(1)外国人の幹部候補生採用
日本企業は、従来の方針を大転換し、外国人を幹部候補生として採用し始めた。こうした動きは、2012年春の採用では、さらに進むだろう。
日本企業と日本人にとって、きわめて大きな意味をもつ変化だ。
(a)日本人大学生の就職戦線に大きな影響がおよぶ。大学生の就職内定率は過去最悪の水準になっているが、その背景に日本企業が日本人よりはアジア特に中国の優秀な学生に目を転じ始めたことがある。
(b)日本人であることを前提としていた人事管理・職務管理体制に、本質的な影響を与えるだろう。文化的背景、考え方が異なる人材と協働することは、決して容易ではない。
(c)しかし、外国人活用がうまい形で進めば、日本を活性化する最後の切り札になるかもしれない。日本企業のビジネスモデルや新興国との付き合い方に係る基本的な方向づけとも密接に関わる。
(2)新興国に最終消費財の市場を求める愚
日本企業の外国人採用増加は、主力マーケットを国内・先進国から新興国へと転換しようとしているからだ。アジア新興国市場が急拡大しているからだ。
しかし、新興国市場の拡大と、日本企業がそこで高収益を上げられることとは、まったく別問題なのだ。新興国に最終消費財の市場を求めようとするビジネスモデルは、成功しないだろう。その理由は、
(a)他の先進国や新興国のメーカーがすでに参入している。激しい競争が展開されている。
(b)新興国で求められるのは、高品質製品ではなくて、低価格製品である。
しかるに、日本の製造業は、低価格製品の生産において比較優位をもっていない。半導体がそうだった。1990年代以降、PC用低価格DRAMの需要が増えたにもかかわらず、日本の半導体メーカーはメインフレーム用高性能DRAMを作り続け、サムスンの成長を許した。
最近でもそうだ。機能をしぼったシンクライアント型低価格PCでは、台湾メーカーの強さが目立つ。今後は中国メーカーが成長するだろう。インドのタタモーターズが08年に発表したナノは、1台27万円だ。インドのゴドレジグループが開発した冷蔵庫は、1台6,800円だ。
インドに進出した日清食品のインスタントラーメンは1個10円だが、それでも売れない。かかる市場が日本の活性化に寄与するだろうか。
(3)アジアの中間層
中間所得層(「ボリュームゾーン」)がアジアに成長しつつあるから、アジアの消費市場としての魅力が今後高まる、といわれる。
アジアの中間層は09年に8.8億人、今後10年間で倍増する、と『通所白書2010』はいう。富裕層は、09年に日本では9,200万人、日本を除くアジアでは6,200万人だが、5年以内に日本を抜く、ともいう。
だが、実態を見れば、アジアの中間層とは、年間所得が40万円から280万円で、そのうち大部分は120万円未満なのだ(1ドル=80円で換算)。物価の違いを度外視すれば、アジア中間層は、日本では低所得層に位置づけられる。アジア富裕層は、日本では中間層だ。
新興国とは、低所得国なのだ。「蟻族」と呼ばれる中国の若者たちの実態に明らかだ。大卒の知的労働者だが、大都市郊外の劣悪なアパートで6人部屋に住み、長時間かけて通勤、平均月収2.5万円、昇進しても5万円、所有する家財道具はPCと携帯電話くらい、台所がないから炊事道具さえない。彼らが日本メーカーの顧客となりうるだろうか。
(4)外国人の幹部候補生採用の真の意義
高度知識労働者レベルの外国人採用がまったく意味がない、というのではない。逆に、きわめて重要である。次の3点で日本企業に重要な意味を持ちうるからだ。これらのいずれも、日本企業のビジネスモデルを大きく変化させる可能性を秘めている。
(a)世界的な水平分業への対応。
(b)アジア地域を対象とした金融サービスの提供。
(c)社員の多様化と人事管理体制への影響。
【参考】野口悠紀雄「日本企業のアジア戦略は間違っている ~ニッポンの選択第49回~」(「週刊東洋経済」2011年1月29日号)
