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JR北海道「レール検査データ改ざん事件」札幌簡裁判決に関する声明/安全問題研究会

2019-02-11 11:53:32 | 鉄道・公共交通/安全問題
<報道>
JR北元幹部3人に無罪=データ改ざん「認識できず」-会社は罰金刑・札幌簡裁(時事)

JR改ざん3幹部無罪 法人は罰金「悪質、責任重い」札幌簡裁(北海道新聞)

JRデータ改ざん 「安全軽視」のツケ今に 巨額投資、経営難に拍車(北海道新聞)

<参考>
JR北海道「レール検査データ改ざん裁判」が結審 傍聴して浮かんだJR北海道の「重大疑惑」(11月の論告求刑公判の傍聴記)

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<安全問題研究会声明>レール検査データ改ざん判決 企業犯罪を断罪した司法~JR北海道は判決を真摯に受け止め、強権的企業体質改めよ~

 2013年、JR函館本線大沼駅付近で貨物列車が脱線、その後、レール検査データに「改ざん」があったとして、保線業務の管理的労働者3名と法人としてのJR北海道が鉄道事業法違反(虚偽報告)、運輸安全委員会設置法違反(事故調査妨害)容疑で起訴されていた、いわゆるレール検査データ改ざん事件の判決公判で、2月6日、札幌簡裁(結城真一郎裁判官)は、JR北海道を罰金100万円とする一方、被告労働者3名を無罪とする判決を言い渡した。JR北海道は、両法における両罰規定(企業犯罪において犯罪行為を命じた企業も訴追可能とする規定)に基づいて起訴されていたものである。

 判決は、可搬式軌道変位計測装置(トラックマスター、略称トラマス)の検査データを検査表から台帳に転記する過程において、通り変位(遠心力による線路のずれ)の数値が次第に小さく書き換えられた経緯は認めたものの、改ざんの意図があったとする検察側の主張や、被告労働者が通り変位の数値に一貫して関心を示さないまま検査データ数値の書き換えを黙認していたことを改ざんの根拠とする検察側の主張をいずれも退けた。現場で起きていたのは保線不良による軌間変位(2本のレールの幅の拡大)であり、車輪全体が2本のレールの間に落下していた現場状況から、軌間変位が事故の主因であり、通り変位は原因のひとつを構成するとしても直接の主因ではないとする被告弁護側の主張を採用。「現場の曲線半径が400メートルではなく、もっと小さいのではないか」とする多くの現場労働者の裁判過程における証言を重視し、数値の書き換えがむしろ誤った数値の「補正」であった可能性を否定できないとした上で「疑わしきは被告人の利益に」との刑事裁判の原則に基づいて被告労働者を無罪としたのである。

 当研究会は、昨年11月に行われた被告側最終弁論を傍聴する中で、その内容と論理構成に破たんがないことを確認するとともに、多くの保線労働者の証言を基にして、実際はJR北海道が金をかけずにスピードアップを実現するため、不当に曲線半径を実際より大きくごまかすことで速度制限を緩和した企業犯罪ではないかとの仮説を立てた。この仮説についての事実認定こそ行われなかったものの、今回の判決内容を精査すると、裁判所が当研究会のこの仮説と同様の疑いをJR北海道に対して抱いたことはほぼ確実といえるのであり、当研究会の仮説は判決を通じて事実上証明されたものと言うべきである。

 一方で、判決はJR北海道について「従業員らを管理監督する立場にありながら、保線所長を含む多数の従業員が複数回にわたって虚偽報告もしくは検査忌避に関与することに至らしめたもの」であり「犯状はかなり悪く、その刑事責任は重い」と断罪。虚偽報告罪について鉄道事業法が認める最高刑である罰金100万円の判決とした。結城裁判官は「安全よりも列車運行を最優先するJR北海道の姿勢が事故を招いた。今後このようなことが二度とないよう真摯に反省し安全確立に万全を尽くすよう求める」としてJR北海道に反省を促した。曲線半径をごまかしてまでスピードアップを求め、現場労働者に虚偽のデータに基づいた保線作業を強要、挙げ句の果てに脱線事故を起こしたJR北海道の企業犯罪がついに司法の場で断罪されたのだ。

 JRその他の犯罪企業と闘う労働者・市民にとって今回の判決が画期的な意義を持つのは、なんと言っても企業にのみ刑罰を科し、強権的企業体質の下で社命に抗えなかった現場労働者を無罪としたことだ。福知山線脱線事故をめぐり、JR西日本と闘ってきた遺族はもちろん、当研究会も繰り返し求めてきた「組織罰制度」を事実上実体化させる先進性をこの判決は持っている。当研究会は今回の判決をてことして、今後は罰金額を企業罰として実効ある水準に引き上げる闘いを追求していく。検察側、被告のうち敗訴したJR北海道に対しては、判決を真摯に受け止め、控訴を断念するよう求める。

 安全投資を削ることでスピードアップを追求してきたJR北海道の冒険主義は、2011年、石勝線列車火災事故によって破たんした。JR北海道は、この事故を表向き「反省」する振りをしながら、まともな収支さえ公表しないまま経営危機を演出、「自社単独では維持困難」10路線13線区を切り捨てる意思を露わにしてきた。路線維持を求める沿線住民・自治体の声に一切耳を傾けず、一方的に廃止の結論だけを押しつけようと策動するJR北海道の姿は、脱線事故を引き起こしたウソまみれで強権的企業体質の路線問題における最も醜悪な反映である。当研究会はJR北海道に対し、このような強権的企業体質を改めるとともに、一方的廃線強要ありきではない、真の意味で沿線住民・利用者本位の地域協議を誠意をもって行うよう、改めて強く求める。

 国鉄労働者1047名の不当解雇以来、当研究会は人生の半分をJRとの闘いに捧げてきた。この闘いの歴史の蓄積、そして当研究会の不屈の意思を甘く見るなら、JR北海道にとって路線問題の行方はきわめて厳しいものになるであろう。10路線13線区の中でも、とりわけ切り捨ての意思が明確な5線区に対し、JR北海道が隠蔽やごまかし、だまし討ちや脅迫を続けることで当研究会の闘う意思を挫くことができると考えているなら、重大な誤りであると改めて警告する。

 当研究会は、全国JRグループの安全とサービスを引き続き厳しく監視していく。JR北海道に対しては、これに加え、全路線維持を求めて最後まで闘い抜く決意を、この機会に改めて表明する。

2019年2月10日
安全問題研究会

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福知山線事故で強制起訴の元3社長が厚かましくも退職慰労金を受給!

2018-12-24 11:53:03 | 鉄道・公共交通/安全問題
退職慰労金、半額を支給=福知山線事故で元社長3人―JR西(時事)

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 JR西日本の来島達夫社長は19日の定例記者会見で、乗客106人が死亡した2005年のJR福知山線脱線事故を受け、支払いを留保していた元社長3人の退職慰労金について、半額を支払う決定をしたと発表した。

 取締役会の決議は18日付。

 同社によると、3人は井手正敬(83)、南谷昌二郎(77)、垣内剛(74)各氏。事故の責任を重視し、支払額を5割減額した。総額は約1億7600万円という。

 3人は業務上過失致死傷罪で強制起訴され、17年に最高裁で無罪が確定した。退職慰労金の支給対象となる役員は6人いたが、うち3人は辞退。元社長3人は受領する意向を示していた。
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このニュース、時事の記事がYahoo!ニュースに転載の形で出ているものの、時事のニュースサイトに掲載されておらず、他のメディアもインターネット上では報じていない。不安になったので、JR西日本のサイトで確認すると、以下の通り掲載されている。

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「退職慰労金制度の廃止に伴う打ち切り支給」の支払いについて(JR西日本)

 当社は、12月18日開催の取締役会において、当社元社長3名に対して、かねて支払いを留保していた「退職慰労金制度の廃止に伴う打ち切り支給」につき、支払いを行う旨を決議しましたのでお知らせいたします。

