語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】ミラボー橋の下をセーヌが流れ ~母音~

2010年03月31日 | 詩歌
 フランス詞華集『ミラボー橋の下をセーヌが流れ』は、原詩に訳と解説を付し、ラ・フォンテーヌからサルトルまで、28人のフランス詩人の詩をとりあげる。1編しかとりあげていない詩人が多いが、2編の詩人も数人、最多はランボー及びプレヴェールの3編である。
 アルチュール・ランボーのソネット「母音」第1行目に

  Aは黒、Eは白、Iは赤、Uは緑、Oは青、母音たちよ
   (A noir, E blanc, I rouge, U vert, O bleu: voyelles,)

 解説で三好達治を引く。すなわち「五個の母音A、E、I、U、Oのうち、E、Iの二つは痩せた、寒冷な感じを伴う側のもので、他の三者にその点で対立している。後の母音のA、O、Uはいずれも豊かな、潤った、温感の伴って響く性質をもち、就中Aは華やかに明るくまた軽やかに大きく末広がりに響く傾向をもつ」
 同じく解説で、米国の詩人ジョン・グールド・フレッチャーの1行を引く。すなわち、

  Aは光と陰影(かげ)、Eは緑、Iは青、Uは紫と黄、Oは赤

□窪田般彌『ミラボー橋の下をセーヌが流れ -フランス詩への招待-』(白水社、1975)
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書評:『リスボンの小さな死』

2010年03月31日 | ミステリー・SF
 第二次世界大戦初頭、独ソ戦がはじまる直前、実業家クラウス・フェルゼンは親衛隊のレーラー中将に見込まれて、ポルトガルからタングステンを輸入する仕事に就いた。だが、レーラーはフェルゼンが愛するエヴァ・ブリッケを収容所へ送ってしまった。怨念が残った。大戦末、ポルトガルへ逃れてきたレーラーたち親衛隊の残党にフェルゼンは復讐する。他方、色好みのフェルゼンもまた、タングステン採掘の現場責任者ジョアキン・アブランテスの怨みをかっていた。ジョアキンの愛人マリーアを犯した復讐を、戦後、受ける。
 これが本書を構成する流れのひとつである。

 流れのもうひとつは、199*年リスボン近郊における殺人事件である。被害者は15歳の少女で、レイプされていた。同じ年頃の娘をもつジョゼー・アフォンソ・コエーリョ警部は、少々変人の相棒カルロス・ピント刑事とともに、地道に聞き込みを続け、意外な事実をつぎつぎにあばいていく。しかし、政界の上層部から圧力がかかった。

 この二つの事件が交互に語られつつ物語は進行し、本書の末尾で両者は交錯する。交錯したとき、殺人事件の犯人とその動機が解明される。
 つまり、ある人物が殺人を犯すにいたる動機の形成過程と、事件が起きたあとでその動機を探る捜査とが同時平行で物語られるのだ。
 本書には、ウィルキー・コリンズ的な記憶検証の河と、フリーマン・ウィルス・クロフツ的な実地検証の河とが別個に流れて、前者はやや急流で、やがて両者が合流しする地点で大河となり、事件の全貌が明らかになるという仕掛けだ。
 犯人と動機の鍵は読者にすべて提供されるから、古典的な謎解きパズルの要素もあって、読者は安楽椅子にすわったまま探偵することができる。
 緻密で、きわめて手のこんだ構成だが、ねらいは成功していると思う。英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞を受賞(1999年)しただけのことはある。
 多数登場する人物それぞれの個性がていねいに描きわけられているし、入り組んだ人間関係も落ち着いて取りくめば解きほぐすのは容易だ。そして、文章は渋い。

  突堤に数人の釣り人がいた。このような日にどんな魚が釣れるというのか。
  が、釣りというのは、必ずしも魚をとることだけが目的ではない。

□ロバート・ウィルスン(田村義進訳)『リスボンの小さな死(上・下)』(ハヤカワ文庫、2000)
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【言葉】多数の専制

2010年03月31日 | 批評・思想
 しかし、親愛なるクリトンよ、なぜわれわれはそんなに多衆の意見を気にしなければならないのだろう。

【出典】プラトン(久保勉訳)『クリトン』(『ソクラテスの弁明・クリトン』(岩波文庫、2007)
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