語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】リルケ「レダ」

2015年12月06日 | 詩歌
 神が思いあまって白鳥のなかへ入ったとき
 彼は白鳥の美しいことにほとんど愕然としながら
 まったく狼狽してその中に姿を消した
 だが このまだ経験したことのない存在の感触を

 試すひまもなく 既にその偽りの姿が
 彼を行為へと導いたのだった そしてあけひろげのレダは
 白鳥となって近づいてくる者を知り
 一つのものを彼が求めていたことを悟っていた

 それを彼女は狼狽(あわて)て抵抗しながらも
 もはや隠すことができなかったのだ 神は蔽いかぶさり
 次第に力のぬけてゆく彼女の手の間から頚をさしのべながら

 ついに愛するひとのなかへ辷(すべ)りこんだ
 それから はじめて自分の羽をうれしく思い
 彼女のひざのなかでほんとうに白鳥となったのだった


 Leda

 Als ihn der Gott in seiner Not betrat,
 erschrak er fast den Schwan so schön zu finden;
 er ließ sich ganz verwirrt in ihm verschwinden.
 Schon aber trug ihn sein Betrug zur Tat,

 bevor er noch des unerprobten Seins
 Gefühle prüfte. Und die Aufgetane
 erkannte schon den Kommenden im Schwane
 und wußte schon: er bat um Eins,

 das sie, verwirrt in ihrem Widerstand,
 nicht mehr verbergen konnte. Er kam nieder
 und halsend durch die immer schwächre Hand

 ließ sich der Gott in die Geliebte los.
 Dann erst empfand er glücklich sein Gefieder
 und wurde wirklich Schwan in ihrem Schooß.

□ライナー・マリア・リルケ(富士川英郎・訳)「レダ」(『リルケ詩集』(新潮文庫、1963))
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 【参考】
【詩歌】リルケ「タナグラ人形」
【詩歌】リルケ「豹」
【詩歌】リルケ「秋の日」
【詩歌】リルケ「秋」


【佐藤優】『日本でテロが起きる日』まえがきと目次 ~日本でテロ(1)~

2015年12月06日 | ●佐藤優
  
 
●まえがき
 佐藤優は、職業作家になってから2015年でちょうど10年になる。対談本も含めれば200冊を超す本を出したが、まだ書きたいことの2割しか満たしていない。いま55歳。執筆に専念するため、講演や勉強会講師の要請はほとんど断っている。例外が、内外情勢調査会における講演だ。その7本の講演をまとめ、注を加えたのが本書だ。すなわち、
 (1)日本でテロが起きる日 → 本の総タイトルに
 (2)安倍外交と集団的自衛権 --7・1閣議決定の意味
 (3)沖縄が日本の将来を握る --民族問題と国家統合
 (4)むき出しの「新帝国主義」 --ウクライナ情勢
 (5)世界をゆるがす「イスラム国」 --狙いは世界イスラム革命
 (6)ロシア・プーチンは何を狙っているか --核不拡散体制、韓国が握る鍵
 (7)覇権なき世界のゆくえ

 ちなみに、
 <一般社団法人内外情勢調査会は、公正な世論の醸成を目的に、報道機関の株式会社時事通信社の関連団体として、1954年12月に設立されました。
 全国各地の企業経営者や諸団体のトップらが会員として入会し、会員への講演活動や資料提供により、国内外の諸情勢について知識の向上と理解の増進を図っています。
 講演会は、全国の会員を参加対象とする全国懇談会と、全国各地域の会員で構成する151カ所の支部での支部懇談会があり、それぞれ年間10回開催、講演会の年間開催回数は1500回超に上ります。
 講師には、有力政治家、経済団体首脳、海外主要国の駐日大使、国内各地の自治体首長のほか、政治、経済、国際、防衛、文化などさまざまな分野の著名な専門家を招いています>【注】

