語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】波多野完治『生涯教育論』再読(2) ~生涯教育の公理学~

2011年02月11日 | 心理
 本書は、次のように構成される。

 序文
 第1章 近代人の課題 -生涯教育の公理学-
 第2章 生涯教育を困難にする条件 -生涯教育の政治学-
 第3章 生涯教育はどういう意味と価値をもつか -生涯教育の社会学-
 第4章 生涯教育の内容・領域・目標 -生涯教育の心理学-
 第5章 生涯教育実現のための諸方策 -生涯教育の経営学-
 第6章 生涯教育はひとりひとりの仕事であり同時に社会のみんなの仕事である -生涯教育における学際(インターディスプリナリ)-」-
 まとめ
 エピローグ

   *

 人間の一生は、「挑戦」の連続である。絶えず挑戦を受けて、絶えず「決断」しなければならない。昔からそうだった。決断のために「情報を集め」、自らの識見を高めた。生涯教育は昔から重要だった。
 しかし、現代では決断を要する周囲からの挑戦が、殊に数多くなった。激しくなった。生涯教育は、選ばれた少数だけでなく、万民に必要になった。そして、生涯教育が技術的に可能になった。
 第1章では、まずそう説いて、現代における生涯教育がとくにたいせつになってきた事情を幾つか列挙する。
 1 変化の加速化
 2 人口増加
 3 科学知識の増加と技術の進歩
 4 政治の挑戦
 5 情報
 6 余暇
 7 生活様式と人間関係
 8 肉体
 9 イデオロギーの危機

   *

 1 変化の加速化
 状況に適応した正しい人生観/世界観をもつことが、生活する現実と自己との「均衡」保持に必要だ。ところが、社会の変化が速すぎるため、うまく均衡をとれない。変化する社会において「再均衡化」をつくり出すためには「学習」が必要だ。学習には努力がいる。努力のないところでは、人は社会から疎外されてしまう。自分をヨソモノと感じるに至る。しまいには、自己を自己と認めること(「同一性」)さえ見失ってしまう。
 なるべく速く、変化した社会を解釈しなおす能力を獲得せねばならぬ(生涯学習の必要性)。
 変化の速い社会では、若いころに教えられたことを一生持ち続ける、という教育方法は適当でない。

 2 人口増加
 主として発展途上国において起きている現象だ。
 (1)量的増加・・・・人口量の増加にすべての施設・設備が追いつかなくなっている。
 (2)質的増加・・・・平均寿命が延び、ひとりひとりが社会に存在している期間が長くなった。仮に発展のテンポが昔のとおりであったとしても、昔は30年間使えばよかった知識を、いまは60年間使わねばならない。小学校のカリキュラムは当然変化しなければならない。そして、いまの発展のテンポは昔の倍になったとすると、昔は30年間使えた知識はいまは15年間しか使えない。ドラッカーは、いったん学習した知識を毎年7%ずつ「更新」していかねばならぬ、というふうに表現している。かかる社会では、教育について根本的な変更が必要になる。
 (a)若い人の学習欲求を「学校以外」で満たす必要がある。
 (b)平均寿命が延びた分に対して、「買いたし」「買いなおし」の教育をする必要がある。
 (c)老人だけが勉強しなければならない、のではない。若者、中年者も比較的学習能力のあるうちに不備を補い、変化した社会に対応するに足りる実力をつけたいと感じている。こうした人々の学習意欲は、学校だけで満たせない。
 (d)学校も変わらなくてはならぬ。教育方法も変わらなくてはならぬ。社会へ出てから勉強する方法を学校にいる間に身につけておけば、卒業後に「買いたし」しやすい。
 (e)人口増加に関連して大きな問題が起きてきた。食料問題一つをとっても、その地域だけで解決できない。宇宙船地球号の乗組員ひとりひとりが「賢い消費者」になって、地球上の資源の「配分」に係る知識を持たねばならない。そのために、合理性と均衡性の保持が教育に要求される。「人間の生存と人間の尊厳の確保とが、いまや別々のものでなく、これが生涯教育によってのみ満たされるものであることが、人口増加を機縁として明らかになりつつある」

 3 科学知識の増加と技術の進歩
  (a)現代は科学技術が変化の主動力である。
  (b)科学技術の進歩が社会のすみずみにあまねく行きわたっている。
 ことに後者は重要だ。
 科学技術の進歩が速い。明日の技術者を養成するには、知識を教えるだけでは十分ではない。彼らに「学ぶことを学」ばせなくてはならない。
 一生学んでいかねばならないのは、ひとり技術者に限らない。「学問」の専門家はみなそうだ。
 <補説Ⅰ>日進月歩は、医学、文学、農業・・・・ジャンルを問わない。すべての産業は技術革新の波に洗われている。これがまた「生涯教育」のテコになっている。

【参考】波多野完治『生涯教育論』(小学館、1972)
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