(1)中国中央電視台(CCTV)は、世界へ向けて発信する英語放送だ。世界各地の華僑・華人(3,000万人)のみならず、アジア・アフリカの途上国や南太平洋の小さな島国まで、パラボラ・アンテナを寄贈して、視聴可能ゾーンを広げている。アフリカではCCTV本部をナイロビに置き(2012年1月発足)、アフリカ全土に20箇所以上の拠点を配置して発信している。
チャンネルが少ない所ほど影響力が強い。住民の意識調査でも「次第に中国が好きになった」との変化が報告されている。
ワシントンのあるロビイストは、「アジアのことはCCTV、中東のことはアルジャジーラ、欧州のことはBBCとWORLDで見ている」と言い切った。
(2)今年8月15日、CCTVの番組が伝えた日本のイメージは衝撃的だった。
(a)まず、韓国との「竹島」をめぐる緊張が伝えられ、背後に従軍慰安婦問題への日本の不誠実な姿勢が存在する、と解説される。
(b)ついで、北方四島問題で、「ロシアとも国境紛争が続く」とする。
(c)最後に、香港の活動家による「魚釣島上陸」の映像が流され、「日本という迷惑な隣人が存在し、敗戦後67年も経つのに未だ侵略戦争を反省せず、領土で近隣と揉め続けている」というコメントが続く。活動家が掲げる旗の「世界華人保釣連盟」は、「全世界の中華系の人間が連帯して魚釣島を守ろう」という主旨の団体だ。日中2国間の領土問題としてだけの「尖閣」ではなく、国際的広がりの中で日本のイメージダウンを狙う意図が隠されている映像だ。そこには、戦後日本が平和憲法の下、「武力を紛争解決手段としない国」として国際社会に参画・貢献してきた、という認識はカケラもない。
(3)ソ連崩壊後、かつて「社会主義圏」のロシアや東欧諸国が苦しみぬいた20年間、中国だけが年率10%に近い成長軌道を走り続けてきた理由は、香港・台湾・シンガポールなどの華僑圏とのネットワーク型連帯(経済・産業の連携ゾーン)にある。
「大中華圏」という仮説的概念は、2004年発表当時はある種の違和感をもって受け止められたが、この数年、この切り口で中国を理解することに興味を示す華僑・華人が増えてきた。
(a)この10年間で、「大中華圏」は、経済連携体として一段として実体化した。大中華圏内の相互貿易量は倍増し、交流人口は2000年から2011年まで6,971万人から1.22億人へと5,000万人以上も増えた。中国の2000年以降の対内直接投資累計のうち68%は大中華圏からの投資だ。中国本土の発展は、大中華圏のヒト・モノ・カネを有効に取り込み、相互交流を糧として持続しているのだ。
(b)IT革命が進んだ。中国本土のインターネット普及率は、2011年で38.4%(5億人超)、シンガポール77.2%、台湾70.0%、香港68.7%と世界でも際だってITが定着したゾーンだ。これが相互交流・意思疎通の基盤となっている。
(c)日本にとっての大中華圏の意味も重くなった。2000年から2011年までの間に、貿易総額23%が30%になった。かたや、対米貿易は25%から12%に減った。すなわち、大中華圏との貿易は対米貿易の2.5倍の比重を持つに至った。貿易量のみならず、昨年赤字に転落した貿易収支において、日中貿易は1.7兆円の日本側赤字だが、大中華圏全体では5.7兆円の日本側黒字となっていて、大きく日本の黒字に貢献している。
(4)大中華圏はいま、経済連携体を超えて、政治的意味を持ち始めている。
(続く)
以上、寺島実郎「尖閣問題への新たな視角--大中華圏の政治化 ~能力のレッスン第127回~」(「世界」2012年11月号)に拠る。
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チャンネルが少ない所ほど影響力が強い。住民の意識調査でも「次第に中国が好きになった」との変化が報告されている。
ワシントンのあるロビイストは、「アジアのことはCCTV、中東のことはアルジャジーラ、欧州のことはBBCとWORLDで見ている」と言い切った。
(2)今年8月15日、CCTVの番組が伝えた日本のイメージは衝撃的だった。
(a)まず、韓国との「竹島」をめぐる緊張が伝えられ、背後に従軍慰安婦問題への日本の不誠実な姿勢が存在する、と解説される。
(b)ついで、北方四島問題で、「ロシアとも国境紛争が続く」とする。
(c)最後に、香港の活動家による「魚釣島上陸」の映像が流され、「日本という迷惑な隣人が存在し、敗戦後67年も経つのに未だ侵略戦争を反省せず、領土で近隣と揉め続けている」というコメントが続く。活動家が掲げる旗の「世界華人保釣連盟」は、「全世界の中華系の人間が連帯して魚釣島を守ろう」という主旨の団体だ。日中2国間の領土問題としてだけの「尖閣」ではなく、国際的広がりの中で日本のイメージダウンを狙う意図が隠されている映像だ。そこには、戦後日本が平和憲法の下、「武力を紛争解決手段としない国」として国際社会に参画・貢献してきた、という認識はカケラもない。
(3)ソ連崩壊後、かつて「社会主義圏」のロシアや東欧諸国が苦しみぬいた20年間、中国だけが年率10%に近い成長軌道を走り続けてきた理由は、香港・台湾・シンガポールなどの華僑圏とのネットワーク型連帯(経済・産業の連携ゾーン)にある。
「大中華圏」という仮説的概念は、2004年発表当時はある種の違和感をもって受け止められたが、この数年、この切り口で中国を理解することに興味を示す華僑・華人が増えてきた。
(a)この10年間で、「大中華圏」は、経済連携体として一段として実体化した。大中華圏内の相互貿易量は倍増し、交流人口は2000年から2011年まで6,971万人から1.22億人へと5,000万人以上も増えた。中国の2000年以降の対内直接投資累計のうち68%は大中華圏からの投資だ。中国本土の発展は、大中華圏のヒト・モノ・カネを有効に取り込み、相互交流を糧として持続しているのだ。
(b)IT革命が進んだ。中国本土のインターネット普及率は、2011年で38.4%(5億人超)、シンガポール77.2%、台湾70.0%、香港68.7%と世界でも際だってITが定着したゾーンだ。これが相互交流・意思疎通の基盤となっている。
(c)日本にとっての大中華圏の意味も重くなった。2000年から2011年までの間に、貿易総額23%が30%になった。かたや、対米貿易は25%から12%に減った。すなわち、大中華圏との貿易は対米貿易の2.5倍の比重を持つに至った。貿易量のみならず、昨年赤字に転落した貿易収支において、日中貿易は1.7兆円の日本側赤字だが、大中華圏全体では5.7兆円の日本側黒字となっていて、大きく日本の黒字に貢献している。
(4)大中華圏はいま、経済連携体を超えて、政治的意味を持ち始めている。
(続く)
以上、寺島実郎「尖閣問題への新たな視角--大中華圏の政治化 ~能力のレッスン第127回~」(「世界」2012年11月号)に拠る。
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