 なお、支払額については福知山線列車事故を惹き起こした企業としての責任を重く受け止め、5割の減額を行いました。

詳細

1 対象者(敬称略)
 井手 正敬
 南谷 昌二郎
 垣内 剛

2 支払予定総額
 176百万円

(参考) 「退職慰労金制度の廃止に伴う打ち切り支給」に係るこれまでの主な経緯

 ・2002年6月26日
  退職慰労金制度の廃止に伴う重任取締役への「退職慰労金の打ち切り支給」を株主総会・取締役会を経て決定する。同取締役会にて「支払時期における会社の業績等諸般の事情により、取締役会の決議をもって相当額の減額をすることができる」と決定する。

 ・2005年4月25日
  当社が福知山線列車事故を惹き起こす。

 ・2005年6月以降
  対象役員の退任に際し退職慰労金の支払留保を決定・継続する。

 ・2017年6月12日
  当社元社長3名に対する刑事裁判が終結する。
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要するに、(1)3社長在任中に退職慰労金制度が廃止になったが、経過措置として廃止の時点で在任中だった役員は打ち切り支給を受けられるよう会社として決定した。(2)その後、3社長在任中に福知山線脱線事故が起き、3社長含む6役員に対しては支給を一時停止していた。(3)しかし刑事裁判が終わり、全員が無罪になったので、今回、半額に減額した上で支給はする――ということだ。

刑事被告人にされなかった3人の役員が受け取りを辞退しているのに、無罪となったものの強制起訴され被告人となった3人が、自分に受け取る資格があると思っているなら厚顔無恥もここに極まれりというほかない。

支給決定をしたJR西日本も同罪だ。そもそも退職慰労金の支給は会社法361条の規定により通常は株主総会の議決事項となる。例外的に企業が定款で支給条件を定め株主総会の承認を得れば、その後は1件ごとに株主総会の議決によらなくてもよいとされるものの、企業法務に詳しい弁護士によれば、1件ごとに株主総会の議決を得て支給するのが普通で、一律に定款で定めるのはむしろ例外に近いという。「お手盛り」との批判は当然だし、そもそもJR西日本は「すでに会社を辞め、今は無関係の人間だ」との理由で、3人が強制起訴された福知山線事故の刑事訴訟を会社としては一切支援しなかった。無関係というならなぜ今回、退職慰労金の支給を決めたのか。裁判など不都合なときは無関係を装いながら、都合のよいときは元役員だからとしてカネを支払うJR西日本に対し、当研究会は納得できる説明を求める。

JR西日本が退職慰労金制度の廃止と打ち切り支給制度の導入を決めたのは、福知山線脱線事故が起きる前の2002年であり、決めた時点でこの事態を予測することは困難だったとの「言い訳」はあり得るかもしれない。しかしこの年、JR西日本では福知山線脱線事故の「予兆」とも言えるような「救急隊員ひき殺し事故」が起きており、どちらにしてもこうした事故が連続的に発生していた責任を当時の役員たちは負うべきだ。救急隊員ひき殺し事故の時点で自社の安全体制を適切に見直していれば、福知山線事故はなかったかもしれないからである。井手、南谷、垣内の元社長は、この退職慰労金で事故犠牲者への「個人賠償」を行ってはどうか。

年末のどさくさに紛れてこっそりとこんなことを決め、自社のホームページ上だけでこっそり公表して「情報公開も果たした」とうそぶくJR西日本を当研究会は決して許さないし、やはりこの会社とは闘い続けるしかない。はっきり言おう。新幹線での台車亀裂事故や、人をはね殺しても新幹線の運転を続けるようなあり得ない事故が昨年末から相次いでいるのも、こうした腐った企業体質が何ら改まっていないからだ。

もうひとつ、重要なことを指摘しておきたいが、現在、この事故の後を追うように、検察審査会の議決によって強制起訴となった福島第1原発事故の刑事裁判が行われている。裁判は、今週26~27日に検察官役の指定弁護士による論告求刑が行われることになっており、当研究会も傍聴する予定になっている。もしこの裁判で勝俣恒久元社長ら3役員の「無罪放免」を許せば、いずれ東京電力でも同じようなことが起きるだろう。東京電力の刑事裁判で有罪を勝ち取ることの重要性は、今回の件でますます高まったと言わなければならない。

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JR北海道「レール検査データ改ざん裁判」が結審 傍聴して浮かんだ「重大疑惑」/安全問題研究会

2018-11-28 23:00:11 | 鉄道・公共交通/安全問題
JR北、2月6日判決=検査データ改ざん結審―札幌簡裁(時事)

11月27日午後、休暇を取って、私は札幌地裁802号法廷の前に並んでいた。今日、この法廷で行われる被告弁護側の最終弁論をもって1つの裁判が結審を迎える。JR北海道で起きたレール検査データ改ざん事件の刑事裁判だ。

5年も前の出来事なので、もう一度、経緯を見ておこう。2013年9月19日、JR函館本線大沼駅付近を走行中の貨物列車のうち貨車4両が脱線する事故があった。この事故の1年前(2012年10月)の検査で、事故現場ではレールの幅(JRの在来線の場合、通常は1067mm)が20mmも広がっており、JRもそれを確認しながら放置していた。19mm以上のレールの広がりは15日以内に補修する社内規則がありながら、人手不足のため放置されていたのだ。

この事故では、運輸安全委員会が委員を派遣して事故調査を実施。その過程で「本物」のレール検査数値を記載した紙の台帳をこっそり破棄し、パソコン上のデータに転記する際に検査数値を「補正」した台帳を提出したとされる。JR北海道保線担当社員らのこうした行為が鉄道事業法及び運輸安全委員会設置法違反(虚偽報告)に当たるとして、北海道警が強制捜査に踏み切る。2016年2月、当時の保線担当幹部3人のほか、両法の「両罰規定」(個人と併せて犯罪行為を指示した法人の処罰を認める規定)に基づいて、法人としてのJR北海道も起訴され、刑事裁判が続いてきた。前回、9月27日の論告求刑公判で、検察側が法人としてのJR北海道に罰金100万円を、また保線幹部3人に罰金20~40万円を求刑。今回、被告弁護側の最終弁論で結審することになったのである。

今回は結審ということで、ひときわ注目されたようで、普段より大きい札幌地裁802号法廷が使われたが、事件自体は札幌簡裁に係属している(罰金額140万円以下の事件は簡裁でも取り扱うことができるとする裁判所法の規定による)。13時40分過ぎ、メディアによる法廷内の代表撮影の後、13時45分に開廷、3被告のほか島田修JR北海道社長も入廷する。2016年11月にJR北海道が「単独では維持困難」とする10路線13線区を公表して以降、ローカル線廃止問題をめぐって、安全問題研究会はJR北海道と激しいせめぎ合いを続けている。私は、入廷する島田社長を思わず睨み付けた。

裁判は闘いである。刑事、民事を問わず、どちらの陣営も自分たちに有利な証拠や事実は積極的に援用し、不利な証拠や事実は黙殺し、自分たちに有利なストーリーを作り上げる。この裁判を傍聴するのは今回が初めてであり、前回の論告求刑を傍聴していない私には、検察側が有罪へ向けどんな筋道を立てたのか知ることはできない。しかし、今日の最終弁論を傍聴した限りでは、弁護側主張には筋が通っており、ストーリーに破たんはないように思えた。

今日の法廷で明らかになった驚くべき事実がいくつかある。JR北海道では、軌道変位(線路のズレ)を計測するため、可搬式軌道変位計測装置(トラックマスター、略称トラマス)を使っているが、トラマスは万能ではないとわかったことだ。測定ピッチが0.5m単位とおおざっぱなことに加え、測定位置等のズレなどもしばしば起き得るとされる。「測定ミスで2回測ったこともある」と証言する社員もいたことも明らかにされた。民営化以降のJR各社は、現場の人減らしを機械化で補っているから安全性は低下しないとして、人員削減を正当化してきた。しかし、その機械化がこんな状態では現場力が低下するのは当然だ。「人手不足で目の前の仕事に追われ、極度の繁忙状態。軌道変位の数値をじっくり確認する余裕はなかった」と人減らし合理化による現場疲弊を訴える証言もあった。

