語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、財政再建の基本は地方自治の確立だ ~1940年体制の改革~

2011年02月16日 | ●野口悠紀雄
 国と地方の関係一般の見直しが必要だ。
 本来議論するべきは、「税と社会保障の一体改革」ではなく、「税、社会保障、そして国と地方との関係」だ。

 地方財政制度は、1940年度に確立された。その基本思想は、「地方自治の否定」だ。財源を所得税(ことに給与所得に係る源泉徴収税)と法人税という形で国に集中し、それを地方に再配分する。そして、全国一律の公共サービスを提供する。・・・・というものだ。
 このしくみは戦後日本にそっくり残り、高度成長期には適切に機能した。
 高度成長は、製造業の発展を基盤とした。よって、所得税と法人税が順調に伸びた。
 工業地域と農業地域の格差が開いたが、国が再配分し、調整した。

 その後、財政をめぐる基本的条件は変化した。
 (a)社会保障関係費の増加。
 (b)所得税、法人税の伸び率の低下。
 これらは、90年代以降の国の財政事情を悪化させた。この変化を経済危機が一挙に加速した。 
 しかるに、こうした大変化にもかかわらず、国と地方の関係に係る基本的な見直しは行われていない。

 むろん、国と地方の分担に係る議論はあった。05年の義務教育費国庫負担に係る存廃問題、現在の子ども手当や後期高齢者医療費に係る地方の負担拒否。
 ただし、これらは当該問題の枠内だけのアドホックな議論だ。国と地方の負担の押し付け合いであって、国と地方の関係に係る基本が議論されたわけではない。 
 このテーマは、一般の関心を惹かない地味な話題なのだが、財政の基本に係る論点を含んでいる。

 公共サービスのうち地方政府が提供するものは、義務教育、警察、消防、清掃などだ。
 これに加えて、年金を除く社会保障についても、地方の役割を中心に制度を再構築することは可能だ。生活保護、医療保護、介護保険は、基本的に地方に任せるのだ。さらに、子ども手当、農家の個別所得補償などの再分配政策も地方が行う。また、産業、公共事業も地方に移管する。
 そして、それに必要な財源措置を講じる。
 国の仕事は、年金、防衛、外交、司法などの分野に限定する。

 支出についても財源についても、地方公共団体が自由に決定できる制度にすることが重要だ。地方交付税交付金や国庫支出金の形で国が提供するのではなく、地方が税率を決められる地方税で徴収する。
 このような制度には、消費税は不適切だ。税率の低い地方で購入することで税負担を逃れられるからだ。固定資産税、住民税、事業税のような税目が必要だ。

 こうすれば、「足による投票」が実現する。
 (例)ある地方は子ども手当が多いが、地方税負担も重い・・・・と考える人々は、居住地を選択する。
 これは市場メカニズムと類似の機能だ。むろん、居住地の変更は容易でないから、市場メカニズムと同じようには機能しない。しかし、住民は通常の選挙を通じても、財政に係る意見を表明できる。

 財政支出が野放図に増加するのは、支出と負担の関係が明確に意識できないからだ。
 高い財政便益には高い負担が必要だ。この当然のことが、いまの日本の財政構造では意識できない。この構造が残る限り、いくら増税しても支出が膨張してしまう。
 消費税率引き上げは、当面の財政を工面するつじつま合わせにしかならない。消費税を引き上げても焼け石に水だ。

 便益と負担をリンクさせ、かつ、それらを地方に移管する。・・・・財政支出の膨張をチェックするには、これしかない。1940年以来70年間続いた財政の基本構造を変革するのだ。
 これが財政再建に係る基本問題だ。
 「消費税を目的税化するべきか」「年金は税方式か社会保険方式か」といった問題設定は、枝葉のことだ。

【参考】野口悠紀雄「財政再建の基本は地方自治の確立 ~「超」整理日記No.549~」(「週刊ダイヤモンド」2011年2月19日号)
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