 00:49:00 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
【追記】以下の緊急署名行動については、目的を達成したため9月30日限りで終了しました。検察官役の指定弁護士が1審の無罪判決を不服として東京高裁に控訴したためです。

ご協力いただいたみなさん、ありがとうございました。

--------------------------------------------------

福島原発刑事訴訟支援団の会員・支援者のみなさまへ

緊急のお願いです。
10月2日までの判決直後2週間内の署名収集取り組みにご賛同・参加を呼びかけます


9月19日、東京地裁は東電元経営陣に無罪判決を下しました。
結論も内容も、酷い判決です。
福島原発刑事訴訟支援団では、検察官役の指定弁護士の皆さんに、控訴のお願いをする緊急署名をはじめました。

▼【緊急インターネット署名】東電刑事裁判元経営陣「無罪」判決に控訴してください!

控訴期間は2週間です。
10月2日までの短期間の署名です。
SNSでの拡散、MLへの転送、各自最大限の波状アクションをお願いします。

紙ベースの @署名用紙(PDF)も作りました。
印刷して、集めてください。
https://drive.google.com/file/d/1GMlD2ricwO2M9nIiAS2s8yi6YrDGAMHF/view?usp=sharing

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2019年9月19日、東京地方裁判所は、東京電力の元経営陣3名の福島原発事故における業務上過失致死傷の罪について「被告人らは、いずれも無罪とする」という判決を下しました。
この判決は、原発が過酷事故を起こさないための徹底的な安全確保は必要ないという、国の原子力政策と電力会社に忖度した誤ったメッセージであり、司法の堕落であるばかりか、次の過酷事故を招きかねない危険な判断です。

2016年2月29日の強制起訴から、検察官役として指定された5人の弁護士のみなさまは、この重大事故の責任を問うために大変なご苦労をされてきたということを、公判の傍聴を通じて感じており、心から感謝しております。裁判所が配布した判決要旨を読むにつけ、裁判所がこの原発事故の被害のあり方、被告人らの行いに対し、正当な評価をしたとは到底思えません。

私たちは、この判決では到底納得できず、あきらめることはできません。
どうか、指定弁護士のみなさまに、控訴をして頂いて、引き続き裁判を担当して頂きたくお願い申し上げます。

多大な仕事量とそのお働きに見合わない報酬しか、国からは支払われないと聞き及んでいるところを心苦しくはありますが、正当公平な裁判で未曾有の被害を引き起こした者たちの責任がきちんと問われるよう、再び検察官席にお立ち頂けますようお願い申し上げます。

=== 福島原発刑事訴訟支援団 ===
福島県田村市船引町芦沢字小倉140-1
https://shien-dan.org/
infoアットマークshien-dan.org
080-5739-7279

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【福島原発事故刑事裁判第38回公判】日本裁判史上に残る最低最悪の判決で日本の刑事司法は中世から原始時代へ

2019-09-22 22:19:04 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
福島原発事故をめぐって強制起訴された東京電力旧3役員の刑事訴訟。第38回公判(判決公判)の模様を伝える傍聴記についても、福島原発告訴団の了解を得たので、掲載する。執筆者はこれまでに引き続き、科学ジャーナリスト添田孝史さん。

----------------------------------------------------------
●「無罪」 証拠と矛盾多い忖度判決

 有罪は厳しいかもしれない、という予想はあった。しかし刑法上の責任を問うのが難しい結果になるとしても、ここまで判決内容が腑に落ちないものになるとは想像していなかった。唖然とした。

 開廷は2019年9月19日、午後1時15分。永渕健一裁判長は「被告人らはいずれも無罪」と言い渡し、それから午後4時半ごろまで、休憩を挟んで約3時間にわたって、とてもメモを取りきれない早口で判決要旨を読み上げ続けた。

 読み上げを聞いていると、「あの証拠と矛盾している」「そこまで言い切る根拠はどこにあるの」「なに言ってんだ、それ」という疑問が次から次へと頭に浮かんできた。この裁判では、証言だけでなく、電子メールや議事録など、事故を読み解く豊富な証拠を集めていたはずだ。よい素材はあったのに、どうしたこんなまずい判決になったのだろう。

 検察官役の指定弁護士を務める石田省三郎弁護士は「国の原子力行政を忖度した判決だ」と記者会見で語気を強めた。

 判決要旨を聞いて浮かんだ以下の疑問点を整理しておきたい。

・事故を避ける手段は、運転停止だけなのか
・「他社や専門家の意見を聞き、必要な対応を進めていた」?
・「外部から東電の対策について否定・再考の意見は出ていない」?
・「長期評価は取り入れるべき知見と考えられていなかった」?
・ずさんな確率計算で長期評価の信頼性を語る愚策
・原電と東電、どちらが合理的だったのか

●事故を避ける手段は、運転停止だけなのか

 判決要旨では、「本件事故を回避するためには、本件発電所の運転停止措置を講じるほかなかった」(p.13)としている。しかし、日本原子力発電が、東海第二原発で建屋への浸水防止、海沿いの盛り土などの工事に2008年に着手し、震災までに終えていた(注1)。日本原電の元幹部は、NHKの取材にこう述べている(注2)。

 「もし津波のリスクがあるなら、事前に対応しておいて万一津波が来ても、大丈夫なようにしておきたい」

 「長期評価などをもとに、津波がいつかくるというリスクは社内で共有されていたと思う。まずはできる対策をとっていき、大規模な工事は今後順次やっていけばいいという考えだった」

 東電も、運転停止しなくても、「まずはできる対策」から着手することは可能だったはずだ。

もともと、原子力安全・保安院が2008年9月に各電力会社に要請した耐震バックチェックは、従来想定を超える新知見があった場合でも運転停止は必要とされていない。運転しながら、3年以内に補強工事を終えることを求めていた。「新知見が見つかれば、即運転停止して対策工事」のような、強い結果回避策は、社会通念上も要求されていなかった。

 判決のこの点については、識者からも意見が多くだされている。

 山本紘之・大東文化大教授「事故を防ぐためには原子炉停止が必要だったとして有罪認定のハードルを不必要にあげている点にも疑問が残る」(東京新聞2019年9月20日朝刊2面) 

 松宮孝明・立命館大教授「事故を回避する方策として、影響が大きい運転停止だけを検討した点は疑問が残る」と語り、他の対策も認めれば、「予見可能性のハードルは相当低くなっていたはずだ」(朝日新聞2019年9月20日朝刊2面)。

 大塚裕史・明治大教授「事故回避の措置として指定弁護士は原発の運転停止の必要性に焦点を当てたが、実行するのは簡単ではなく、有罪のハードルを高めたといえる。控訴するのであれば、運転停止以外の対策でも事故を防げたと立証できるかが、カギとなるだろう」(読売新聞2019年9月20日朝刊38面)

●「他社や専門家の意見を聞き、必要な対応を進めていた」?

 「安全対策でも適宜社内で検討し、他社や研究者から意見を聴き、行政の考えも踏まえた上で必要と判断される対応を進めていた」(判決要旨p.23)

 しかし、実態は「意見を聴き」ではなく、「東電が決定した方針を了承させる根回し」だったことは、議事録や電子メールで明らかになっている。

 たとえば、東電の高尾誠氏が秋田大高橋先生に面談した時のメモには、以下のように書かれていた。

 「長期評価の見解を今すぐ取り入れないなら、その根拠が必要でないかとのコメントがあった」
 「非常に緊迫したムードだったが、(東電の方針を)繰り返し述べた」(注3)

 こんなやりとりを、「意見を聴いて必要と判断される対応を進めた」とする裁判所はおかしいだろう。

 東電は、東北電力が貞観津波の想定を進めていることを聞き、東北電力に圧力をかけて、その報告書を書き換えさせた事実もわかっている(注4)。裁判所は、こんな悪質な方法も「必要と判断される対応」と考えているのだろうか。

 東海第二で津波対策を進めた日本原電の元幹部が、NHKの取材に対して興味深い証言をしている(注5)。

 「他の電力のことも考えながら対策をやるというのが原則でして。東京電力とかに配慮をしながら、物事をすすめるという習慣が身についている。対策をやってしまえば、他の電力会社も住民や自治体の手前安全性を高めるため対策をとらないといけなくなる。波及するわけです。だから気をつけている」。東電の無策が福島の地元にばれてはいけないから、日本原電は、東電が先延ばしした長期評価津波への対策を、こっそり進めていたというのだ。

●「外部から東電の対策について否定・再考の意見は出ていない」?

 「東京電力の取ってきた本件発電所の安全対策に関する方針や対応について、行政機関や専門家も含め、東電の外部からこれを明確に否定したり、再考を促したりする意見が出たという事実も窺われない」(判決要旨p.24)

 外部から意見を言う前提には、東電の安全対策に関わる情報が開示されている必要がある。ところが、東電は高さ15.7mの津波計算結果(2008年)、高さ10mを超える津波は炉心溶融を引き起こすこと(2006年)など、重要な情報をずっと隠していた。

 専門家といっても、詳しい領域は限られている。地震や津波の専門家は、対策の専門家ではない。津波想定が10mを超えるとクリフエッジ的に被害が一気に拡大するという情報を持っていない。逆に、対策の専門家(プラントの機電側)は、従来想定を超える高い津波を地震学者がすでに予測されていることを知らなかった。そんな状況で、東電の安全対策を否定したり、再考を促したりすることは不可能なのだから、「専門家から意見が出たという事実は窺われない」という判決の指摘は的外れだ。

 保安院は2006年ごろ、東電と日本原電を名指しで「津波想定の余裕がない」「ハザード的に厳しい地点では弱い設備の対策を取るべきなど、厳しい意見が(保安院やJNESから)出ている」として対策を促していた(注6)。行政機関から意見は出ていたのだ。その後、日本原電は対策をしたが、東電は先延ばしを続けた。

●「長期評価は取り入れるべき知見と考えられていなかった」?

