語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】現代詩における心中

2011年02月04日 | 詩歌
    心中しようと 二人で来れば
      ジャジャンカ ワイワイ
    山はにっこり相好くずし
    硫黄のけむりをまた吹き上げる
      ジャジャンカ ワイワイ

    鳥も啼かない 焼石山を
    心中しようと辿っていけば
    弱い日ざしが 雲からおちる
      ジャジャンカ ワイワイ
    雲からおちる

    心中しようと 二人で来れば
    山はにっこり相好くずし
      ジャジャンカ ワイワイ
    硫黄のけむりをまた吹き上げる

    鳥も啼かない 焼石山を
      ジャジャンカ ワイワイ
    心中しようと二人で来れば
    弱い日ざしが背すじに重く
    心中しないじゃ 山が許さぬ
    山が許さぬ
      ジャジャンカ ワイワイ

      ジャジャンカ ジャジャンカ
      ジャジャンカ ワイワイ

   *

 入澤康夫の初期の傑作、「失題詩編」は『倖せそれとも不倖せ』(ユリイカ、1955)に所収 。
 近松門左衛門の道行は、読む者、見聞きする者を二人に感情移入させる。
 かたや、この詩は、読む者を相好くずす山といっしょになって囃す立場に置かせる。愉快にして猥雑、軽快にして非情な「ジャジャンカ ワイワイ」の囃子である。

 入澤康夫は、島根県松江市出身のフランス文学者、ネルヴァルの研究家。「擬物語詩」をつむぎだす詩人。詩集『季節についての試論 』(H氏賞 )、詩集『わが出雲 わが鎮魂』(読売文学賞)、詩集『死者たちの群がる風景』(高見順賞)、詩集『水辺逆旅歌』(藤村記念歴程賞 )、詩集『漂ふ舟 わが地獄くだり』(現代詩花椿賞 )、詩集『入澤康夫〈詩〉集成 』(毎日芸術賞 )、詩集『遐い宴楽 』(萩原朔太郎賞 )、詩集『アルボラーダ』(詩歌文学館賞 )、ほか著書多数。
 天澤退二郎らとともに原稿を綿密に校訂し、画期的な『校本 宮澤賢治全集』を刊行。さらに、その後の新発見資料や研究成果を踏まえ、全面的な本文決定、校訂作業をやり直し、『新校本 宮澤賢治全集』を刊行した(2009年3月完結)。

【参考】入澤康夫「失題詩編」(『入澤康夫<詩>集成』、思潮社、1979、所収)
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