語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『暗殺阻止』

2010年03月06日 | ミステリー・SF
 『バビロンの影--特殊部隊の狼たち』(ハヤカカワ文庫)をひっさげて颯爽と登場したデイヴィッド・メイスンの長編第二作目である。著者は、1951年生。イートン校卒業後、近衛歩兵連隊に入り、アラビア半島南部のオマーン国軍に配属され、武勲をたてた。大尉で除隊。同州長官の経歴をもつ。

 国際的規模の謀略を描く点で、フレデリック・フォーサイスの出世作『ジャッカルの日』に似ているが、『ジャッカルの日』の真の主人公は事件それ自体であり、フォーサイスのルポタージュふうの乾いた文体もあいまって、登場人物はみなチェスの駒のように無機質で孤独だ。
 メイスンの世界は、もう少しウェットだ。特殊部隊員特有の気質、気心が知れた者同士の厚い友情が漂う。チームワークの妙がある。ジョン・ブルの冒険小説にふさわしい。
 もっとも、本書では、任務の都合上、異質のメンバーが二人加わる。前作では、雇い主の裏切りで苦難を受けるのだが、本書では獅子身中の虫がチームを危機に陥れる。
 敵地へ潜入する特殊工作グループ、味方の中の敵、という構図は、『ナバロンの要塞』のような佳作が先行していて、辛いところだ。だが、時事を巧みに取り入れた工夫を評価して、減点は最小限にとどめよう。
 英国冒険小説の主人公は、ジョン・バカン以来の伝統にのっとって単独者だが、チームが主人公になることもあり、これはまたこれで本書のような佳作を生んでいる。

 本書は、次のようにはじまる。
 1993年の春、世界の政治を左右する人物が暗殺される、という情報を英国政府はつかんだ。情報源をたぐると、イラン人が浮き上がってきた。コンピュータ制御の自動狙撃装置が使用されるらしい。暗殺の対象は不明だが、旧東独国家保安警察シュタージがからんでいる。ボスをとらえて尋問したい。所在地が判明した。北朝鮮である。正規軍を派遣するわけにはいかない。そこで、民間のエドに白羽の矢がたった。主人公エド・ハワード、元海兵隊特殊舟艇部隊(SBS)少佐、現XF警備社長に・・・・。
 中東最大の課題、米国大統領、ノーベル賞と並べると三題噺めくが、現代史をおさらいして、誰が標的なのかを主人公とともに推理するのも楽しい。

□デイビッド・メイスン(山本光伸訳)『暗殺阻止(上・下)』(ハヤカワ文庫、1997)
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