 「長期評価の見解は、本件地震発生前の時点において、他の電力会社がこれをそのまま取り入れることもないなど、原子炉の安全対策を含む防災対策を考えるに当たり、取り入れるべき知見であるとの評価を一般に受けていたわけではなかった」(p.30)

国の研究開発法人である日本原子力研究開発機構は、東海再処理工場の津波想定で、長期評価の見解そのままを「採用する」(2008)としていた(注7)。日本原電は、「そのまま」ではなく日本海溝沿いの北部と南部で地震の規模を分けたものの、前述のように長期評価の見解にもとづく対策工事を実施した。

 土木学会津波評価部会も、2009年以降進めていた津波評価技術の改訂作業で、「日本海溝沿いのどこでも津波地震が起こりうる」という長期評価の考え方を取り入れようとしていた。

 判決の指摘は、まったく的外れだ。

●ずさんな確率計算で長期評価の信頼性を語る愚

 「1〜4号機の津波ハザード曲線は、10mを超過する確率が10万年に1回よりやや低い頻度にとどまっており、これは通常設計事象としてとりこむべき頻度であるとまでは必ずしも考えられていない。津波ハザード解析の結果も、長期評価の信頼性が高いことを示していたとは言えない」(p.31)

 この津波ハザード解析は、津波評価部会メンバー(約半分は電力社員、地震の専門家はごく少数)へのアンケート結果をもとにしているから、その結果には限界がある。JNESが震災後に計算しなおしたら、一桁違う値が出ている(注8)。この程度の根拠しかない数値を根拠に長期評価の信頼性を判断するのは暴論だ。

●原電と東電、どちらが「合理的」だったのか

 「法の定める安全性は、どのようなことがあっても放射性物質が外部に放出されることは絶対にないといったレベル、あるいはそれとほぼ同じレベルの、極めて高度の安全性を言うものではなく、最新の科学的、専門的知見を踏まえて、合理的に予測される自然災害を想定した安全性であって、そのような安全性の確保が求められていたものと解される」(p.36)。

 「被告人3名がそれぞれ認識していた事情は、津波の襲来を合理的に予測させる程度に信頼性、具体性のある根拠を伴うものであったとは認められない」(p.39)

 「合理的に予測される」と考えたからこそ、日本原電や東北電力は、地震本部の長期評価や貞観地震への備えを進めたのだろう。東電もどちらかの地震を想定すれば、10mを超える津波への対策をしなければならなかったが、二つとも先送りし、大事故を引き起こした。

 地震本部の長期評価にもとづく高い津波を想定して「できることから」対策を進めた日本原電、一方2016年まで先送りすることにして事故時まで何も対策しなかった東電、どちらが「合理的」だったと裁判所は考えているのだろう。日本原電や東北電力の備えは「極めて高度な安全性」を求めた過剰なもので、運転停止どころか簡単な対策さえもしなかった東電こそが「合理的」とでも言うのだろうか。

注1)第23回公判(2018年7月27日) 日本原電で津波対策を担当していた社員の証言

注2)WEB特集東電裁判“見えた新事実”

注3)第6回公判(2018年4月11日)

注4)https://level7online.jp/2019/検察調書が明らかにした新事実/

注5)WEB特集東電裁判“見えた新事実”

注6)原子力安全・保安院 小野祐二氏の調書(刑事裁判甲B75)

注7)https://level7online.jp/2019/jaea、「明治三陸型」大津波を茨城沖で想定していた/

注8)国会事故調報告書p.93

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「無罪」に怒りあらわ 東電旧経営陣に判決

2019-09-20 22:07:37 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
「無罪」に怒りあらわ 東電旧経営陣に判決(岐阜新聞)

既報の通り、当研究会もずっと関わってきた東電の刑事訴訟は、争う余地のないと思われた予見可能性すら全否定する最低最悪の判決となった。

ただ判決は自己矛盾、自己崩壊のオンパレードで、義務教育を終えた普通の日本人でこの判決に納得できる人間は1人もいないと断言する。

以下は当研究会がレイバーネット日本に発表した当日レポートである。

1点の曇りもない不当判決~「原発事故無罪放免」に激しい怒り相次ぐ 東京地裁前9.19レポート

「企業免罪請負人裁判官」による白昼公然たる犯罪人釈放--9.19東京地裁判決をひと言で表するならそのようにいえよう。「この判決にも少しくらい評価すべき点があるのでは?」との質問に私は答えよう。「ゼロだ」と。東電経営陣のくだらない言い訳をそのままコピペした判決要旨なんて、配られたところで読む気もしない。おそらく今後も読まないだろう。

「9.19を日本の司法が死んだ日として長く心に留めよう」なんて陳腐なことを今さら書くつもりはない。この世界で長く生きてきて、司法の死なんてもう100回くらい見てきている。そんなことをしていたらカレンダーは1年中「司法死亡記念日」だらけになってしまうからだ。この間の経過を見てきた私からすれば、十分予想できる判決だったし、「また死ぬのかよ」「日本の司法は一体何回死ねば気が済むんだ」という以上の感想は持ち得なかった。うず高く積み上げられた司法という名の屍の上に、新たな1体が積み上げられた--私の認識はその程度のつもりだった。

しかし、地裁前では福島で今も生きる人、福島から避難した人たちの激しい怒りの声が続く。福島市在住の元原発作業員、今野寿美雄さんは「ここまでの事態を起こして誰も責任を取らないなんてことがあるか!」と声を張り上げて東電と裁判所を糾弾した。

私もスピーチを依頼され、マイクを握る。今野さんの怒りが乗り移ったのか、それとも今朝から影を潜めていた、真夏を思わせるような強い日差しが突然、照りつけてきたせいか、昨日から考えていたスピーチ内容が頭の中から飛んでしまった。

「判決に腹の底から怒りを感じます。今も数万の人たちが自分の家に帰れないでいるのに誰も責任を取らないんですか! 300人の子どもたちが甲状腺がんになっているのに誰も責任を取らないんですか。汚染水を流す流さないの議論が続いていますが、議論以前に汚染水を作り出したのは誰ですか? 作り出した者が責任を取らないで誰が取るんですか?」

気づけば国、東電、原子力ムラへの怒りをぶちまけていた。

腹の底から怒りをぶつけすぎたせいか、突然、マイクの音声が出なくなった。あいにく電池切れのようだ。代わりのマイクも混乱状態で来ない。「もう肉声でいいからやれ」という声がどこからか飛ぶ。覚悟を決め、大きな声を出せるよう深呼吸する。だがこの一瞬の中断でのおかげで冷静さが戻り、場の雰囲気も見えてきた。

「16日、代々木公園でのさようなら原発集会にも私は参加をしました。高校生平和大使の若い人たちが懸命に署名を集めている。私は、彼女たちに原発事故当時のことを話しながら署名をしました。『原発事故が起きると国、自治体、マスコミ、学者はもちろん、親兄弟、親戚や友人まですべてが信じられなくなる。最も身近にいる愛すべき人が信じられないとか、信じていたのに裏切られたとか、そんな言葉を福島で何度も聞いた。だから私は若いあなたたちが再びそんな言葉を使わなければならないような世の中にはしたくない。そんな世の中にしないのが大人だと思っている』と話しながら署名を書いたんです。それが、何ですかこの判決は! 一生懸命署名を集めている若者たち、甲状腺がんで苦しむ子どもたちに私はこの判決をどう報告したらいいんですか!」

抑えたはずの怒りが再びこみ上げてきた。

「信じられない、あり得ないと今、多くの人がここで話をしました。しかし私はこんな判決くらい何とも思っていません。敵よりも1日長く闘うだけです。敵が100年、原発を推進してくるなら私は100年と1日反対します。原子力ムラが1万年原発を推進するなら私は1万年と1日闘うでしょう。あきらめず最後まで闘い抜きます」

そう決意表明したところでマイクが戻ってきたが、肉声でも十分私の声はメディアに伝わったと思う。「腹の底から怒りを感じます」という私の訴えは、NHK「ニュース9」で放送された。絵になるシーンを作れば、案外、メディアは報じるものだ。そんなことも思った判決直後の地裁前だった。

午後2時から日本弁護士会館で始まった集会は、急遽、報告会から抗議集会に名称を変えて行われた。福島在住者、避難者たちが次々とマイクを握る。「日本の国がこんなに悪いことをしているのにマスコミは隣の国のことばかり。しかし、今日、私の話、苦しみに最も耳を傾けてくれたのは、隣の国のマスコミでした」という菅野みずえさん(浪江町から兵庫県に避難)の話には拍手が起きた。この国はメディアも腐りきっている。会場内でテレビカメラを回している関係者に目をやる。カメラマンがレンズから一瞬、目を背け、表情を曇らせるのを私は見逃さなかった。避難者からのストレートな批判はマスコミ関係者にはかなり堪えたようだ。

この集会では、10人以上の人が登壇し発言した。弁護士を除く一般参加者で、男性の発言者は今野さん、長谷川健一さん(静岡県への区域外避難者)、そして避難の協同センターの瀬戸大作事務局長のみ。後は全員が女性だった。原発事故は人々を平等には襲わない。いかに女性に集中的に被害が出ているかを象徴するシーンだ。

「今後、どうしたらいいか私はわかりませんが、それでもこのままというわけにいかない。右足、左足、とりあえず交互に出せば前には進む。そうやって再び歩き出すしかない」。菅野さんは自分自身を励ますように声を絞り出した。