しかし、それすらも大した問題ではないと思い知らされる重大証言が飛び出す。トラマスに入力されているデータがそもそもデタラメだったことだ。最悪の例で言えば、曲線半径が230mのところ、400mとデータ登録されている場所もあったという(この「400m」という数字に私はピンときたが、それについては後述する)。「もっと半径が小さいのではないか」「もっとあのカーブはきついはず」という会話が保線担当社員の間で交わされていたという重大証言も飛び出した。被告弁護側は保線担当社員らのこうした感覚を「保線実務家としては自然な認識」であると主張。「被告らの取った行為が改ざんであるならば、改ざん後の検査数値が客観的に見て説明できないものであることを検察側が立証できなければならないが、そうなっていない。被告らは一貫して、検査数値に正されるべき誤りがあったとの認識の下、改ざんではなく誤った数値の訂正を行ったものである」として3被告全員に無罪を求めた。

弁護側はこの他、3被告が「通り変位」数値に一貫して関心を抱かなかったとする検察側の有罪立証を崩すための主張を繰り広げた。この脱線事故の原因のひとつが、レール幅が広がる「軌間変位」であったことは運輸安全委員会の事故報告書(2015年1月公表)でも指摘されているが、弁護側は「事故現場で車輪が線路内側に落ちるなどの状況から、3被告が軌間変位脱線を疑っていた以上、保線実務家の感覚として通り変位数値に関心を失うことに不自然はない」とした。「通り変位」とは、2本のレールが同じ方向、同じ幅で揃ってずれることである(弁護側は主張していないが、カーブでの遠心力は速度の2乗に比例し、その遠心力がカントで吸収しきれなかった場合、そこから発生した横圧はカーブ外側に向かって働くから、通常「通り変位」はカーブ外側に向けて発生する)。保線がきちんと行き届き、犬釘などの「締結装置」に不具合がない限り、レールは枕木にしっかりと固定されているから、列車の遠心力による横圧があったとしても、それは2本のレールが揃って動く「通り変位」になる。逆に、軌間変位は締結装置に不具合があった場合に発生する。3被告が現場の状況から脱線原因として軌間変位を疑ったことによって、通り変位ではないと判断し、それへの関心を失ったとしても何らおかしくないとして、それを根拠に有罪とした検察側に反論したわけだ。

<参考>
運輸安全委員会事故報告書
運輸安全委員会事故報告書説明資料

この日の最終弁論はおおむねこのような内容だった。もちろん裁判ではいずれの陣営も自分たちに有利な事実や証拠のみに依拠して闘う。不利な事実や証拠をあえて採用することは通常はないであろう。運輸安全委員会の報告書とこの日の最終弁論内容を見比べて、通り変位が今回の事故原因と完全に無関係だったとまで言い切れるかどうかなど、思うところはある(運輸安全委員会報告書は通り変位も事故原因のひとつとしている)。だが刑事裁判は原則「疑わしきは被告人の利益に」であるから、弁護側は白であることを立証できなくとも、検察側が黒としたものをグレーに変えられるだけで無罪を勝ち取れる可能性は飛躍的に高まる。この日のストーリーの組み立てとしてはまずまずの出来であり、裁判官がまともな人物なら判決の行方は五分五分との印象を持った。

さて、ここで重大な疑問がいくつか私の頭の中に浮かんだ。その中でも最も重大なのは、曲線半径が230mのところ、台帳に400mと入力データ登録されている場所もあったとの証言である。カーブの半径は前述した「通り変位」発生によって変わることがある。だがこれほど大きな曲線半径の相違は軌道変位による変化をはるかに超えているし、そもそも通り変位はカーブ外側に向かって発生するものだから曲線半径が小さくなる方向に作用することはあっても逆はあり得ないからである。保線担当社員の間でもそのおかしさは認識されていたという。もしこの証言が事実なら、JR北海道は会社ぐるみで本当は曲線半径230mのところを、400mと偽ったデータを基に保線作業をさせていたことになる。そして、保線担当社員たちもとっくにそのことを知っていて、むしろ400mという偽りの曲線半径に基づいた検査データを記録すれば事故が起きかねないから、それをこっそり本来の数値――230mの曲線半径に基づいた数値に「訂正」「補正」していたのではないかと考えられる。つまり、実際起きていた事態は巷間伝えられている「現場社員によるレール検査データ改ざん」とは真逆であり、むしろ「会社にウソの検査データを記載するよう強要されていた現場社員が、事故防止のためこっそり数値を正しいものに「補正」していたのではないかということなのだ。だとすれば、3被告はスケープゴートであり、処罰されるべきは法人としてのJR北海道だけでいいということになる。

2つ目の疑問は、そもそもこれらの証言が事実であるとして、なぜJR北海道がそのような偽り(それも、保線担当社員なら誰でも気付くような見え透いた偽り)に手を染めなければならなかったのかということである。この答えを見つけることはそれほど困難ではない。JR北海道の経営危機の深刻化を受けて社内に設置された「JR北海道再生推進会議」の第2回会議(2014年7月3日開催)で、JR北海道がこのように告白しているからである。「……高速道路網の道内整備計画に対抗するため、限られた財源を都市間高速事業に重点配分したこと等により、結果的に今日の老朽設備の更新不足を招くこととなった」。安全投資を犠牲にして、列車高速化を優先したとJR北海道みずから認めているのだ。

<参考>
JR北海道再生推進会議議事概要
うち第2回

2011年に石勝線トンネル内での特急列車火災事故が起きるまでの間、JR北海道が高速バスや飛行機に対抗するため、ひたすらスピードアップを目指していた時期があった。だからといってJR北海道が列車の大幅スピードアップを可能にするような大規模な線形改良工事を行った形跡はない。第一、半径230mのカーブを400mにするような大規模な線形改良工事であれば新たな用地取得などが必要になり施工は容易ではない。それに、本当に線形改良工事をしていたのであれば、保線担当社員から「もっと半径が小さいのではないか」「もっとあのカーブはきついはず」などという声が上がることなどあり得ないはずである。

あり得ない可能性を1つ1つ、消していくと、最後まで消えずに残るものがある。それは考え得る限りで最悪の選択肢である。今では廃止されてしまったが、脱線事故の起きた函館本線の線路建設当時には生きていた「普通鉄道構造規則」では、曲線半径400mでの制限速度は90~110km/hであるのに対し、曲線半径250mでは70~90km/h。曲線半径160mでは最高速度は70km/h以下に制限される。「230mのカーブなら最高速度を70km/hに抑えなければならないが、400mと偽れば速度制限を90km/hにまで緩和できる」――JR北海道上層部がスピードアップ実現のためそう考えたのではないかという、背筋も凍るような最悪の選択肢が、消えずに最後まで残ったのである。

2013年頃から、JR北海道各線で貨物列車を中心に脱線事故が相次いだ。私はなぜJR北海道でだけ次々と脱線事故が続くのか、理由が全くわからなかった。だが、本当は半径230mのカーブに対し、半径400mのカーブに対する速度制限が適用されていたと考えれば、脱線事故が続くのも当然で、辻褄が合う。まず初めに会社側が「金をかけずにスピードアップ」を実現するため、手っ取り早い方法として曲線半径を「改ざん」。それに合わせる形で故意に誤った検査基準値、軌道変位数値を台帳に記載することが日常化、それを知りつつ会社に逆らえなかった現場が事故防止のため必死で本来のレール検査数値に「補正」を続けてきたが、ついにそれが破たん。人手不足で多忙を極め、追い詰められた現場状況も重なって破局に至った――今回の裁判傍聴を通じて私の頭の中に浮かび上がった恐るべきストーリーである。このストーリーがウソであると、今後の裁判の中で明らかにされることを願っている。

