森健一さんがゲスト主演された「あるくラジオ」第14回放送(1/8)を聴いた。森さんは地元・鹿児島で教員を務める傍ら、国鉄闘争支援に取り組んだ。退職後、各地を取材して当事者の声を拾い上げ、「戦後史の中の国鉄闘争」を出版した。1時間の番組の中には、森さん自身、そして取り組んできた「労働運動半世紀」の歴史が凝縮していた。
私自身も国鉄闘争支援を続けてきた中で、懐かしい闘争団員の名前も出てきた。すでに鬼籍に入った人も多い一方で、課題は違えどいまだ地域の中心になり、闘いを支えている人がいる。そうした闘争団員の近況を聞けたことは大きな収穫だった。
国労つぶしが始まる前に、自動車や東芝・日立などの電機、精密機械を中心に民間大手でまず組合つぶしがあったーーと番組では戦後労働運動史を振り返る。そのときに戦後労働運動の牽引車でもあった官公労がもっと民間労働者と連帯できていれば……とも。歴史に「もし」はないと言うが、「官」と「民」、正規と非正規、男性と女性……連帯されるとまずい労働者同士が手を結びそうな局面、ここが「勝負所」という局面で、資本の側はことごとく労働者同士の紐帯を断ち切ることに成功し、分断支配につなげてきた。番組で語られる戦後労働運動史を聴いていると、敗北に至る転換点がいくつもあったのだということに改めて気付かされる。
だが、物言う労働者を厄介者扱いし、連帯の紐帯を断ち切り、分断支配した企業が一時的成功を収めることはあり得ても、その成功が何十年、何百年もの長きにわたって続くことなどあり得ない。国労をすりつぶして生まれたJR西日本が福知山線事故という最悪の惨劇を起こしたのは2005年のことだ。そこから遅れること6年後の2011年、破局的事態を引き起こした福島第1原発の原子炉が東芝製だったことを、事故から10年を迎える今年、改めて想起しておかなければならない。「こんな設計、こんな企業体質では心配だけれど、上に言ってもたぶん無駄だろう」ーーそんな企業が送り出す製品やサービスが、顧客、利用者を幸せになどできるだろうか。福知山線と福島での2つの事故が、鮮やかに答えてくれている!
さらに時代は流れ、東芝は今、福島事故の後始末にあえぐ。日立は日本政府のあれだけの後押しがあったにもかかわらず、海外への原発輸出案件はすべて潰えた。シャープは鴻海に買収され日本企業でなくなった。物言う労働者を隔離部屋に収容して辞めるように仕向け、羊のように飼い慣らされた労働者だけを軍隊のように行進させ、服従させた電機メーカーのほとんどは時代の潮流を読めなくなり、市場から淘汰された。
JRも同じ凋落の流れの上にある。北海道では2016年に「自社単独では維持困難」な10路線13線区が公表され地元に衝撃が走った。それから4年が経ち、JR北海道が廃線、バス転換を相当とした5線区のうちすでに3線区で廃線が決まっている。国労をつぶせるならローカル線などなくなってもいいーーそのようにして始まった国鉄分割民営化が原因で、今、北海道では「本線」の名称を持つ路線まで次々廃線が決まっていこうとしている。
1時間の番組も終盤にさしかかる頃、リアルタイムで番組を聴いていたリスナーから「このまま赤字のローカル線はなくなっていくしかないのか」という質問が寄せられた。当研究会の回答は、断じてノーである。たかが赤字ごときで鉄道が廃線になる国など、地球上で日本だけだと断言していい。
これは私だけでなく、民営化推進派だった石井幸孝JR九州初代社長も同じことを主張している(実際、氏が札幌市の講演でそう言っているのを私は自分の耳で聞いた)。鉄道ライター高木聡さんは『政府は(鉄道輸出で)世界に日本の技術を広めるなどという崇高な理想を語る前に、国内の疲弊しきった鉄道システムを再興させることのほうが先決ではないか。利益至上主義で長距離・夜行列車は消え、台風が来るたびに被災したローカル線が復活することなく消えていく。これは途上国以下のレベルである』と酷評している(注1)。この高木さんの批判に筆者は全面的に同意する。日本の鉄道政策がどれだけ異常かは、安全問題研究会リーフレット「こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策」にまとめているのでぜひ見てほしい(注2)。
