主よ 秋です 夏は偉大でした
あなたの陰影(かげ)を日時計のうえにお置き下さい
そして平野に風をお放ち下さい
最後の果実にみちることを命じ
彼等になお二日ばかり 南国の日ざしをお与え下さい
彼等をうながして円熟させ 最後の
甘い汁を重たい葡萄の房にお入れ下さい
いま 家のない者は もはや家を建てることはありません
いま 孤りでいる者は 永く孤独にとどまるでしょう
夜も眠られず 書を読み 長い手紙を書くでしょう
そして並木道を あちらこちら
落着きもなくさまよっているでしょう 落葉が舞い散るときに
Herbsttag
Herr: es ist Zeit. Der Sommer war sehr groß.
Leg deinen Schatten auf die Sonnenuhren,
und auf den Fluren laß die Winde los.
Befiehl den letzten Früchten voll zu sein;
gib ihnen noch zwei südlichere Tage
dränge sie zur Vollendung hin und jage
die letzte Süße in den schweren Wein.
Wer jetzt kein Haus hat, baut sich keines mehr.
Wer jetzt allein ist, wird es lange bleiben,
wird wachen, lesen, lange Briefe schreiben
und wird in den Alleen hin und her
unruhig wandern, wenn die Blätter treiben.
□ライナー・マリア・リルケ(富士川英郎・訳)「秋の日」(『リルケ詩集』(新潮文庫、1963))
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【参考】
「【詩歌】リルケ「秋」」
ウィーン、マリア・テレジア広場のクリスマス・マーケットにて
あなたの陰影(かげ)を日時計のうえにお置き下さい
そして平野に風をお放ち下さい
最後の果実にみちることを命じ
彼等になお二日ばかり 南国の日ざしをお与え下さい
彼等をうながして円熟させ 最後の
甘い汁を重たい葡萄の房にお入れ下さい
いま 家のない者は もはや家を建てることはありません
いま 孤りでいる者は 永く孤独にとどまるでしょう
夜も眠られず 書を読み 長い手紙を書くでしょう
そして並木道を あちらこちら
落着きもなくさまよっているでしょう 落葉が舞い散るときに
Herbsttag
Herr: es ist Zeit. Der Sommer war sehr groß.
Leg deinen Schatten auf die Sonnenuhren,
und auf den Fluren laß die Winde los.
Befiehl den letzten Früchten voll zu sein;
gib ihnen noch zwei südlichere Tage
dränge sie zur Vollendung hin und jage
die letzte Süße in den schweren Wein.
Wer jetzt kein Haus hat, baut sich keines mehr.
Wer jetzt allein ist, wird es lange bleiben,
wird wachen, lesen, lange Briefe schreiben
und wird in den Alleen hin und her
unruhig wandern, wenn die Blätter treiben.
□ライナー・マリア・リルケ(富士川英郎・訳)「秋の日」(『リルケ詩集』(新潮文庫、1963))
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【参考】
「【詩歌】リルケ「秋」」
ウィーン、マリア・テレジア広場のクリスマス・マーケットにて
(1)2015年11月13日、パリの7か所で起きた同時多発テロは、129人の死者【注】と350人以上の重軽傷者を出した。
オランド大統領は、即座に「国内非常事態」を宣言、同攻撃を「戦争行為」と表現し、15日にシリア領内の「イスラム国」(ISIL)拠点への大規模攻撃を開始した。
(2)昨今起きた事件の数々と同じように、今回もテロ実行犯たちが現場にしっかりと身分証明書(パスポート)を残したこと、テロが公式攻撃演習のタイミングと一致していたこと、そもそものISILが生まれた経緯などは、欧米では一切追求されていない。
代わりに大国のリーダーたちは、次々に「対テロ戦争強化」を高らかに宣言、日本では与党幹事長がテロ対策としての「共謀罪」の必要性に言及し、外務省はテロに詳しい非常勤スタッフの募集をかけた。
だが、いったい、なぜ?
