(1)金曜デモでは、人々の最先端の声をライブで聞く機会に恵まれる。
今年3月頃、原発が定期検査に入ったため「原発ゼロ」がリアルになった。・・・・シュプレヒコールの主流は、「電気は足りている」「原発いらない」だった。
6月、政府が「夏の電力不足」と「日本の先行き不安」を言い募り、大飯原発3、4号機の再稼働を強行した。・・・・デモは、「再稼働反対」「原発とめろ」にヒートアップした。
この頃、OurPlanet-TVが国会記者会館の屋上から大群衆を撮影したい、と記者クラブに申し入れたが認められず、国および国会記者会を相手に使用を求める仮処分申し立てを行った【注】。記者クラブは、既得権をフリージャーナリストと分有することを拒否したのみならず、建物の管理者(衆議院)にこの件でお伺いを立てた。
8月中旬、原子力規制委員会の人事が発表された。・・・・デモ隊は、委員長が原子力ムラと深い関係にあったことを理由に、「人事案撤回」を叫んだ。
9月、福島県「県民健康管理調査」検討委員会(委員長:山下俊一・福島県立医大副学長)の報告から、福島県内の子どもの40%以上の甲状腺に「のう胞」があることがわかった。・・・・「子どもを救え」「人体実験やめろ」「山下やめろ」に主張が変わった。
(2)金曜デモは、自分たちがハンドリングできるネット・ツールを駆使して、場を生き生きと維持する。世界でもっとも先鋭的なメディア情報空間を享受している。毎週のように金曜日夕方に出現する。毎週のように抗議しなければならないイシューが再生産されているからだ。
(3)もったいないことに、マスメディアは見ザル、言わザル、聞かザルの三猿的無関心を決め込んでいる。
6月末、官邸前の集会が歩道から車道に溢れ出たのを機に、翌週から警察が厳重な規制を始めると、テレビ局は何を期待したか、こぞって中継クルーを送り込んだ。が、何事も起こらないとわかると、たちまち姿を消した。テレビ局は、直接人々の中に分け入り、出来事の背景を読み、それを切り取った「事実」として人々に還元する、というジャーナリズムの基本を忘れている。
(4)現政権と官僚は、「脱原発」という言葉を「脱・脱原発」という内実にすり替えようと腐心している。
8月中旬、「2030年」のエネルギー政策を決めるために通常の世論調査に「討論型世論調査」を取り入れた意見聴取会が行われた。「2030年までに原発ゼロ」の意見が最多を占めた。脱原発への動きが加速された。
すると、政府による「言葉のずらし」が始まった。
(a)9月14日、政府のエネルギー・環境会議は、「2030年」ではなく、「2030年代」に原発ゼロとする新戦略を決定した。つまり「2039年」までに。あまりにもトリッキーな「すりかえ」だが、さしたる説明もない。
(b)原発の稼働制限を原則40年とし、安全が確認されれば「重要電源」として再稼働を認める、という。いま2000年代に運転を開始した原発が5基ある。これらは2039年を超えても稼働する。すでに建設認可が下りているものが完成すると、2030年代末の原発ゼロはおぼつかない。結局、政府は「言葉のずらし」によって、「2030年に原発15%」と同等の内容を掠め取ったのだ。
(c)その上、核燃料を再処理するシステムには手をつけない。脱原発と背離した決定だ。
(5)マスメディアは、(4)の「言葉のずらし」を見逃している。
マニフェスト破棄と世論無視の「言葉のずらし」を、ほとんどのマスメディアが批判しなかった。
ただし、東京新聞名古屋本社の論説主幹は、9月15日の一面で、今回の政府案を徹底的に批判した。「福島の母親らをさきがけに、国民は真剣に考え、自治体は不安の声を上げ、デモは拡大した」、倫理的判断が政権の決定より重い、金曜デモは政治の倫理に対する異議申し立てだ・・・・。
【注】「【原発】OurPlanet-TV、国および国会記者会を提訴」
以上、神保太郎「メディア批評第59回」(「世界」2012年11月号)の「(1)“デモのある社会”のメディア」に拠る。
