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【訃報】原発事故「予言者」詩人・若松丈太郎さん死去

2021-05-26 23:10:50 | 原発問題/一般
詩人の若松丈太郎さん死去(朝日)

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 原発に厳しい目を向け続けた福島県南相馬市在住の詩人で、県現代詩人会の元会長、若松丈太郎(わかまつ・じょうたろう)さんが21日、腹膜播種(はしゅ)で死去した。85歳だった。

 近親者で密葬をする。告別式は5月2日午前11時から、同市原町区高見町2の137の1のフローラメモリアルホール原町で。喪主は妻蓉子(ようこ)さん。自宅は同市原町区栄町1の109の1。

 1935年、岩手県奥州市生まれ。61年、詩集「夜の森」で県文学賞を受賞。87~91年には県文学賞審査委員を、2005~08年には県現代詩人会長を務めた。1994年にチェルノブイリ原発事故の地を訪れ、帰国後すぐ、原発事故をテーマにした詩「神隠しされた街」を発表した。

 2014年には、東京電力福島第一原発事故を扱った詩集「わが大地よ、ああ」(土曜美術社出版販売)を出版。今年3月に出した詩集「夷俘(いふ)の叛逆」(コールサック社)が最後の著作となった。(佐々木達也)
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恥ずかしながら、詩人・若松丈太郎さんのお名前を、このたび、北海道新聞で追悼記事を見て初めて知った。原発事故を挟んで6年も福島生活をしていながら存じ上げなかったのは痛恨の極みである。死去からずいぶん経った今頃になってようやく追悼記事を書いている当ブログのこの体たらくをお許しいただきたい。

お名前を存命中に存じ上げなかったことへのせめてもの罪滅ぼしとして、若松さんの詩「神隠しされた街」を検索してみたら、全文を載せているサイトがあったので、この際、ご紹介しておきたいと思う。この詩が書かれたのは1994年。チェルノブイリ原発事故(1986年)の現地を見た体験を基に、事故8年後にこの詩を書いた。

この間、「平成の大合併」によって都路村が田村市(都路地区)に、小高町が南相馬市小高区に、原町市が南相馬市原町区に変わっているが、福島原発事故で避難区域となった場所を17年も前の段階でほぼ完璧に言い当てている(予測を外しているのは飯舘村が避難区域になったこと、逆に都路村(現・田村市)、原町市(現・南相馬市原町区)、いわき市北部が避難指示区域とならなかった程度)。お見事と言うしかない。

若松さんに対して大変失礼な言い方になるが、こんな「一介の詩人」ですら、事故が起きればどこからどこまでが地図から消えるか正確に予想できていたのに、専門知識を持つ国や東京電力が避難区域の発生を「予想できなかった」などと言うことはあり得ないのである。

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神隠しされた街/若松丈太郎(1994年)

45,000の人びとが2時間のあいだに消えた
サッカーゲームが終わって競技場から立ち去ったのではない
人びとの暮らしがひとつの都市からそっくり消えたのだ
ラジオで避難警報があって
「3日分の食料を準備してください」
多くの人は3日たてば帰れると思って
ちいさな手提げ袋をもって
なかには仔猫だけをだいた老婆も
入院加療中の病人も
1,100台のパスに乗って
45,000の人びとが2時間のあいだに消えた
鬼ごっこする子どもたちの歓声が
隣人との垣根ごしのあいさつが
郵便配達夫の自転車のベル音が
ボルシチを煮るにおいか
家々の窓の夜のあかりが
人びとの暮らしが
地図のうえからプリピャチ市が消えた
チェルノブイリ事故発生40時間後のことである
1,100台のバスに乗って
プリピャチ市民が2時間のあいだにちりぢりに
近隣3村をあわせて49,000人が消えた
49,000人といえば
私の住む原町市の人囗にひとしい
さらに
原子力発電所中心半径30kmゾーンは危険地帯とされ
11日目の5月6日から3日のあいだに92,000人が
あわせて約15万人
人ぴとは100kmや150km先の農村にちりぢりに消えた
半径30kmゾーンといえば
東京電力福島原子力発電所を中心に据えると
双葉町 大熊町 富岡町
楢葉町 浪江町 広野町
川内村 都路村 葛尾村
小高町 いわき市北部

そして私の住む原町市がふくまれる
こちらもあわせて約15万人
私たちが消えるべき先はどこか
私たちはどこに姿を消せばいいのか
事故6年のちに避難命令が山た村さえもある
事故8年のちの旧プリピャチ市に私たちは入った
亀裂がはいったペーブメントの
亀裂をひろげて雑草がたけだけしい
ツバメが飛んでいる
ハトが胸をふくらませている
チョウが草花に羽をやすめている
ハエがおちつきなく動いている
蚊柱が回転している
街路樹の葉が風に身をゆだねている
それなのに
人声のしない都市
人の歩いていない都市
45,000の人びとがかくれんぼしている都市
鬼の私は搜しまわる
幼稚園のホールに投げ捨てられた玩具
台所のこんろにかけられたシチュー鍋
オフィスの机上のひろげたままの書類
ついさっきまで人がいた気配はどこにもあるのに
日がもう暮れる
鬼の私はとほうに暮れる
友だちがみんな神隠しにあってしまって
私は広場にひとり立ちつくす
デパートもホテルも
文化会館も学校も
集合住宅も
崩れはじめている
すべてはほろびへと向かう
人びとのいのちと
人びとがつくった都市と
ほろびをきそいあう
ストロンチウム90 半減期 29年
セシウム137 半減期 30年
プルトニウム239 半減期 24,000年
セシウムの放射線量が8分の1に減るまでに90年
致死量8倍のセシウムは
90年後も生きものを殺しつづける
人は100年後のことに自分の手を下せない
ということであれば
人がプルトニウムを扱うのは不遜というべきか
捨てられた幼稚園の広場を歩く
雑草に踏み入れる
雑草に付着していた核種が舞いあがったにちかいない
肺は核種のまじった空気をとりこんだにちがいない
神隠しの街は地上にいっそうふえるにちがいない
私たちの神隠しはきょうかもしれない
うしろで子どもの声がした気がする
ふりむいてもだれもいない
なにかが背筋をぞくっと襲う
広場にひとり立ちつくす

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