JR北海道が、災害で不通となったままの一部区間(東鹿越~新得)の廃線を提案している根室本線を何とか守ろうと日夜奮闘している佐野周二さんの闘いも紹介された。北海道の「10路線13線区」沿線の存続運動関係者はこの5年間でみんな顔見知りになり、筆者も佐野さんからは賀状をいただいた。この区間は、1981年に石勝線が開通するまで札幌と釧路・根室方面を結ぶ唯一の路線で、食堂車を連結した特急気動車や生活物資を積んだ貨物列車が頻繁に行き交った区間だ。石勝線が災害で不通になれば、代替路線として迂回輸送・貨物輸送の任に当たらなければならないことも十分予想される。
2018年2月から3月にかけて、北海道交通政策課が「北海道交通政策総合指針」案を取りまとめるに当たり、行われたパブリック・コメントで、当研究会は根室本線のこの区間について「石勝線が不通となった場合における貨物輸送の迂回ルートとして維持を明確にすべきである」との意見を提出した。パブコメなど所詮「ガス抜き」に過ぎないと思っていたら、道交通政策課は根室本線のこの区間について「検討にあたっては、道北と道東を結ぶ災害時の代替ルートとして、また、観光列車など新たな観光ルートの可能性といった観点も考慮することが必要である」と、当研究会の意見を一部反映させる記述の修正を行った(注3)。災害時の代替ルートであるとの認識を道に持たせることができたことは、この区間の存続に向け、大きな前進を勝ち取ったと考えている。
道東・道北地方にとって生命線であるこんな重要路線すら廃線を提案するJR北海道には公共交通事業者としての基本的資質が欠けている。貨物は自社の事業でないから言及する立場にないというのであれば、旅客と貨物を別会社に分割した国の責任を問わなければならない。
JRは公共交通であり、日本製が買えなくなっても外国製を買えばいい家電製品とは違う。かつて国民の信頼を集め、戦後日本の復興の中心的役割を果たしてきた鉄道を再建するために、どんな方法があるのか。今回、安全問題研究会はこの課題にひとつの回答を示した。以下のURLに、JRグループ再国有化のための法案「日本鉄道公団法案」を載せている(注4)。昨年春くらいからずっと練っていた法案の構想を、年末年始で一気に形にした。国会に議員立法で提出し、可決を目指している。この法案を国会がそのまま可決してくれれば、5年後には再国有化が成る。この法案を、森さん、佐野さんにもぜひ届けたいと思う。
注1)国が推進「オールジャパン鉄道輸出」悲惨な実態(東洋経済)
注2)安全問題研究会リーフレット「こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策」
注3)「北海道交通政策総合指針」案に対する意見募集結果(道交通政策課)
このリンク先の17ページ目に当研究会が提出した意見が記載されている。これを受け、修正された交通政策総合指針が以下のページ。
北海道交通政策総合指針(修正後)「鉄道網の展望」 このリンク先の9ページ目に記載の表中、「根室線(富良野~新得間)」が、当研究会の意見を受け修正された記載である。
注4)日本鉄道公団法案
私自身も国鉄闘争支援を続けてきた中で、懐かしい闘争団員の名前も出てきた。すでに鬼籍に入った人も多い一方で、課題は違えどいまだ地域の中心になり、闘いを支えている人がいる。そうした闘争団員の近況を聞けたことは大きな収穫だった。
国労つぶしが始まる前に、自動車や東芝・日立などの電機、精密機械を中心に民間大手でまず組合つぶしがあったーーと番組では戦後労働運動史を振り返る。そのときに戦後労働運動の牽引車でもあった官公労がもっと民間労働者と連帯できていれば……とも。歴史に「もし」はないと言うが、「官」と「民」、正規と非正規、男性と女性……連帯されるとまずい労働者同士が手を結びそうな局面、ここが「勝負所」という局面で、資本の側はことごとく労働者同士の紐帯を断ち切ることに成功し、分断支配につなげてきた。番組で語られる戦後労働運動史を聴いていると、敗北に至る転換点がいくつもあったのだということに改めて気付かされる。
だが、物言う労働者を厄介者扱いし、連帯の紐帯を断ち切り、分断支配した企業が一時的成功を収めることはあり得ても、その成功が何十年、何百年もの長きにわたって続くことなどあり得ない。国労をすりつぶして生まれたJR西日本が福知山線事故という最悪の惨劇を起こしたのは2005年のことだ。そこから遅れること6年後の2011年、破局的事態を引き起こした福島第1原発の原子炉が東芝製だったことを、事故から10年を迎える今年、改めて想起しておかなければならない。「こんな設計、こんな企業体質では心配だけれど、上に言ってもたぶん無駄だろう」ーーそんな企業が送り出す製品やサービスが、顧客、利用者を幸せになどできるだろうか。福知山線と福島での2つの事故が、鮮やかに答えてくれている!