「今回の事故を厳粛、重大に受け止めるとともに、利用者のみなさまにご迷惑とご心配をおかけしたことに対し深くお詫びいたします。JR北海道として、処罰を受けることに異存ありません。安全に必要な経費を削ったマネジメントに問題があったと認識しており、今後は事業再建に取り組みたいと思います」

「これにて結審としますが、裁判所に対して何か言いたいことはありますか」との結城真一郎裁判官の問いかけに、島田社長はこう謝罪した。3被告から発言はなかった。注目の判決は、2019年2月6日(水)午前10時から、札幌地裁805号法廷で言い渡される。

(文責:黒鉄好)

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33年迎えた日航機事故 原因めぐって新たな動きも……

2018-08-12 20:49:17 | 鉄道・公共交通/安全問題
墓標そばの木、夫婦は赤パーカ着せた 日航機乗った息子(朝日)

墜落事故で失った娘へ 完成まで15年、千羽鶴を2人に(朝日)

単独機の事故としては史上最悪の520名が死亡した日航123便墜落事故から33年を迎えた御巣鷹では、例年通り多くの遺族に加え、他の事故や災害で犠牲になった人の遺族も慰霊登山をした。東日本大震災による津波で息子さんを亡くした七十七銀行女川支店員の遺族も4度目の慰霊登山だ(参考記事)。時を超え、場所を超え、災害や事故など「企業による過失犯罪」の犠牲となった人の関係者の多くを引き付ける「磁場」として、御巣鷹は今年も健在だ。

安全問題研究会は、昨年8月12日にも現地を訪れたが、遺族以外は事故当日の慰霊登山を遠慮してほしいと言われ、入山は断念している(関係記事)。これだけ多くの人がこの事故のことを思い、考え、行動している事実を目の当たりにした当研究会は、この事故に関する限り、みずからの役割は事実上終わったと判断し、慰霊登山は今後しばらくは行わない考えでいる。次に行うのは、早くても節目の35周年か40周年のいずれかになるだろう。

その一方、ここ数年で新たな動きが出てきている分野もある。この事故の原因に関してである。事故20年を過ぎた2005年に、何者かの手によって持ち出されたボイスレコーダーの音声が流出し、メディアで流されたのを境として、原因究明の動きには一区切りがついたと思われた。2000年代後半からしばらくの間、この事故に関する本の出版などが下火になった時期もある。しかし、事故29周年の2014年に「8.12日航機墜落30回目の夏~生存者が今明かす“32分間の闘い”ボイスレコーダーの“新たな声”」(関係記事)が放映されて以降、再びこの事故の原因をめぐる本の出版などが活発化した感がある。端的に言えば、事故調説(圧力隔壁破壊説)対「撃墜/無人標的機衝突説」の闘いが再び激しさを増しているのである。

「撃墜/無人標的機衝突説」を唱える本は、「疑惑 JAL123便墜落事故―このままでは520柱は瞑れない」(角田四郎・著、早稲田出版、1993年)以来、読み応えのあるものは久しく出ていなかったが、昨年7月出版された「日航123便墜落の新事実~目撃証言から真相に迫る」(青山透子・著、河出書房新社)は「撃墜説」を唱える本の中では久しぶりに読み応えのある内容だった。当ブログ管理人が現在、読み進めている本は「日航機123便墜落 最後の証言」(堀越豊裕・著、平凡社新書)だが、こちらは事故調の圧力隔壁説をベースとし、青山説への反論を試みながらも撃墜説を「一笑に付せない」と結局、否定しきれずに終わっている。これらの本については、久しぶりに読後、書評を書いてみようと思っている。当ブログの事故原因に関する最新の見解も、併せて公表できるだろう。

当ブログのおすすめ番組 ボイスレコーダー~残された声の記録~ジャンボ機墜落20年目の真実(2005年放送,TBS)

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【訃報】信楽高原鉄道事故遺族会代表世話人、吉崎俊三さん死去

2018-05-05 13:00:41 | 鉄道・公共交通/安全問題
信楽高原鉄道事故遺族の吉崎俊三さんが死去(神戸)

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 信楽高原鉄道事故の遺族で、民間機関「鉄道安全推進会議(TASK)」の会長を長年担った吉崎俊三(よしざき・しゅんぞう)さんが2日午後11時23分、肺炎のため兵庫県猪名川町の病院で死去した。84歳。滋賀県浅井町(現長浜市)出身。自宅は宝塚市中山桜台1の4の8。通夜は3日午後7時から、葬儀・告別式は4日午後1時半から、いずれも宝塚市売布東の町15の14、宝塚平安祭典会館で。喪主は長女の溝口恵美子(みぞぐち・えみこ)さん。

 1991年5月、滋賀県信楽町(現甲賀市)で信楽高原鉄道とJR西日本の列車が正面衝突する事故が発生。吉崎さんの妻佐代子さん=当時(53)=ら42人が犠牲になった。

 事故2カ月後に遺族会を立ち上げ、代表世話人として対応に尽力。93年8月には、ほかの遺族らとTASKを結成し、2005年から9年間にわたって代表を務めた。

 鉄道事故を対象にした調査機関の必要性を国に訴え、01年、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会(現運輸安全委)設置が実現。日航ジャンボ機墜落事故(1985年)や明石歩道橋事故(01年)、尼崎JR脱線事故(05年)の遺族らと連携して、被害者支援の充実を求め、国の体制強化にも尽くした。
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1991年5月に起きた信楽高原鉄道事故(死者42人)で、遺族会の代表世話人として遺族を取りまとめ、その後もTASK(鉄道安全推進会議)を立ち上げるなど、公共交通事故の被害者救済と事故原因究明の両面から意欲的、献身的に活動してきた吉崎俊三さんが亡くなった。80歳を過ぎる頃から、高齢のため体調がすぐれず、ここ数年はJR福知山線脱線事故など他の事故関係で開かれる集会などにもほとんど出席できない状況だということは、福知山線事故遺族の藤崎光子さんを通じて、何度か耳にしていた。

吉崎さんの功績は、上の神戸新聞の記事にある通りであり、改めて繰り返さないが、神戸新聞が触れていない点をいくつか補足しておくと、旧運輸省にはそれまで、船舶の事故を調査する海難審判庁と航空機事故を調査する航空機事故調査委員会があるだけだった。公共交通機関の事故調査や原因究明には専門的な知識と大規模な調査体制が必要であるにもかかわらず、陸上交通機関の事故を調査する常設の機関はなかったのである。

航空機事故調査委員会を航空・鉄道事故調査委員会に改める法改正が、ようやく国会で実現したのは2001年10月のこと。吉崎さんが、最愛の妻を失ってから10年が経過していた。その後、海難審判庁を統合して、航空・鉄道事故調査委員会が運輸安全委員会に改組されたのは2008年10月。国家行政組織法第3条に基づき、より独立性の高いとされる「3条委員会」となった(3条委員会には、他に公正取引委員会(内閣府に設置)や原子力規制委員会(環境省に設置)などがあるが、特に原子力規制委員会が独立性を維持できているかどうかについては、別の機会に改めて触れたい)。

3条委員会の組織形態になっても、運輸安全委員会は国土交通省の外局に位置づけられている。独立性が高いとはいえ、国土交通省と運輸安全委員会事務局との間で人事異動による官僚の行き来が繰り返され、その影響もあって鉄道会社への勧告はしても国の鉄道安全対策への勧告や提言は行えないなど、完全独立機関でないことの弊害は大きく、その是正は今後の課題だ。

