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【転載記事】甲状腺がんと原発事故の関係を無根拠に否定し去ろうとする政府・自民党の発言に対する甲状腺がん裁判弁護団の抗議声明

2022-02-05 14:00:39 | 原発問題/一般
抗議声明

2022年2月4日
311子ども甲状腺がん裁判弁護団

弁護団長  井 戸 謙 一
副団長   河 合 弘 之
同     海 渡 雄 一

 日本の将来を真に憂いておられる元首相5名(小泉純一郎氏、細川護熙氏、菅直人氏、鳩山由紀夫氏、村山富市氏)が2022年1月27日付で欧州委員会委員長に対し、「脱原発・脱炭素は可能です —EUタクソノミーから原発の除外を—」と題する書簡を発出された。その文中、福島の現状について「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」との一節があったことに対し、細野豪志議員がツイッターで、山口壮環境大臣が元首相5名あて書簡で、自民党高市総務会長が抗議表明で、福島県内堀知事が申し入れで、岸田総理が予算委員会の答弁で、自民党福島県連が抗議文の送付によって、それぞれ非難、攻撃し、政府・自民党による総バッシングというべき様相を示している。その理由は、上記の一節は、「誤った情報であり」(環境大臣、岸田首相)、「誤った内容であり」(高市総務会長)、「科学的事実に反し」(細野議員)、「いわれのない差別や偏見を助長する」(環境大臣、岸田首相)、「福島の若者に不安をもたらす」(細野議員)、「誤った情報に基づいて風評が広がる」(高市総務会長)等というのである。

 しかし、福島原発事故前は発症数が年間100万人に1〜2人といわれた小児甲状腺がんが、福島県では、事故後11年間に、福島県民健康調査で266人、それ以外で27人、少なくとも合計293人と多発していること、そのうち少なくとも222人が甲状腺の片葉または全葉の摘出術を受けていて、「多くの子供たちが苦しんでいること」は紛れもない事実である。

 政府自民党による上記非難は、小児甲状腺がんの多発の原因が被ばくではないと言いたいのかも知れないが、これは科学的に決着がついた問題ではなく、彼らの発言こそ「不正確な情報」である。福島県県民健康調査検討委員会やUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)が被ばくとの因果関係を否定しても、これらの組織が因果関係の有無を決する権限を持っているわけではない。他方で、因果関係を認めるべきだと主張している多くの専門家がいる。

 この点について環境省は、福島県県民健康調査のスクリーニングによって、放置しても進行しないラテントがんを多数見つけているだけであるという、いわゆる過剰診断論にたっているようであるが、過剰診断論は、実証された説ではない。逆に福島県県民健康調査のスキームは、甲状腺がんにラテントがんがあることを十分認識しつつ、過剰診断、過剰治療に陥ることのないように慎重に作られている。がんを見つけたら拙速に切除するのではなく、その進行状況を見極め、周辺の組織への浸潤状況、周辺リンパ節への転移状況等も慎重に調査して、甲状腺治療ガイドラインが定める手術適応を満たした事例についてのみ手術を実施している。福島県で小児甲状腺がんの摘出術をした甲状腺外科医は、過剰診断であることを明確に否定している。

 小児甲状腺がんは、大人の甲状腺がんに比較して進行が速いといわれている。福島県は総数を明らかにしていないが、相当数の子どもが手術後再発しているようである。さる1月27日東京電力を相手取って損害賠償請求を起こした小児甲状腺がん患者6名のうち4名は手術後がんが再発しているのである。環境省は、これらの症例も過剰診断だというのだろうか。

 福島県の子どもたちは全員がそれなりの被ばくをした。被ばくによって発症する極めて稀な病気に罹患した子どもたちが、その原因が被ばくではないかと疑うのは自然なことである。国や行政が押さえつけてもその不安を抑えることはできない。NPO法人3.11甲状腺がん子ども基金の調査によれば、甲状腺がんに罹患した子どもやその家族のうち、約6割は原因が被ばくであると考えているとのことである。しかし、小児甲状腺がん患者による損害賠償請求訴訟はやっと提起されたばかりである。原告の一人は、提訴の記者会見で、自分が甲状腺がんに罹患していることすら話せなかったと述べた。今回の一連のバッシングによって、小児甲状腺がん患者や家族が今まで以上に気持ちや疑問を口にできなくなることを強く危惧する。彼らの発言こそが「差別や偏見を助長」するのであり、福島の若者やその家族に二次被害を与えるものであることを自覚すべきである。

 国や行政がするべきことは、この小児甲状腺がんの多発が被ばく由来であるのか否かについて、徹底的に調査し、そのデータを公開し、市民を交えてオープンに議論し、因果関係が否定できないのであれば東京電力をして速やかに補償させること、福島の若者たちの苦しみを少しでも取り除けるような恒久的な支援体制を構築することである。小児甲状腺がん患者や家族が抱いている不安を押さえつけ、その口を封じるのではなく、事実が明らかになることによって一部に差別や偏見が生まれるのであれば、それを無くすよう努めるのが行政の役割であるはずである。

 福島県で多発している小児甲状腺がんの原因については、今後も調査を続けなければ科学的な決着はつかない。患者による東京電力を相手取った裁判も始まったばかりである。当弁護団としては、今回の一連の政府自民党等の元首相5名に対する不当なバッシングに対し、強く抗議するものである。

以上

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