語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【大岡昇平ノート】一覧表

2015年12月19日 | ●大岡昇平
『神聖喜劇』評 ~大西巨人を悼む~
社会を見る眼 ~「末期の眼」・批判~
大岡昇平と中国
資料 「大岡昇平、そして父のこと」
小林信彦と台湾沖航空戦 ~沢村栄治小伝補遺~
沢村栄治の悲劇 ~原発・プロ野球創成期・レイテ戦記~
本をタダで入手する法 ~『パルムの僧院』と文体~
原発事故または戦争の事 ~8月15日のために~
身体に抵抗する精神 ~『成城だより』の文学的でない読み方~
『成城だよりⅡ』にみる21年後の改稿、批判の徹底の理由 ~『蒼き狼』論争~
『成城だより』にみる判官びいきまたは正義感の事 ~大西巨人vs.渡部昇一の論争~
『成城だより』にみる啖呵の切り方 ~「堺事件」論争異聞~
丸谷才一の、女人救済といふ日本文学の伝統
『野火』のレトリック、首句反復 ~英訳『野火』~
加賀乙彦の、大岡昇平における「私」と神 ~『俘虜記』と『野火』~(1)
加賀乙彦の、大岡昇平における「私」と神 ~『俘虜記』と『野火』~(2)
加賀乙彦の、大岡文学における体験の深化と拡張 ~新しい方法論の創造~
加賀乙彦の、大岡文学における体験の深化と拡張 ~新しい方法論の創造~(2)
埴谷雄高が気宇壮大に読み解く『俘虜記』 ~『二つの同時代史』~
『死霊』をめぐって ~埴谷雄高との対談~
荒正人・石川淳・鉢の木会 ~埴谷雄高との対談~
『野火』の文体 ~レトリック~
『フィクションとしての裁判 -臨床法学講義-』 ~捜査官の取調べと弁護士の役割~
大岡昇平の松本清張批判
『レイテ戦記』にみられる批評精神(抄) ~日本という国家、軍隊という組織~
『レイテ戦記』にみる第26師団(1)
『レイテ戦記』にみる第26師団(2)
『レイテ戦記』にみる第26師団(3)
重松大隊の最後 ~『レイテ戦記』にみる第26師団・補遺~
レイテ島作戦陸軍部隊における第26師団の位置づけ
『野火』とレイテ戦(1) ~はじめに~
『野火』とレイテ戦(2) ~主人公の行動~
『野火』とレイテ戦(3) ~注(1)~
『野火』とレイテ戦(4) ~注(2)~
『野火』とレイテ戦(5) ~注(3)~
大岡昇平の加賀乙彦・賛
開高健が伝える大岡昇平 ~『人とこの世界』~
『愛について』
加藤周一の大岡昇平論
『萌野』
『成城だより』
『大岡昇平全集 1』(筑摩書房、1996)
『大岡昇平全集 2』(筑摩書房、1994)
『大岡昇平全集 3』(筑摩書房、1994)
『大岡昇平全集 4』(筑摩書房、1995)
『大岡昇平全集 5』(筑摩書房、1995)
『大岡昇平全集 6』(筑摩書房、1995)
『大岡昇平全集 7』(筑摩書房、1995)
『大岡昇平全集 8』(筑摩書房、1995)
『大岡昇平全集 9』(筑摩書房、1995)
『大岡昇平全集 10』(筑摩書房、1995)
『大岡昇平全集 11』(筑摩書房、1994)
『大岡昇平全集 12』(筑摩書房、1995)
『大岡昇平全集 13』(筑摩書房、1996)
『大岡昇平全集 14』(筑摩書房、1996)
『大岡昇平全集 15』(筑摩書房、1996)
『大岡昇平全集 16』(筑摩書房、1996)
『大岡昇平全集 17』(筑摩書房、1995)
『大岡昇平全集 18』(筑摩書房、1995)
『大岡昇平全集 19』(筑摩書房、1995)
『大岡昇平全集 20』(筑摩書房、1995)
『大岡昇平全集 21』(筑摩書房、1996)
『大岡昇平全集 22』(筑摩書房、1996)
『大岡昇平全集 23』(筑摩書房、2003)
『大岡昇平全集 別巻』(筑摩書房、1996)

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【経済】企業の利益増加で賃金が減る ~理由と対策~

2015年12月19日 | 社会
 (1)企業の利益が増加している。他方、賃金所得は目立って増加しない。
 なぜこのようなことになるのか? これに対していかなる対処が必要か?

 (2)一見、企業は人件費を削減することによって利益を増やしている。そこで、「企業は儲かっているのに、内部留保として溜め込んでいる。だから、それを賃金に配分せよ」という意見が出てくる。政府が春闘の賃金決定に介入しているのも、そうした考え方に基づく。
 しかし、人件費削減は、企業の強欲のために生じているものではない。そうせざる得ない事情に直面しているからだ。これを理解しないと、賃金問題を解決できない。
 このメカニズムは、企業を産業別・規模別に区分してみないとよく分からない。なぜなら、円安による影響は、産業や規模によって大きく異なるからだ。

 (3)法人企業総計の計数により、2011、2012年度平均と2014年度を比較する。つまり、アベノミクスの前と後の比較だ。
   ①「大企業」・・・・資本金10億円以上の企業
   ②「中小零細企業」・・・・資本金1千万円以上1億円未満の企業

 (4)円安の恩恵を受けているセクターは、製造業の①だ。このセクターの多くは輸出産業だ。売上原価が増えずに、円で評価した輸出の売り上げが増加している。そのため、売上高の増加とほぼ同額だけ利益が増加している。利益の売上高に対する比率が低いので、売上高が2.25%でしかないのに、利益の増加率は75%を超える。

 (5)平均株価に主として反映されるのは、(a)のセクターの動向だ。このセクターと他のセクターの事情は、以下に見るように大きく違うので、平均株価によって判断すると、日本経済全体の状況を見誤る。

 (6)②は、円安によって負の影響を受けている。売上高が減少したり、円安による原材料価格の高騰に直面している。

 (7)中でも製造業の②が、影響を強く受けている。これらの多くは、大企業の下請け企業になっている。ところが、大企業の売り上げ増は生産の拡大を伴わないため、下請けに対する発注は増えない。他方、部品調達が海外に移行しているため、①から国内の下請けに対する発注は減少する。同期間中の売上高の減少率は10%にも及ぶ。これに対応して、売上原価も人件費も約1割減少させている。

 (8)円安によって負の影響を受けているもう一つのセクターは、非製造業の②だ。ここでは売り上げが減少しているにもかかわらず、売上原価が増大している。ガソリン価格や電気代の値上がり等による。よって、やはり人件費を削減せざるを得なくなる。このセクターの人件費は66.4兆円という巨額なものなので、影響は大きい。

 (9)以上を整理すると、
   (a)①の人件費総額は約50兆円(製造業24.7兆円、非製造業25.1兆円)で、これが約2%削減されている。
   (b)②の人件費総額は約80兆円(製造業18.8兆円、非製造業66.4兆円)で、これが約10%削減されている。

 (10)これらの企業は、売上高の減少や、原材料価格の高騰という問題に直面して、やむを得ず人件費を削減している。そのような事態に追い込まれているのだ。仮にそうした企業が賃金を引き上げれば、企業は存立できなくなってしまう。問題は、売り上げが減少したり、原材料価格が高騰することなのだ。それを改善せずに企業に賃上げを求めるのは酷だ。

 (11)人件費削減の大部分は、正規労働者を減らし、非正規労働者を増やすことで行われている。非正規労働者は、すでに全体の4割まで増加している。非正規雇用が増えるのは、確かに問題だ。しかし、これは倫理的に好ましくないと非難するだけでは、問題は解決しない。非正規雇用を増やさざるを得ない条件を改善しなければならない。

 (12)他方、製造業の①では、(4)に見られるとおり、利益が急増している。
 では、このセクターは賃金を上げるべきか?
 しかし、これらの企業にとっても、現時点で賃金を上げる合理的な理由はない。仮に輸出の数量が増えているのなら、生産量が拡大するから、雇用を増やしたり、賃金を上げたりするだろう。しかし、生産量は変化していない。実態は何も変化していない。そうした条件下で人件費を増やせば、非合理な決定をすることになり、最終的には企業は破綻してしまう。利益が増えれば賞与を増やすことはある得るだろうが、人件費全体を増やすようなことはあり得ない。

 (13)非製造業の①はどうか。ここでも利益が増えている。しかし、それは、人件費を減らして効率化しているからだ。仮にそうした合理化をしなければ、利益が減るだけだ。わざわざ利益を減らそうとする企業はない。

 (14)人件費削減の大部分は、②で生じている。ここは春闘にも法人税にもほとんど関わりのないセクターだ。このセクターは、もともと生産性が低い。よって、多数の労働者を雇用していた。そのセクターが人件費を削減せざるを得なくなっている。これが雇用者の所得を減らし、消費を減らし、経済を停滞させているのだ。

 (15)日本経済にはもともとこうした構造があった。高度成長期においては二重構造といわれていた。そのような構造が現在に至るまで続いているのだ。
 人件費当たりの売上高を見ると、産業別・規模別に大きな違いがある。
  (a)①は、約50兆円の人件費によって、約500兆円の売上高を実現している。
  (b)②は、約80兆円の人件費によって、約570兆円の売上高を実現している。 
 よって、仮に②が①と同じ生産性を実現できるなら、570兆円のための人件費は約57兆円で済むわけだ。つまり、現在の人件費のうちの約28.8%に当たる23兆円は余分なものとなる。だから、さらにこれだけの人件費が削減されても不思議はない。
 この構造が変わらなければ、賃金問題は解決できない。これは根の深い問題だ。

 (16)①の売り上げが伸びても、②の売り上げは増加しない構造になっている。しかも、労働生産性が低いので、人件費を削減せざるを得なくなる。ただし、生産性を上昇させるだけでは、人件費はさらに減ってしまう可能性がある。だから、同時に売り上げを増加させることが必要だ。

 (17)解決の方法がないわけではない。
 ②が①の下請けの立場から脱却し、独立して売り上げを増やせるような構造にする。そして生産性を高める。
 そうしたことを可能とする新しい技術は、登場してきている。規制緩和によって、そうした技術を用いる産業を成長させ、②の生産性を高めるのだ。 

□野口悠紀雄「利益増加で賃金が減る それには理由がある ~「超」整理日記No.787~」(「週刊ダイヤモンド」2015年12月19日号)
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