しかし、航空・鉄道事故調査委員会への改編によって、鉄道事故や重大インシデントが発生した際、直ちに調査官を現地に派遣することができるようになったのも、吉崎さんたちの活動が実ったからである。事故や重大インシデント発生の都度、調査委員会を立ち上げて調査官を任命・派遣し、調査が終わったら解散するという体制に比べ、より機動的に調査ができるようになったことはもちろんである。吉崎さんのこの功績は、いくら強調してもしすぎることはない。

信楽高原鉄道事故は、JR発足後、2桁の死者を出す初めての大事故であり、安全問題研究会にとっても活動の原点となった事故のひとつである。安全問題研究会は、吉崎さん死去にあたり、謹んで哀悼の意を表する。


<関連写真>(撮影はいずれも2008年11月2日、安全問題研究会)

写真1 TASKの活動を伝えるパネル(信楽駅)


写真2 TASKの要望を受けて製造された信楽高原鉄道車両の紹介パネル(信楽駅)


写真3 小野谷信号場跡(事故後廃止)ここの信号設計ミスが事故原因とされる


写真4 信楽高原鉄道の始発(終着)駅、貴生川駅構内に国鉄マンが建てた安全の碑 JR西日本はこの鉄道マンの誓いも裏切った


写真5 事故後、信楽町は「鉄道安全の町」を宣言した

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昨年から続く鉄道トラブル「異常事態」 ついに運輸安全委員会も指摘 JR北海道ローカル線問題と同じ背景?

2018-02-05 23:00:32 | 鉄道・公共交通/安全問題
すでに報道から半月近く経過しているが、当ブログ・安全問題研究会にとってはきわめて重要な内容だと思うので取り上げることにする。なお、リンクはすでに切れており、NHKのニュースには飛べないのでご了承いただきたい。当ブログの知る限りでは、全国ニュースで取り上げたのはNHKだけのようだ。

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運輸安全委 地方鉄道の脱線事故の背景について異例の指摘(NHK)

1月25日 17時47分

去年、和歌山県の紀州鉄道と熊本県の熊本電鉄の列車が相次いで脱線したことを受け、国の運輸安全委員会は調査報告書で、地方鉄道に共通する課題として、事業が小規模なため技術力の維持、向上が困難になっていると、事故の背景について異例の指摘を行いました。

去年1月に和歌山県の紀州鉄道で、2月には熊本県の熊本電鉄で、相次いで列車が脱線し、国の運輸安全委員会は25⽇、それぞれの調査報告書を公表しました。それによりますと、いずれもレールの幅が広がったことが原因と考えられ、枕木の腐食やレールと枕木の固定が不十分だったことなどで広がった可能性があるとしています。

紀州鉄道と熊本電鉄は、いずれも社内規定に基づいて線路の点検を行っていましたが、脱線の危険性などを十分に把握できていなかった可能性があると指摘しています。

これについて、運輸安全委員会は、地方鉄道に共通する課題として、事業が小規模なため技術力の維持、向上が困難になっていると、事故の背景について異例の指摘を行いました。そのうえで、運輸安全委員会は、社員教育の充実や木製の枕木をメンテナンスが簡単なコンクリート製のものに交換することなど、対策の実施を求めました。
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2017年1月に紀州鉄道で起きた脱線事故、2月に熊本電鉄で起きた脱線事故について、去る1月25日に運輸安全委員会から事故調査報告書が公表された。報告書は紀州鉄道熊本電鉄それぞれをご覧いただきたいが、とりわけNHKが注目したのは紀州鉄道の事故報告書だ。PDF版の事故報告書の31ページ(PDFファイルのページでは48ページ中39ページ)に「軌道の整備(保線)体制」として、確かに以下のように記述されている。

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 地方鉄道に共通する課題として、鉄道事業が小規模であるために、組織として軌道整備に関する技術力の維持、向上させることが困難な状況であることが考えられ、同社〔紀州鉄道〕においてはそのような状況が継続していた可能性があると考えられる。

 このため、……(中略)……脱線事故につながる危険性を同社が十分に把握しておらず、安全上問題ないものと判断した可能性があり、それに応じた軌道整備が速やかに行われなかったことが本事故の発生に関与した可能性があると考えられる。

 技術力を維持、向上させる又はその不足を補うためには、保線業務に従事する社員に対し、社内及び社外の研修等の社員教育を実施することや、外部から適任者を増員することが有効であると考えられる。

 また、即効性、確実性を考えると、木まくらぎに比べ耐久性に優れ、容易な保守が可能であるコンクリート製まくらぎに交換(数本に1本程度の割合で置き換える部分交換を含む。)していくこと等ハード対策も検討することが望ましい。
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事故調査報告の中でこのような意見を表明すること自体はもちろん好ましいが、一方で運輸安全委員会には国や自治体の地方私鉄支援に道を開くような政策や財源についての提言も併せて行ってほしかった。地方私鉄にただ体制整備のための自助努力を求めるだけでは、かつて多くの地方私鉄がたどったような「安全が維持できない→廃止」という流れがいっそう強まることになりかねない。何しろ今やJR北海道ですら「石勝線列車火災事故(2011年5月)をきっかけに安全投資が滞り今日の事態を招いた。安全を維持しながら全路線を維持することは困難だ」として維持困難線区の廃線や地元負担に向けた協議を呼びかけているくらいなのだ。

鉄道以外の公共交通にはある程度(全額とまでは行かなくても、航空会社や海運会社がそれなら何とか運行を維持していこうかと思える程度)には安全維持のための補助制度が設けられている。この面でも鉄道だけそうした財源措置が乏しい状況にある。地方中小私鉄に限った話ではない。東急田園都市線の渋谷地下線区間で昨年から相次ぐ電気系統トラブルは、大都市鉄道でも安全投資が事業者任せのまま放置されていることの表れである(同じNHKが昨年12月にも「鉄道トラブルが相次ぐ3つの理由」としてこの問題を取り上げている)。大手私鉄、地方中小私鉄問わず続いている安全トラブルと、ローカル線廃止問題はどちらも「鉄道だけ国や自治体の関与、支援が少なすぎる」という点で根本的に同じなのだ。

当ブログと安全問題研究会は、先日公表した「こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策」リーフレットで示したように、他の公共交通と比べて鉄道にだけ国の支援が手薄であることに根本的な疑問を持っている。鉄道への国の支援がせめて他の公共交通並みになるよう、引き続き求めていきたいと考えている。

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33回忌の節目迎えた「御巣鷹」 悲劇の地から「安全の聖地」への新たなステージ

2017-08-16 23:19:23 | 鉄道・公共交通/安全問題
1985年8月12日に起きた日航123便ジャンボ機墜落事故から32年となった。麓の川では灯籠流し、「慰霊の園」では上野村主催の慰霊式と、今年も恒例の追悼行事が滞りなく行われた。

32年というのは数字上は節目ではないが、仏教では33回忌の節目に当たる。37回忌、50回忌の法要を行う宗派もあるが、37回忌はともかく50回忌となると、弔う側も「弔われる側」になっている場合がほとんどで、行われている実例を見聞きしたことはない。多くの宗派は33回忌で「弔い上げ」として法要の区切りにすることが多く、仏教の上では大きな節目の年であったと言えよう。


慰霊を伝える記事(2017年8月13日付「北海道新聞」)



実は、筆者は8月11~12日にかけて都内にいた。せっかく事故当日の12日に都内にいるのだから、御巣鷹の尾根に足を伸ばし、事故当日の追悼の雰囲気がどのようなものか知りたいと思った。真夏とは思えない雨天続きの異例の天気の中を、新幹線で高崎まで行き、高崎駅でレンタカーまで借りて現地入りを目指した。だが、現地を前にして、交通整理に当たっていた警備員(日航職員?)に「遺族の方ですか?」と問われ、違うと正直に答えたところ「遺族以外の方の登山は事故当日はご遠慮いただいております」と言われ、引き返すことになってしまった。