SNSのページに、フランス国旗を貼り付けることで追悼の意を表明するたくさんの人びとは首をかしげる。
なぜ、大国の軍事力をもってしてもISILのテロはなくならないのだろうか?
どうしたら、悲劇の連鎖を止められるのか?
(3)「対テロ戦争予算」は莫大だ。
米国国防総省のデータによると、2014年8月から始まった「対ISIL措置」に要した費用は5億ドル(2015年10月現在)、1日1,100万ドルの税金が費消されている。
一方、世界武器輸出ランキング4位のフランス軍需産業の武器受注額(2015年)は、2014年の倍額の150億ユーロ(2兆円)だ。中東テロ特需の恩恵は米校に負けていない。
だが、これらの国々のマスコミが「対テロ防止措置」とソフトに表現する16,000回超の空爆の実態は、シリアとイラクに対する明らかな戦闘行為だ。緊急会見の席でパリのテロ事件を「ISILによる戦争」と呼んだオランド大統領にとって、事件直前のフランス軍によるシリア空爆は、まったく別のものと言えるか。
(4)何十万人ものシリア国民と何百万人ものイラク国民が犠牲になる一方、肝心のISILによるテロは減るどころか拡大を続けている。
これについて、スタンレー・ヘラー・米国中東危機管理実行委員会会長はいう。
「ISILのテロを止めるために米国民ができる最大のことは、米国政府にサウジアラビアへの武器輸出を止めるよう自国政府に要請することだ」
ISILを支援するサウジアラビア、カタール、トルコの組織を通してテロリストの手に渡る武器は米国製だけではない。武器輸出大国フランスからも支援国や武器商人を介して流れ、ISILの勢力をますます強化している。
(5)トルコで開かれたG20の席でオバマ大統領はISILに対する対テロ戦争への一致団結を呼びかけた。
一つはっきりしていることは、終わりのない<対テロ戦争>が確実に大国の軍産複合体を潤わせ続けることだ。
パリのテロ事件を受けて、ノースロップ・グラマン社、ロッキード・マーチン社、レイセオン社など軍需産業の株価は軒並み急上昇している。
私たちは、今こそ熟考すべきだろう。
いったいテロリストとは誰なのか?
“テロリスト”を生み、育てている力と、情緒的な報道で麻痺させられた国民の想像力について、安保体制で弾みがついた国策としての武器産業強化が、日本国内の軍需産業と警備関連産業にいま、近未来への勝算と、熱い期待を抱かせていることの意味を。
【注】その後132人に増加。負傷者の中には重体の者もいるから、死者は今後増加すると見られる。
□堤未果「対テロ戦争の拡大でいちばん潤うのは大国の産軍複合体だ ~ジャーナリストの目 第276回~」(「週刊現代」2015年12月12日号)
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【参考(1)】
「【中東】フランスの「政権転覆」工作が生んだ難民とテロ ~シリア~」
「【中東】米国の「政権転覆」工作が生んだ難民 ~シリア~」
「【中東】「イスラム国」打倒か「アサド政権打倒」か ~フランスのジレンマ~」
「【欧州】難民流入急増で揺れる欧州の世論と基本理念」
「【佐藤優】異なるパラダイムが同時進行 ~激変する国際秩序~」
「【佐藤優】シリアで始まったグレート・ゲーム ~「疑わしきは殺す」~」
【参考(2)】
「【堤未果】【TPP】妥結で日本の農地は海外企業のものになる」
「【堤未果】情報漏洩・巨大利権など不安材料が多数 ~マイナンバー~」
「【堤未果】大衆を好戦ムードへ向かわせたマスコミの大罪」
「【堤未果】【ギリシャ】緊縮財政なのに軍事予算を削減できない理由
「【堤未果】地方の介護現場を完全に無視 ~高齢者の「移住」提言~」
「【堤未果】本当に患者のためか疑問 ~国民健康保険法の改正~」
「【堤未果】サービス残業は絶対なくならない ~残業代ゼロ法案~」
「【堤未果】医師不足に拍車をかける国家戦略特区」