抗議集会終了後は裁判所内の司法記者クラブに移動。指定弁護士の会見会場はメディアであふれ、会場外からはまったく声が聞き取れない。その後、同じ場所で行われた被害者代理人弁護士の記者会見で、福島原発刑事訴訟支援団の武藤類子副団長は「福島県民の誰ひとりこの判決に納得していない。指定弁護士には控訴を願っている」と述べた。海渡雄一弁護士は「指定弁護士側に有利な証拠を裁判長はことごとく黙殺、被告らに都合のいい部分のみつまみ食いして無罪放免した。どうせマスコミは判決要旨しか見ない、長い判決文は読まないと高を括って、都合よくつまみ食いした部分だけを判決要旨にまとめているので、みなさんも判決要旨の取り扱いには注意してほしい。その判決要旨がすべてだという報道はしないでほしい」とメディアに注文をつけた。

「裁判長は一貫して、原発事故の責任追及に立ち上がった我々をまるで暴民暴徒であるかのように敵視し続けた。女性傍聴者のスカートの中まで調べる徹底的な身体検査が毎回行われたのはその証拠といえる。こんな裁判長に無罪にされたからといって、気にすることはないですよ」。河合弘之弁護士が怒りにほどよく冗談をブレンドして解説すると笑いが起きた。

永渕健一裁判長は1990年任官の57歳。薬害エイズ事件の大阪高裁判決では1審判決をわざわざ破棄し、刑を軽くした「前科」もある。たいした業績もなく、この年齢になっても地裁判事というのは明らかに裁判官の昇任ペースとしては遅すぎる。仕事ぶりに対する裁判所内部での評価が高くないことは明らかで焦りもあったのだろう。私も指定弁護士による論告求刑、被告側最終弁論を相次いで傍聴したが、居眠りをする勝俣恒久元会長に対して怒りの声を上げた傍聴者を逆に怒鳴りつけるなど、市民敵視は明らかに度を超えていた。この間、この裁判長の人権侵害に対し、国賠訴訟を起こしたいと何度か思ったほどだ。だからこそ今回の判決は「想定内」だった。こんな訴訟指揮を続ける裁判長からまともな判決が聞けたらそれこそ奇跡というものだ。

永渕裁判長の「前科」を暴いたのは、原発推進御用紙であるはずの産経だ。敵性メディアと思っている媒体でも、現場レベルではよい働きをする記者がいるという事実も記しておきたい。

なぜ産経がこうした事実を暴いたのかはわからない。単純に記者の良心がそうさせたのだと好意的に解釈しておいてもよい。だが、3.11以降の産経の報道を注意深く観察すると、そこには原発と原子力ムラに対する危機感が見て取れる。「こんなずさんな状況を放置したら、原発事業が今後、日本では立ちゆかなくなる。原発推進を主張できなくなる」という、私たちとは正反対の意味での危機感だ。

その産経の危機感、そしてこの日、永渕裁判長が述べた「自然現象について、想定できるあらゆる可能性を考慮し、必要な措置を講じることが義務づけられれば、原発の運転はおよそ不可能になる」との懸念は当たっている! 実際、原子力規制委員会が原発にテロ対策工事を要求し、期限内に完成しなければ来春以降原発停止を命じる可能性をほのめかすなど、現実は推進派の懸念通りに進行している。「あらゆる可能性を考慮し、絶対に事故を起こさない原発を作れ」と要求し続けることこそ、遠回りに見えて最も確実な原発廃絶への道かもしれない。

「これでも罪を問えないのですか!」--福島原発告訴団が、発足以来、刑事告訴運動を続けるなかで掲げてきたスローガンだ。だが「これでも罪を問えなかった」今、私たちはどうすべきだろうか。抗議集会の中にそのヒントがある。「私たちが何か悪いことをしたのか」「何も悪いことをしていない私たちがなぜこんなに苦しみ、悪いことしかしていない人がのうのうと大手を振って生きているのか」という声を多くの人々から聞いたことだ。

筆者も、福島原発告訴団には第1次告訴から関わってきたが「私たちは何も悪いことをしていない」が立ち上がるきっかけであり原点だった。もう一度、被害者全員がこの原点に返るときだろう。政治、行政、司法、メディア。すべてが極限まで腐りきり浮上のきっかけすら見えないどん底の絶望ニッポンから這い上がるためには、どんな暗黒にあっても消えることのない一筋の光--「私たちは悪くない」にもう一度しっかり軸足を置き、そこから再び歩き始める以外にないのではないか。この日の会場からは、そんな決意の声も多く聞かれた。原子力ムラ住民たちは、福島県民、被害者のこの怒りを甘く見ないほうがいい。

(文責:黒鉄好)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

福島原発事故 東電幹部強制起訴刑事訴訟が結審~9月19日判決へ 原子力政策を左右する重要訴訟に関心を!

2019-08-26 23:39:13 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2019年8月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 福島原発事故に関し、勝俣恒久元会長、武藤栄、武黒一郎両元副社長の東京電力旧経営陣3人がいったんは不起訴となりながら、検察審査会の2度にわたる「起訴相当」議決を受けて強制的に起訴されたことを受け、行われてきた福島原発事故強制起訴刑事訴訟は、3月12日の被告側最終弁論をもって結審となった。検察官役の指定弁護士による冒頭陳述が行われた2017年6月30日の第1回公判から1年9ヶ月間、急ピッチで進んできた公判は37回に及んだ。数の面でも量の面でも膨大な証拠物件からは、隠されていた驚くべき事実が次々と明らかにされた。何が争点なのか。東電の罪はどこにあるのか。そして立証は十分に尽くされたのか。2012年11月、福島県民だけを対象とした第1次告訴告発から福島原発告訴団に関わってきた筆者が、判決公判を前にその重要な意義を改めて解説する。

 なお、検察審査会と強制起訴・指定弁護士制度、強制起訴までの手続等については紙幅の関係もありここでは繰り返さないが、この間の経過は本誌2014年9月号(最初の「起訴相当」議決の直後)、2015年3月号(検察による2度目の不起訴決定直後)、2015年9月号(強制起訴決定直後)、2016年4月号(指定弁護士による起訴手続の直後)、そして2017年8月号(第1回公判の直後)とすでに5度も取り上げているので、それらの記事を参照されたい。

 ●「原発事故がなければ」~双葉病院元看護部長の証言

 福島第1原発は双葉町と大熊町にまたがって立地する。半径10km圏内は事故直後に避難指示が出されたが、同じ双葉町にある双葉病院も避難指示区域となった。病院職員らは懸命の避難活動に当たるものの、患者の避難は事故4日後の3月16日までかかる。この間、混乱でスタッフは十分集まらず、救助を求めていた自衛隊さえ、3月15~16日の急激な空間放射線量の上昇が原因で現地入りせず、最終的に患者ら44名が死亡した。原発事故がなければ避難指示もなく、これらの患者が死亡することもなかったことから、この死亡と原発事故の関係は明白として、3被告が業務上過失致死傷罪で強制起訴されたことで、この裁判は始まった。

 2018年9月19日の第26回公判では、実際に救助活動に当たった双葉病院の当時の副看護部長・鴨川一恵さんが証人として出廷。「地震と津波だけなら患者を助けられた。助けられなかったのは原発事故のせい」と証言した。あちこちで道路損壊や渋滞に見舞われ、避難が遅々として進まないまま、バスの車内で衰弱し死亡した患者もいた。「バスの扉を開けた瞬間に異臭がして衝撃を受けた。座ったまま亡くなっている人もいた」(鴨川さんの証言から)。バスの中で3人が亡くなっていたが「今、息を引き取ったという顔ではなかった」。体育館に運ばれたあとも11人が亡くなった。3被告の起訴事実となった双葉病院での患者死亡について、直接の関係者から原発事故との関係を明白にする証言が得られたこの日の公判は、一連の裁判のハイライトといえる。

 ●津波対策、意識的に潰した東電

 事故9年前の2002年7月、政府の地震調査研究推進本部(地震本部、推本)は「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」を公表。大きな争点の1つである「長期評価」と呼ばれるものだ。次の地震の規模をマグニチュード8.2、30年以内の発生確率を20%とした。これを受けた経産省原子力安全・保安院(保安院)は福島原発事故に襲来が予想される津波の試算予測を依頼するが、東電は長期評価とは別方法に基づいて試算をしたいと回答。保安院の指導に従わなかった。

 2006年9月には、日本国内の全原発について、内閣府原子力安全委員会が策定した新耐震指針に準じた耐震バックチェックを行うよう指示した。バックチェックとは、原発を持つ各電力会社が行った安全対策を報告させ、保安院がその結果に基づいて耐震審査を行うものだ。

 2007年7月、東電のその後の原発安全対策に重要な影響を与える出来事が起きる。新潟県中越沖地震だ。東電柏崎刈羽原発が立地する柏崎市と刈羽村で最大震度6強を記録したこの地震で原子炉は緊急停止、東電は2007年度決算で赤字に転落した。中越沖地震からの復旧に莫大な費用を要することとなった東電は、福島原発の津波対策を先送り。再稼働の見込みがなくなった柏崎刈羽に加え、福島原発まで津波対策による停止が長期化すれば経営悪化の可能性があったためである。

 東電が経営悪化を避けるため、福島第1原発を稼働させたまま、止めずに安全対策を行う道を探っていたことに関しては重要な証言がある。2018年9月5日の第24回公判で、東電幹部・山下和彦氏の供述調書が読み上げられた。山下氏は、2007年10月に新潟県中越沖地震対策センター所長に就任。柏崎刈羽原発や、福島第一、第二原発の耐震バックチェック、耐震補強などの対策をとりまとめてきた。2010年6月からは吉田昌郎氏の後任として原子力設備管理部長に就任。事故後は、福島第一対策担当部長、フェロー(技術系最高幹部として社長を補佐する役)として事故の後始末に従事した人物だ。その山下氏が、いったんは全社的に進めていた津波対策を先送りした理由について、対策に数百億円かかるうえ、対策に着手しようとすれば福島第一原発を何年も停止することを求められる可能性があり、停止による経済的な損失が莫大になるからだと説明していた事実が明らかになったのである。

