学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

棟方志功展の見学

2007-06-01 22:27:33 | Weblog
今日は、栃木県にある那珂川町馬頭広重美術館で棟方志功展を
見学してきました。

展示室に入ると、すぐに昭和44年に撮影された棟方志功
正面からの写真が展示されています。
版画用紙を鉢巻代わりにして、正面をじっと見据える姿は
板画家、というよりも一つの道をひたすら究めようとする
修行僧の面立ち。

棟方作品の特徴の1つに、大胆な彫りとダイナミックな画面構成に
あります。作品を見ながら、どうしてこういう作風になっていったのかを
考えていましたが、やはり視力の悪さがあったのではないかと思います。
細かい彫りがしなかったのではなく、出来なかったのでしょうね。
ですから、川上澄生の《初夏の風》に強い影響を受けた初期作品は、
大変に細かい作品ですけれども(今回は展示されていません)、
棟方にしてみれば随分苦労して彫ったのではないでしょうか。

彫りは、主として丸刀を使っていますね。
ときどき三角刀も用いているよう。
板ぼかしや空摺りなどの技法は見られず(これも今回の展示に限って)、
彫刻刀の正攻法で板に挑んでいるようです。

版木も展示されていましたが、意外に普通?でした。
本の表紙を手がけた板でしたから、大胆な彫りは感じませんでしたが、
文字を彫るときは切り出しを使っていたのでしょうか。
丸刀や三角刀では、彫れないような気がするのですが・・・。

刷りを見てみると、かなり雑です。
ところどころ墨がかすれてしまっている箇所も見られます。
馬頭広重美術館の常設には、浮世絵も展示されていますが、
それと比較すると、余計にそれを感じます。
ただ、雑とは言え、これは意図的に狙ったものでしょうね。
逆に棟方作品の墨が綺麗に黒で刷られていたと考えた場合、
どうも魅力が半減してしまうような気がします。
すなわち、棟方作品は彫りが大胆なだけでなく、
その一見、雑な刷り方も絵をダイナミックに見せるための
重要な要素の1つであるのかもしれません。

力強くて、生命の脈動を充分に感じさせる作家が、
かつて日本に居た事実に感動します。
正直に申しまして、私はあまりにも土着性の強い棟方志功を
敬遠してきた時期がありましたが、今回の展示では
別な見方をすることができました。
あまり作品数が多くなかったことが良かったのかもしれません。
(棟方作品は力強すぎて、見過ぎるとかえって疲れてしまいます)

馬頭広重美術館は、小さな規模の美術館ですが、
精力的な活動を続けており、企画展も決して期待を裏切らない
内容で、とても満足しています。
私の勤める美術館でも、広重美術館の活動は見習わなくては
ならないな、と感じた次第でした。