 【注】「内外情勢調査会とは

□佐藤優『佐藤優の「地政学リスク講座2016」 日本でテロが起きる日』(時事通信出版局、2015)
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 【参考】
【佐藤優】【中東】「スリーパー」はテロの指令を待っている
【佐藤優】東京オリンピックに係るインテリジェンス ~知の武装・抄~
【佐藤優】分析力の鍛錬、事例、実践例 ~知の教室・抄(3)~
【佐藤優】武器としての教養、闘い方、対話の技術 ~知の教室・抄(2)~
【佐藤優】知的技術、情報を拾う・使う、知をビジネスに ~知の教室・抄(1)~
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(2)~
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(1)~
【佐藤優】日本のインテリジェンス機能、必要な貯金額、副業の是非 ~知の教室~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】『佐藤優の実践ゼミ』目次
『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』
 ★『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』目次はこちら
【佐藤優】サハリン・樺太史、酸素魚雷と潜水艦・伊400型、飼い猫の数
【佐藤優】第2次世界大戦、日ソ戦の悲惨 ~知を磨く読書~
【佐藤優】すべては国益のため--冷徹な「計算」 ~プーチン~
【佐藤優】安倍政権、沖縄へ警視庁機動隊投入 ~ソ連の手口と酷似~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】冷静な分析と憂国の情、ドストエフスキーの闇、最良のネコ入門書
【佐藤優】「クルド人」がトルコに怒る理由 ~日本でも衝突~
【佐藤優】異なるパラダイムが同時進行 ~激変する国際秩序~
【佐藤優】被虐待児の自立、ほんとうの法華経、外務官僚の反知性主義
【佐藤優】日本人が苦手な類比的思考 ~昭和史(10)~
【佐藤優】地政学の目で中国を読む ~昭和史(9)~
【佐藤優】これから重要なのは地政学と未来学 ~昭和史(8)~
【佐藤優】近代戦は個人の能力よりチーム力 ~昭和史(7)~
【佐藤優】戦略なき組織は敗北も自覚できない ~昭和史(6)~
【佐藤優】人材の枠を狭めると組織は滅ぶ ~昭和史(5)~
【佐藤優】企画、実行、評価を分けろ ~昭和史(4)~
【佐藤優】いざという時ほど基礎的学習が役に立つ ~昭和史(3)~
【佐藤優】現場にツケを回す上司のキーワードは「工夫しろ」 ~昭和史(2)~
【佐藤優】実戦なき組織は官僚化する ~昭和史(1)~
【佐藤優】バチカン教理省神父の告白 ~同性愛~
【佐藤優】進むEUの政治統合、七三一部隊、政治家のお遍路
【佐藤優】【米国】がこれから進むべき道 ~公約撤回~
【佐藤優】同志社大学神学部 私はいかに学び、考え、議論したか」「【佐藤優】プーチンのメッセージ
【佐藤優】ロシア人の受け止め方 ~ノーベル文学賞~
【佐藤優】×池上彰「新・教育論」
【佐藤優】沖縄・日本から分離か、安倍「改憲」を撃つ、親日派のいた英国となぜ開戦
【佐藤優】シリアで始まったグレート・ゲーム ~「疑わしきは殺す」~
【佐藤優】沖縄の自己決定権確立に大貢献 ~翁長国連演説~
【佐藤優】現実の問題を解決する能力 ~知を磨く読書~
【佐藤優】琉球独立宣言、よみがえる民族主義に備えよ、ウクライナ日記
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】ネット右翼の終わり、解釈改憲のからくり、ナチスの戦争
【佐藤優】「学力」の経済学、統計と予言、数学と戦略思考
【佐藤優】聖地で起きた「大事故」 ~イランが怒る理由~
【佐藤優】テロ対策、特高の現実 ~知を磨く読書~
【佐藤優】フランスにイスラム教の政権が生まれたら恐怖 ~『服従』~
【佐藤優】ロシアを怒らせた安倍政権の「外交スタンス」
【佐藤優】コネ社会ロシアに関する備忘録 ~知を磨く読書~
【佐藤優】ロシア、日本との約束を反故 ~対日関係悪化~
【佐藤優】ロシアと提携して中国を索制するカードを失った
【佐藤優】中国政府の「神話」に敗れた日本
【佐藤優】日本外交の無力さが露呈 ~ロシア首相の北方領土訪問~
【佐藤優】「アンテナ」が壊れた官邸と外務省 ~北方領土問題~
【佐藤優】基地への見解違いすぎる ~沖縄と政府の集中協議~
【佐藤優】慌てる政府の稚拙な手法には動じない ~翁長雄志~
【佐藤優】安倍外交に立ちはだかる壁 ~ロシア~
【佐藤優】正しいのはオバマか、ネタニヤフか ~イランの核問題~
【佐藤優】日中を衝突させたい米国の思惑 ~安倍“暴走”内閣(10)~
【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~
【佐藤優】日本に安保法制改正をやらせる米国 ~安倍“暴走”内閣(8)~
【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
【佐藤優】安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本 ~安倍“暴走”内閣(1)~
【佐藤優】ある外務官僚の「嘘」 ~藤崎一郎・元駐米大使~
【佐藤優】自民党の沖縄差別 ~安倍政権の言論弾圧~
【書評】佐藤優『超したたか勉強術』
【佐藤優】脳の記憶容量を大きく変える技術 ~超したたか勉強術(2)~
【佐藤優】表現力と読解力を向上させる技術 ~超したたか勉強術~
【佐藤優】恐ろしい本 ~元少年Aの手記『絶歌』~
【佐藤優】集団的自衛権にオーストラリアが出てくる理由 ~日本経済の軍事化~
【佐藤優】ロシアが警戒する日本とウクライナの「接近」 ~あれかこれか~
【佐藤優】【沖縄】知事訪米を機に変わった米国の「安保マフィア」
【佐藤優】ハワイ州知事の「消極的対応」は本当か? ~沖縄~
【佐藤優】米国をとるかロシアをとるか ~日本の「曖昧戦術」~
【佐藤優】エジプトで「死刑の嵐」が吹き荒れている
【佐藤優】エリートには貧困が見えない ~貧困対策は教育~
【佐藤優】バチカンの果たす「役割」 ~米国・キューバ関係~
【佐藤優】日米安保(2) ~改訂のない適用範囲拡大は無理筋~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】外相の認識を問う ~プーチンからの「シグナル」~
【佐藤優】ヒラリーとオバマの「大きな違い」
【佐藤優】「自殺願望」で片付けるには重すぎる ~ドイツ機墜落~
【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
【佐藤優】戦勝70周年で甦ったソ連の「独裁者」 ~帝国主義の復活~
【佐藤優】明らかになったロシアの新たな「核戦略」 ~ミハイル・ワニン~
【佐藤優】北方領土返還の布石となるか ~鳩山元首相のクリミア訪問~
【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~
【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
【佐藤優】暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~ボリス・ネムツォフ~
【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 


【佐藤優】小泉劇場と「戦後保守」・北方領土、反知性主義を脱構築

2015年12月06日 | ●佐藤優
 ①日本再建イニシアティブ『「戦後保守」は終わったのか』(角川新書 860円)
 ②金恵京『柔らかな海峡 日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル 1,500円)
 ③茂木健一郎『頭は「本の読み方」で磨かれる』(三笠書房 1,300円)
   
 (1)①は、過去70年の日本政治について分析した好著だ。宮城大蔵・上智大学グローバル学部教授は、指摘する。
 <経世会との権力闘争を背景にした「改革」の遂行を至上命題とした小泉政権にとって、世論の支持は不可欠であった。その武器が「小泉劇場」とも評された劇的な政治手法であり、外交は「劇場」の主たる舞台となった。だがそれは、外交に国民の関心を引きつけた半面、日本国内のナショナリズム感情をかき立てる副作用をもたらしたことは否めない>
 その副作用の一つが、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗の3首相の指導下で積極的に進められていた北方領土交渉だ。外交が「小泉劇場」の舞台にならなければ、少なくとも歯舞群島と色丹島の日本への返還は実現され、残る国後島と択捉島についても日露で真摯な交渉が継続されていたはずだ。

 (2)「小泉劇場」の結果生じた日本の政治文化の変化について、②は次のように指摘する。
 <現在、日本で「反知性主義」として問題視されているのは、「自らの直観を正当化するために、従来の知の技法や蓄積を無視する姿勢」である。そのような。日本において一般に反知性主義者とされる人たちの言説を見ていると、先に挙げたような「旧来からある知の枠組みを十分に理解した上で、それを超える」という気概はない。単純に現在定着している結論が「気に入らない」ため、それを論破したような形をとり(あるいは結論を「なかったこと」にし)、自らの主張を声高に叫んでいる。このような姿勢は。「現代日本型反知性主義」ともいえる>
 反知性主義を脱構築することが日本政治の愁眉の課題だ。そのためには、読書の技法を磨く必要がある。

 (3)③は、優れた読書術の指南書だ。茂木氏は、強調する。
 <これは恐ろしい事実なのですが、文章を見ると、その人の頭のよさがわかります。
 「その人らしい独自の言葉を持っている」ということは一つの才能で、世間の常識を離れ、自分でさまざまな経験を重ね、思考を積み上げた結果獲得されるものに他なりません。
 ある一定のレベルのおもしろい情報は発信できるけれど、「これは本当にすごいぞ・・・・」とうなってしまう「プラスα」がない人も多いのです。
 (中略)本当に頭がいい人しかたどり着けない--たくさん考え、苦しみ、悩み抜いた人にしか掛けない文章というものがある>
 確かに論理が明晰であるとともに独自の文体を持った人の本から、知的刺激を受けることが多い。 

□佐藤優「小泉劇場と日本の政治文化 ~知を磨く読書 第1回~」(週刊ダイヤモンド」2015年12月12日号)
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 【参考】
【佐藤優】【中東】「スリーパー」はテロの指令を待っている
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【佐藤優】サハリン・樺太史、酸素魚雷と潜水艦・伊400型、飼い猫の数
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【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
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【言葉】いやだからいやだ

2015年12月06日 | 批評・思想
 

 内田百(百鬼園)が日本芸術院会員に内定したとき、固辞した。その理由をこう述べた。

 「なぜといえばいやだから。なぜいやか、といえば気が進まないから。 なぜ気が進まないかといえばいやだから」

 十代のときにこの話を聞いて偏屈な爺さんだ、と断定した。
 秋霜をいただく今、はっきりと分かる。自分の選択を余人に説明する必要は、まったくないのだ。

 *

 内田百の偏屈ぶりをひとつ。
 狂歌の大家、大田南畝(号:蜀山人)にこんな狂歌がある。

   世の中に人の来るこそうるさけれ
    とはいふもののお前ではなし

 内田百、これをもじって、玄関に掲げたという。

   世の中に人の来るこそうれしけれ
    とはいふもののお前ではなし

 *

●内田百年譜

1889年(明治22年)5月29日
 岡山市古京町の裕福な造り酒屋「志保屋」の一人息子として生まれた。本名は内田栄造。
1905年(16歳)
 父・内田久吉が死去し、実家の志保屋が倒産して困窮することになった。祖母、母と3人で暮らした。第6高等学校に入学し、俳句に熱を上げる。俳号は「百間のちに百」。当時、俳号に数字を入れることが流行っていたらしい。岡山市の北には百間川が流れている。第6高等学校を卒業後は、東京帝国大学文化大学独文科に入学し、東京に転居した。
1911年(22歳)
 療養中の夏目漱石を見舞い門弟となった。
1912年(23歳)
 中学時代の親友堀野寛の妹、堀野清子と結婚。
1914年(25歳)
 東京帝国大学独文科卒業。漱石の所で、後輩の芥川龍之介と親交を深めた。
1916年(27歳)
 陸軍士官学校・ドイツ語教授になった。
1918年(29歳)
 海軍機関学校・ドイツ語学兼務教授となった。(芥川龍之介の推薦による)
1920年(31歳)
 法政大学教授となった。祖母・竹が死去。
1922年(33歳)
 処女作品集『冥土』刊行。1923年(34歳) 陸軍砲工学校教授となった。関東大震災にあう。
1925年(36歳)
 陸軍士官学校・ド゜イツ語教授を止めた。家族と別居。
1929年(40歳)
 東京市牛込区に転居し、佐藤こひと同居。
1933年(44歳)
 『百鬼園随筆』を刊行。ベストセラーとなった。
1936年(47歳)
 長男・久吉(24歳)死去。
1939年(50歳)
 日本郵船の嘱託となった(6年間務めた)。
1945年(56歳)
 東京大空襲で麹町の居宅を焼失した。
1948年(59歳)
 千代田区六番町へ「三畳御殿」ができた。
1950年(61歳)
 大阪へ一泊二日の旅をし、小説『特別阿房列車』を執筆。
1957年(68歳)
 「ノラや」などの随筆を書いた。
1959年(70歳)
 小説新潮に「百鬼園随筆」連載開始し、死の前年まで書いた。
1964年(75歳)
 妻・清子が72歳で死去し、佐藤こひを入籍。1967年(78歳) 芸術院会員に推薦されたが断った。辞退の弁が「イヤダカラ、イヤダ」。
1970年(81歳)
  百鬼園随筆の「猫が口を利いた」が絶筆。
1971年4月20日(81歳)
 東京の自宅で老衰により死去。満81歳でした。 
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