(1)日本経済再生のキー
日本人学生の就職は厳しいが、日本への留学生の就職状況は良好だ。日本企業は、新規採用を日本人学生から外国人(特に中国人)にシフトし始めたのだ。ソニーも新規採用の3割を外国人にする方針を決めた。
自国企業の雇用を自国人だけで独占できないのは、グローバル化した経済では当然のことだ。外国人を適切に活用することができれば、日本経済再生のキーとなしうる。大変重要な変化だ。
過去、日本は、中国から消費財を輸入し、中国に対して中間財を輸出していた。中国の役割は、単純労働力の供給だった。
経済危機後、中国は巨大な消費主体と見なされるようになった。
しかし、この方向を取るのは危険だ。日本における高賃金で作ったものを、中国における低所得の人々に売ろうとしても、もともと無理なのだ。ここには比較優位の視点がまったく欠落している。最低限、工場を新興国に移して安価な労働力を使う必要がある。
(2)知識労働者の供給国
日本が目指すべき方向は、いま中国に出現しつつある新世代の能力を活用することだ。中国を知識労働者の供給国と見なすのだ。
こう考えるのは、中国人の若い世代にきわめて優秀な人材が出現し始めたからだ。
1970年代まで、ほとんどの中国人は教育を受ける機会を奪われていた。文化大革命で紅衛兵が学校制度を破壊し、68年から10年間、1,600万人の若者が農村や辺境に下放された(上山下郷運動)。大学は閉鎖され、知識階級は撲滅された。
この世代の人々が80年代に一橋の野口ゼミにも留学してきたが、基礎教育をまったく受けていなかったため、指導のしようがなかった。
それから20年後、04年、スタンフォード大学の野口のクラスに現れた中国人学生は、まったく別人種であった。日本語も英語も非常にうまい。能力も高いし、意欲もある。中国の人材に画期的な変化が起きたことがわかった。
彼らは80年以降の生まれなので、「80後(バーリンホー)世代」と呼ばれる。中国で現代的高等教育を受けた最初の世代である。大学進学率は、03年で20%を超えた。巨大な変化が中国に起こったのである。
中国人が日本人より優秀だとは野口は思わないが、全体数が多いため、その中にきわめて優秀な人間がいるのだ。彼らに高等教育を与えれば、それが顕在化する。その影響は、教育や科学研究の分野でようやく表れ始めた(経済や政治には本格的な影響は及んでいない)。
(3)国別論文数の推移
国別に論文数の推移をみると、90年代の後半以降、中国が著しい勢いで成長している。03年頃に仏国を抜き、05年に日本、英国、独国を抜いた。米国のおよそ3分の1になっている。
80年代末、中国の論文数は日本、英国、独国の20分の1程度でしかなく、まったく比較にならない存在だった。この20年間に大変化が起きたのだ。
質の高いトップ10%の論文でも、中国は急成長している。まだ英独の半分程度だが、すでに日本を抜いた。伸び率がきわめて高いので、いずれ英独を抜くだろう。
中国はとりわけ化学と材料科学で強い。
各国の論文数が伸び悩む一方で中国が急成長しているから、遠からず米国を抜くだろう。ちなみに、ロシアは研究資金削減のため伸びが低くなり、ブラジル、インドよりも論文数が少なくなった。
これは、ここ数年の間に起きた急激な変化だ。中国がGDPで日本を抜いたことより、論文数のほうが重大な変化だ。
大学ランキングでも同様の傾向がみられる。英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エディケーション」が10年9月に発表した「世界大学ランキング」によると、上位200校に入った日本の大学は、前年の11校から5校に減った。(香港を除く)中国は、6校となり、日本を抜いてアジア1位になった。
(4)着目するべきもの
日本経済の方向づけを考えるときにわれわれが見るべきデータは、「自動車販売台数世界一」とか「膨大な数の中間層」ではない。そこには総人口の大きさが影響している。そして、中国の貧しさが隠されている。それを見抜けずに、これからは中国だ、と考えれば方向を誤る。
見るべきは、論文数の推移に象徴されるような状況だ。それが示す世界は、次のようなものだ。
(a)米国が依然として圧倒的に強く、他国を引き離している。
(b)中国が急成長している。日本を抜いた。指標によっては英独をも抜いた。いずれ米国も抜くかもしれない。
【参考】野口悠紀雄「中国の新世代『80後世代』の実力 ~ニッポンの選択第50回~」(「週刊東洋経済」2011年2月5日号)
