ロ軍、チェルノブイリ支配と発表 空挺部隊投入、原発とその周辺(共同)
ロシアによるウクライナ軍事作戦は、昨夜、筆者が予想したとおりの方向に進みつつある。「プーチン大統領の政治的目標がゼレンスキ―大統領の首にあるのではないか」という予測が今日になって一般メディアでも出始めているが、筆者はそれをメディアに先駆け、昨夜の段階で投稿することができた。筆者の専門分野である公共交通や原子力の分野はもちろん、最近はそれほど専門でない分野に関しても、メディア出演している「専門家」より筆者のほうが詳しいことが多く、専門家もたいしたことはないな、と思うことのほうが多い。
全人類を6回全滅させることができるといわれる6千発の核兵器をロシア軍は持つ。そんな超大国と戦いたい国などあるわけがなく、ウクライナは停戦に応じるか旧ソ連時代のようなロシアの衛星国に戻るかの選択を遠からず迫られるだろう。日本政府・岸田首相が「力による現状変更は国際法違反」であるとロシアを厳しく非難するのは当然すぎるほど当然のことなので筆者としてはこれ以上の論評はしないが、1つだけ触れておかなければならないのは20年前のイラク戦争だ。
このときも、米国が行ったことは力による現状変更であり、野蛮さにおいて今回のロシアと大差ないが、日本政府は他のどの国より早く米国の軍事行動を支持し、「大量破壊兵器を隠し持っている」としてイラクを非難した。どちらも「力による現状変更」という同じ国際法違反行為をしているのに、同盟国なら支持を与え、同盟国以外なら非難するという日本政府の二枚舌、ご都合主義、ダブルスタンダードも決して許されるものではない。
前置きが長くなったが、今回の軍事行動をめぐるニュースで筆者が最も強い衝撃を受けたのは、ロシア軍によるチェルノブイリ原発の制圧である。36年前に事故を起こしたチェルノブイリが、まさかこんな形で注目されることになるとは夢にも思っていなかった。世界の国々が集い、NPT(核不拡散条約)体制を構築したのは、まさに今回のような事態を避けるためではなかったのだろうか。
NPT条約が締結され、核保有国には削減義務が、非核保有国には保有禁止が課せられ、違反していないかについてIAEA(国際原子力機関)が核査察を行う。その目的は、核兵器の原料となる放射性物質が政情不安定な国の手に渡り、偶発的な事態、不測の事態によって放射能汚染が広がるのを防止するためだった。非核保有国は、「早い者勝ち」で核保有国だけが特権を認められる体制は不公平だと抗議。実際にイスラエル、パキスタン、インド、朝鮮などいくつかの「政情不安」国がNPTを無視して核保有の道を選んだ。政情が安定し、みずからは強大な軍事力を持っているため誰からの侵略も受けずにすむ国々だけに核兵器を封じ込めるのが目的のNPT体制は、生まれながらにして運命づけられていたその「不公平さ」のゆえに、放射性物質が政情不安国の手に渡ることを阻止できなかった。
ウクライナは政情が安定し、核保有国の一員だった旧ソ連を構成する共和国だった。ウクライナには核兵器が配備されるとともに、いわゆる「平和利用」としての原発も建設された。ソ連を構成する一共和国に過ぎないウクライナに拒否権はなく、モスクワの都合で危険な黒鉛式原子炉がチェルノブイリに建つことになった。
運転開始当時、この原発の正式名称は「ウラジミール・イリイチ・レーニン共産主義記念チェルノブイリ原子力発電所」であった。その名称は「共産主義とはソビエトの権力と全国の電化である」というレーニンの言葉に由来する。ロシア革命指導者の名が冠せられたところに、ソ連におけるこの原発への期待の大きさがうかがえる。1986年4月、運転開始からまだ3年しか経っていなかった「ご自慢の原子炉」--レーニンの名を冠した原発での世界最悪の事故はソ連の威信を決定的に傷つけた。
確たる証拠はないが、事故から5年後の1991年にソ連が解体せざるを得なかったのは、この事故による国力の低下が原因だと信じる人は今なお多い。その解体で思わぬ形でソ連から分離し独立国家となったのがウクライナだった。NPT体制を有効ならしめるための一環として、米国主導でウクライナはソ連が配備した核兵器を放棄した。チェルノブイリ原発をウクライナに建てると決めたのはモスクワの党中央であるにもかかわらず、ソ連解体を奇貨として超大国ロシアは過酷事故の後始末の一切を小国ウクライナに押しつけ、まんまと逃げおおせた。2006年4月15日付け「毎日新聞」は、チェルノブイリ事故の後始末のためだけに、ウクライナ国家予算の実に5%が充てられているという事実を、よく見なければわからないような小さなベタ記事で報じている(サムネイル画像参照)。
2011年の東日本大震災・福島原発事故を契機に、筆者は反原発運動の道に入った。その直後、ある反原発市民団体が発行しているパンフレットに「原発を並べて自衛戦争はできない」というタイトルがあるのを見つけた。そのタイトルを目にするまで、筆者は原発を抱える国が戦争に巻き込まれるという事態をまったく想定していなかった。原発は、みずからは決して侵略を受けない絶対的強国だけが持つことを許されるものだという感覚があったからである。
