語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『古書店めぐりは夫婦で』

2010年03月10日 | エッセイ
 ローレンス&ナンシー・ゴールドストーンは米国人、作家。それぞれの著作をもつが、共著は本書が初めてである。

 毎年、互いの誕生日のプレゼントにお金をかけがちな夫婦だが、この本を書く4年前、「こうした愚挙はもうよそう」と話し合った。
 となると、買うものは限られる。ナンシーは、本に決めた。『戦争と平和』がよい。
 夫君は戦争が好きなのである。
 美装のハードカバー、活字大、挿絵あり、注釈あり、主要な戦闘のカラー版地図が折り込まれている、安い、ということでモード訳を古書店から手に入れた。

 これがきっかけとなって、夫婦は古書の世界にのめりこむ。
 幼い娘をベビーシッターに預け、稀覯本を探して店から店をたずね歩く。
 二人の収入で買える本は限られているが、オークションにも加わる。

 といった次第で古書探求が始まり、だんだんとモノとしての本の知識(バックストリップは本の背、ジョインツは表紙の溝)が深まり、古書店業界の裏話(本の価値と古書の値段は無関係、映画スターが大枚をはたくから本の値段が高額になる)に通じ、個性的な古書店主(数々の作家たちと交流のあったハワード・モット老)と知己になる。

 本書には、ディケンズをはじめとする英米の作家に対する著者たちの寸評も盛り込まれている。
 「みんなが買い、みんなが読むのは、その世代のスポークスマンをつとめる作家だ」という古書店主ジョージ・ミンコフの観察は興味深い。大不況の時代はスタインベック、偉大な国外移住者たちの時代はヘミングウェイ、「国民の創生」以後の南部はフォークナー。ただし、「文学的名声には、作品と無関係の文化的要素が作用する」ともミンコフは言う。

 全編に無碍なユーモアが満ちていて楽しい。内容のわりに軽く読み流せる。琴瑟相和するおしどりぶりが感じよい。
 英米の文学に多少なりとも関心をもつ本好きなら見のがせない一冊である。

□ローレンス・ゴールドストーン、ナンシー・ゴールドストーン(浅倉久志訳)『古書店めぐりは夫婦で』(ハヤカワ文庫、1999)
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