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日本企業は、従来の方針を大転換し、外国人を幹部候補生として採用し始めた。こうした動きは、2012年春の採用では、さらに進むだろう。
日本企業と日本人にとって、きわめて大きな意味をもつ変化だ。
(a)日本人大学生の就職戦線に大きな影響がおよぶ。大学生の就職内定率は過去最悪の水準になっているが、その背景に日本企業が日本人よりはアジア特に中国の優秀な学生に目を転じ始めたことがある。
(b)日本人であることを前提としていた人事管理・職務管理体制に、本質的な影響を与えるだろう。文化的背景、考え方が異なる人材と協働することは、決して容易ではない。
(c)しかし、外国人活用がうまい形で進めば、日本を活性化する最後の切り札になるかもしれない。日本企業のビジネスモデルや新興国との付き合い方に係る基本的な方向づけとも密接に関わる。
(2)新興国に最終消費財の市場を求める愚
日本企業の外国人採用増加は、主力マーケットを国内・先進国から新興国へと転換しようとしているからだ。アジア新興国市場が急拡大しているからだ。
しかし、新興国市場の拡大と、日本企業がそこで高収益を上げられることとは、まったく別問題なのだ。新興国に最終消費財の市場を求めようとするビジネスモデルは、成功しないだろう。その理由は、
(a)他の先進国や新興国のメーカーがすでに参入している。激しい競争が展開されている。
(b)新興国で求められるのは、高品質製品ではなくて、低価格製品である。
しかるに、日本の製造業は、低価格製品の生産において比較優位をもっていない。半導体がそうだった。1990年代以降、PC用低価格DRAMの需要が増えたにもかかわらず、日本の半導体メーカーはメインフレーム用高性能DRAMを作り続け、サムスンの成長を許した。
最近でもそうだ。機能をしぼったシンクライアント型低価格PCでは、台湾メーカーの強さが目立つ。今後は中国メーカーが成長するだろう。インドのタタモーターズが08年に発表したナノは、1台27万円だ。インドのゴドレジグループが開発した冷蔵庫は、1台6,800円だ。
インドに進出した日清食品のインスタントラーメンは1個10円だが、それでも売れない。かかる市場が日本の活性化に寄与するだろうか。
(3)アジアの中間層
中間所得層(「ボリュームゾーン」)がアジアに成長しつつあるから、アジアの消費市場としての魅力が今後高まる、といわれる。
アジアの中間層は09年に8.8億人、今後10年間で倍増する、と『通所白書2010』はいう。富裕層は、09年に日本では9,200万人、日本を除くアジアでは6,200万人だが、5年以内に日本を抜く、ともいう。
だが、実態を見れば、アジアの中間層とは、年間所得が40万円から280万円で、そのうち大部分は120万円未満なのだ(1ドル=80円で換算)。物価の違いを度外視すれば、アジア中間層は、日本では低所得層に位置づけられる。アジア富裕層は、日本では中間層だ。
新興国とは、低所得国なのだ。「蟻族」と呼ばれる中国の若者たちの実態に明らかだ。大卒の知的労働者だが、大都市郊外の劣悪なアパートで6人部屋に住み、長時間かけて通勤、平均月収2.5万円、昇進しても5万円、所有する家財道具はPCと携帯電話くらい、台所がないから炊事道具さえない。彼らが日本メーカーの顧客となりうるだろうか。
(4)外国人の幹部候補生採用の真の意義
高度知識労働者レベルの外国人採用がまったく意味がない、というのではない。逆に、きわめて重要である。次の3点で日本企業に重要な意味を持ちうるからだ。これらのいずれも、日本企業のビジネスモデルを大きく変化させる可能性を秘めている。
(a)世界的な水平分業への対応。
(b)アジア地域を対象とした金融サービスの提供。
(c)社員の多様化と人事管理体制への影響。
【参考】野口悠紀雄「日本企業のアジア戦略は間違っている ~ニッポンの選択第49回~」(「週刊東洋経済」2011年1月29日号)
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