さらに時代は流れ、東芝は今、福島事故の後始末にあえぐ。日立は日本政府のあれだけの後押しがあったにもかかわらず、海外への原発輸出案件はすべて潰えた。シャープは鴻海に買収され日本企業でなくなった。物言う労働者を隔離部屋に収容して辞めるように仕向け、羊のように飼い慣らされた労働者だけを軍隊のように行進させ、服従させた電機メーカーのほとんどは時代の潮流を読めなくなり、市場から淘汰された。
JRも同じ凋落の流れの上にある。北海道では2016年に「自社単独では維持困難」な10路線13線区が公表され地元に衝撃が走った。それから4年が経ち、JR北海道が廃線、バス転換を相当とした5線区のうちすでに3線区で廃線が決まっている。国労をつぶせるならローカル線などなくなってもいいーーそのようにして始まった国鉄分割民営化が原因で、今、北海道では「本線」の名称を持つ路線まで次々廃線が決まっていこうとしている。
1時間の番組も終盤にさしかかる頃、リアルタイムで番組を聴いていたリスナーから「このまま赤字のローカル線はなくなっていくしかないのか」という質問が寄せられた。当研究会の回答は、断じてノーである。たかが赤字ごときで鉄道が廃線になる国など、地球上で日本だけだと断言していい。
これは私だけでなく、民営化推進派だった石井幸孝JR九州初代社長も同じことを主張している(実際、氏が札幌市の講演でそう言っているのを私は自分の耳で聞いた)。鉄道ライター高木聡さんは『政府は(鉄道輸出で)世界に日本の技術を広めるなどという崇高な理想を語る前に、国内の疲弊しきった鉄道システムを再興させることのほうが先決ではないか。利益至上主義で長距離・夜行列車は消え、台風が来るたびに被災したローカル線が復活することなく消えていく。これは途上国以下のレベルである』と酷評している(注1)。この高木さんの批判に筆者は全面的に同意する。日本の鉄道政策がどれだけ異常かは、安全問題研究会リーフレット「こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策」にまとめているのでぜひ見てほしい(注2)。
JR北海道が、災害で不通となったままの一部区間(東鹿越~新得)の廃線を提案している根室本線を何とか守ろうと日夜奮闘している佐野周二さんの闘いも紹介された。北海道の「10路線13線区」沿線の存続運動関係者はこの5年間でみんな顔見知りになり、筆者も佐野さんからは賀状をいただいた。この区間は、1981年に石勝線が開通するまで札幌と釧路・根室方面を結ぶ唯一の路線で、食堂車を連結した特急気動車や生活物資を積んだ貨物列車が頻繁に行き交った区間だ。石勝線が災害で不通になれば、代替路線として迂回輸送・貨物輸送の任に当たらなければならないことも十分予想される。
2018年2月から3月にかけて、北海道交通政策課が「北海道交通政策総合指針」案を取りまとめるに当たり、行われたパブリック・コメントで、当研究会は根室本線のこの区間について「石勝線が不通となった場合における貨物輸送の迂回ルートとして維持を明確にすべきである」との意見を提出した。パブコメなど所詮「ガス抜き」に過ぎないと思っていたら、道交通政策課は根室本線のこの区間について「検討にあたっては、道北と道東を結ぶ災害時の代替ルートとして、また、観光列車など新たな観光ルートの可能性といった観点も考慮することが必要である」と、当研究会の意見を一部反映させる記述の修正を行った(注3)。災害時の代替ルートであるとの認識を道に持たせることができたことは、この区間の存続に向け、大きな前進を勝ち取ったと考えている。
道東・道北地方にとって生命線であるこんな重要路線すら廃線を提案するJR北海道には公共交通事業者としての基本的資質が欠けている。貨物は自社の事業でないから言及する立場にないというのであれば、旅客と貨物を別会社に分割した国の責任を問わなければならない。
JRは公共交通であり、日本製が買えなくなっても外国製を買えばいい家電製品とは違う。かつて国民の信頼を集め、戦後日本の復興の中心的役割を果たしてきた鉄道を再建するために、どんな方法があるのか。今回、安全問題研究会はこの課題にひとつの回答を示した。以下のURLに、JRグループ再国有化のための法案「日本鉄道公団法案」を載せている(注4)。昨年春くらいからずっと練っていた法案の構想を、年末年始で一気に形にした。国会に議員立法で提出し、可決を目指している。この法案を国会がそのまま可決してくれれば、5年後には再国有化が成る。この法案を、森さん、佐野さんにもぜひ届けたいと思う。
注1)国が推進「オールジャパン鉄道輸出」悲惨な実態(東洋経済)
注2)安全問題研究会リーフレット「こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策」
注3)「北海道交通政策総合指針」案に対する意見募集結果(道交通政策課)
このリンク先の17ページ目に当研究会が提出した意見が記載されている。これを受け、修正された交通政策総合指針が以下のページ。
北海道交通政策総合指針(修正後)「鉄道網の展望」 このリンク先の9ページ目に記載の表中、「根室線(富良野~新得間)」が、当研究会の意見を受け修正された記載である。
注4)日本鉄道公団法案