「【堤未果】「イスラム国」掃討と膨れあがる米の軍事費 ~いつか来た道~」
「【堤未果】格差大国アメリカの後を追う日本 ~金融緩和と年金改革~」
「【堤未果】米国社会の変質 ~ミズーリ州の武装警察~」
「【米国】国民皆保険という美名の裏で大増税開始 ~オバマケア~」
「【食】中国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に」
「【堤未果】「水道の民営化」が招く社会インフラ大崩壊 ~価格高騰に水質低下~」
「【堤未果】「社会保障のための増税」のウソ ~来るべき医療崩壊~」
「【堤未果】世界が危惧する日本のジャーナリズム ~「監視大国」米国以下~」
「【堤未果】アベノミクスと米国経済の危うい共通点」
「【食】中国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に」
「【政治】国家戦略特区法の危険性」
「【米国】と日本における民営化の悲惨 ~株式会社化する国家~ 」
オランド大統領は、即座に「国内非常事態」を宣言、同攻撃を「戦争行為」と表現し、15日にシリア領内の「イスラム国」(ISIL)拠点への大規模攻撃を開始した。
(2)昨今起きた事件の数々と同じように、今回もテロ実行犯たちが現場にしっかりと身分証明書(パスポート)を残したこと、テロが公式攻撃演習のタイミングと一致していたこと、そもそものISILが生まれた経緯などは、欧米では一切追求されていない。
代わりに大国のリーダーたちは、次々に「対テロ戦争強化」を高らかに宣言、日本では与党幹事長がテロ対策としての「共謀罪」の必要性に言及し、外務省はテロに詳しい非常勤スタッフの募集をかけた。
だが、いったい、なぜ?
SNSのページに、フランス国旗を貼り付けることで追悼の意を表明するたくさんの人びとは首をかしげる。
なぜ、大国の軍事力をもってしてもISILのテロはなくならないのだろうか?
どうしたら、悲劇の連鎖を止められるのか?
(3)「対テロ戦争予算」は莫大だ。
米国国防総省のデータによると、2014年8月から始まった「対ISIL措置」に要した費用は5億ドル(2015年10月現在)、1日1,100万ドルの税金が費消されている。
一方、世界武器輸出ランキング4位のフランス軍需産業の武器受注額(2015年)は、2014年の倍額の150億ユーロ(2兆円)だ。中東テロ特需の恩恵は米校に負けていない。
だが、これらの国々のマスコミが「対テロ防止措置」とソフトに表現する16,000回超の空爆の実態は、シリアとイラクに対する明らかな戦闘行為だ。緊急会見の席でパリのテロ事件を「ISILによる戦争」と呼んだオランド大統領にとって、事件直前のフランス軍によるシリア空爆は、まったく別のものと言えるか。
(4)何十万人ものシリア国民と何百万人ものイラク国民が犠牲になる一方、肝心のISILによるテロは減るどころか拡大を続けている。
これについて、スタンレー・ヘラー・米国中東危機管理実行委員会会長はいう。
「ISILのテロを止めるために米国民ができる最大のことは、米国政府にサウジアラビアへの武器輸出を止めるよう自国政府に要請することだ」
ISILを支援するサウジアラビア、カタール、トルコの組織を通してテロリストの手に渡る武器は米国製だけではない。武器輸出大国フランスからも支援国や武器商人を介して流れ、ISILの勢力をますます強化している。
(5)トルコで開かれたG20の席でオバマ大統領はISILに対する対テロ戦争への一致団結を呼びかけた。
一つはっきりしていることは、終わりのない<対テロ戦争>が確実に大国の軍産複合体を潤わせ続けることだ。
パリのテロ事件を受けて、ノースロップ・グラマン社、ロッキード・マーチン社、レイセオン社など軍需産業の株価は軒並み急上昇している。
私たちは、今こそ熟考すべきだろう。
いったいテロリストとは誰なのか?