 2008年1月、東電が子会社・東電設計に津波想定を依頼していたことを裏付ける証拠書類の存在も明らかになった。2008年2月に開催された津波対策対応打ち合わせ(最高権力者である勝俣会長の“ご臨席”を仰ぐことから東電内部で「御前会議」と俗称された)では、津波想定について7.7m以上との報告が行われ、長期評価を取り入れた津波対策(福島第1原発の4m盤の上)を行うとの方針がいったんは了承された。

 その後、津波想定が15.7mとされたことから、4m盤上の津波対策では不足するとして、10m盤上に防潮堤を設置する等の新たな津波対策が必要となった。2008年6月に開催された福島地点津波打合せでは、これらの津波対策の説明を受けた武藤被告が4項目の検討課題について指示。関係者は長期評価に基づいた津波対策を実施するものと受け止めた。

 これとほぼ時を同じくして、日本原子力発電の東海第2原発では、長期評価を取り入れた津波対策に着手。東電から日本原子力発電に出向していた安保秀範氏が中心となって対策案をまとめた。東海第2原発は2010年4月に津波対策工事を終えている。

 2008年7月21日の「御前会議」では、東電で一連の津波対策に要する費用が報告された。柏崎刈羽に3,264億円、福島第1に1,941億円というのがその内容だった。諸費用込み5,237億円――それは、日本有数の巨大独占企業・東電であっても「右から左に出す」というわけには到底行かない巨額だった。しかもこの金額に津波対策は含まれていなかった。ましてや全原発停止でよりコストの高い他の電源を動かさなければならなくなることによる追加コストは計算もされていないのだ。

 2008年7月31日、福島第1原発の運命を暗転させる2度目の福島地点津波打合せが開催。武藤被告は「研究を実施しよう。土木学会に調査を依頼する」と突如発言する。この決定的に重要な発言と方針変更、社内で真摯に津波対策の立案に当たってきた幹部社員にとって裏切りと言うべき武藤被告の言動は、福島原発告訴団内部で密かに「武藤のちゃぶ台返し」と形容された。そのように呼ばれてもおかしくないほど、東電社内でそれまで積み上げられてきた津波対策の「全面的転覆」だった。

 土木学会は、電力会社やゼネコンなどで構成される業界団体である。学会という名称から何かアカデミックなものを連想する読者もいると思うが、単なる業界団体、さらに言えば「土木利権団体」に過ぎない。巨大施設・原発で飯を食っている会員企業の中に、巨大発注者である東電に異を唱えられるところがあるとは思えない。そのことを知りながら、そこでの調査続行を決めた武藤被告にとって「自分のホームグラウンドなら自分たちに有利な結論――巨額の費用が必要となる長期評価に基づいた津波対策は不要との結論――を出してくれるに違いない」との思いがあったであろうことは想像に難くない。

 武藤被告はあろう事か、この際、15.7mの津波を想定した10m盤上の津波対策のみならず、当初計画だった7.7mの津波想定に基づく4m盤上の津波対策まで中止してしまった。この間、津波対策のとりまとめに当たってきた東電土木調査グループの高尾誠氏が「予想していなかった結論で力が抜けた。(会合の)残りの数分は覚えていない」と証言するほどの出来事だった。

 高尾氏と同じ土木調査グループの酒井俊朗(としあき)氏が、日本原電の安保氏に長期評価が東電で不採用となったことを伝えるメールも証拠として残されている。酒井氏の供述調書には、安保氏に対し「柏崎も止まっているのにこれで福島も止まったら経営的にどうなのかって話でね」と語ったという事実が記載されている。一連の津波対策費の巨額さにたじろいだ武藤被告が、社内で立案されていた津波対策をひっくり返した、とのこの間の経過を裏付ける証拠や証言だ。

 その後の会議では、東電以外の各社の津波対策についても報告されている。バックチェックに基づく対策を東海第2ではすでに実施し、女川原発(東北電力)は重要施設が高台にあるため対策自体が不要だった。すでにこの時点で、対策が必要でありながら検討中のまま着手もされていないのは東電だけという状態だったのだ。東電は、バックチェックに基づく最終報告の提出を2012年11月まで先送り。7.7m想定に基づく津波対策すら行われまま、東日本大震災を迎えてしまったのだ。

 長期評価に基づいて安全対策を実施した東海第2原発では、津波がかさ上げした防潮堤を越えることはなかった。一方、福島第1原発に襲来した津波の高さは、東電設計の想定通りの15m。改めて日本の現場を支える土木技術者の仕事の緻密さや質の高さが浮き彫りになった。

 「長期評価に従って対策を進めておけば、18000有余の命はかなり救われただけでなく原発事故も起きなかったと私は思います」。2018年5月9日の第11回公判で、時折声を詰まらせながら、涙ながらにこう証言したのは島崎邦彦・東京大学名誉教授(元原子力規制委員長代理)だ。長期評価は阪神・淡路大震災をきっかけに始まった。裁判で争点となった三陸沖での地震の長期評価についても、議論はしたが紛糾はしておらず、反対意見もなかった旨の証言(第10回公判における気象庁技官・前田憲二氏)も得られた。前田氏は、気象庁から文部科学省に出向、推本事務局で実際に長期評価のとりまとめに当たった人物だ。

 ●立証は尽くされた

 公判では、様々な角度からいろいろな資料が証拠提出され多くの証人が証言した。公判の流れを大きく分けるなら、前半は長期評価の信頼性、後半は東電内部における津波対策の検討とそれがひっくり返されていった状況の解明が中心になったといえよう。

 膨大な証言、証拠から、事実関係を時系列順にまとめると経過が見えてくる。(1)推本が長期評価を公表(2)保安院が電力各社にバックチェックを指示したが東電は従わず(3)新潟県中越沖地震発生(4)東電が東電設計に津波想定を依頼(5)津波想定が15.7mと報告、東電で対策の検討が開始(6)対策案がほぼまとまり最終的な経営判断の段階へ(7)柏崎刈羽原発を含めた東電管内原発の対策費総額が5,237億円と判明(8)対策費の巨額さを見た武藤被告が「ちゃぶ台返し」――これがこの間の経過である。

 東電の現場社員は、長期評価を「国の機関が専門家を交えて出した結論」として重視しており、評価が示された以上対策は不可避と捉えていた。一方、会社を維持し、倒産させないことが至上命題であり最大の任務でもある経営陣が、あまりに高すぎる対策費を見て「いつ来るかもわからない津波の対策を、会社をつぶしてまで今やることはない」と判断したことに対しては、同じ立場だったら自分でも同じようにするだろう、と思う人がいても不思議ではない。

 しかし、問題となった5,000億円程度の資金調達は、事故前の東電の信用をもってすればいくらでも可能だったし、他の会社が津波対策を実際に講じていたという事実もある。会議でその報告を受けた3被告が、他社の状況を横目で見ながら自分たちも対策を講じるという判断が当然であって、またそれは十分可能だった。保安院からもバックチェックを促されていながら、それに基づく対策をしないまま震災を迎えた東電は、少なくともこの手の巨大施設を運営する事業者に対して当然求められる善良な管理者の注意義務を到底果たしておらず、その不作為だけでも罪を問われるのは当然だ。

 検察官役の指定弁護士による立証は十分尽くされたと筆者は考えている。この裁判は日本が法治主義に基づいて先進国の立場を今後も維持できるか、「放置主義」に堕し途上国へと後退するかを占う重要な試金石になる。必要な賠償も被曝・汚染対策もおざなりのまま、県民不在の「復興」のかけ声だけが、勇ましくも虚しく響く事故8年の福島。現実との「妥協、折り合い」をつけながら日々の生活を余儀なくされている県民がその悲しみに終止符を打ち、真に県民本位の復興を成し遂げられるようにするためにも、東電が加害者である事実が公的な場で認定されることがどうしても必要だ。

 3被告に対しては、業務上過失致死傷罪の法定上限である禁錮5年が指定弁護士によって求刑された。日本の原子力政策にとっても重大な岐路となる注目の判決は9月19日、東京地裁第104号法廷で言い渡される。

(黒鉄好・2019年8月26日)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【福島原発事故刑事裁判第37回公判】自分たちに都合のいい証拠だけをコピペした東電「言い訳全集」 しかし緻密、微細にわたった論告は覆せず

2019-03-16 12:22:52 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
福島原発事故をめぐって強制起訴された東京電力旧3役員の刑事訴訟。3月12日(火)の第37回公判(被告側最終弁論)の模様を伝える傍聴記についても、福島原発告訴団の了解を得たので、掲載する。3役員の裁判はこの日をもって結審した。注目の判決は2019年9月19日(木)午後1時15分から、東京地裁104号法廷で言い渡される。

執筆者はこれまでに引き続き、科学ジャーナリスト添田孝史さん。

----------------------------------------------------------
●爆発からちょうど8年目の結審。語らなかった勝俣元会長ら

 2019年3月12日、東京地裁で第37回公判が開かれた。ちょうど8年前、東京電力が福島第一原発1号機を爆発させた日でもある。

 被告人側の最終弁論があり、この日で結審した。永渕健一裁判長は、判決を半年後の9月19日に言い渡すと述べた。

 公判の最後に、被告人3人はひとりずつ証言台に立って意見陳述をした。

 勝俣恒久・元会長(78)
「申し上げることはお話しました。付け加えることはございません」

 武黒一郎・元副社長(72)
「特に付け加えることはありません」

 武藤栄・元副社長(68)
「この法廷でお話ししたことに、特に付け加えることはありません」

 膨大な量の放射性物質を発電所の外に撒き散らし、今も山手線の内側の6倍の面積に人は住めない。何万人もの人たちは8年たっても故郷に戻ることができない。民間のシンクタンクは、後始末に最大81兆円かかると予測する(注1)。そんな史上最大の公害事件を引き起こした被告人たちの最後の発言としては、あまりに素っ気なかった。

 被告人らが法廷から出る間際、傍聴席からは
「勝俣、責任とれ」
「恥を知りなさい」
と怒号が飛んだ。

●「東側から全面的に遡上する津波」は予見できなかった?

