語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『自治体の挑戦 改革者たちの決断と実践』

2011年02月19日 | 社会
 本書は、「地方自治体の変化こそが、国の変化を促す」という観点から、28の地方自治体における新しい取り組みを、その開始の経過や鍵となる事項に重点を置いて報告する。
 福祉、環境、教育など八つのテーマに大別される。
 たとえば、情報公開。住民との「情報共有」まで徹底したのは北海道ニコセ町である。誰にでもわかる予算説明書を作成しているのだ。A4サイズ、約130ページ。写真、表が盛り込まれ、字体も見やすい。説明は、具体的である。道路補修整備事業を見ると、予算額だけではなくて施行場所まで記されている。この予算説明書は、縦割り行政を打破する副次的効果もある。役場の職員にしてみれば、自分の仕事が他のどの分野に関わるかを把握しやすいからだ。
 予算を知ることから予算配分への関与まで、ほんの一歩の距離である。一例をあげれば、全国で初めて平成5年9月に24時間ホームヘルスサービスを開始した秋田県鷹巣町。福祉政策は、ワーキンググループに住民が参加し、検討し、合意のうえ決定される。
 「私たち、国民一人ひとりが、決定権をもてる能力を有しているという自信をもつことが大事だ」と著者は言う。
 住民参加も行政の自己変革も、まだ始まったばかりにすぎない。「挑戦」とタイトルにある所以である。されば、住民の住民による住民のための地方自治実現を志す人々にとって、本書はよき水先案内になるだろう。自治体の職員は、他の自治体で行われていることに興味があっても、その情報を得る機会は多くない。その意味で、自治体の職員にも資するところが大であろう。
 ただし、この手の著作の性質上、負の側面には言及されていない
 たとえば、群馬県太田市は、市庁舎内清掃の民間委託をやめて職員がおこなうことにした。住民サービスのプロたちの時間を一部割いて庁舎の清掃に振りむけたわけだ。コスト・ダウンを評価するか、もったいないと見るか、評価が分かれるところだ。

□細川珠生『自治体の挑戦 改革者たちの決断と実践』(学陽書房、2000)
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