(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」の書評コーナー「週刊 本の発見」に寄稿した内容をそのまま転載したものです。)
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なぜ日本で「女性政治家」が増えないのか~『女性のいない民主主義』(前田健太郎・著、岩波新書、820円+税、2020年3月)評者:黒鉄好
世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数で日本は常に最下位グループで、順位の足を引っ張っているのはいつも政治部門。なぜ変われないのか、女性政治家が増えない理由はどこにあるのか。解決方法はあるのか。その疑問に挑戦している。
「女性議員が増えなくても、女性の意見や悩みに共感し、耳を傾け、その意見を政治に届けるまっとうな男性議員が増えれば政策決定上は問題ないのではないか」という主張も根強くあるが、前田はこうした意見に対し、民主主義という政治体制の下で「誰が誰を代表しているのか」との疑問を提示。「政治家はみずからの支持者の社会的属性と同じ属性を持っている」と指摘した上で「代表者を持てない社会層の意見は政治には反映されない」と分析。「存在の政治」との表現で、女性の意見を政治に反映させるため、女性政治家を増やすことはやはり必要であるとする。
前田はさらに、なぜ女性の意見が政治に反映されにくいかについても分析している。政治とは利害関係のぶつかり合いであり、労働組合・業界団体などに集団化、組織化された社会層が有利であることは明白である。こうした組織化は男性中心に行われてきた。女性の組織化が男性に比べて進まなかった理由について、前田は女性の意見や利害関係が男性に比べて多様であることを指摘する。実際、女性は雇用形態ひとつとっても男性の非正規化が問題とされるはるかに前から正規、非正規など多様で、共通の利害関係に基づく社会集団への組織化は難しい面があった。さらに、このような組織化された社会団体から候補者が「発掘」されるケースが多いことも女性が政治から排除されることにつながったとする前田の分析は説得力を持つ。これらは与野党共通の課題であり、女性政治家を意識的に育成する何らかの仕組みが必要であることを示唆している。
日本で女性政治家が育たない原因についての前田の分析は多方面に及び、納得できるものが多いが、様々な要因が積み木のように少しずつ積み上げられて今日の状態が作り出されていることも同時に見えてくる。「この要因さえ取り除けば状況が劇的に改善する」という特効薬的な解決策は存在しないように見え、それだけに本書を読み進めば進むほど、解決の困難さも浮き彫りになるとともにため息が止まらなくなる。だが、前田が同時に指摘しているのは、政治への女性進出が始まったのは欧米諸国を除けば21世紀に入ってからであり、日本だけの問題ではないという事実である。もちろんそれを言い訳にしてよいわけではないが、「千里の道も一歩から」と腰を据えて取り組む以外にないと思う。
本書に不足があるとすれば、前田が単純に女性政治家の「数」だけにこだわった議論をしている点である。「どのような女性政治家が増えるべきか」の議論は行われていない。まず人数が増えることが第一であり、「質」の議論はその後でいいと前田が考えていることは本書の他の記述から伝わってくる。だが女性政治家が一定の数を確保した後は「質」が議論される日が来る。前田がそのときにどのような議論を展開するのか。1980年生まれの若き著者の今後も含め、注目すべき1冊である。2020年新書大賞第7位。
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なぜ日本で「女性政治家」が増えないのか~『女性のいない民主主義』(前田健太郎・著、岩波新書、820円+税、2020年3月)評者:黒鉄好
世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数で日本は常に最下位グループで、順位の足を引っ張っているのはいつも政治部門。なぜ変われないのか、女性政治家が増えない理由はどこにあるのか。解決方法はあるのか。その疑問に挑戦している。
「女性議員が増えなくても、女性の意見や悩みに共感し、耳を傾け、その意見を政治に届けるまっとうな男性議員が増えれば政策決定上は問題ないのではないか」という主張も根強くあるが、前田はこうした意見に対し、民主主義という政治体制の下で「誰が誰を代表しているのか」との疑問を提示。「政治家はみずからの支持者の社会的属性と同じ属性を持っている」と指摘した上で「代表者を持てない社会層の意見は政治には反映されない」と分析。「存在の政治」との表現で、女性の意見を政治に反映させるため、女性政治家を増やすことはやはり必要であるとする。
前田はさらに、なぜ女性の意見が政治に反映されにくいかについても分析している。政治とは利害関係のぶつかり合いであり、労働組合・業界団体などに集団化、組織化された社会層が有利であることは明白である。こうした組織化は男性中心に行われてきた。女性の組織化が男性に比べて進まなかった理由について、前田は女性の意見や利害関係が男性に比べて多様であることを指摘する。実際、女性は雇用形態ひとつとっても男性の非正規化が問題とされるはるかに前から正規、非正規など多様で、共通の利害関係に基づく社会集団への組織化は難しい面があった。さらに、このような組織化された社会団体から候補者が「発掘」されるケースが多いことも女性が政治から排除されることにつながったとする前田の分析は説得力を持つ。これらは与野党共通の課題であり、女性政治家を意識的に育成する何らかの仕組みが必要であることを示唆している。
日本で女性政治家が育たない原因についての前田の分析は多方面に及び、納得できるものが多いが、様々な要因が積み木のように少しずつ積み上げられて今日の状態が作り出されていることも同時に見えてくる。「この要因さえ取り除けば状況が劇的に改善する」という特効薬的な解決策は存在しないように見え、それだけに本書を読み進めば進むほど、解決の困難さも浮き彫りになるとともにため息が止まらなくなる。だが、前田が同時に指摘しているのは、政治への女性進出が始まったのは欧米諸国を除けば21世紀に入ってからであり、日本だけの問題ではないという事実である。もちろんそれを言い訳にしてよいわけではないが、「千里の道も一歩から」と腰を据えて取り組む以外にないと思う。
本書に不足があるとすれば、前田が単純に女性政治家の「数」だけにこだわった議論をしている点である。「どのような女性政治家が増えるべきか」の議論は行われていない。まず人数が増えることが第一であり、「質」の議論はその後でいいと前田が考えていることは本書の他の記述から伝わってくる。だが女性政治家が一定の数を確保した後は「質」が議論される日が来る。前田がそのときにどのような議論を展開するのか。1980年生まれの若き著者の今後も含め、注目すべき1冊である。2020年新書大賞第7位。