メディア報道を見ると、この事故の直接の犠牲者遺族でない方々、例えばJR福知山線脱線事故の遺族なども慰霊登山をしている。遺族だと「虚偽申告」をして慰霊登山を強行するという方法もあり得た。だが、事故の傷が癒えないまま、今も悲しみを抱いてここに来ている遺族を前にしてそのような行為をするのは気が引けたし、天気もあまりよくなかったため、無理をせず引き返すことにしたが、せめて「慰霊の園」だけでも訪問したいと思った。幸い慰霊の園は出入り自由だったので、お線香をあげてきた。

御巣鷹の尾根慰霊登山の体験記をアップしているブログやサイトはそれなりの数、存在しているが、「事故当日の8月12日は遺族以外は登れない」とはどのブログ・サイトにも書いていなかったから行けると思っていた。筆者の事前調査不足が原因であり、誰を恨むつもりもないが、事故27年の2012年に訪問した際も、尾根の入口まで来ながら、雷鳴が轟き始めたため登山を断念している。3回訪問して無事、尾根に登れたのが1回だけとは、噂には聞いていたが、なかなか厳しい山だ。

そんな「御巣鷹の尾根」だが、記事にあるように、事故から30年以上の時を経て位置づけが大きく変わってきた。高齢化した遺族の中には尾根への登山を断念せざるを得ない人たちが出てきたが、それに代わるように、遺族の子や孫といった若い世代が慰霊登山を引き継ぎながら今日まで来ている。直接の遺族でない方の慰霊登山も(8月12日を避ける形で)増えてきた。この事故を初め、JR福知山線脱線事故など多くの公共交通の事故と向き合ってきた柳田国男さんのコメントが、その変化をうまく言い表している。「大事故も、歳月の中でポジティブな意味を持ち得る。遺族だけでなく、日航や地域住民なども加わり、山を守り育ててきた。それが磁場のように、人を呼び寄せる力を与えたのだろう」。

「悲劇の地」から「安全の聖地」へ――御巣鷹の尾根は、もちろん順風満帆に変化を遂げてきたわけではなく、この間、様々な紆余曲折があった。そのようなポジティブな変化の背景を、美谷島邦子さんの存在を抜きにしては語れないだろう。美谷島さんは、遺族でつくる「8.12連絡会」の事務局長を、創設以来30年以上にわたって一貫して務めてきた。日航に責任を取らせたい、事故の真相を究明したい、二度と同じ事故を起こさせたくないという「筋」を通しながらも、時として苦しむ遺族にも柔軟に向き合い、相談に乗ってきた。8.12連絡会にならってJR福知山線脱線事故遺族が作った「4.25ネットワーク」が事実上、休眠状態になっている中で、公共交通事故の遺族会としては最も古い8.12連絡会が今なお活動を続けているのは、美谷島さんの卓越した能力・見識・人望に負うところが大きい。

『1989年11月22日、日航機事故から4年3ヵ月、検察の下した結論は、全員不起訴でした。事故の責任は、誰ひとり問われませんでした。現実に、何らかの原因で520人は死んでいったにも関わらず、です。法律っていったい、誰のためにあるのだろう。ごく普通の市民の生活や命が守られるためにあるはずなのに。市民の感覚が生きた司法の仕組みが欲しい。今ある法の仕組みの中で、私たち市民に与えられた手段は限られているけれど、できることはすべて取り組もう。そう思いました』

この一文は、筆者も加わっている福島原発告訴団が東京電力を告訴・告発した際に、美谷島さんが福島原発告訴団宛てに寄せてくださったものである。企業犯罪で誰も責任が問われない、この国の巨大な無責任システムへの無念と怒り、そしてそれを社会を変えるエネルギーにしていこうとする美谷島さんの決意が感じられる。私たちも大いに励まされるし、懸命に取り組んできた先達である美谷島さんの決意を私たちも引き継ぎたいと思っている。

美谷島さんがかつて直面し、藤崎光子さんたちがJR福知山線事故で再び直面し、そして筆者が今、福島原発事故で三たび直面している「無責任システム」という名の巨大な壁。しかし、少しずつ世の中が進歩していることも感じる。JR福知山線事故、福島原発事故では美谷島さんたちがかなえられなかった強制起訴を実現した。美谷島さんたち、日航機事故の遺族が望んだ「再発防止」の願いは、何よりも御巣鷹を最後に32年間、1件の航空死亡事故も起きていないことによって事実上かなえられている。「今度あのような大事故を起こしたら、間違いなくうちの会社はなくなります」。JALの経営破たんのあおりで不当解雇された165人の労働者のうち、あるパイロットの被解雇者に話を聞く機会があった。こう話す彼の目は真剣そのものだった。

政府が、ありもしない急減圧をでっち上げ、ウソで塗り固めた事故調査報告書を発表しても、遺族と心ある労働者の真摯な取り組みによって、32年間航空死亡事故ゼロという金字塔が打ち立てられた。市民・遺族・労働者によって下から作られた航空安全文化という、日本社会にとってかけがえのない財産。御巣鷹は今、その財産の象徴としての地位を確立しつつあるのだ。

8月12日、御巣鷹の尾根への登頂は、遺族でないという理由で実現しなかった。だが、事故当日、遺族以外の入山を制限しなければならないほど多くの人々が御巣鷹に関心を寄せているという事実に筆者は満足を覚えた。この「山」に関する限り、安全問題研究会の役割は終わりつつある。残された課題は、事故原因調査のやり直しを国に、165名の被解雇者の職場復帰をJALに、それぞれ求めていくことくらいだろう。御巣鷹の尾根への慰霊登山は、もう遺族の子・孫や安全文化の新たな担い手として登場した若者に任せ、安全問題研究会はしばらく、JRローカル線問題と原発問題に徹してもよいのではないか――今、私にはそんな思いも芽生え始めている。

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<安全問題研究会声明>JR西日本歴代3社長「無罪」判決を超えて~判決の評価と今後の闘いのために~

2017-06-27 22:09:06 | 鉄道・公共交通/安全問題
尼崎JR脱線事故 歴代3社長の無罪確定 異議申し立てなく(神戸新聞)

歴代3社長に刑事責任は問えず JR福知山線事故「無念」幕引き(サンデー毎日)

上記記事ですでに報じられているように、JR福知山線脱線事故をめぐり、1審神戸地裁、2審大阪高裁の無罪判決を不服として、検察官役の指定弁護士が行っていた上告が6月12日、最高裁に退けられた。これで、歴代3社長の無罪判決が確定する。

なお、この無罪判決確定を受け、安全問題研究会の声明を以下のとおり発表する。

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<安全問題研究会声明>JR西日本歴代3社長「無罪」判決を超えて~判決の評価と今後の闘いのために~

 2005年4月25日、JR福知山線で快速列車が脱線・転覆、107名が死亡した尼崎事故に関し、6月12日、最高裁は、業務上過失致死傷罪で強制起訴されていたJR西日本歴代3社長(井手正敬、南谷昌二郎、垣内剛の各被告)を無罪とした1、2審判決を支持し、検察官役の指定弁護士の上告を棄却する決定を行った。指定弁護士は異議を申し立てず、6月20日をもって無罪判決が確定。「これだけ多くの犠牲者を出しながら、なぜ誰ひとり責任を問われないのか」という遺族・被害者の疑問に司法は答えず、「日本企業犯罪無責任史」に新たな1ページを加えるだけに終わった。

 そもそも2015年3月の2審判決から2年もの間、1度の弁論も審理も開かず棚ざらしにしたまま、最高裁は何をしていたのか。司法の怠慢と言わざるを得ない。

 当研究会は、2010年の強制起訴以来7年にわたったこの裁判がまったくの無意味であったとは思わない。確かに判決結果だけを見る限り、事故の真相究明と責任追及の両面でこの裁判は大きな成果をあげることなく終わった。だが、史上初めて犯罪企業のトップを被告人として法廷に引きずり出し、被害者による直接尋問を実現させたこと、JR西日本が事故の大きな原因とされた日勤教育を廃止、ヒューマンエラー(人為ミス)を社内処分の対象から除外し、エラーの積極的な報告を求める姿勢に転換したことなどはこの裁判がもたらした大きな成果だ。裁判と直接の関係はないが、鉄道事業者の裁量に委ねられていた速度照査型ATS(自動列車停止装置)の設置がこの事故の直後に義務化されたことも、107名の貴い犠牲がもたらした確かな前進として評価すべきである。

