語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【映画】アルプスに住むデフの子どもとその一家 ~『山の焚火』~

2015年12月31日 | □映画
   
 スイス・アルプスの一角、人里離れた山岳地方でひっそりと農業を営む四人家族。「癇癪もち」フランツとその妻、子供たち(姉ベッリと弟「坊や」)が淡々と生活を営む。
 十代の「坊や」はデフで、時折自他に対する不満からか、家族には思いがけないふるまいをすることがあるが、おおむね、教師を目指したやさしい姉が担う教育のもと、健やかに育っている。
 とある日、壊れた草刈機に立腹した「坊や」は、それを投げ捨て、父の怒りを買った。家を出され、山小屋で一人暮らしを強いられた彼に、姉が食料ほかを届け、世話を焼いた。二人にとって楽しい時間だったが、星が散りばめる夜、大自然の中で、ひょっとした拍子にひょっとしたことが起こってしまう。
 季節はめぐり、人を家の中に閉ざす冬となった。弟は再び同居する。腹のせりだした姉は母親に告白するが、母親はすでに察知し、赦し、秘かに祈りさえ捧げていた。
 しかし、父親は違った。妻から事の次第を告げられた「癇癪もち」フランツは、銃を手にして娘を追う。止めに入った「坊や」とくんずほぐれつするうちに、暴発する。崩れ落ちる父親。夫の死に衝撃を母親は、間もなく後を追う。
 冬深く、人里離れた山あいの一軒家でのできごと。深く積もる雪は、何事もなかったかのように沈黙を保っていた・・・・。

 映画の舞台は山岳民族の多いウーリ州とされる。
 毎日、まわりをとり巻く岩山を眺め、勾配の大きい丘陵を耕し、隣家とは双眼鏡を通してしかあいさつできない。ちょっとした買い物もカタログで注文し、しかも荷を背におってはるばる登ってこなければならない。それがアルプスの山々に住む人々の日常である。絵葉書のアルプスでもないし、ハイジのアルプスでもない。観光客のためのスイスとは別のスイスをこの映画で見ることができる。
 1985年度ロカルノ映画祭グランプリ受賞作品。
 監督・脚本はフレディ・M・ムーラー。視聴覚器官に対する省察の試みとして、全編目隠しをして、音響をたよりに映画を撮影したことがある(『盲目の男のヴィジョン』、1969年)。

□『山の焚火』(スイス、1985)
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【保健】初日の出の心身的効果 ~鬱対策は光を浴びて~

2015年12月31日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)廃れる一方だ、と言われながらも根強く残る日本のお正月。元旦くらい親子そろって過ごす家庭が多いだろう・・・・お年玉が目当てだとしても。
 もし初日の出参りを計画しているなら、ご来光から30分ほどは日の光を浴びて散歩しよう。新しい一年を気分良く過ごす端緒となるかもしれない。
 以下、カナダはブリティッシュ・コロンビア大学の報告から。

 (2)冬になると気分が落ち込む季節性の鬱に対しては、高い照度の光を浴びる「高照度光照射法」が有効であることが知られている。
 しかし、季節とは無関係な大鬱病については、有効か無効かの結着はついていなかった。

 (3)その研究・・・・
  (a)実験・・・・研究者らは、大鬱病の成人患者(19~60歳)122人を次のように割り付け、8週間にわたり治療を行った。
   ①起床後、30分間1万ルクスの光を浴びる光療法単独群(32人)
   ②抗鬱剤のSSRI単独群(31人)
   ③光療法+SSRI併用群(29人)
   ④偽薬+偽光療法群(30人)

  (b)評価
  治療効果は、治療終了後の「MADRS」鬱病評価尺度(10項目、合計0~60点で評価、30点以上で重症)によって判定した。鬱病スコア平均改善値は、
   ①13.4点・・・・・二番目
   ②8.8点・・・・・三番目
   ③16.9点・・・・最高
   ④6.5点・・・・・最低
  鬱病スコアが50点以上改善された患者の割合は、
   ①で50%
   ②で29%・・・・薬物療法単独では有意な治療効果を示すことができなかった。
   ③で75.9%
   ④で33.3%・・・・薬物療法単独では有意な治療効果を示すことができなかった。
  鬱病スコアが健常な人並みに寛解した人の割合は、①で44%、③で59%と、半数以上が寛解している。どうやら人間が抑鬱に陥らずに過ごすためには、薬よりも光をしっかり浴びることが必要らしい。

 (c)「治療」に必要な1万ルクスを太陽光で得るなら、晴天の昼ごろが最適。初日の出は、少々及ばない。
 とはいえ、新年の高揚感との相乗効果で、気分良く1年を始めるには十分な明るさがある。

□井出ゆきえ(医学ライター)「伝統をあなどるなかれ ご来光は30分間浴びましょう ~カラダご医見番・ライフスタイル編 No.281~」(「週刊ダイヤモンド」2015年12月26日・2016年1月2日・新年合併号)
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 【参考】
【保健】日本人肥満男性の食事と運動 ~糖尿病予防~
【保健】適性な「降圧目標値」 ~120未満で関連疾患が3割低下~
【保健】自由な裁量権でスリムに ~ストレスでメタボ~
【保健】目の老化には赤と緑と橙色 ~加齢黄斑変性症の予防~
【保健】早期発見のためにエコーと併用 ~乳がん検診~
【保健】骨折予防はカルシウムのほかに・・・・
【保健】前糖尿病患者は食習慣の改善を ~全国糖尿病週間~
【保健】糖質制限より脂質制限? ~体脂肪を減らす~
【保健】受動喫煙が歯周病リスクに ~ただし男性のみ~
【保健】貧乏ゆすりが命を救う? ~マナーより健康~
【保健】「高収入の勝ち組」の健康リスク? ~50歳以上の有害な飲酒~
【保健】照明用白色LEDのブルーライトは安全か?
【保健】目の愛護デー ~緑内障による失明を予防~
【保健】長時間労働は脳卒中リスク ~週41~48時間でも上昇~
【保健】ほぼ毎日食べると、死亡リスクが14%減少 ~唐辛子~
【保健】水族館でリラックス効果 ~血圧・心拍数に好影響~

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