 この日の主役は、武藤氏の弁護人、宮村啓太弁護士だった。午前10時から午後4時ごろまで、パワーポイントも使いながら最終弁論を読み上げ続けた。

 宮村弁護士が力を入れて主張したのは、次の点だ。政府の地震本部が2002年に予測した津波地震の津波(長期評価による津波)は、敷地南で津波高さが最も高くなる。一方、311の津波は東側から全面的に津波が遡上した。津波の様子が異なるので、長期評価の予測に対応していたとしても事故は防げなかったというのだ。

 具体的には、長期評価による津波の高さが敷地(10m)を超えるのは敷地南側など一部だけなので、対策は、そこだけに局所的に防潮堤を作ることになったはずだという(図1)。一方、311の時は敷地東側から全面的に津波が遡上したので、その防潮壁で事故は防げないという理屈である。


図1_敷地の一部だけに設置する防潮壁


 しかし、宮村弁護士の主張は、刑事裁判の中で明らかにされてきたいくつもの証拠と矛盾している。

 津波の発生場所が変われば、それによって敷地のどこに高い津波が集中するかも変わってくる。一部だけに高い防潮堤を作ることは工学的に不自然で、保安院の審査は通りにくい。

 たとえば2008年には、長期評価とは異なる位置で発生する津波が、東電社内で大きな問題になっていた。「敷地一部だけに防潮壁を作る」では通用しないことは、東電には、すでにわかっていたはずである。

 それは貞観地震(869)による津波だ。貞観地震は、津波地震より陸側で発生し、大きな津波を福島第一原発周辺にもたらしていた証拠が2000年代後半に続々と見つかっていた。

 地震の大きさは起きるたびにばらつくので、対津波設計では、869年に実際に発生したもの(既往最大)より2割から3割程度余裕を持たせて想定することを、土木学会が定めていた。それに従えば、貞観地震の再来を想定すると、1号機から4号機の東側から全面的に敷地を超えてしまうことがわかっていた(グラフ)(注2)。


グラフ_各号機前面で予測された津波高さ


 東電にとっては、さらに都合の悪いことがあった。東北電力は、耐震バックチェックの報告書に貞観地震も取り入れ、2008年11月にはすでに完成させていたのだ(図2)。それが保安院に提出され、「では東電は貞観津波に耐えられるのか」と問われると、10mの敷地を超えて炉心溶融を起こすことが露見してしまう。


図2_東北電力がバックチェック報告書に入れていた貞観津波の波源域


 東電は、2008年10月から11月にかけて、繰り返し、しつこく東北電力と交渉して、その報告書の記述を自社に都合の良いように書き換えさせた。その記録も刑事裁判は明らかにしている。

 宮村弁護士の主張は、被告人らに都合の悪い証拠には全く触れず、反論もできていない。東電の主張する「東側から全面的に遡上する津波は予見できなかった」というのは、真っ赤な嘘なのである。

 東側から全面的に遡上する津波がすでに予測されていたからこそ、それを消し去ろうと、東北電力の報告書まで書き換えさせていたのだ。

●土木学会手法の位置付け

 宮村弁護士は、「長期評価をとりこむかどうか、土木学会で審議してもらうのは適正な手順である」「合理的だ」という従来の主張も繰り返した。

 これにしても、なぜ合理的なのか、説得力のある根拠は示されなかった。すでに述べたように東北電力は、土木学会の審議を経ることなく、貞観地震を想定に取り入れ、2008年11月にはバックチェック報告書を完成させていた。日本原電東海第二発電所も、土木学会の審議を経ることなく、地震本部の予測を取り入れて2008年以降、津波対策を進めていた。

 「土木学会の審議を待つ」としたのは、東電だけだったのだ。それがなぜ合理的で、他の会社は不合理なのか、宮村弁護士の説明からはわからなかった。

 指定弁護士は「土木学会に検討を委ねるという武藤被告人の指示は、津波対策を行うことを回避するための方便に他なりませんでした」と昨年12月26日の論告で厳しく指摘している。宮村弁護士は、「土木学会に委ねるのは決して誤りではない」と繰り返したが、指定弁護士の論告に十分答えられていないように見えた。

●山下調書を巡る批判

 東電社内での意思決定過程については、第24回公判で読み上げられた山下和彦・新潟県中越沖地震対策センター所長の調書が詳しかった。ところがこの内容について、宮村弁護士をはじめ、武黒一郎氏や勝俣恒久氏の弁護士は、口をそろえて「信用できない」批判した。

 山下調書では

1)地震本部が予測した津波への対策を進めることは、2008年2月から3月にかけて、東電経営陣も了承していた。「常務会で了承されていた」と山下氏は述べていた。

2)いったんは全社的に進めようとしていた津波対策を先送りしたのは、当初は7.7m程度と予測されていた段階のことだった。それが15.7mという予測値が出されてから、対策がとても難しくなった。対策に着手しようとすれば福島第一原発を何年も停止することを求められる可能性があり、停止による経済的な損失が莫大になるから先送りが決められた。
と述べられている。

 山下調書を裏付ける社内の電子メールや会合議事録などが多く存在する。それにもかかわらず、被告人側の弁護士は、自分たちの主張と矛盾するそれらの証拠については無視し、説明しないままだった。

●指定弁護士コメント、記者会見

 最終弁論について、被害者参加制度による遺族の代理人である海渡雄一弁護士は「ひと言で言えば、自分に都合の悪い証拠は全部無視して見ないことにし、都合の良い証拠と証言だけを抜き出して論じたものだといえる。そして、その内容はこれまでの公判をみてきた者には到底納得できない荒唐無稽なものである」としている(注3)。

 指定弁護士は、以下のような声明を発表した(注4)。

 「弁護人の主張は、要するに東側正面から本件津波が襲来することを予見できず、仮に東電設計の試算結果に基づいて津波対策を講じていたからといって、本件事故は、防ぐことはできなかったのだから、被告人らには、本件事故に関して何らの責任はないという点につきています。

 何らかの措置を講じていればともかく、何もしないで、このような弁解をすること自体、原子力発電所といういったん事故が起きれば甚大な被害が発生する危険を内包する施設の運転・保全を行う電気事業者の最高経営層に属する者として、あるまじき態度と言うほかありません」

 公判で明らかにされた多くの証拠や証言をどう考えるのか説明せず、「予見は未成熟だった、信頼性がなかった」という冒頭陳述と同じ主張を繰り返すだけで被告人らは逃げ切ろうとしている。そのありさまを、東京地裁はどのように判断するのだろうか。

注1)事故処理費用、40年間に35兆〜80兆円に 日本経済研究センター

注2)福島第一・第二原子力発電所の津波評価について 2011年3月7日 東京電力

注3)海渡雄一弁護士の反論

注4)指定弁護士の声明

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

福島原発事故刑事訴訟で被告弁護側、無罪を主張(&当ブログ管理人の地裁前スピーチ)

2019-03-12 23:37:37 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
旧経営陣側、改めて無罪主張=「大津波予見できず」-判決は9月・東電公判(時事)

----------------------------------------------------------------------
 東京電力福島第1原発事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴された元会長勝俣恒久被告(78)ら旧経営陣3人の最終弁論が12日、東京地裁であり、弁護側が「大津波の予見可能性は認められず、罪が成立しないことは明らか」と改めて無罪を主張し、結審した。

 永渕健一裁判長は判決期日を9月19日に指定した。

 勝俣元会長は最終意見陳述で、「申し上げるべきことは既にお話しした」と述べ、元副社長の武藤栄(68)、武黒一郎(72)両被告も「付け加えることはない」などと多くを語らなかった。

 弁護側は最終弁論で、2008年3月、東電が襲来可能性のある津波高を「最大15.7メートル」と試算したことについて、「いったん数字を出してみただけ」と主張。試算の基となった政府機関の地震予測「長期評価」は信頼性に欠け、「原子炉停止が義務付けられる予見可能性が生じたとは言えない。実際の津波が襲ってきた方角も違っていた」と訴えた。

 検察官役の指定弁護士側は、原子力・立地本部副本部長だった武藤元副社長が対策先送りを指示し、勝俣元会長らも対策を怠ったと主張している。

 これに対し、弁護側は「社内で長期評価を採用する方針は決定していなかった」とし、「直ちに対策工事が必要だと進言した人はいなかった」と反論。本部長だった武黒元副社長について「担当者から『試算は信用できない』とも聞いていた」と訴え、勝俣元会長が試算を知ったのは事故後で、「業務命令を出せる立場になかった」と述べた。 
----------------------------------------------------------------------

本日行われた福島原発事故刑事訴訟の傍聴のため、東京地裁まで行ってきた。裁判は上記記事の通り。当ブログ恒例の科学ジャーナリスト・添田孝史さんによる傍聴記は、後日、まとまり次第アップする予定だ。

なお、傍聴券の抽選が始まる前の朝の地裁前行動では、福島からの傍聴参加者(事故当時の福島居住者でその後避難・移住した人を含む)がスピーチをすることになっている。今朝は、当ブログ管理人含め4人がスピーチをした。以下、当ブログ管理人のスピーチ内容を紹介する。

