ジェーン・エリオットは、米国アリゾナ州ルイスビルの小学校教師である。
1968年、キング牧師の暗殺を契機に、自分の学級で人種差別の問題をとりあげた。その実験授業は、こんなものだった。
初日、青い目の人は茶色い目の人より優秀だ、と切り出して、青い目の子ども達を特権的に扱う一方、茶色い目の子ども達には黒い襟をつけさせて差別的に扱った。
その結果、青い目の子どもたちは茶色い目の子ども達を見下し、差別するようになった。
他方、茶色い目の子ども達は一日中抑圧された気分に陥り、青い目の子ども達に攻撃をしかける子どもも出てきた。
二日目、エリオットは生徒達に、自分は間違っていた、実は茶色い目の人のほうが青い目の人より優秀なのだ、と述べて、初日とは逆に茶色い目の子ども達を特権的に扱い、青い目の子ども達を差別的に扱った。
すると、前日元気のなかった茶色い目の子ども達は生き生きとなり、算数の問題を前日より早く解くことができた。
他方、青い目の子ども達はうって変わって自信をなくし、同じ算数の問題を解くのにかかる時間が前日より長くなり、茶色い目の子ども達より遅くなってしまった。
三日目、エリオットは、目の色で人を区別することに意味があるか、と生徒に尋ねた。答えは全員、否定的だった。
かくて、エリオットは、生徒達に、体の一部を理由に他の者を差別することの不当性を体験を通じて学習させることができたのである。
実験授業は録画され、全米各地で上映された。その上映会でエリオットは講演し、いろいろな企業で同様の実験を行ってみせた。
エリオットいわく、「この授業はすべての教育者、そして行政当局に対して行われるべきだ」
*
米谷淳(まいや・きよし)は、ここに行動科学のひとつのありようを見る。現実問題に取り組み、実験によって自分の考えを試し、確かめようとする姿勢、自分の経験や知見を一般に広めて社会に役立てていこうとする実践・・・・であると。
本書は、概説書だが、心理学各分野の基礎知識を単に網羅的に概説するのではなく、序章にしるされた前述の実験にみられるように、生きた人間と動いていく現実に反映される学問という観点を強く打ちだしている。
この観点は、構成に顕著に見ることができる。社会の中の人間を第1部「関係のなかの私」(青年期の心理と性格、対人行動、集団、異文化の心理、ヒューマンファクター)に、生涯発達を第2部「人の生涯をとらえる」(きずなの発達、自己の発達、現代女性のライフサイクルとライフコース、医療における人間関係)にまとめているのだ。もちろん、概説書として欠くべからざる定石も、序章(心理学の歴史と方法の概観)および第3部「私を支える心のメカニズム」(学習と学習支援、知覚、記憶、思考の主な基礎心理学)で押さえてある。
第3部の終章では、共同執筆者10名それぞれによる各自の研究模様がスケッチされ、執筆者の人間くささが感じられ、親しみやすい。
引用・参考文献が豊富だから、さらに学習したい人に役立つ。人名索引、事項索引もきちんと付いている。索引のない本は、底のない桶と同じだ。
各章ごとに文献案内があり、巻末の詳しい引用文献・参考文献とあいまって、初心者に親切だ。
□米谷淳、米澤好史編著『行動科学への招待 -現代心理学のアプローチ-』(福村出版、2001)
↓クリック、プリーズ。↓
1968年、キング牧師の暗殺を契機に、自分の学級で人種差別の問題をとりあげた。その実験授業は、こんなものだった。
初日、青い目の人は茶色い目の人より優秀だ、と切り出して、青い目の子ども達を特権的に扱う一方、茶色い目の子ども達には黒い襟をつけさせて差別的に扱った。
その結果、青い目の子どもたちは茶色い目の子ども達を見下し、差別するようになった。
他方、茶色い目の子ども達は一日中抑圧された気分に陥り、青い目の子ども達に攻撃をしかける子どもも出てきた。
二日目、エリオットは生徒達に、自分は間違っていた、実は茶色い目の人のほうが青い目の人より優秀なのだ、と述べて、初日とは逆に茶色い目の子ども達を特権的に扱い、青い目の子ども達を差別的に扱った。
すると、前日元気のなかった茶色い目の子ども達は生き生きとなり、算数の問題を前日より早く解くことができた。
他方、青い目の子ども達はうって変わって自信をなくし、同じ算数の問題を解くのにかかる時間が前日より長くなり、茶色い目の子ども達より遅くなってしまった。
三日目、エリオットは、目の色で人を区別することに意味があるか、と生徒に尋ねた。答えは全員、否定的だった。
かくて、エリオットは、生徒達に、体の一部を理由に他の者を差別することの不当性を体験を通じて学習させることができたのである。
実験授業は録画され、全米各地で上映された。その上映会でエリオットは講演し、いろいろな企業で同様の実験を行ってみせた。
エリオットいわく、「この授業はすべての教育者、そして行政当局に対して行われるべきだ」
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米谷淳(まいや・きよし)は、ここに行動科学のひとつのありようを見る。現実問題に取り組み、実験によって自分の考えを試し、確かめようとする姿勢、自分の経験や知見を一般に広めて社会に役立てていこうとする実践・・・・であると。
本書は、概説書だが、心理学各分野の基礎知識を単に網羅的に概説するのではなく、序章にしるされた前述の実験にみられるように、生きた人間と動いていく現実に反映される学問という観点を強く打ちだしている。
この観点は、構成に顕著に見ることができる。社会の中の人間を第1部「関係のなかの私」(青年期の心理と性格、対人行動、集団、異文化の心理、ヒューマンファクター)に、生涯発達を第2部「人の生涯をとらえる」(きずなの発達、自己の発達、現代女性のライフサイクルとライフコース、医療における人間関係)にまとめているのだ。もちろん、概説書として欠くべからざる定石も、序章(心理学の歴史と方法の概観)および第3部「私を支える心のメカニズム」(学習と学習支援、知覚、記憶、思考の主な基礎心理学)で押さえてある。
第3部の終章では、共同執筆者10名それぞれによる各自の研究模様がスケッチされ、執筆者の人間くささが感じられ、親しみやすい。
引用・参考文献が豊富だから、さらに学習したい人に役立つ。人名索引、事項索引もきちんと付いている。索引のない本は、底のない桶と同じだ。
各章ごとに文献案内があり、巻末の詳しい引用文献・参考文献とあいまって、初心者に親切だ。
□米谷淳、米澤好史編著『行動科学への招待 -現代心理学のアプローチ-』(福村出版、2001)
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