(1)「脱原発依存」も「脱原発」も似たような言葉でいて、なかみが違う。
「脱原発」は、その時期が何時であるかはさておき、基本的には原発をゼロにすることだ。
他方、「脱原発依存」は・・・・
原発以外が99%なら、原発依存ではない。2%でも原発依存ではない。10%になると2桁になって大きな感じがするが、そうなると「1割」という。1割だったら原発依存ではない、と。2割というと微妙になるから、その間の15%・・・・みたいな感じで、15%に落ち着かせようとする。15%ならギリギリ「脱原発依存」と言える、という感覚なのだ。
しかし、今後新しく2基作ると15%になる。そこになんとか落ち着かせたい、というのが民主党の基本路線だった。
(2)ところが、官邸前デモがものすごくインパクトがあった。8月22日に、デモの中心者に首相が会った。異常な事態だ。異例ではなく、異常だ。官邸前に人数を集めれば総理と面会できる、という前例を作ったのだから。直接民主制的な官邸前デモを明らかに気にしている。
複合的にいろんなことが起きているので、相乗効果にもなっている。例えば、大阪市のエネルギー戦略会議の「大飯原発を再稼働させるな」。維新の会のバックにある世論を意識して、細野豪志・原発事故担当相(当時)は橋下徹・大阪市長に会いに行ったとき、「この安全基準は暫定的なもの」だと言わざるを得なかった。
飯田哲也・環境エネルギー政策研究所長が、保守王国の山口県知事選で、あれだけの得票を集めた。原発問題への関心の高さを見せつけた。
少なくとも、脱原発と反対を向いていると思われたら選挙で勝てない。たださえ民主党は次の選挙ではボロボロになると言われているのに、それにトドメを刺してしまうのではないか、という恐怖感が今ものすごい勢いで高まった。
かくて、心にもないことを言い出した(民主党のお家芸)。「原発ゼロにする」と(9月3日)。
(3)これから大きな争点になる可能性があるのは、大飯原発の再停止だ。
節電要請期間は9月7日に終わった。しかも、夏場でも電気が足りることがはっきりわかった。だから、すぐ止めて、もう一回安全性をゼロから全部確認し直すべきだ。使用済み核燃料、核のゴミもちゃんと見通しを立てないと動かすのはダメだ。
ところが、再稼働するときは、「この基準は暫定的なものだ」と言っていたのに、8月頃、野田首相は「大飯の再稼働については、安全ということを我々はしっかり確認しました」と言った。始まる前と今では逆になっている。
国会が閉鎖中、政府は9月11日、原子力規制委員会設置法附則第2条を援用し、原子力規制委員会の人事案を閣議決定した。
かくて規制委がスタートし、田中俊一・規制委委員長は言った。「大飯原発に活断層があるということがはっきりしたら運転を止めます」
逆に言えば、活断層があるということが証明されるまでは動かす、という意味だ。
斑目春樹・原子力安全委員会第8代委員長でさえ、「今までの安全基準はデタラメだった」と言った。かつ、仮に動かすとしたら、本当の安全を確認するためにはストレステスト二次評価まで全部やらないと安全だということにはならない、とも言っている。
しかるに、田中委員長は、節電期間が終わっても、活断層があるというハッキリした証拠が出てくるまでは動かす、と言っている。
さらに言えば、活断層があることを断定するのは難しい。大飯の場合、最終的に誰が評価するかによって判定が分かれる可能性がある。ハッキリした証拠にならない可能性がある。
これまでの安全基準は、電力会社の都合に合わせて作られて、保安院がそれにお墨付きを与えたものにすぎなかった。【国会事故調における斑目第8代委員長の証言】
だから、規制委の新委員長は、まず安全基準をゼロから見直す、と言わねばならない。すると、安全基準は、「活断層だったら作ってはいけない」から「活断層の活断層の可能性が極めて低いところにしか作ってはいけない」に変わるはずだ。その場合、大飯はダメとなる。
ところが、田中委員長は、昔の安全基準をベースにして、活断層だと言えないなら止めない、と言っている。
(4)他の原発再稼働の論理
安全基準見直しはじっくり時間をかけてやる、と規制委は言い出す可能性がある。
それまでは従来の安全基準でやる、ということになれば、ほとんどの原発が動き出す可能性がある。
全部動かして、1年か2年か3年か経った頃、安全基準をこのように見直した、と発表するかもしれない。その頃には事故の記憶が薄れているだろう、と政府は期待しているのだ。
2~3年経って厳しい安全基準ができても、新基準で全部見直してダメだったら廃炉というバックフィットはできない(今の法律では)。今の法律では、そういうふうにすることも「できる」であって、「しなければならない」とは書かれていない。
すると、昔政府がこれでよいと言ったのだから、その基準を後から変えるのは財産権の侵害だ、とか言って、「ではなるべく早く適合させるように、10年以内に」とかいう条件で結局動かすことになる可能性がかなりある。
以上、古賀茂明「既存政党が掲げ始めた「原発ゼロ」は、どこまで嘘なのか?」(「SIGHT」2012年秋号)に拠る。