----------------------------------------------------------------------
 皆さん、おはようございます。

 8回目の3・11がやってきました。福島から遠い北海道、札幌に住んでいて、しかも8年、もう大丈夫だろうと思っていてもやっぱりこの時期になると夜眠れない。福島県民、被害者誰もが心の奥底に傷を押し込んで日々を生きている。でもやっぱりこの季節になるとその傷がふっと頭をもたげてくる。それが3・11なんだろうと改めて思います。

 今、山木屋の人からお話がありました。その山木屋では、昨年4月に避難指示が解除になって、再開したばかりの学校がわずか1年で閉校になろうとしている(参照:2018年9月28日付「河北新報」記事)。先日の新聞でも、避難指示が解除になった10の自治体で、学校に戻ってきた子どもたちは1割しかいないと報道されていました(参照記事)。国や県がいかに帰還せよと旗を振っても、この厳しい現実があります。原発事故の被害を受けた地域は消滅を早めるしかない。福島のそんな厳しい現実が見えているのが8回目の3・11なのです。

 いよいよ、今日この東電の刑事裁判も結審の日を迎えます。先ほど武藤副団長からもお話があった通り、私も被告弁護側が、前回のあの完璧な論告を覆すことはできないと思います。本来なら今日明日と2日間の予定だった弁論が今日1日に短縮されたことがそれを示しています。あの論告に真剣に反論しようと思うなら2日間あっても足りないはずです。それが1日でいいというのですから、おそらく言い訳レベルの反論にとどまるでしょう。

 この8年、私たちは多くのことを実現してきました。54基あった原発のうち9基の再稼働は許しましたが、全体の4割、24基の廃炉がすでに決まっています。原発輸出はすべて頓挫しました。安倍政権がいくら再稼働、輸出の旗を振っても、原発は滅び行く存在なのです。原発をめぐって公開討論会がしたいと言っていた経団連会長は、小泉元首相から討論会を申し入れられると逃げ回り、ついには同じ推進の意見の人としか討論したくないと言い出す有り様です。反対の意見の人を説得もできない、納得もさせられないなら、そんなものを推進するなと怒りが込み上げます。

 原子力に終わりが見えてきたことは事実です。しかしそれが実現するために、かつて自分自身も住んだ福島で取り返しのつかない大きな犠牲が伴わなければならなかったことが悔しくて仕方ありません。先ほど言った怒り、そして今申し上げた悔しさ、それを晴らすのがこの刑事裁判の法廷なのです。

 私たちは8年間、色々なことを実現してきたと、今、申し上げました。しかしまだ実現できていないことがあります。それが原子力ムラに責任をとらせることです。原発を推進する者に、ただではすまないとわからせる必要があります。皆さんとともに、それを実現するため頑張りたいと思います。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【福島原発事故刑事裁判第36回公判】被害者代理人弁護士が意見陳述、まだまだ出てくる東電の闇

2019-01-05 19:21:06 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
福島原発事故をめぐって強制起訴された東京電力旧3役員の刑事訴訟。12月27日(木)の第36回公判(被害者代理人弁護士意見陳述)の模様を伝える傍聴記についても、福島原発告訴団の了解を得たので、掲載する。次回、第37~38回公判(被告側最終弁論)は3月12日(火)~13日(水)に開かれ、ここで事実上結審となる見込みである。

執筆者はこれまでに引き続き、科学ジャーナリスト添田孝史さん(写真は記者会見する被害者参加弁護士=2018年12月27日、司法記者クラブにて。サムネイル表示になっている場合、クリックで拡大します)。

----------------------------------------------------------
●東電の闇はどこまで解明されたのか

 2018年12月27日に開かれた第36回公判では、被害者参加制度による遺族の代理人弁護士として、海渡雄一弁護士、大河陽子弁護士、甫守一樹弁護士が意見を述べた。

 検察官役をつとめる指定弁護士らは刑事裁判のプロ。一方、この日意見をのべた代理人弁護士らは、東電株主代表訴訟や各地の運転差し止め訴訟にかかわる原発訴訟の第一人者だ。その視点から、公判における証言や証拠を分析した結果が示された。海渡弁護士は「私たちは、この事故は東京電力と国がまじめに仕事をしていれば防げたこと、その責任が明らかにされなければ死者の無念は晴らされないと考える」と述べ、指定弁護士と同様、禁錮5年の処罰を求めた。

●「ちゃぶ台返し」、2008年7月31日より前だった?

 東電で津波想定を担当する土木調査グループの社員たちは、政府の地震調査研究推進本部(地震本部、推本)が予測する津波(15.7m)への対策が必要だという意見で一致し、具体的な工法等の検討を進めていた。それを被告人の武藤栄氏が、2008年7月31日に止めてしまった。津波対応の方針をひっくり返してしまったことから、7月31日は「ちゃぶ台返し」の日とも呼ばれてきた。

 海渡弁護士は、「ちゃぶ台返し」は、本当はこの日より前だったのではないかという疑念を示した。7月31日とすると辻褄が合わない証拠がいくつもあるというのだ。

会合41分後、手回しの良すぎるメール

 その一つは、7月31日の会合が終わってから41分後に、酒井俊朗・土木調査グループGMが、日本原電や東北電力の担当者に送ったメール(注1)だ。

 それまで東電は、日本原電や東北電力に対して、「地震本部の検討結果を取り入れざるを得ない状況である」(注2)と説明していた。

 この方針が、この日の会合でひっくり返された。酒井氏は第8回公判で「今まで東電が実務レベルで説明していた結果と違う方向になったので、これはちょっと早く東北さんと原電さんに状況説明しないと、ものすごく混乱するなと思って、すぐにメールを出しました」と証言している。

 海渡弁護士は、このメールを「手回しが良すぎる」と見た。メールでは、今後の方針のポイント、これから検討すべき事項について部下への指示などが具体的に書かれている。さらに、他社との会合候補日まで書かれているから、それに先立って社内で部下と日程を打ち合わせする時間も必要だったはずだというのだ。「事前に武藤氏の出していた結論を知り、事前に打ち合わせが済んでいて、事前に途中までこのメール作成を準備していたと考えないと、説明のつかないスピードである」と海渡弁護士は述べた。

停止リスクを取り上げた会合があったはずだ

 もう一つは、7月31日の会合は50分しかなく、停止リスクについては話し合われた形跡がないことだ。

 酒井氏の上司である山下和彦・新潟県中越沖地震対策センター所長は、「ちゃぶ台返し」の状況について、以下のように説明している。

 「耐震バックチェックの審査において、OP+15.7mの津波対策が完了していないことが問題とされた場合、最悪、保安院や委員、あるいは地元から、その対策が完了するまでプラントを停止するよう求められる可能性がありました。東電は、先ほどもお話ししたとおり、当時柏崎刈羽の全原子炉が停止した状況にあったことから、火力による発電量を増やすことで対応していましたが、その結果燃料費がかさんだため、収支が悪化していました。そのような状況の中で、1Fまでも停止に追い込まれれば、さらなる収支悪化が予想されますし、電力の安定供給という東電の社会的な役割も果たせなくなる危険性がありました。そのため東電としては、1Fが停止に追い込まれる状況はなんとか避けたいことでした」

 「武藤本部長、吉田部長、私は口々に水位を少しでも低減できる可能性があるのであれば、まずそれを最初に検討するべきであると発言しました」

 また、酒井氏も、ちゃぶ台返しの理由について「柏崎も止まっているのに、これで福島も止まったら経営的にどうなのかって話でね」と日本原電の関係者に話していたとされる(安保秀範氏の検察調書、第23回公判)。

 7月31日の前、停止リスクについて突っ込んだ話をした場があったに違いない。「重要人物がそろい、十分な時間をかけて議論できた場が存在する。それは7月21日の御前会議の場であった」と海渡弁護士は説明した。

●「津波」消された御前会議の議事メモ

 方針転換は御前会議でなければならない理由は、もう一つある。2008年2月の御前会議で、地震本部の津波予測を取り入れて対策を進める方向は、いったん決まっていた。だからそれを変更するには、もういちど御前会議を通す必要があるのだ。

 御前会議での検討結果であれば、酒井氏が7月31日に出したメールで「経営層を交えた現時点での一定の当社結論になります」と書いているのとも符号する。武藤氏単独の判断では、ここまで書けるかどうか、疑問があるからだ。

 しかし、7月21日の御前会議の議事メモには、津波のことは書かれていない(注3)。出席していた(本人の証言、第8回公判)酒井氏の名前も、なぜか出席者のリストに無い。

 海渡弁護士は「議事メモの津波に関する部分は、出席していた酒井氏の名前とともに削除されてしまったのかもしれない」「津波に関することは議事メモを残さないという社内方針が存在したとしか考えられない」と言う。

 議事メモについては、2008年2月16日や2008年3月20日の御前会議でも疑惑があるという。関係者のメールや証言では、御前会議で津波問題が話し合われたことが明らかなのに、議事メモには残されていないからだ。

 海渡弁護士は「御前会議の議事メモには情報隠蔽の疑いがある」と指摘する。

 「ちゃぶ台返し」には武藤氏だけでなく、勝俣氏や武黒氏なども早い段階から関わっていて、それが隠されている可能性がある。

2002年、高尾氏2つのうそ

 「ちゃぶ台返し」問題とは別に、代理人弁護士が明らかにした証拠から、いくつか新しいこともわかった。

 一つは、2002年8月に、原子力安全・保安院が東電の高尾誠氏を呼び出し、「福島沖も津波を計算すべきだ」と要請していたが、高尾氏が「40分間くらい抵抗」して、結局計算を免れていたことだ。2002年7月、地震本部が福島沖の大津波予測を公表した直後の出来事である。

