語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【尖閣】内田樹×高橋源一郎の領土問題・考 ~国内問題~

2012年10月23日 | 社会
 (1)領土問題について、マスメディアは報じないのが一番いい。

 (2)戦中派は、領土問題の話になると、「千島でも尖閣でもあげちゃえばいい」と言う。「あれだけひどいことをしたんだから、全部あげればいい」と。
 戦中派は意外にそうなのだ。だから、領土問題を起こしているのは、戦後の2代目だ。親の財産を食いつぶしている奴らが。

 (3)領土問題についてマスメディアが報道しないことが2つある。(a)戦争。(b)外交交渉。
 (b)は、基本的に「五分五分の痛み分け」だ。両方の国民が共に等量の不満を感じる。だが、それができるのは、両国の統治者が、政権基盤が極めて安定していて、圧倒的な国民的な支持がある場合に限られる。そういう強い政治化しか外交交渉での譲歩はできないから、力のない政治化には外交はできない。譲歩したとたんに引きずり下ろされるから。
 もう一つの解決方法である(a)という選択肢は、今回の場合もあり得ない。竹島も尖閣も。外交交渉ができない人間に、戦争ができるわけない。戦争は、「どう始めるか」でjはなく、「どう終わらせるか」がカンどころなのだから。外交的譲歩ができない人間に、戦争を終わらせる手立てがあるはずがない。
 2004年に胡錦濤とプーチンが中露国境を確定させた。その時点では両者とも国内を完全に掌握していたからだ。
 今、領土問題が炎上しているのは、日本側にも中国・韓国側にも外交的譲歩ができる強い政治家がいないからだ。
 中国も、ナショナリストがあれだけ跳ね上がるのは、中央の統率力が落ちているからだ。
 韓国も、李明博大統領の支持率が2割くらいに落ちていたのが、竹島上陸で何ポイントか上がった。そういう政権末期のパフォーマンスだ。日韓関係をあれだけ悪くして、自分の支持率を4ポイント上げても差し引き勘定は合わない。
 周恩来の「戦時賠償を放棄する」(日中共同声明、1972年)も、小平の「領土問題は棚上げする」(1978年)宣言も、どちらも安定した政権基盤がある政治家にしか言えない。
 李明博、胡錦濤、野田佳彦では、その点に無理がある。外交交渉の当事者たちが誰も「譲歩カード」を引く力がないから、チキンレースで突っ走るしかない。だから、領土問題は国内問題なのだ。

 (4)尖閣諸島を問題にしているのは、香港の活動家だ。彼らは、前には共産党批判をやっていた。中国で何か話題があると、ワーッと行く人たち、ということでよく知られている。
 反日運動で騒がれるのは、中国政府にとってもおいしくない。騒ぐのは格差が広がっている地域、政府に対するフラストレーションが溜まっている地域だから、中国政府としては抑えたい。

 (5)こんなところで反日の気運が盛り上がるのは困る、というのが中国政府の思惑だったが、野田政権になってから変わった。野田政権が対中国、対韓国へのツメの甘さで、外交的なバグを出し始めた。バグが出れば、向こうも対応せざるを得ない。そういう循環が始まった。
 石原慎太郎がいけない。尖閣が問題化したのは、石原が変なことを言い出してからだ。地権者から土地を買うと言い出して、中国も何か行動せざるを得ない。石原は、どれくらい日本の国益を損なっているのか、自覚しているのだろうか。
 小平は外交的に譲歩して「領土問題は棚上げ」した(1978年)。にもかかわらず日本はその信頼を裏切った、ということになる。
 領土に固有性はない。それは政治的幻想だ。
 中国も、領土問題でインドと揉め、ロシアともめ、今ではフィリピンとベトナムと日本でもめている。「固有の領土」というのが存在しないから、こういうことになるのだ。そういう無用の摩擦が起こるのは、要は中国国内の統治の問題なのだ。

 (6)マスメディアは報道しないが、北方領土も竹島も尖閣も、全部ステークホルダーは3国だ。当該国プラス米国。米国は、北方領土も竹島も尖閣も、日本をめぐる領土問題が解決しないことを求めている。当事者が3ヵ国いる問題を2ヵ国交渉でやっているのだから、まとまるはずがない。まして、「出席しないステークホルダー」が問題を解決しないことを求めているのだから。
 米国は、日中、日韓、日台がいずれも軍事衝突に至らない程度に対立していてい、相互に不信感を抱いていて、信頼関係を築いて同盟ができない程度にしておきたい。東アジア共同体ができて、米軍基地が東アジアから撤退を要求されるのが、米国にとって「最悪のシナリオ」だ。だから、領土問題が恒にくすぶっているのは、米国の西太平洋戦略上歓迎すべき条件なのだ。だから、領土問題解決のために米国が力を貸すことはあり得ない。
 国内問題として解決するわけがないし、解決を米国が望んでいない。よって、領土問題は解決しない。

 (7)竹島と尖閣では若干違うが、ごく簡単に言うと、どちらの言い分にも理がある。
  (a)「先占の法理」・・・・「先占の法理」を特に日本が言っているが、「先占の法理」自体おかしい。これは帝国主義時代になってからできた論理で、これ自体盗人たけだけしい論理だ。例えば、ネイティブ・アメリカンが住んでいるところを「先占の法理」で国の領土だと宣言して、植民地にできる。「先占の法理」を主張できるのは国家だけで、国家を持っていない民族は、それより昔から住んでいても権利がない。メチャクチャな話だ。
  国民国家という概念は、17世紀のウェストファリア条約からのものだ。そんな近代的な概念で4,000年前からの土地の問題を決めよう、というのは土台無理な話だ。
  昔からどちらが支配していきたか、という話になると、両方でどんどん記録を出してくる。中国が『魏志倭人伝』を出してきたら、どうする気かね? 親魏倭王は朝貢し、魏の皇帝の地方長官に冊封されている。中国が、邪馬台国をお返し願いたい、と言ってきたらどうする?

  (b)条約問題・・・・尖閣問題だと日清講和条約、竹島問題だと日韓併合条約。「脅迫されてサインした」と一方が言い、他方が「でも契約書にあんたのサインが残っている」という争いだ。条約締結時に何があったかが問題になってくる、という歴史の問題だ。例えば、日韓併合条約は、実質的に頭にピストルを突きつけられて韓国がサインしたようなものだ。

  (c)米国の問題・・・・米国が竹島や尖閣をどこの領土と認識しているか、分からない。日中韓が勝手にやってくれ、という。もめた状態に置いて、解決しないほうが米国にとって利益が大きい。

 内田樹×高橋源一郎「領土問題は国内問題である」(「SIGHT」2012年秋号)に拠る。

 【参考】
【尖閣】諸島「領有化」の歴史と法理 ~琉球の実効支配~
【尖閣】諸島「領有化」の歴史と法理 ~日清戦争・十五年戦争~
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