原発という凶器を抱えたまま、ソ連解体によって産み落とされた政情不安の小国・ウクライナ。原発事故が歴史の領域に入りつつある36年後の今になって、NPT体制を構築するために集った人たちが最も恐れ、避けようとしていたことが、最も恐れていた形で現実となった。すべては筆者にとって想定内のはずだった--核保有国の首都・モスクワみずから建設を決定した原発が、同じモスクワの指導者の率いる軍隊によって壊されるという、ただひとつの「想定外」を除いて。
原発は決して戦闘に巻き込まれてはならない。したがって、原発を持つ国は必ず軍事大国でなければならない――今回の事態が明らかにした恐るべき事実である。原発は保有国を必ず軍事大国に導き、軍拡競争を生み、世界をも破滅させる。この面からも原発には廃絶しかないことを、ロシアのウクライナに対する軍事作戦が、思わぬ形で証明したのである。
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最後に、どうしても筆者から、読者のみなさんにお伝えしなければならないことがある。それをお伝えすることで当記事の締めくくりに代えたい。福島勤務時代に出会った、ある数奇な運命を持つ女性のことである。
西郷村でピロシキを中心に、ロシア料理を提供する小さな店「
Cafe&Shop テレモック」を発見したのは、福島第1原発事故が起きる直前のことだったと記憶する。この店を切り盛りしているのは、ウクライナ出身の当時30歳代の女性だった。本人申告の年齢に偽りがなければ、少女時代、母国でチェルノブイリ事故に遭遇していることになる。その後は日本人男性と結婚し来日、福島を第2の故郷とした。
東日本大震災・福島第1原発事故が起きたのはその直後のことである。夫の母国であり第2の故郷とした日本で、生涯2度目の原発事故に遭うなどとは本人でさえ予想していなかったに違いない。広島・長崎で二重被爆をした人のことを以前、メディアで耳にしたことがあるが、チェルノブイリと福島での二重被曝者となった人が、果たして彼女以外にいるのだろうか。
彼女の家族・親戚は、今も母国にいるはずである。その母国--ウクライナが今、戦場になっている。ロシアとウクライナ、主権を持つ国家同士のこれほど大規模な戦争は、ヨーロッパを舞台とするものとしては第二次大戦後初めてであろう。内戦にまで対象を広げても、一般市民をこれほど大規模に巻き込む市街戦は、89年のルーマニアにおけるチャウシェスク独裁政権崩壊時の争乱や、仲良く暮らしてきた6つの共和国が血で血を洗う惨劇となったユーゴスラビア内戦以来となる。人口300万人を誇る首都・キエフでもしロシア・ウクライナ両軍が正面衝突すれば、ヨーロッパにおける主権国家同士の戦争としては、第二次大戦当時のソ連軍のベルリン突入に匹敵する悲劇になるかもしれない。それは筆者が身震いするほど恐れる最悪の事態である。
こうした事態を引き起こす寸前にまで至らしめた最低最悪の帝国主義侵略者プーチン、第二次大戦で独ソ戦の舞台となり巨大な犠牲を生んだ自国の歴史、西側とロシアを結ぶ戦略的要衝に位置する自国の微妙な地理的条件を知りながら、バランス感覚を失い、NATO加盟を望むという危険な火遊びをしたあげく、自国民を不幸のどん底に突き落としたゼレンスキ―の2人の指導者に、筆者は平和を愛する諸国の市民の名において退場を勧告する。チェルノブイリと福島で2度の放射能被曝という運命に翻弄されたウクライナ出身の女性の家族が、母国で無事であることを願っている。
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(追記)以下は、チェルノブイリ原発事故について伝えるニュース。NHKでは、毎年大晦日に総合テレビとラジオ第1放送で、その年に起きたニュースをまとめ、○○年ニュースハイライトとして放送していました。
長らく管理人の自宅奥にカセットテープのまま眠っていましたが、ロシアによる対ウクライナ軍事侵攻、チェルノブイリ原発のロシア軍による制圧という事態を受け、急遽、デジタル音声で復元。1986年の大晦日にラジオ第1で放送されたニュースハイライトから、チェルノブイリ原発事故について、現地からの特派員報告を含めて伝えた部分を抜き出しています。
ニュース冒頭の爆発音が本物か合成かはわかりませんが、原子力事故に関しての情報隠蔽ぶりは政治体制を問わず同じようです。
1986.12.31 NHKラジオ第1放送/1986年ニュースハイライト/チェルノブイリ原発事故ニュース
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一方、こちらは2011年3月31日に、ロシア国営放送が伝えた福島原発事故に関するニュース。日本人の多くが事故の真相がわからず、右往左往していた時期に、ロシアはかなり正確に事故の状況を伝えています。
ロシアから見た福島 ロシア国営放送