 東電の担当者が呼び出されたことは、別の裁判で被告になっている国が千葉地裁に提出した電子メールからわかっていた。ただし担当者の名前は白塗りで隠されていたので、「40分抵抗」したのが高尾氏だったことは初めてわかった(注4)。

 この時、高尾氏は計算を免れるため、保安院に2つのうそをついた。

 一つは、「土木学会の報告書では、福島〜茨城沖の海溝寄り領域において津波地震を発生しないと判断している。想定していない」と説明していたこと。実際には土木学会では福島沖で津波が起きるかどうか、検討していなかっただけで、「想定していない」というのは事実と異なる。今村文彦・東北大教授が別の裁判で証言している(注5)。

 もう一つは、保安院からの宿題に、事実と異なる返答をしたことだ。

 保安院は、地震本部の委員から経緯を聞いてくるように高尾氏に要請した。それに対して高尾氏は「どこでも津波地震が起きるという結論に委員は異論を唱えていた」と事実と異なる説明を保安院にしていた。実際には、この委員は過去の津波地震の発生場所について、意見していただけだった。

 高尾氏は、2007年11月以降、津波地震対策を進めるため社内で奮闘していたことが、刑事裁判では明らかになっている。その背景には、2002年にうそで保安院を誤魔化したことへの悔いがあったのかもしれない。

●貞観津波の隠蔽工作

 貞観津波への危機感を、東電が早い段階から持ち、リスクが表面化しないよう隠蔽を進めていたこともわかった。

 東電が津波の検討を始めた2007年11月に、東電設計が最初に作った文書「福島第一・第二原子力発電所に対する津波検討について」(注6)には最新知見として

1)茨城県による房総沖地震津波
2)貞観地震津波
3)福島県の津波堆積物

が記入されていた。貞観津波は最初から検討対象で、地震本部の津波はその後、追加されたことがわかる。

 2009年6月24日に開かれた保安院の審議会で、専門家から東電の貞観津波対応が不十分という指摘がされた。このことについて、酒井氏はその日のうちに、「津波、地震の関係者(専門家)にはネゴしていたが、岡村さん(岡村行信・産業技術総合研究所活断層・地震研究センター長、地質の専門家)からコメントが出たという状況」と武藤、武黒両被告人にメールを送っていた。

 「現在提案されている複数のモデルのうち、最大影響の場合10m級の津波となる(注7)。→地震動影響の資料の出し方について要注意(モデルが確定しているような言い方は避ける)」とも報告している(注8)。

 甫守弁護士は「このメールの宛先は武藤と武黒であり、保安院のバックチェック審査で福島の津波がクローズアップされてきたのであるから、この時点でも役員が『そんな対応は安全第一とは到底いえない、きちんと対策を急ぎなさい』と指示すれば津波対策に取りかかるきっかけとなり得たはずである」と指摘した。

 その後、岡村氏の指摘を反映して、東北電力は貞観地震のモデル2つを取り入れ、モデルの位置も地図に入れてバックチェック中間報告書を修正していた。一方で、東電は報告書を直さなかった(注9)。貞観津波のリスクが注目されないように、会社ぐるみで工作していたのだ。

●想定外津波への対応(津波AM)もしなかった

 2006年5月11日に開かれた第3回溢水勉強会についても、新たな事実がわかった。

 この回では、福島第一5号機に敷地高さより1m高い津波が襲来した場合の被害予測が報告された(注10)。小野祐二・保安院原子力安全審査課審査班長は「この結果を聞いて、確かJNESの蛯沢部長が『敷地を越える津波が来たら結局どうなるの』などと尋ね、東京電力の担当者が『炉心溶融です』などと答えたと記憶しています」(注11)と答えていた。

 さらに蛯沢部長の発言のメモとして、「(4)水密性」「大物搬入口」「水密扉」「→対策」という記述が残されている。敷地を超える津波については機器が水没しないようにして炉心溶融を防ぐべきとの指導もしていた(注12)。

 こんな溢水勉強会の内容は、逐一議事メモが作成され、その結果は、電力各社上層部にも報告されていた。2006年9月28日に開かれた電事連385回原子力開発対策委員会(武黒被告人が部会長)でも、報告されている。

 この報告に添付された「保安院/JNESとの溢水勉強会への対応状況について」という文書には、代表的サイトの影響報告が詳細に記述され、福島が余裕が少なく極めて厳しいことがわかるようになっていた(注13)。

 それにもかかわらず、武黒氏は「対応をとるべき」という保安院の要請について「必ずしもという認識ではなかった。可能であれば対応した方が良いと理解していた」と証言している(第32回公判)。

 保安院の小野班長は、2008年10月6日の電力会社一斉ヒアリングの際に、設計想定を超える津波があり得ることを前提に具体的な対策を検討してほしいと各社に指示した。それにもかかわらず、その後の電力会社の説明が実質ゼロ回答だったことを受け、「『前回の一斉ヒアリングから半年も経って出した結論がこれか。電力事業者はコストをかけることを本当にいやがっている』と思うと、正直、電力事業者の対応の遅さに腹が立ちました」と供述していることもわかった(注14)。

 東電は、耐震指針改訂によって必要となった津波想定水位の引き上げ(図の(1))を引き延ばしただけでなく、溢水勉強会の結果から要請されていた想定外津波への対応(図の(2)、津波アクシデントマネジメント)も、事故時まで全くやらなかったのだ。(2)は安いし、目立たないように工事できるから、停止リスクも回避できた。水密化、代替電源の用意など(2)の対策だけでも実施していれば、事故の被害は大きく軽減できただろう。


図 2つの津波対策


 「被告人らが、津波対策の実施を決断し、必要な対策を部下にとるように指示していれば、この事故の発生は防ぐことはできた」(海渡弁護士)のである。

-------------------------------------------------------------
注1)被害者意見要旨p.76

「Subject:【会議案内:要返信】推本 太平洋側津波のバックチェックでの扱い
From:酒井俊朗
Date: 2008/07/31 11:01
原電安保GM
東北松本課長

東電酒井です。お世話になっております。

推本太平洋側津波評価に関する扱いについて,以下の方針の採用是非について早急に打合せしたく考えております。

・推本で,三陸・房総の津波地震が宮城沖~茨城沖のエリアでどこで起きるかわからない,としていることは事実であるが,

・原子力の設計プラクティスとして,設計・評価方針が確定している訳ではない。

・今後,電力大(電気事業連合会の共通課題、筆者注)として,電共研~土木学会検討を通じて,太平洋側津波地震の扱いをルール化していくこととするが,当面,耐震バックチェックにおいては土木学会津波をベースとする。

・以上について有識者の理解を得る(決して,今後なんら対応をしない訳ではなく,計画的に検討を進めるが,いくらなんでも,現実問題での推本即採用は時期尚早ではないか,というニュアンス)

以上は,経営層を交えた現時点での一定の当社結論となります。

以上の方針について,関係各社の協調が必要であり,また各社抱えている固有リスクの観点で,一枚岩とならない可能性があると思います。

以上を踏まえて,早急に打合せをしたく考えます。8月4日午前・午後,8月5日午前で設定したいと思いますので,ご都合を御連絡お願いします(原電安保様:必要があればJAEAさんにも転送お願いします)。

電事連小笠原様:

・本件,初耳かもしれませんが,経緯としては『土木学会津波策定後,推本が太平洋側の津波評価を公表していますが,それによると,三陸沖の津波地震について,過去に発生していない,宮城沖南部~茨城沖北部にかけて,どこでも発生しうる」となっており,女川・福島・東海サイトで,土木学会津波評価を上回る可能性となります。

・当面,電事連大(電気事業連合会全体での取り組み、筆者注)でとはなりませんが,当社,経営層まで,話があがっており,何かの機会に,電事連高橋部長あたりの耳にも入るかと思いますので,情報を共有させていただきました。

以上

以下,社内向け:

・エリア8房総沖を福島沖へ持ってきた場合の数値計算による影響評価。

・エリア3とエリア8について重みを50:50とした場合の確率論的ハザードの見直し。
を東電設計に指示願います。」

注2)たとえば、東電、東北電力、日本原子力発電(原電)、JAEAなどが参加した2008年3月5日の会合で、東電は以下のように説明している。

「東電福島は電共研津波検討会の状況、学者先生の見解などを総合的に判断した結果、推本(地震調査研究推進本部)での検討成果(福島県の日本海溝沿いでのM8を超える津波地震などが発生する可能性があるとの新しい知見)を取り入れざるを得ない状況である」

注3)被害者意見要旨p.69

注4)東電の津波対策拒否に新証拠 原発事故の9年前「40分くらい抵抗」

注5)「土木学会で安全確認」実は検討していなかった

注6)被害者意見要旨p.38

注7)貞観津波の「モデル10」でパラメータースタディを実施すると、10mの敷地を超える高さになる。

注8)被害者意見要旨 p.93

注9)『東電原発裁判』p.68

注10)http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3532877/www.nisa.meti.go.jp/oshirase/2012/05/240517-4-1.pdf

注11)論告要旨2 p.123〜124

注12)被害者意見要旨p.110

注13)被害者意見要旨p.30

注14)被害者意見要旨p.110

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【福島原発事故刑事裁判第35回(論告求刑)公判】検察官役の指定弁護士が禁錮5年を求刑

2018-12-28 17:51:12 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
福島原発事故をめぐって強制起訴された東京電力旧3役員の刑事訴訟。12月26日(水)の第35回公判は、検察官役の指定弁護士が3社長に求刑を行う論告求刑公判となった。今回の公判は、当ブログ管理人も初めて傍聴した。