 一方、事故の予見可能性が最大の焦点となり、それが否定される形で3社長の無罪が確定した今回の結果は、今後の企業犯罪訴訟に大きな負の影響を及ぼすだろう。安全対策は企業・経営者が危険を予見することによって始まるものだからである。事故を予見できなかったことが無罪の根拠とされる一方、危険を予見してきちんと安全対策を講ずる事業者が予見可能であったが故に有罪に問われることになれば、まじめに安全対策を講ずる企業・経営者ほど損をすることになる。社会全体で安全対策が後退し、かえって危険な社会が到来する結果を招くことになりかねない。当研究会はこの点を強く危惧しており、事故の予見可能性が最大の焦点となる現在の企業犯罪訴訟の流れは変える必要がある。当面の闘いの方向性として、予見可能性の有無にかかわらず、事故がもたらした結果の重大性のみに着目して経営者の量刑を決めるよう司法に求めることが必要だ。

 「法人組織としてのJRの責任を問うのであれば(指定弁護士側の主張は)妥当する面がある」。2015年3月、大阪高裁での2審判決で裁判長がこのような異例の判示をしている。遺族の一部が求めている組織罰法制(企業に対する罰金刑を規定するもので、英国の「法人故殺法」の例がある)の必要性に司法みずから踏み込んだものであり、注目すべき内容だ。企業経営者個人の罪しか問えない現行刑法に対する問題意識が特定の一裁判官だけにとどまらず、司法内に広がりを見せていることを示している。

 組織罰法制を求める動きに対しては、「企業が証拠を隠す恐れがあり、真相究明につながらない」とする反対意見がある。これらの意見が、過去、公共交通の安全問題に真剣に取り組んできた専門家からも出されていることは残念だ。企業に無限の罰金刑を科することができる「法人故殺法」を制定した英国では、公共交通機関の事故が3割も減少したと評価されている。企業に安全対策を行わせることによって事故を未然に抑止することこそ組織罰法制の真の目的であり、反対している専門家はそれを理解していない。

 グローバル企業の手を縛り、あるべき責任を負わせていく組織罰法制の整備に向けた運動展開が今後の課題であり、そのために運動側の構想力、組織力、行動力が問われている。遺族からのこの問いに、私たちは全力で応える必要がある。

 安倍政権は、この問いに応えるどころか、犯罪企業を守るために、組織化されてもいない一般市民を処罰する「改正組織犯罪対策法」(共謀罪法)を強行採決した。私たちが望む法整備とは正反対の道を進み、立憲主義も法の支配も破壊する安倍政権に代わる、政治変革可能な勢力を生み育てることが、私たち市民にとってますます重要かつ喫緊の課題になっている。

 JR史上最悪の悲劇となった尼崎事故をめぐって、JR西日本歴代3社長の刑事裁判の結果が確定した今年は、奇しくも国鉄分割民営化から30年の節目の年でもある。国鉄労働者に不当な攻撃を浴びせ、国家的不当労働行為の露払い役を務めた挙げ句、汐留の旧国鉄用地を格安で払い下げられた大手メディアは、節目の年にも沈黙を守り、その負の歴史を伝えないことで「国鉄改革は大成功」と宣伝し続ける政府のお先棒を担いだ。ぼろ儲けの本州3社、上場を果たしたJR九州、バブル期以来の鉄道事業営業黒字に沸き立つJR貨物だけを見ていると、国鉄改革「大成功」の幻覚に目まいがしそうになる。

 だが、事実がすべてを語っている。実質的倒産状態となったJR北海道は全営業キロの半分を「JR単独では維持困難」として、地域社会を顧みない路線廃止を強行しようとしている。四国でも路線別の収支を公表する動きが出るなど、廃線危機が表面化する寸前だ。1047名の被解雇者、150人にも及ぶ事故犠牲者、そして「病院にも学校にも通えない」と悲鳴を上げる北海道の地域住民を切り捨てたまま、巨大なカネを持て余したJR東海はリニア建設へ突き進む。国鉄の線路を引き継いだ「兄弟会社」であるはずのJR北海道の危機を前に、国も、道も、他のJR各社のどこも救いの手を差し伸べない――まるで漫画のような巨大な悲劇が進行している。

 日本の鉄道のために日夜、血と汗を涙を流してきた先人たちは、果たしてこんな姿を望んだだろうか。先人たちの幾多の犠牲は、こんな無残な姿の鉄道を生むためだったのだろうか。その答えは断じて否である。日本中にあらゆる悲劇をもたらし、破たんしたまやかしの国鉄「改革」は歴史のごみ箱に捨てられるべきである。

 鉄道国有化を公約に掲げた英労働党は堂々と闘い前進した。大義は私たちの側にある。当研究会は、すべての鉄道労働者、地域住民、貴い犠牲を払ったすべての事故遺族が報われる真の鉄道改革、制度疲労が露わになった民営JR7社体制の抜本的な見直しを強く求め、今後もあらゆる行動を続ける。

 2017年6月27日
 安全問題研究会

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「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.22集会」での遺族・藤崎光子さんの訴え

2017-05-05 22:39:41 | 鉄道・公共交通/安全問題
管理人よりお知らせです。

4月22日、兵庫県尼崎市で開催された「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.22集会」での遺族・藤崎光子さんの発言内容の動画をYoutube「タブレットのチャンネル」にアップロードしましたのでお知らせします。なお、関連記事も併せてご覧ください。

170422JR福知山線脱線事故遺族の訴え 藤崎光子さんノーモア尼崎集会

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ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.22集会」報告資料

2017-04-25 22:33:34 | 鉄道・公共交通/安全問題
4月22日、兵庫県尼崎市内で「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.22集会」が例年通り行われ、約130人が集まりました。今年の集会は「国鉄分割民営化30年を検証する」がメインテーマに、坂口智彦・国労中央執行委員長が記念講演。安全問題研究会もJR北海道の現状について報告を行いました。

以下、安全問題研究会が行った報告の内容をアップします。これ以外の主な内容は以下の資料の通りです。なお、JR福知山線脱線事故「遺族からの訴え」(藤崎光子さん)については、動画で録画していますが、youtubeへのアップが終わっていません。アップでき次第ご紹介します。

170422「ノーモア尼崎!生命と安全を守る4.22集会」配布資料

170422安全問題研究会報告のPDF版(以下の内容と同じものです)

170422記念講演・JR30年~坂口智彦国労委員長(音声ファイル・約35分)

集会参加者からの報告記事(レイバーネット日本)「重大事故の責任いまだ問われず~ノーモアJR尼崎事故!命と安全を守る4.22集会」

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ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.22集会」報告資料~全営業キロの半分が廃線の危機! JR北海道の経営破たんを招いた国鉄「改革」

2017.4.22 安全問題研究会

 JR北海道は、島田修社長が2016年11月18日に記者会見し、宗谷本線名寄~稚内間など計13区間について、同社単独では「維持が困難」になったことを公表した。対象区間のうち3区間(輸送密度200人未満)はバス転換が適当とし、残る10区間(輸送密度200人以上2000人未満)についても、上下分離方式などの地元負担が必要としている。



 廃止路線が旧産炭地の路線や盲腸線中心だった国鉄分割民営化当時と異なり、今回の13区間には、根室線帯広~釧路~根室間、釧網線東釧路~網走間など、主要都市間輸送を担う基幹路線のほとんどが含まれている。営業キロで見ても1,237kmと、JR北海道全体(約2,500km)の半分に相当する。もしこのすべてが廃止や地元負担となった場合、地元の社会経済に与える打撃は計り知れないものになる。