“テロリスト”を生み、育てている力と、情緒的な報道で麻痺させられた国民の想像力について、安保体制で弾みがついた国策としての武器産業強化が、日本国内の軍需産業と警備関連産業にいま、近未来への勝算と、熱い期待を抱かせていることの意味を。
【注】その後132人に増加。負傷者の中には重体の者もいるから、死者は今後増加すると見られる。
□堤未果「対テロ戦争の拡大でいちばん潤うのは大国の産軍複合体だ ~ジャーナリストの目 第276回~」(「週刊現代」2015年12月12日号)
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【参考(1)】
「【中東】フランスの「政権転覆」工作が生んだ難民とテロ ~シリア~」
「【中東】米国の「政権転覆」工作が生んだ難民 ~シリア~」
「【中東】「イスラム国」打倒か「アサド政権打倒」か ~フランスのジレンマ~」
「【欧州】難民流入急増で揺れる欧州の世論と基本理念」
「【佐藤優】異なるパラダイムが同時進行 ~激変する国際秩序~」
「【佐藤優】シリアで始まったグレート・ゲーム ~「疑わしきは殺す」~」
【参考(2)】
「【堤未果】【TPP】妥結で日本の農地は海外企業のものになる」
「【堤未果】情報漏洩・巨大利権など不安材料が多数 ~マイナンバー~」
「【堤未果】大衆を好戦ムードへ向かわせたマスコミの大罪」
「【堤未果】【ギリシャ】緊縮財政なのに軍事予算を削減できない理由
「【堤未果】地方の介護現場を完全に無視 ~高齢者の「移住」提言~」
「【堤未果】本当に患者のためか疑問 ~国民健康保険法の改正~」
「【堤未果】サービス残業は絶対なくならない ~残業代ゼロ法案~」
「【堤未果】医師不足に拍車をかける国家戦略特区」
「【堤未果】「イスラム国」掃討と膨れあがる米の軍事費 ~いつか来た道~」
「【堤未果】格差大国アメリカの後を追う日本 ~金融緩和と年金改革~」
「【堤未果】米国社会の変質 ~ミズーリ州の武装警察~」
「【米国】国民皆保険という美名の裏で大増税開始 ~オバマケア~」
「【食】中国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に」
「【堤未果】「水道の民営化」が招く社会インフラ大崩壊 ~価格高騰に水質低下~」
「【堤未果】「社会保障のための増税」のウソ ~来るべき医療崩壊~」
「【堤未果】世界が危惧する日本のジャーナリズム ~「監視大国」米国以下~」
「【堤未果】アベノミクスと米国経済の危うい共通点」
「【食】中国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に」
「【政治】国家戦略特区法の危険性」
「【米国】と日本における民営化の悲惨 ~株式会社化する国家~ 」
(1)11月14日、パリのテロ事件は、この惨劇の前からフランスを始めとする「西側諸国の誤った方針」を指摘する声が存在していた。
難民の根源は、米国の「政権転覆」工作だと指摘するフィニアン・カニングハム・国際問題ジャーナリスト(英国)【注】は、事件の12日前に、「フランスは十分な証拠が示すように、アサド大統領を追放するためシリアの内戦を助長し、火に油を注いできた。英国およびフランスは、中東支配の野望に駆られた米国主導の無法なアサド政権転覆工作を後押しするのに熱心なのだ」と批判している。
(2)2001年に始まったシリア内戦で25万人の死者がもたらされ、国民の半数近くが難民になる惨状となった原因の一端が、フランス自身が加担している「政権転覆工作」であることは疑いない。
その外部からの「工作」は、早い段階から開始されている。
(3)最初にその実態を曝露した報道の一つが、米「ニューヨーク・タイムズ」紙(電子版)2013年3月24日付け「CIAの協力でシリア反乱勢力への武器空輸が拡大」なる記事だった。それによれば、
