語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『スーパーマンへの手紙』

2011年02月23日 | ノンフィクション
 スーパーマンは米国の英雄だが、スーパーマンを演じる役者には不遇が待ち受けているらしい。TVドラマで初めてスーパーマン役を演じたジョージ・アリンはアルツハイマー病になり、彼のあとを継いだジョージ・リーブスは45歳で自殺した。そしてクリストファー・リーブもまた人気絶頂のさなかの1955年5月27日に、落馬して脊髄を損傷し、四肢麻痺の身となった。
 しかし、リーブは前二者と異なり、不屈の意志で闘病し、ふたたび映画界に甦る。このあたりの事情は、リーブ自身の手記『車椅子のヒーロー(原題”STILL ME”)』(布施由紀子訳、徳間書店、1998)に詳しい。

 もともと気骨のある人物だったらしい。たとえばアムネスティの活動を支援する一環として、1987年、チリに飛び、軍事政権により死に直面していた俳優たち77名を救っている。
 とはいえ、個人の意思だけでは復活できなかったに違いない。家族の支えが大きかったはずで、その家族は数多くのファンや友人から支えられた。おそらくリーブ自身も。

 受傷後ぞくぞくと寄せられた手紙は、3週間で3万5千通。その後もとぎれず、書き手は米国の全州に加えて十数か国に広がる。日本からも千羽鶴が送られた。これらの書簡を一部抜粋し、テーマ別に編集したのが本書である。
 クリスのファンならば、間奏曲ふうに挿入される「あのころのあなたは」を最初に読むとよい。小学生時代の老担任教師から偶然言葉をかわした人たちまで、さまざまな出会いが証言されている。
 映画ファンならば、「楽屋裏」から入ろう。キャサリーン・ヘップバーンたち錚々たる俳優・女優、監督たちの熱い友情の言葉を目にすることができる。ことにエマ・トンプソンの手紙がよい。役柄から受ける印象そのままに、愕きと哀しみにみちた心情を切々と、しかし控えめに綴っている。
 全体として明るく、笑わせる文面が多いのは、米国人の国民性なのか、編者の選択の結果なのか。「子供たち」はもとより「みんなの願いと祈り」も読んで楽しい。真摯な助言を集めた「治療法と癒し」さえ、ほのかなユーモアが漂う。
 趣が他とやや異なるのは、「逆境を乗りこえて」。病気や障害のちがいはあっても、クリスと同じような立場に立つ人々やその家族から寄せられた手紙の数々である。そのいずれも、自分のことだけでも精一杯であるはずだと思われる人々が励ましの言葉を贈っているのだ。

 本書を通読すると、生きているだけで、それだけで十分に貴重なのだ、という思いを新たにする。

□デイナ・リーブ(岡山徹訳)『スーパーマンへの手紙』(講談社シネマブックス、2001)
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