 すでに、JR北海道は2015年9月、「2015年度末までには社員の給与支払いに充てる資金がマイナスに陥る」として国から1,200億円の緊急支援を受けている。民間企業であれば、労働者の賃金が支払えない状態は事実上の倒産とされる。今回の発表は、実質的にはJR北海道の「破産宣言」に当たる。この際のJR北海道の試算では、同社が経営破たんに陥るのは「2018年度」となっていたが、試算よりはるかに早く破たんした。

 JR北海道は新幹線含む全線が赤字であり、経営破たんの原因が、北海道だけを単独の会社とした国鉄分割民営化の枠組み自体にあることは当然だ。民営化初年度(1987年度)決算で、JR7社の営業収入全体に占めるJR北海道の割合はわずかに2.5%、JR四国が1%、JR九州が3.6%に過ぎなかった。JR北海道全体の営業収入(919億円)は東京駅の収入(約1000億円)より少なく、JR東日本1社だけでJR7社の営業収入の43.1%を占めていた。

 2017年2月17日、衆院予算委で本村伸子議員(共産党)が行った質問によれば、JR東海の鉄道事業営業収益は5,556億円であるのに対し、JR北海道は-483億円。3島会社とJR貨物を合わせた4社の営業損失は741億円だが、本州3社で最も収益構造が脆弱なJR西日本でさえ1,242億円と、4社合計の営業損失を大幅に上回る営業収益を上げている。これは、3島+貨物の全体をJR西日本だけで救済でき、お釣りが来ることを示している。強い会社はより強く、弱い会社はより弱くなる格差拡大と弱肉強食こそ国鉄「改革」とJRの歴史であったことが鮮明になった。

 儲かる路線で儲からない路線を支えていた国鉄時代の内部補助制が分割で崩壊、儲かる路線の利益はJR本州3社の経営者が分捕り、北海道、四国、九州の損失は地元自治体・住民に押しつけられた。国鉄を葬った者、1047名の国鉄労働者を路頭に迷わせ、それ以外の多くの国鉄労働者を自殺に追い込んだ者、東京駅より少ない収入のJR北海道にできもしない「自立」を迫り、経営破たんに導いた者の責任を追及しなければならない。

 経営破たんの原因として、民営化に当たって政府が用意した経営安定基金の運用益が、低金利によって約4,000億円も減少したことに加え、2009年の「高速道路1,000円乗り放題」政策による乗客の逸走(自動車への転移)も大きい。JR北海道の経営を支えていた長距離旅客は、1,000円高速政策が終了後も今なお鉄道に戻っていない。

 長距離旅客減少による経営悪化は、安全崩壊となって表面化。2011年の石勝線トンネル内における特急列車火災事故、2013年の函館本線における貨物列車脱線事故と続いた。その後のレール検査データの組織的な改ざんは、JR会社法に基づく初の監督命令の発出に加え、当局の強制捜査、起訴によって刑事事件に発展した。この間、2人の社長が自殺している。

 JR北海道社内に設けられたJR北海道再生推進会議は、同社が民営化以降の30年にわたって、本来であれば安全投資に回すべき費用を、高速バスや航空機との競争の中で高速化に充てていたと指摘。2011~13年にかけ相次いだ事故やトラブルは、30年にわたった安全軽視と怠慢の明らかな帰結だ。再生推進会議は、こうしたJR北海道の安全軽視と怠慢を棚に上げ「安全か路線かの二者択一」を会社に迫る提言をまとめたが、地域公共交通、住民の足が守られるよう願う地元の意思を無視した一方的な提言であり、認めることはできない。

 北海道で生産された農産物は、全国津々浦々に鉄路で運ばれ消費されている。北海道から本州に向けて運ばれる鉄道貨物の4割は食料品輸送であり、ホクレン(農協)がみずからコンテナを製作、北海道新幹線の開業に伴って並行在来線が経営分離された第三セクター「道南いさりび鉄道」にも農協が出資しているほどである。この陰には保線や除雪などの莫大な経費を、北海道民が本州より高い運賃を通じて負担している事実もある。

 仮に道内の鉄路がなくなった場合、同じ輸送力を確保しようとするとどのようなことが起こるだろうか。青函トンネルを挟んだ青森~函館~札幌間に限っていえば、500t×51本(上下合わせて)の貨物列車で1日当たり25,500tもの貨物が運ばれている。仮にトラック(10t車)で置き換えるならば、1日当たり延べ2,550両もの車両と延べ2,550人もの運転手が新たに必要になる。ネット通販拡大による小口荷物の激増とトラック運転手の不足で首都圏などではすでに指定期日・時間通りに宅配便が届かないことが常態化しており、こんな時に大量輸送に適した鉄道を廃止してどうするのか。

 一方、北海道庁内に設けられた北海道鉄道ネットワークワーキングチームは、JR北海道が単独では維持困難とした13線区に関する鉄道網のあり方として、(1)札幌市と中核都市を結ぶ路線、(2)広域観光ルートを形成する路線、(3)国境周辺・北方領土隣接地域の路線、(4)広域物流ルートを形成する路線、(5)地域の生活を支える路線、(6)札幌市を中心とする都市圏路線――の6類型に分類。(1)については「維持すべき」、(2)及び(5)は地域で検討、(3)は鉄路の維持が必要、(4)は総合的に対策を検討、(6)は「道内全体の鉄道網維持に資する役割を果たすべき」――とそれぞれ位置づけ、6類型のうち「(1)が石北線、(3)に宗谷線が該当」とした。特に(2)と(5)については、地元との協議の結果次第では廃止~バス転換を容認するものであり、道が地元路線を守るどころか、一部線区の廃止に積極的に手を貸すものになっている。

 2002年の鉄道事業法「改悪」によって路線の廃止が許可制から届出制となり、鉄道会社は廃止届を出せば1年後に路線を廃止できるようになった。国交省には廃止を繰り上げる権限だけが与えられ、廃止を差し止める権限がないなど問題だらけの改悪であった。だが、ローカル線廃止のこれまでの例を見ると、地元自治体との協議が整うまでは廃止届を出さないという「紳士協定」はとりあえず守られており、2016年12月に行われた日高本線の廃線提起の席でも、JR北海道は「地元同意のない状態では廃止届は出せない」と、地元同意がないままの廃止届の強行提出を一応は否定している。

 2017年2月8日の衆院予算委で、松木謙公議員(民進党)の質問に対し、麻生太郎副総理兼財務相が「JR九州の全売上高がJR東日本品川駅の1日の売上高と同じ。JR四国は1日の売上高が田町駅と同じ」「貨物も入れて七分割して、これが黒字になるか。経営がわかっていない人がやるとこういうことになる。(JR北海道をどうするか)根本的なところをさわらずしてやるというのは無理」と答弁するなど、危機感は自民党内の一部にも広がりつつある。(参考資料――衆院予算委員会会議録 平成29年2月8日

 国民の公共交通であった国鉄を解体し、新自由主義を社会の隅々にまで浸透させ、絶望と対立と分断の淵に全国民を追いやる端緒となった国鉄「改革」。労働者、乗客・利用者、地方にすべての犠牲を押しつけ、利益はJR株主・経営者と財界が総取りしてきた「犠牲のシステム」――これこそ30年の歴史を通じて見えてきたJRの真実だ。

 2000年にハットフィールド脱線事故を起こした英国は線路保有部門を再国有化、民営でスタートした米国の鉄道アムトラックも国有化されるなど、鉄道の「民営から公共的企業形態へ」は国際的潮流である。国鉄「改革」から30年。耐用年数の切れた「民営JR」体制を根本的に改め、再国有化など、国民の足の復活を求める広範な闘いに今こそ踏み出すときである。

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