語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『世界変人型録』

2010年03月30日 | 小説・戯曲
 世の中には、いっぷう変わった人が少なからずいる。
 たとえば、オーストラリア西部に暮らす農夫レナード・ケイズリー。政府による小麦の割り当ての大幅な削減に抗議して、1970年、独立を宣言した。面積18,500エーカー、人口20人の独立国ハット・リヴァーの誕生である。リヴァー国は通貨、切手を発行し、国歌、国旗もつくった。国連にオブザーヴァー国としての参加を求めたが、読者も容易に想像できる理由で、要請は却下された。しかし、ケイズリーはへこたれず、「外交上」の攻撃によってオーストラリア政府を悩ませ続けた。ハット・リヴァー国は、「独立」5年後には1万人の観光客をひきつけるに至った。

 井上ひさし『吉里吉里人』を地でいくはなしだ。この小説、東北地方の一寒村が日本政府に愛想をつかして、とつぜん「吉里吉里国」独立を宣言する。食料もエネルギーも自給自足し、臓器移植ほか高度先進医療を実践、独自の金本位制まで定める。「吉里吉里語」なる東北弁を公用語とし、英和辞典ならぬ吉和辞典まで刊行するのだから、何をかいわんや。
 ノリのよい人はいるもので、小説刊行当時、舞台と目される岩手県上閉伊郡大槌町は、「独立宣言」をやってのけた。

 本書に登場する変人61人は、サルヴァドール・ダリをはじめとする芸術家ないし芸能人が多い。しかし、ハワード・ヒューズのような実業家もいるし、愉快な詐欺師も登場する。
 みな、他のだれとも似かよったところがない。
 他のだれとも似たところがない、という点において、みな共通する。

 集団が維持されるには共通の規範が必要であり、集団の構成員には同調行動が求められる。
 しかし、バーナード・ショーはいった、「わけのわかった人は世の中に自分を合わせる。わからず屋は、世の中を自分に合わせようとして頑張る。だから、世の中の進歩はわからず屋のおかげである」
 一見はた迷惑な変人は、巷間に伝えられる大久保彦左衛門を持ちだすまでもなく、ときには世の中の進歩に寄与し、あるいは地の塩となり・・・・そして、人々を楽しませる潤滑油ともなるのだ。

□ジェイ・ロバート・ナッシュ(小鷹信光訳) 『世界変人型録』 (草思社、1984)
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