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今年3月頃、原発が定期検査に入ったため「原発ゼロ」がリアルになった。・・・・シュプレヒコールの主流は、「電気は足りている」「原発いらない」だった。
6月、政府が「夏の電力不足」と「日本の先行き不安」を言い募り、大飯原発3、4号機の再稼働を強行した。・・・・デモは、「再稼働反対」「原発とめろ」にヒートアップした。
この頃、OurPlanet-TVが国会記者会館の屋上から大群衆を撮影したい、と記者クラブに申し入れたが認められず、国および国会記者会を相手に使用を求める仮処分申し立てを行った【注】。記者クラブは、既得権をフリージャーナリストと分有することを拒否したのみならず、建物の管理者(衆議院)にこの件でお伺いを立てた。
8月中旬、原子力規制委員会の人事が発表された。・・・・デモ隊は、委員長が原子力ムラと深い関係にあったことを理由に、「人事案撤回」を叫んだ。
9月、福島県「県民健康管理調査」検討委員会(委員長:山下俊一・福島県立医大副学長)の報告から、福島県内の子どもの40%以上の甲状腺に「のう胞」があることがわかった。・・・・「子どもを救え」「人体実験やめろ」「山下やめろ」に主張が変わった。
(2)金曜デモは、自分たちがハンドリングできるネット・ツールを駆使して、場を生き生きと維持する。世界でもっとも先鋭的なメディア情報空間を享受している。毎週のように金曜日夕方に出現する。毎週のように抗議しなければならないイシューが再生産されているからだ。
(3)もったいないことに、マスメディアは見ザル、言わザル、聞かザルの三猿的無関心を決め込んでいる。
6月末、官邸前の集会が歩道から車道に溢れ出たのを機に、翌週から警察が厳重な規制を始めると、テレビ局は何を期待したか、こぞって中継クルーを送り込んだ。が、何事も起こらないとわかると、たちまち姿を消した。テレビ局は、直接人々の中に分け入り、出来事の背景を読み、それを切り取った「事実」として人々に還元する、というジャーナリズムの基本を忘れている。
(4)現政権と官僚は、「脱原発」という言葉を「脱・脱原発」という内実にすり替えようと腐心している。
8月中旬、「2030年」のエネルギー政策を決めるために通常の世論調査に「討論型世論調査」を取り入れた意見聴取会が行われた。「2030年までに原発ゼロ」の意見が最多を占めた。脱原発への動きが加速された。
すると、政府による「言葉のずらし」が始まった。
(a)9月14日、政府のエネルギー・環境会議は、「2030年」ではなく、「2030年代」に原発ゼロとする新戦略を決定した。つまり「2039年」までに。あまりにもトリッキーな「すりかえ」だが、さしたる説明もない。
(b)原発の稼働制限を原則40年とし、安全が確認されれば「重要電源」として再稼働を認める、という。いま2000年代に運転を開始した原発が5基ある。これらは2039年を超えても稼働する。すでに建設認可が下りているものが完成すると、2030年代末の原発ゼロはおぼつかない。結局、政府は「言葉のずらし」によって、「2030年に原発15%」と同等の内容を掠め取ったのだ。
(c)その上、核燃料を再処理するシステムには手をつけない。脱原発と背離した決定だ。
(5)マスメディアは、(4)の「言葉のずらし」を見逃している。
マニフェスト破棄と世論無視の「言葉のずらし」を、ほとんどのマスメディアが批判しなかった。
ただし、東京新聞名古屋本社の論説主幹は、9月15日の一面で、今回の政府案を徹底的に批判した。「福島の母親らをさきがけに、国民は真剣に考え、自治体は不安の声を上げ、デモは拡大した」、倫理的判断が政権の決定より重い、金曜デモは政治の倫理に対する異議申し立てだ・・・・。
【注】「【原発】OurPlanet-TV、国および国会記者会を提訴」
以上、神保太郎「メディア批評第59回」(「世界」2012年11月号)の「(1)“デモのある社会”のメディア」に拠る。
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