(a)2012年初頭からサウジアラビアとカタールが中心となって、大量の武器を購入し、軍用機でトルコとヨルダンの空港に輸送した。
(b)それらの武器はシリアに流入したが、CIAが購入と空輸の調整にあたった。
(4)オバマ政権は、2012年初頭に、シリアの反乱勢力がアルカイダや「サラフィー主義者」(スンニ派過激勢力)に率いられてる事実を把握していた。
しかし、2012年10月、カダフィ政権崩壊後に無政府状態となったリビアのベンガジから、「ライフルやロケット弾、榴弾砲」等の大量の武器が船で運ばれ、シリアのこうした勢力に引き渡されたのを黙認した。
この会場輸送を実行したのは、ベンガジ駐在のCIAと、アルカイダ系の「リビア・イスラム戦闘集団」だった、とされる。
すでにシリア内戦当初から現在まで、米国は2001年以降の「対テロ戦争」で敵としたアルカイダやその流れを汲む「テロリスト」をアサド政権転覆のために何らかの形で支援してきたのは疑いない。
フランスもこれに加担し、「イスラム国」はそうした「テロリスト」から生まれ、ヌスラ戦線(「シリアのアルカイダ」)とともに、内戦で勢力を拡大してきた。
(5)米国はこれまで、シリア国内の「穏健派」とされる反政府勢力に対して武器を供与したり、トルコやヨルダンで軍事訓練を施した事実を認めている。
だが、2015年9月16日に開かれた上院公聴会で、ロイド・オースティン・米中央軍司令官は、「5,000人のISと戦う戦士を訓練したが、残ったのは4~5人だ」とし、それ以外は「イスラム国」やヌスラ戦線などに合流した事実を認めた。その結果、米国がサウジアラビアやカタールと協力して供与した反政府勢力への武器の大半が「イスラム過激派に渡っている」(2012年10月14日付け「ニューヨーク・タイムズ」)。
事情h、フランスも同じだ。オランド大統領は、2013年に、シリアの「穏健派」反政府勢力とされ、現在まで大半が「イスラム国」などのイスラム過激派へ合流したとされる「自由シリア軍」への武器供与を認めている。「イスラム国」への支援を間接的に続けているのは間違いない。
(6)しかもフランスは、
(a)米国や英国と同様、2014年9月以降、対ISの空爆を実施したというが、「すべての戦況を変えた」(ジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長)と米軍もその打撃力を認めた9月30日からのロシア軍による空爆が始まるまで、「イスラム国」の拡張を妨げた形跡はない。
(b)フランスはまた、国連の人権委員会で11月10日、かねてから「イスラム国」の最大資金供与国とされながら、同委員会の議長国に収まっているサウジアラビア、米国、英国などの同盟国と連名で、ロシアを名指しせずに存在がフタし亜kHOH「穏健派」を攻撃しているといった身勝手な理由で、空爆の即時中止を求める決議を提出している。
(c)さらに奇妙なのは、米英仏が同じNATO加盟国で、シリア北部と国境を接するトルコが、「イスラム国」の最大の後方支援基地を提供している事実に一切口をつぐんでいる点だ。
(7)ドイツの国際放送ドイチェ・ヴェレが2014年11月に放映した「ISの支援経路はトルコを経由」なるドキュメンタリーは、「イスラム国」がトルコからシリアへ越境攻撃し、「イスラム国」の補給を担うトラック部隊がトルコ国境に続々集結している事実を暴露した。
トルコと密接な軍事協力関係を有している米仏がこの事実を知らないはずはない。共通目的のアサド政権転覆のためなら、「イスラム国」をも利用しようとする魂胆が見え見えだ。
(8)オランド大統領は、「テロ事件」直後、米国と共に対ISとの「戦争」を強化する、と息巻いている。
しかし、
(a)違法なアサド政権転覆工作を続けるのか。
(b)かりに「イスラム国」を倒しても、ヌスラ戦線といったイスラム過激派をどう扱うのか。
(c)トルコが提供するIS補給網はどうするのか。
・・・・といった肝心の点は、この後に及んでも不明のまま。ありのまま。