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「脱原発」は、その時期が何時であるかはさておき、基本的には原発をゼロにすることだ。
他方、「脱原発依存」は・・・・
原発以外が99%なら、原発依存ではない。2%でも原発依存ではない。10%になると2桁になって大きな感じがするが、そうなると「1割」という。1割だったら原発依存ではない、と。2割というと微妙になるから、その間の15%・・・・みたいな感じで、15%に落ち着かせようとする。15%ならギリギリ「脱原発依存」と言える、という感覚なのだ。
しかし、今後新しく2基作ると15%になる。そこになんとか落ち着かせたい、というのが民主党の基本路線だった。
(2)ところが、官邸前デモがものすごくインパクトがあった。8月22日に、デモの中心者に首相が会った。異常な事態だ。異例ではなく、異常だ。官邸前に人数を集めれば総理と面会できる、という前例を作ったのだから。直接民主制的な官邸前デモを明らかに気にしている。
複合的にいろんなことが起きているので、相乗効果にもなっている。例えば、大阪市のエネルギー戦略会議の「大飯原発を再稼働させるな」。維新の会のバックにある世論を意識して、細野豪志・原発事故担当相(当時)は橋下徹・大阪市長に会いに行ったとき、「この安全基準は暫定的なもの」だと言わざるを得なかった。
飯田哲也・環境エネルギー政策研究所長が、保守王国の山口県知事選で、あれだけの得票を集めた。原発問題への関心の高さを見せつけた。
少なくとも、脱原発と反対を向いていると思われたら選挙で勝てない。たださえ民主党は次の選挙ではボロボロになると言われているのに、それにトドメを刺してしまうのではないか、という恐怖感が今ものすごい勢いで高まった。
かくて、心にもないことを言い出した(民主党のお家芸)。「原発ゼロにする」と(9月3日)。
(3)これから大きな争点になる可能性があるのは、大飯原発の再停止だ。
節電要請期間は9月7日に終わった。しかも、夏場でも電気が足りることがはっきりわかった。だから、すぐ止めて、もう一回安全性をゼロから全部確認し直すべきだ。使用済み核燃料、核のゴミもちゃんと見通しを立てないと動かすのはダメだ。
ところが、再稼働するときは、「この基準は暫定的なものだ」と言っていたのに、8月頃、野田首相は「大飯の再稼働については、安全ということを我々はしっかり確認しました」と言った。始まる前と今では逆になっている。
国会が閉鎖中、政府は9月11日、原子力規制委員会設置法附則第2条を援用し、原子力規制委員会の人事案を閣議決定した。
かくて規制委がスタートし、田中俊一・規制委委員長は言った。「大飯原発に活断層があるということがはっきりしたら運転を止めます」
逆に言えば、活断層があるということが証明されるまでは動かす、という意味だ。
斑目春樹・原子力安全委員会第8代委員長でさえ、「今までの安全基準はデタラメだった」と言った。かつ、仮に動かすとしたら、本当の安全を確認するためにはストレステスト二次評価まで全部やらないと安全だということにはならない、とも言っている。
しかるに、田中委員長は、節電期間が終わっても、活断層があるというハッキリした証拠が出てくるまでは動かす、と言っている。
さらに言えば、活断層があることを断定するのは難しい。大飯の場合、最終的に誰が評価するかによって判定が分かれる可能性がある。ハッキリした証拠にならない可能性がある。
これまでの安全基準は、電力会社の都合に合わせて作られて、保安院がそれにお墨付きを与えたものにすぎなかった。【国会事故調における斑目第8代委員長の証言】
だから、規制委の新委員長は、まず安全基準をゼロから見直す、と言わねばならない。すると、安全基準は、「活断層だったら作ってはいけない」から「活断層の活断層の可能性が極めて低いところにしか作ってはいけない」に変わるはずだ。その場合、大飯はダメとなる。
ところが、田中委員長は、昔の安全基準をベースにして、活断層だと言えないなら止めない、と言っている。
(4)他の原発再稼働の論理
安全基準見直しはじっくり時間をかけてやる、と規制委は言い出す可能性がある。
それまでは従来の安全基準でやる、ということになれば、ほとんどの原発が動き出す可能性がある。
全部動かして、1年か2年か3年か経った頃、安全基準をこのように見直した、と発表するかもしれない。その頃には事故の記憶が薄れているだろう、と政府は期待しているのだ。
2~3年経って厳しい安全基準ができても、新基準で全部見直してダメだったら廃炉というバックフィットはできない(今の法律では)。今の法律では、そういうふうにすることも「できる」であって、「しなければならない」とは書かれていない。
すると、昔政府がこれでよいと言ったのだから、その基準を後から変えるのは財産権の侵害だ、とか言って、「ではなるべく早く適合させるように、10年以内に」とかいう条件で結局動かすことになる可能性がかなりある。
以上、古賀茂明「既存政党が掲げ始めた「原発ゼロ」は、どこまで嘘なのか?」(「SIGHT」2012年秋号)に拠る。
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