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日本人学生の就職は厳しいが、日本への留学生の就職状況は良好だ。日本企業は、新規採用を日本人学生から外国人(特に中国人)にシフトし始めたのだ。ソニーも新規採用の3割を外国人にする方針を決めた。
自国企業の雇用を自国人だけで独占できないのは、グローバル化した経済では当然のことだ。外国人を適切に活用することができれば、日本経済再生のキーとなしうる。大変重要な変化だ。
過去、日本は、中国から消費財を輸入し、中国に対して中間財を輸出していた。中国の役割は、単純労働力の供給だった。
経済危機後、中国は巨大な消費主体と見なされるようになった。
しかし、この方向を取るのは危険だ。日本における高賃金で作ったものを、中国における低所得の人々に売ろうとしても、もともと無理なのだ。ここには比較優位の視点がまったく欠落している。最低限、工場を新興国に移して安価な労働力を使う必要がある。
(2)知識労働者の供給国
日本が目指すべき方向は、いま中国に出現しつつある新世代の能力を活用することだ。中国を知識労働者の供給国と見なすのだ。
こう考えるのは、中国人の若い世代にきわめて優秀な人材が出現し始めたからだ。
1970年代まで、ほとんどの中国人は教育を受ける機会を奪われていた。文化大革命で紅衛兵が学校制度を破壊し、68年から10年間、1,600万人の若者が農村や辺境に下放された(上山下郷運動)。大学は閉鎖され、知識階級は撲滅された。
この世代の人々が80年代に一橋の野口ゼミにも留学してきたが、基礎教育をまったく受けていなかったため、指導のしようがなかった。
それから20年後、04年、スタンフォード大学の野口のクラスに現れた中国人学生は、まったく別人種であった。日本語も英語も非常にうまい。能力も高いし、意欲もある。中国の人材に画期的な変化が起きたことがわかった。
彼らは80年以降の生まれなので、「80後(バーリンホー)世代」と呼ばれる。中国で現代的高等教育を受けた最初の世代である。大学進学率は、03年で20%を超えた。巨大な変化が中国に起こったのである。
中国人が日本人より優秀だとは野口は思わないが、全体数が多いため、その中にきわめて優秀な人間がいるのだ。彼らに高等教育を与えれば、それが顕在化する。その影響は、教育や科学研究の分野でようやく表れ始めた(経済や政治には本格的な影響は及んでいない)。
(3)国別論文数の推移
国別に論文数の推移をみると、90年代の後半以降、中国が著しい勢いで成長している。03年頃に仏国を抜き、05年に日本、英国、独国を抜いた。米国のおよそ3分の1になっている。
80年代末、中国の論文数は日本、英国、独国の20分の1程度でしかなく、まったく比較にならない存在だった。この20年間に大変化が起きたのだ。
質の高いトップ10%の論文でも、中国は急成長している。まだ英独の半分程度だが、すでに日本を抜いた。伸び率がきわめて高いので、いずれ英独を抜くだろう。
中国はとりわけ化学と材料科学で強い。
各国の論文数が伸び悩む一方で中国が急成長しているから、遠からず米国を抜くだろう。ちなみに、ロシアは研究資金削減のため伸びが低くなり、ブラジル、インドよりも論文数が少なくなった。
これは、ここ数年の間に起きた急激な変化だ。中国がGDPで日本を抜いたことより、論文数のほうが重大な変化だ。
大学ランキングでも同様の傾向がみられる。英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エディケーション」が10年9月に発表した「世界大学ランキング」によると、上位200校に入った日本の大学は、前年の11校から5校に減った。(香港を除く)中国は、6校となり、日本を抜いてアジア1位になった。
(4)着目するべきもの
日本経済の方向づけを考えるときにわれわれが見るべきデータは、「自動車販売台数世界一」とか「膨大な数の中間層」ではない。そこには総人口の大きさが影響している。そして、中国の貧しさが隠されている。それを見抜けずに、これからは中国だ、と考えれば方向を誤る。
見るべきは、論文数の推移に象徴されるような状況だ。それが示す世界は、次のようなものだ。
(a)米国が依然として圧倒的に強く、他国を引き離している。
(b)中国が急成長している。日本を抜いた。指標によっては英独をも抜いた。いずれ米国も抜くかもしれない。
【参考】野口悠紀雄「中国の新世代『80後世代』の実力 ~ニッポンの選択第50回~」(「週刊東洋経済」2011年2月5日号)
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