これでは軍事介入にのめり込んでも、内戦が泥沼化するだけだ。
(9)野党共和党からは、「対ISの共同戦線を作るなら、シリア政府と和解すべきだ」といった政策転換を求める声も出ているが、その兆しはない。
結局、フランスのやったことは、一国の政権を「テロリスト」も含む外部勢力を使って転覆する間接侵略に手を染め、内戦を極度に悪化させて膨大な難民を海、ISという怪物が出現するような無秩序をもたらしただけではないか。
その挙げ句、当の怪物によって犠牲者が出たと涙するのであれば、誰の命にも差はない以上、自国が深刻な責任の一端を負う25万人のシリア国民の死にも思いを馳せる道義的責務があろう。それが果たせないなら、フランスは永遠に欺瞞という誹りを免れまい。
【注】「【中東】米国の「政権転覆」工作が生んだ難民 ~シリア~」
□成澤宗男「フランスの罪深き欺瞞 ~テロと同様に「政権転覆」も許されない」(「週刊金曜日」2015年11月27日号)
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【参考】
「【中東】米国の「政権転覆」工作が生んだ難民 ~シリア~」
「【中東】「イスラム国」打倒か「アサド政権打倒」か ~フランスのジレンマ~」
「【欧州】難民流入急増で揺れる欧州の世論と基本理念」
「【佐藤優】異なるパラダイムが同時進行 ~激変する国際秩序~」
「【佐藤優】シリアで始まったグレート・ゲーム ~「疑わしきは殺す」~」
難民の根源は、米国の「政権転覆」工作だと指摘するフィニアン・カニングハム・国際問題ジャーナリスト(英国)【注】は、事件の12日前に、「フランスは十分な証拠が示すように、アサド大統領を追放するためシリアの内戦を助長し、火に油を注いできた。英国およびフランスは、中東支配の野望に駆られた米国主導の無法なアサド政権転覆工作を後押しするのに熱心なのだ」と批判している。
(2)2001年に始まったシリア内戦で25万人の死者がもたらされ、国民の半数近くが難民になる惨状となった原因の一端が、フランス自身が加担している「政権転覆工作」であることは疑いない。
その外部からの「工作」は、早い段階から開始されている。
(3)最初にその実態を曝露した報道の一つが、米「ニューヨーク・タイムズ」紙(電子版)2013年3月24日付け「CIAの協力でシリア反乱勢力への武器空輸が拡大」なる記事だった。それによれば、
(a)2012年初頭からサウジアラビアとカタールが中心となって、大量の武器を購入し、軍用機でトルコとヨルダンの空港に輸送した。
(b)それらの武器はシリアに流入したが、CIAが購入と空輸の調整にあたった。
(4)オバマ政権は、2012年初頭に、シリアの反乱勢力がアルカイダや「サラフィー主義者」(スンニ派過激勢力)に率いられてる事実を把握していた。
しかし、2012年10月、カダフィ政権崩壊後に無政府状態となったリビアのベンガジから、「ライフルやロケット弾、榴弾砲」等の大量の武器が船で運ばれ、シリアのこうした勢力に引き渡されたのを黙認した。
この会場輸送を実行したのは、ベンガジ駐在のCIAと、アルカイダ系の「リビア・イスラム戦闘集団」だった、とされる。
すでにシリア内戦当初から現在まで、米国は2001年以降の「対テロ戦争」で敵としたアルカイダやその流れを汲む「テロリスト」をアサド政権転覆のために何らかの形で支援してきたのは疑いない。
フランスもこれに加担し、「イスラム国」はそうした「テロリスト」から生まれ、ヌスラ戦線(「シリアのアルカイダ」)とともに、内戦で勢力を拡大してきた。
(5)米国はこれまで、シリア国内の「穏健派」とされる反政府勢力に対して武器を供与したり、トルコやヨルダンで軍事訓練を施した事実を認めている。
だが、2015年9月16日に開かれた上院公聴会で、ロイド・オースティン・米中央軍司令官は、「5,000人のISと戦う戦士を訓練したが、残ったのは4~5人だ」とし、それ以外は「イスラム国」やヌスラ戦線などに合流した事実を認めた。その結果、米国がサウジアラビアやカタールと協力して供与した反政府勢力への武器の大半が「イスラム過激派に渡っている」(2012年10月14日付け「ニューヨーク・タイムズ」)。
事情h、フランスも同じだ。オランド大統領は、2013年に、シリアの「穏健派」反政府勢力とされ、現在まで大半が「イスラム国」などのイスラム過激派へ合流したとされる「自由シリア軍」への武器供与を認めている。「イスラム国」への支援を間接的に続けているのは間違いない。
(6)しかもフランスは、
(a)米国や英国と同様、2014年9月以降、対ISの空爆を実施したというが、「すべての戦況を変えた」(ジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長)と米軍もその打撃力を認めた9月30日からのロシア軍による空爆が始まるまで、「イスラム国」の拡張を妨げた形跡はない。
(b)フランスはまた、国連の人権委員会で11月10日、かねてから「イスラム国」の最大資金供与国とされながら、同委員会の議長国に収まっているサウジアラビア、米国、英国などの同盟国と連名で、ロシアを名指しせずに存在がフタし亜kHOH「穏健派」を攻撃しているといった身勝手な理由で、空爆の即時中止を求める決議を提出している。
(c)さらに奇妙なのは、米英仏が同じNATO加盟国で、シリア北部と国境を接するトルコが、「イスラム国」の最大の後方支援基地を提供している事実に一切口をつぐんでいる点だ。
(7)ドイツの国際放送ドイチェ・ヴェレが2014年11月に放映した「ISの支援経路はトルコを経由」なるドキュメンタリーは、「イスラム国」がトルコからシリアへ越境攻撃し、「イスラム国」の補給を担うトラック部隊がトルコ国境に続々集結している事実を暴露した。
トルコと密接な軍事協力関係を有している米仏がこの事実を知らないはずはない。共通目的のアサド政権転覆のためなら、「イスラム国」をも利用しようとする魂胆が見え見えだ。
(8)オランド大統領は、「テロ事件」直後、米国と共に対ISとの「戦争」を強化する、と息巻いている。
しかし、
(a)違法なアサド政権転覆工作を続けるのか。
(b)かりに「イスラム国」を倒しても、ヌスラ戦線といったイスラム過激派をどう扱うのか。
(c)トルコが提供するIS補給網はどうするのか。
・・・・といった肝心の点は、この後に及んでも不明のまま。ありのまま。
これでは軍事介入にのめり込んでも、内戦が泥沼化するだけだ。
(9)野党共和党からは、「対ISの共同戦線を作るなら、シリア政府と和解すべきだ」といった政策転換を求める声も出ているが、その兆しはない。
結局、フランスのやったことは、一国の政権を「テロリスト」も含む外部勢力を使って転覆する間接侵略に手を染め、内戦を極度に悪化させて膨大な難民を海、ISという怪物が出現するような無秩序をもたらしただけではないか。
その挙げ句、当の怪物によって犠牲者が出たと涙するのであれば、誰の命にも差はない以上、自国が深刻な責任の一端を負う25万人のシリア国民の死にも思いを馳せる道義的責務があろう。それが果たせないなら、フランスは永遠に欺瞞という誹りを免れまい。
【注】「【中東】米国の「政権転覆」工作が生んだ難民 ~シリア~」
□成澤宗男「フランスの罪深き欺瞞 ~テロと同様に「政権転覆」も許されない」(「週刊金曜日」2015年11月27日号)
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【参考】
「【中東】米国の「政権転覆」工作が生んだ難民 ~シリア~」
「【中東】「イスラム国」打倒か「アサド政権打倒」か ~フランスのジレンマ~」
「【欧州】難民流入急増で揺れる欧州の世論と基本理念」
「【佐藤優】異なるパラダイムが同時進行 ~激変する国際秩序~」
「【佐藤優】シリアで始まったグレート・ゲーム ~「疑わしきは殺す」~」