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〔週刊 本の発見〕『戦後日本の対米従属とFRB/日銀・財務省・「特別会計」体制』

2024-05-01 23:03:30 | 書評・本の紹介
(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」の書評コーナー「週刊 本の発見」に寄稿した内容をそのまま転載したものです。)

【週刊 本の発見】日米金融資本「利権」の実態を全暴露!
『戦後日本の対米従属とFRB/日銀・財務省・「特別会計」体制』(森健一・著、オレアの実書房、本体2,000円、2024年1月)評者:黒鉄好


 読んでいて心配になってくる。内容ではなく、著者・森さんの身の上に対してだ。ここまで書いて本当に大丈夫か。石井紘基代議士(民主党:当時)が2002年10月、暴漢に刺殺されたのは、政府・財界の利権の「本丸」特別会計の闇に切り込もうとしたことが原因だと森さんが考えていることが一読してわかる。同じことが森さんの身にも起きないか。それほど本書が暴露していることは重大で、これを多くの日本の市民が知れば、怒りは物価高や裏金問題程度ではすまないだろう。

 前著「戦後日本の対米従属と官僚支配~特別会計体制」と同じように、膨大な数の事実や証言を積み上げることで背後の闇に光を当てる。読み手によっては散らかっているとの印象も受けてしまう可能性があるが、戦後史の闇という巨大なものの正体を明らかにするうえでこれに勝る手法は存在しないと思う。

 政府の特別会計や財政投融資のために国債が発行されると、そこに発行益が生まれる構造の解明に取り込んでいる。特に闇が深いのは財務省が管理する外国為替資金特別会計(外為特会)だ。為替介入や金利操作、内外金利差などを利用して巨額の内部留保(2014年度決算で27兆円)を溜め込み、財務省が「官営マネーゲーム」をしていることを示している。

 日本の市民を物価高に追い込み苦しめている最近の急激な円安ドル高の進行について、メディアは日米金利差が原因と繰り返す。だがそれは事実の一側面に過ぎないし、日米金利差を誰が何の目的で作り出しているのかには誰も触れない。だがそこに本書は忖度なく切り込む。日米金利差は官営マネーゲームで儲けるためなのだ。

 このからくりが明らかにされた以上、私は日銀が利上げで円安を沈静化させる「量的緩和脱却シナリオ」を採用することは絶対にないと確信した。輸入品とりわけエネルギーや食料品など生活必需品の値上げはこのまま徹底的に放置されるだろう。

 日米金利差を縮めても円安ドル高は改善されないと見るエコノミストも多い。通貨の本当の実力がわかるとされる「実質実効為替レート」では、日本円の実力はすでに固定相場制時代の1ドル=360円にも劣るとの説さえ唱えられている。1990年代末に韓国で起きた通貨危機が今度は日本で起き、円は紙くずになるかもしれない。

 特別会計のマネーゲームで得た資金の多くを、政府・日銀は米国に貢いでいる。しかも米国債に投資されるということは、米国政府のウクライナ・イスラエル支援にも充てられることを意味する。日米が軍事だけでなく財政金融でも一体化し世界の危機を深化させていることが見えてくる。

 森さんは、膨大な外為特会の内部留保を一般会計に入れて市民生活のために使うべきだと当然すぎる指摘をする。同時に、中央銀行が発行した通貨に政府が信用を与える「信用貨幣」から脱却し、発行益を社会的共通資本への投資に振り向けさせる「公共貨幣」への転換を訴える。しかもそれは世界規模でなければならないという。夢物語にも思えるが、それでも人類はこの大プロジェクトを実現させなければならない。人間を幸せにしない腐った資本主義に別れを告げ、滅亡を免れるために。

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