安全問題研究会(旧・人生チャレンジ20000km)~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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大阪メトロ「2020経営計画」に意見を求められたので、返信しました

2021-06-01 20:33:28 | 鉄道・公共交通/交通政策
当ブログ管理人は、先日、「大阪市の大阪メトロ(旧大阪市営地下鉄・バス)は、要員全体の1/5を削減するという大合理化計画を発表しています。ホーム要員(駅勤務)、乗務員の大幅削減を計画しています。アドバイス等いただければ幸いです」と大阪在住の知人から意見を求められた。昨年末に大阪メトログループが公表した「2018-2025年度 中期経営計画(2020年12月改訂版)」のことである。

その人は、大合理化を何とかして止めたいという思いはあるものの、鉄道・公共交通にはまったく詳しくないので、以下の通り返信を送った。ここを読んでいる方にとっては参考になることもあるかもしれないので、私信とはいえ、転載しておきたい。

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大阪メトロの経営計画を読んで、いくつか気づいた点など……

1.経営計画全般について

まず、今後成長の見込めない鉄道(地下鉄)事業の赤字を駅ナカ事業で埋める、としていますが、これはコロナ前までは有効なモデルではあっても、今回のコロナで完全に破たんしました。

「密」がダメというのに、駅ナカでどうやって稼ぐつもりなんでしょうか。

人を密集させてボロ儲けしていく、という経営形態自体が「遅れた新自由主義鉄道経営モデル」です。極度の過密を前提とした、コロナ前でも日本でしか成立し得ない歪な経営モデルでした。

その過密前提、「三密」前提、日本でしか成立していなかった新自由主義経営モデルがコロナで最終的に破たんしているのに、今からそこに突っ込んでいこうというのですから、大阪メトロ当局の時代変化への鈍感さには呆れ返ります。

2.駅のバリアフリー問題について

東京メトロにも同じことが言えるのですが、大阪メトロも駅のバリアフリー化はまったく進んでいません。比較的利用客数の多い駅でも階段だけしかない駅が多く、エレベーターはあってもどこにあるのかわからないケースも少なくありません。

先日、私が東三国駅から地下鉄に乗ったときも「駅がこんな状態では、もし自分が車椅子生活になったらどこへも行けないな」と思ったものです。今でさえそんな状況なのに、駅員も車掌も減らす? むしろ両方とも増やすべきです。

(東京メトロに関しても同じ状況です。こんな状況でオリンピックはともかく、パラリンピックを開こうなんて……たとえコロナがなかったとしても、恥ずかしくて普通なら考えられません。)

3.MaaS(マース)について

MaaSについては、これさえ導入すれば公共交通を覆っている暗雲はすべて消え、バラ色の未来が待っているかのような極端な推進論が横行していますが、これ自体は「鉄道、バス、飛行機などバラバラだった公共交通機関の予約や発券、接近・到着案内などのシステムを一元化して、たとえばスマホアプリ等で手軽に利用できるようにしよう」というだけのものです。

推進派が唱える過大な期待はもちろん、一般市民が抱くわずかばかりの期待すら、おそらく裏切られると思います。

MaaSのような施策は、単純に「安上がりでやってる感だけは出せる」というシロモノに近く、最近の政治・行政の空洞化を象徴しています。たとえ鉄道・バス・飛行機の予約がスマホアプリ1つで簡単にできるようになったとしても、駅に行っても車椅子を抱えてくれる駅員もいない、エレベーターもない、ローカル線はどんどん廃止・減便されるという状況でそれが何の意味を持つでしょうか。

行政が出してくる(いかにも新自由主義者お好みの)安っぽいデジタル化の裏に利用者、安全切り捨てがある、ということを指摘しておきたいと思います。

今、大阪メトロがやるべきことは、エレベーターひとつ満足に整備されていない駅を改修し、交通弱者が弱者にならないですむような「中身の伴った公共交通」にすることです。

MaaSは今、一部学者や自称「交通評論家」「交通ライター」等を巻き込んで推進の動きですが、本質が伴わず無内容であることはいずれ一般市民にも発覚するでしょう。維新としては、それまでに何とかごまかし、逃げ切れればいい、ということなのかもしれません。

4.オンデマンドバスについて

経営計画24ページに大阪シティバスのオンデマンドバス化を示唆するような記述があります。オンデマンドバスもMaaSと並んで新自由主義者が大好きな公共交通形態で、彼らは「呼べばいつでも来てくれるので待ち時間がなくなります」などと吹聴します。しかし、彼らのその宣伝を信じると、とんでもない目に遭います。デマンドバスは「一番来てほしいときには呼んでも来ないバス」なのです。

公共交通は文字通り公共財なので、最大需要に合わせて供給体制を整えなければなりません。たとえば、始発から終点まで1時間かかる路線で、バスの最大定員が50人であるときに、朝夕のラッシュアワーに最大500人の需要が発生するとなると、バスは最低でも1時間に10台必要です。

しかし、ラッシュが終わった昼間に50人の需要しかない場合、10台のうち9台は車庫で遊んでいることになりますが、新自由主義者はこれに「無駄」だと難癖を付けます。「大半の時間、遊んでいるバスの維持費がもったいない」と言い出します。

バス会社はこれに抗しきれず、バスの所有台数を減らします。そのうち「乗客がいないのに空気だけ乗せて走らせるのは無駄。乗客がいるときだけ運行すればいい」と言い出します。そこで「呼べばいつでも来るバス」としてデマンドバス化が始まります。

察しの良い方はここで気づくと思いますが、「乗客がいるときだけ運行するバス」にするためには、いつどこに乗客がいるかを事業者側に知らせるシステムが必要になります。これがMaaSの正体です。つまりMaaSは「スマホアプリ1つで公共交通の予約が全部できます」という宣伝とは裏腹に、事業者が乗客のいる場所を把握するために絶対必要なシステムであり、これが導入されることは公共交通切り捨てへの入口なのです。

呼べばいつでも来てくれるバスなどという夢のようなものは存在しません。無駄を省き、乗客がいるときだけ運行して経費を節減するため、特に過疎化が進む地方や都市周辺部では、減っていく乗客数に合わせて車両所有台数を減らす施策とほとんどの場合、一体になっています。車両台数を減らすと、突発的な需要に合わせた増発は次第に不可能になっていきます。

特に、雨の予報だったのが外れ、出かける予定がなかった人が「天気も良いし、ちょっとバスで出かけようか」となったような場合、「呼べば来てくれる」はずだったデマンドバスは、必要最小限まで車両所有台数を減らしているため増発できず「予約はしてありますか」「いいえ」「では○時までお待ちいただけますか」となるのが容易に想像できます。この段階になってから「呼べばいつでも来ると言っていたくせに騙された!」と言っても手遅れであり、そうなる前に反対すべきです。

デマンドバスとMaaSという「魔法」はいずれ解けるときが来ます。新自由主義者のペテンを信じていると、公共交通はなくなり、地域が丸ごと死にます。今、医療をめぐって大阪で起きているのと同じことが、明日は公共交通でも起きるでしょう。使いたいときにいつでも誰でも使えるのでなければ、それは「公共」の名に値しません。

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