指定弁護士が行った論告の内容の報道向け全文は福島原発告訴団の12月27日付記事中に掲載されている。次回、第36回公判は12月27日(木)に開かれる。

なお、福島原発告訴団の了解を得たので、傍聴記を掲載する。執筆者はこれまでに引き続き、科学ジャーナリスト添田孝史さん。(写真は市民手作りの「論告求刑」看板が置かれた東京地裁前=当ブログ管理人撮影)

--------------------------------------------------------------
指定弁護士、禁錮5年を求刑

 12月26日の第35回公判では、検察官役を務める指定弁護士が、勝俣恒久氏ら3人の被告人の罪について、これまでの公判での証言や集めてきた証拠をもとに論告(注1)を読み上げた。事故がもたらした結果の大きさ、被告人の地位・立場・権限の大きさ、やるべきことをやっていない程度などから、業務上過失致死傷罪の中でも責任は極めて重いとして、3人に禁錮5年を求刑した。

 論告・求刑は午前10時から休憩をはさんで午後5時すぎまで続いた。石田省三郎弁護士ら指定弁護士5人が交代しながら論告を読み、最後に「被告人らに有利に斟酌すべき事情は何ひとつない」「3名の責任の大きさに差をつける事情もない」として3人に同じ量刑を求めた。

 論告の中では、これまでの公判では触れていなかった東電社員や原子力安全・保安院職員の供述調書についても述べられており、新たな事実もわかった。

キーワードは「情報収集義務」

 10月に行われた被告人3人への本人尋問では、責任を転嫁する供述が目立った。

「特に津波についての問題意識はありませんでした」

「原子力部門のほうで自立的にやってくれるものだと思っていた」

「取扱を土木学会に検討依頼したい」

「まとまったところで報告があると思っていた」

 指定弁護士は、こんな被告人らの責任を問うキーワードは「情報収集義務」であるとして、以下のように述べた。

 「15.7mの津波計算結果などを契機に、被告人らが他者に物事を委ねることなく、自らその権限と責任において、積極的に情報を取得し、これらの情報に基づいて的確かつ具体的な対策を提起し、これを実行に移してさえいれば、本件のような世界に例をみない悲惨な重大事故を防ぐことができたのです」

●担当社員は「対策必要」で一致していた

 指定弁護士が細かく調べたのは、東電で津波想定を担当する土木調査グループ(注2)の動きだ。酒井俊朗グループマネージャー(GM、第8、9回公判証人)、高尾誠課長(第5〜7回)、金戸俊道主任(第18、19回)と計7回の証人尋問を重ね、被告人らの責任を浮き彫りにしてきた。

 指定弁護士は、こう述べた。

 「土木調査グループが一貫して、長期評価を取り込んで津波評価を行う必要があると考え、大規模な津波対策工事が必要であると認識していたことについて、酒井、高尾、金戸の3人の証言は一致しています。そして、東京電力におけるメール、議事録、資料等にも、土木調査グループのこうした認識と方針が明確に示されています」(注3)

●「武藤被告人、2008年6月10日には対策の義務」

 武藤氏には、吉田昌郎・原子力設備管理部長ら部下から、津波想定の結果や対策工事について、2008年6月10日と同年7月31日の両日に、具体的な進言がされていた。論告では、武藤氏の過失責任について「これらの努力を全く無視してしまったのは、武藤被告人自身に他なりません。このような事情にありながら、担当者からの報告がなかったとして、弁解し、自らの責任を回避しようというのは、責任転嫁も甚だしいといわなくてはなりません」とされた。

 そして、2008年6月10日の時点で

(1)原子力設備管理部の担当者らに対して、具体的な津波対策をすみやかに検討させ
(2)その結果を勝俣氏や武黒氏らに報告するとともに
(3)常務会や取締役会を開いて、対策工事を実施することや、これが完了するまでは原発の運転を停止すべく決議するよう進言する

などの義務があったとした。

 指定弁護士は、「その義務を怠り、それ以降も漫然と原発の運転を続けた過失があり、本件事故を引き起こした」と述べた。

●「武黒被告人、2009年4月か5月、対策の義務」

 武黒氏は、2009年4月か5月に、吉田・原子力設備管理部長から津波予測について報告を受けた。遅くともこの時点で、武藤氏が2008年6月10日時点で聞き知った内容と同じ事態を認識していた。当時、武黒氏は、原子力・立地本部長で、原発の安全について第一次的に責任を負う部署のトップだった。

 論告では、報告を受けた時点で、

(1)担当者に具体的な津波対策を検討させ
(2)勝俣氏ら最高経営層に報告するとともに
(3)自ら、常務会や取締役会に対して、対策工事を実施することや、これが完了するまでは原発の運転を停止すべく決議するよう提案し
(4)これを実行する

義務があったし、「漫然と、部下からの報告を待つだけということなど許されないのです」と説明されている。

●「勝俣被告人、疑問や不安を抱かなかったこと、おかしい」

 勝俣氏は、「福島県沖については、津波は、基本的に大きな津波は来ないということで聞いていましたので、特に津波についての問題意識はありませんでした」と供述していた(第33回公判)。

 一方、2009年2月11日の「御前会議」で、吉田部長から「もっと大きな14m程度の津波がくる可能性があるという人もいて、前提条件となる津波をどう考えるか、そこから整理する必要がある」という発言を聞いていた。

 指定弁護士は、「吉田部長の発言に、何の疑問を抱かず、不安をも抱かなかったことこそ、おかしいのです。もし疑問も不安も抱かなかったとすれば、原子力発電所の安全性についての意識が著しく欠如していたということになります。最高経営層としての資格をも問われるものといわなくてはなりません」と指摘。「御前会議のもっとも上位の者つまり『御前』として出席し、同じ場には武黒氏、武藤氏、原子力設備管理部長など担当者もいたのだから、正にその場を活用して、丹念に報告を求め、綿密に協議し、他の被告人らとともに津波対策を検討すべき義務があった」と説明した。

●初めて明らかにされた事実も

 論告の中では、検察や指定弁護士が集めた関係者の供述や、電子メールや議事録も数多く示された。その中にはこれまで明らかにされていなかった内容もあった。

 たとえば「御前会議」について、被告人らは、この会議が意思決定の場ではなかったと強調していたが、清水正孝元社長は異なる供述をしていた。

 「『中越沖地震対応打合せ』(御前会議)のように、会長から発電所の所長に至るまで、これほどの幅広に集まって方向性の議論を行い、共通の認識を持つ場というものは、私が知る限り、これまで例がなかったと思います」

 「『中越沖地震対応打合せ』は、常務会等で意思決定する前段階として、経営層の耳にいれておくべき中越沖地震後の対応に関する重要案件につき、情報を共有し合い、方向性の議論を行って、その方向性につき共通の認識を持つ場でした。その後、原子力・立地本部等の担当部署が、さらに、その方向性に基づいて、具体策を煮詰めていき、最終的には、常務会等において意思決定がなされることになります」

 「御前会議」について、被告人らは「情報共有の会合であり、意思決定の場ではない」と繰り返し否定し続けていたが、実際には「方向性の議論と、その共通の認識を持つ場だった」と元社長が供述していたのだ。

●東電の民事訴訟における主張、嘘とばれる

 被害者らが東電を訴えている民事訴訟で、東電は「水密化や高所配置等の対策(注4)は、本件事故を知っている今だからこそいえること」と主張している(注5)。事故前には発想がなかった、後知恵だと言うわけだ。しかし、論告の中で、そのような対策を東電が事故前から検討、認識していたことが明確にされ、東電が嘘を言っていたことがわかった。

 東電・機器耐震技術グループの長澤和幸氏は、第1回溢水勉強会(注6)後の2006年2月15日に、「想定外津波に対する機器影響評価の計画について(案)」を作成。影響融和のための対策(例)として、進入経路の防水化、海水ポンプの水密化、電源の空冷化、さらなる外部電源の確保という具体的な対策を挙げていた(注7)。事故の5年前に、すでに社員が作成した水密化等の報告書があったのだ。

 また、2006年11月10日に開催された電事連既設影響WGで、各電力会社の津波対策が報告されていたこともわかった(注8)。たとえば中部電力は、「原子炉建屋等の出入り口には腰部防水構造の防護扉等が設置されている」としていた。水密化対策に他社が取り組んでいることも、東電は知っていたことになる。

 これらの事実は、政府や国会の事故調では報告されておらず、今回の公判で初めて明らかにされた。東京地検が収集した証拠や、指定弁護士が新たな捜査で得た証拠を集大成した論告を読み込むと、まだまだ同じような発見が期待できそうだ。刑事裁判が明らかにした事実は、東電や国の嘘や隠蔽を暴くことに役立ち、各地の民事訴訟にも大きく影響を与えそうである。

(注1)論告は、以下の構成で全194ページ。年表つき。
「はじめに」
第1「本件事故の経過と原因」
第2「被害の状況」
第3「被告人らの立場と『情報収集義務』の契機となる事実」
第4「地震対策センター土木調査グループの活動」
第5「長期評価の信頼性」
第6「結果回避義務の内容と結果回避可能性」
第7「被告人らの『情報収集義務』の懈怠と過失責任」
第8「情状」

(注2)本店原子力・立地本部原子力設備管理部新潟県中越沖地震対策センター土木調査グループ(2008年7月1日までは土木グループ)

(注3)論告p.26

(注4)敷地が水につかることを前提とした、ドライサイトにこだわらない対策

(注5)たとえば、生業訴訟の被告東京電力最終準備書面(2)(責任論及び過失論について)2017年3月10日 p.86

(注6)原子力安全・保安院と原子力安全基盤機構(JNES)が開催していた、原発の津波に対するアクシデントマネジメントを検討する会合。

(注7)論告p.123

(注8)論告p.125

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする