語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】リルケ「ローマの噴水(ボルゲーゼ)」

2015年12月18日 | 詩歌
 古びた まるい大理石の水盤のなかから
 二つの皿が 一つは他の上に聳え
 上の皿から水が静かに流れおちる
 それを待ちうけている下の水は

 静かにつぶやいている上の水に 黙って
 言わば掌をまるめて杯にしたように
 そっと緑の苔と暗い底に映っている青空を
 未知のものであるかのように さし示す

 そして静かに その美しい皿の中で
 何の郷愁もなく 幾重にも波紋を描いて ひろがりながら
 ただ 時おり 夢みてでもいるように 一滴ずつ

 垂れ下っている苔を伝わってしたたりおちる
 移ろってゆくその皿の姿をそっと
 下から微笑ませている最後の水鏡の上に


 Römische Fontäne (Villa Borghese)

 Zwei Becken, eins das andere übersteigend
 aus einem alten runden Marmorrand,
 und aus dem oberen Wasser leis sich neigend
 zum Wasser, welches unten wartend stand,

 dem leise redenden entgegenschweigend
 und heimlich, gleichsam in der hohlen Hand,
 ihm Himmel hinter Grün und Dunkel zeigend
 wie einen unbekannten Gegenstand;

 sich selber ruhig in der schönen Schale
 verbreitend ohne Heimweh, Kreis aus Kreis,
 nur manchmal träumerisch und tropfenweis

 sich niederlassend an den Moosbehängen
 zum letzten Spiegel, der sein Becken leis
 von unten lächeln macht mit Übergängen.

□ライナー・マリア・リルケ(富士川英郎・訳)「ローマの噴水」(『リルケ詩集』(新潮文庫、1963))
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 【参考】
【詩歌】リルケ「別離」
【詩歌】リルケ「レダ」
【詩歌】リルケ「タナグラ人形」
【詩歌】リルケ「豹」
【詩歌】リルケ「秋の日」
【詩歌】リルケ「秋」

【片山善博】政権与党内の議論のまやかし ~消費税軽減税率論議~

2015年12月18日 | ●片山善博
 (1)軽減税率をめぐる政権与党内の議論には、腑に落ちないことがいくつかある。
   単に関係者が勘違いしているか、
   それとも国民やマスコミの目を晦(くら)ますために意図してまやかしの論説を持ち出しているのか、 
そのいずれであるにせよ、消費税率引上げとそれに伴う軽減税率導入に関するとても重要な論点なので、整理しておく。

 (2)まず、軽減税率は導入すべきでない、という説。軽減税率は「面倒くさい」という暴言もあった。
 一般的にはそういう考えもあってよいが、今になってそれを政権与党の幹部が口にするのはいただけない。
 軽減税率を導入すべきでないのなら、3年前から党の方針としてその旨を明らかにしておくべきだった。3年前、消費税率を当時の5%から8%へ、さらに10%へと順次引き上げることを決めた際、自民党は公明党および民主党とともに軽減税率導入の方針を打ち出した。その後の選挙でも公約に掲げていた。
 国民に増税を受け入れさせる時には、軽減税率を導入するので逆進性は緩和されるなどと調子のいいことを言っておきながら、今になって実はそもそも導入すべきではないなどとよくも言えたものだ(唖然)。
 
 (3)さらにこれも自民党筋から最近とみに聞こえてくるようになったものだが、食料品に軽減税率を導入しても低所得者対策にならないというのだ。低所得者よりも金持ちの方が食料品を多く優遇するので、むしろ金持ちの方が軽減される額が多くなる。金持ちに有利な制度になってしまうという。
 そんな理屈は初めからわかっていることで、それでも軽減税率が低所得者の負担を抑えることにかわりがないからこそ、党の公約にも導入する旨を明記していたのではなかったか。
 もとからやるつもりのないことをあたかもやるように言って騙したのであれば、国民を愚弄し、瞞着するにもほどがある。その片棒を担がされた公明党もいい面の皮だ。

 (4)軽減税率を導入すると、それによって税収が減るので、当てにしていた社会保障政策ができなくなるという議論がある。これはマスコミにもかなり浸透しているようで、各紙の社説などに軽減税率導入には財源確保が不可欠だなどという論説がよく見られる。
 この議論が持ちだされる際に必ず言及されるのが「社会保障と税の一体改革」だ。この中では消費税の税収は社会保障の財源に充てることが決められた。もとより、税収の使途限定する目的税とするのは税制としては決して賢明ではない。税はあくまでも歳出項目全体の比較の中でより優先度が高い項目に充当するのが本来の財政運営である。
 ところが、現実の税制では、目的外として仕組まれる税がある。使途を限定することにした方が納税者の理解を得られやすいなどの理由からで、消費税もその文脈の中で福祉目的税とされた。社会保障はとても重要で、消費税はその社会保障施策にしか使わないとの説明は、国民に増税を受け入れてもらうには有効だったからだろう。

 (5)ともあれ、軽減税率を導入すれば、その分だけ消費税が目減りし、社会保障に充てられる額が減る。それは困るだろうから、やはり軽減税率の導入はやめた方がいい。導入するにしても、目減りをできるだけ少なくするよう、軽減税率の対象範囲は極力限定すべきである、<例>精米に絞って軽減税率を導入した場合、税収減は400億円にとどまる、というような案が出てくるのはこうした背景からだ。
 一見もっともな議論のように見えるが、実はここに大きなまやかしがある。社会保障と税の一体改革では、消費税収は社会保障施策に充てることとし、その旨を消費税法にも書き込んだ。しかし、社会保障施策の財源は、消費税収に限ると決めたわけではない。逆もまた真なり、ではないのだ。社会保障施策に必要な財源として消費税収だけで不足するのであれば、別途他の財源を充てればいい。

 (6)(5)の考えに対して「そんな財源がないから、苦労しているのだ」という反論が返ってくるが、これには眉に唾をつけて聞いたほうがいい。
 国家公務員の給与引き上げや地方創生予算を組む時に、そんなにシビアな財源論が持ち出されることはない。どこからともなく財源が工面されてくるからだ。

 (7)社会保障はとても大事だから、消費税収を優先的にこれに充てる。この考えに異論を唱える人はほとんどいない。これを喩えると、お年寄りは大切にしなければならないから電車内にお年寄り優先の席を設けているようなものだ。
 では、その優先席が満席だった時、そこに座れないお年寄りはどうすればいいか。一般席の方で座る場所を見つければいい。
 ところが、ここは一般席なので、お年寄りは優先席の方へ行ってください、優先席に空きがなければ、我慢して立っているか、それとも今後優先席に座っている人に替わってもらうかです。・・・・これでは、本来大切にされなければならないお年寄りがむしろ冷遇されることになって、本末転倒だ。

 (8)軽減税率導入で社会保障の水準がっかうほできないとする議論は(7)の譬えによく似ている。口では社会保障が重要だから消費税収をこれに充てると言いながら、その実、社会保障を消費税収の枠内に押し込め、他の一般財源をこれに充てないとしているわけで、これまた本末転倒だ。

 (9)本格的な軽減税率を検討するには時間がなくて、2017年4月の税率を10%引き上げ時までに間に合わないから、とりあえず税率10%を先行させ、その後に軽減税率を導入したらいいという主張がある。
 とんでもないことだ。3年前に10%時に導入する方針を出していながら、この3年間いったい何をしてきたのか。あーでもない、こーでもないと、時間を徒に空費させてきたのは誰なのか。そんな人たちが今になって時間がないなどと言えた義理ではあるまい。
 もし本当に時間がないと言うのであれば、消費税10%引き上げを再度延長したらいい。その方がよほど衡平と常識に適っている。

□片山善博「消費税軽減税率論議のまやかし」(「世界」2015年8月号)
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